【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
65 / 70

65 黒蛇姫と白蛇姫

しおりを挟む
エアリアさんは、わたしの顔をじっと見つめたあと、ふっと優しく笑った。

「……覚悟、決めたのね」

「はい」

わたしはコクンと頷く。
言ったあとで、自分の声が少し震えてるのに気づいた。
でも、エアリアさんは嬉しそうにうなずいた。

「じゃあ、どこから話そうかしら。子どものころの話からにしようかな」

ふわりと目を細め、彼女は昔を思い出すように語り始めた。

「私は、蛇一族――ヒュドラオン家の次女として生まれたの。うちの一族はね、基本的に黒か緑か茶色の蛇模様なの。でも、私は真っ白な鱗だったの。白蛇――突然変異だったわ」

「白蛇……」

私は思わずつぶやく。

「うん。白蛇は“幸運を呼ぶ”って言われてて、一族の中では歓迎されるの。でもね、何百年に一度しか生まれないうえに、みんな短命なのよ。私も例外じゃなくて……体が弱くて、ほとんどを布団の中で過ごしてたわ」

エアリアはどこか寂しげに笑った。

「じゃあ、スネク先生は……?」

「ふふ、そうね。スネク姉さんは長女で、黒蛇。とっても賢くて、家の期待も大きくて、厳しく育てられてたの。でも、ほんとは泣き虫だったのよ。誰にも逆らえない、おとなしくて優しい子だった」

「……うそっ」

私は思わず言葉が飛び出る。
あのスネク先生が、泣き虫? 誰にも逆らわない? 
想像できるはずがない。

「信じられないでしょ? でもね、怒られるたびに私の布団に潜り込んできて、一緒に泣いてたの。私も外に出られなかったから、姉さんが習ったことを寝床で聞いたり、一緒にお菓子を食べたり。寒い時は、文字通り二人で冬眠してたのよ」

目の前のエアリアが、懐かしそうに笑う。
その微笑みが、ちょっとだけ切なかった。

「そうやって一緒に過ごして成長していったある日……魔王家から縁談の話が来たの」

「……え、魔王さま? 今のじゃなくて……」

「そう、あの頃の魔王――つまり、リンちゃんの“お義父さん”にあたる方ね」

「お義っ……!?」

「ふふ。びっくりした? でもね、魔界の王族の結婚って、血筋や一族の力を重視するの。恋愛結婚なんてむしろ珍しいのよ。血を混ぜるのが目的だから。そして、嫁にいった娘がどんな未来を歩むかは、二の次」

「それって……魔王さまが“狂化”するから……」

リンの声が自然と低くなった。

「その話は、魔王さまから聞いたのね?そうよ。そして、産んだ子どもが魔王を討つ。それが“伝統”だなんて――おかしいわよね。誰かを愛して、子どもを産んで、その子に殺されるのが定めなんて」

エアリアはそっと目を伏せた。

「しかもね、その頃スネク姉さんには、好きな人がいたの。今の厨房長のオーガ。とても優しい人だったけど、ただの料理人の彼とヒュドラオン家の長女の結婚なんて身分違いだと認められることはなかった。……しかも、縁談は決定事項。姉さんは毎晩のように泣いて……そして、ある日、オーガと――駆け落ちしたの」

「えっっっっっ!?!?」

リンは思わず叫んだ。今、ものすごくありえない単語が出てこなかった!?

「スネク先生が、恋に走って……駆け落ち!?」

「あははっ。その反応、100点満点ね。はい、これで“知ってしまったけど知らないふりモード”に突入~」

うわああああ!これは覚悟いるわ!

エアリアはおかしそうに笑っていたけど、その目の奥には、ほんの少し影が差していた。

「でもね、スネクがいなくなったからって、縁談が消えるわけじゃなかった。ヒュドラオン家は困ったの。そんなとき、“白蛇は幸運を呼ぶ”からって……私に白羽の矢が立ったの」

「……え」

「家としては、“どうせ短命だから”って考えだったんでしょうね。子どもさえ産めればいいって。私は――前の魔王さまの、妻候補にされたの」

え、ちょっと待って。それってつまり――

「じゃあ、じゃあ……!」
私は焦ってエアリアを見つめる。

「そう。私は、今の魔王さまの母親よ」
エアリアはニコッと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...