聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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44 聖女の力

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多くの重鎮たちが“聖女アンド妻ですビーム”と、魔王さまの色気ある手へのキスに邪心が勝手に浄化されていく。

その中で、真逆の反応をしたのは狸谷宰相。
ふっさふさな尻尾が、怒りでぶわっと最大限に膨れ上がった。

「魔王さま! 質問に答えておりませんぞ! この人間、我らにとって脅威ではときいているのです!?」

魔王さまはわたしの手を離さず、ちらと視線だけを向ける。

「この人間……だと?」

冷たく光る赤い目が狸谷宰相を捉えて、周囲は固まる。
魔王さまは普段、あまり自分の感情を出さない。
そういう人がここぞという時に感情を出すのは効果的なのだ。

スネク式ーー心の怒りは、必要な時まで貯蓄する。引き出す時は、利子をつけて、ちまちま使わず散財せよ!だっけ?

「ひっ」

と狸谷が一歩後ずさる。

「口を慎め、狸谷。リンが脅威だと? そうだな、脅威かもしれんな。お前など、リンなら指一本で……」

魔王さまがにこりと微笑み、自分の指を数センチ、横に滑らせる。

その瞬間——空気が震えるほどの威圧感。

「……消滅するかもな」

そして、さりげなくわたしの指に、自分の指を絡めた。

(ちょ、何その演出!? 私、瘴気しか消せませんけど!というか、聖女恐ろしすぎでしょう?)

(ふむ。ならば“お前などいつでもクビ大作戦”で脅せばいい)

心の会話とは裏腹に、わたしと魔王さまは指を絡ませ、見つめ合う。


心の底から愛し合う二人を割くものは許されない


周囲からはそう見えた。

「魔王さま……そんな、脅威に見られてしまうのは……つらいですわ。でも、わたくし、所詮、人間ですし、聖女ですし……」

私は女優だ。そう言い聞かせる。

ここ!
ここが見せ場!
笑顔は演出!
涙は武器!!
滲む——かに見える瞳。

うーるるん!!

からの、

慈愛の笑顔ビーーーーーム!!!

どうだ!
トドメの「認めない俺たちは許されないのか?」だ。

「ふわああああ!!」

鼻血を噴き出して倒れる重鎮たち。
スネク先生がオーガさんを落とした理由、少しだけ理解できた気がした。

狸谷の尻尾がぷしゅーーっと音を立てて萎んでいく。

(なにその高性能尻尾!?だけどダメージを与えたぞ)



「で、ですが……!」

まだ言うか狸谷!
あれだけのスネク式を浴びて、なお健在って凄すぎる。

「素晴らしい方なのはわかりましたが、信頼できる方かどうかは、また別の問題かと」

——案外、真面目だった。
狸谷はただのプライド魔族かと思っていた。
これだけの威圧と浄化を受けても信念を曲げない。
魔界を守るという責任感で立っている。

私は魔王さまを見た。
その指先が、ほんのわずかに震えている。

心配してくれてるんだ——この人は、何度もこうして采配を振るってきたんだ。

私は大丈夫。私は「魔王の妻」になると決めたから。
わたしは頷いて魔王さまを見つめる。

そして、息をふっと吐いてみんなに聞こえるように言った。

「魔王さま、狸谷さまのご領地のお庭……なんだか、汚れているようですわ」

「なっ、なぜそれを!?」

ギョッとした顔で、狸谷がわたしを見つめる。

(ふふ、エアリアの調査のおかげよ。別に聖女スキルじゃないわ)

「おや?そうなのかい?」

魔王さまがしらばっくれる。

「お国のために頑張ってくださっている狸谷さまのために、わたくし、お掃除させていただきたいです」

魔王さまを見上げると、その目に一瞬の迷い——
けれど、それはリンだけにわかるサイン。

魔王さまが指をひと振りすると、気づけば会議室の全員がワープしていた。

場所は、瘴気で汚染された狸谷の領地。

地面から、じわじわと瘴気が浮かび上がる。
紫の陽炎かみえる。

「だから、俺の跡継ぎを急いでたのか」
思わずわたしにしか聞こえない程度の呟きを魔王さまがはなっている。
魔王さまは無表情を装っているけど、心の中ではかなり動揺していているわ。

わたしもその瘴気を見つめた。

魔王さまやわたしだけではない。
ざわつく重鎮たちも一緒だ。

「狸谷宰相!これは……!」

「魔界の門の地下水が、我が領地に繋がっていたようです。瘴気の影響で……。
どうにかせねばと思っておりましたが、対応が遅れました。
聖女であるリン様には、お見通しだったのですね。魔王様、申し訳ございません……」

思ったよりひどい。
わたしの額から汗が滲む。

ハタキでどうにかなるレベルじゃなかった。
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