19 / 102
第1部 - 第2章 勤労令嬢と魔法学院
第18話 私は、いちばんになる
しおりを挟む「王立魔法学院に入学を、との王命だ」
ジリアンは、ついにこの時がきたと思った。
王立魔法学院が設立された当時から、入学することは間違いないと言われ続けてきたのだ。才能を持つ魔法使いが、国中から集められるのだから。
「はい」
「……断るか?」
「どうしてですか?」
「君には学ぶ必要がない」
「そんなことありませんよ。教授の中には魔族の方もいらっしゃるのでしょう? 魔法について、もっともっと学べるということです」
「そう、だな」
侯爵は暗い顔で俯いてしまった。これにはジリアンも困ってしまう。こんな様子の侯爵を見るのは、初めてだったのだ。
「どうして、そんなことを聞くんですか?」
「君が王立魔法学院に入学すれば、侯爵家の後継者として顔も名も知れ渡ることになる」
「そうですね」
「……このまま私の後を継ぐということで、本当にいいのか?」
意外な質問だった。それは、侯爵自身が望んでいることだと思っていたから。
「はい。もちろんです」
「それは、義務感ではないか? 私に対する、恩返しとか……」
侯爵が両手を握ったままもじもじと指を動かしている。
(どうして、そんなことを不安に思うのかしら?)
ジリアンが侯爵の後継者になりたいのは、侯爵のためだ。彼の言う通り、義務感に近いのかもしれない。しかし、それではいけないのだろうか。
「それでは、いけませんか?」
素直に聞いてみた。あの手紙を交わした頃から、それだけは気をつけている。不安に思うことがあれば必ず伝えるようにしているのだ。
「……いけなくはない」
そう言いながら、侯爵はジリアンの隣に座り直した。
「だが、それだけではいけない」
「どうしてですか?」
「君は私の娘だ」
「はい」
即座に頷いたジリアンに、侯爵が苦笑いを浮かべる。
「……私が、君のことを『亡くなった子どもの代わりかもしれない』と言ったことを覚えているか?」
「はい」
「すまなかった」
「いいです。今は、ちゃんと言ってもらえて良かったって思っています」
本心だ。どんな綺麗事を並べたところで、ジリアンは侯爵の血を分けた子どもにはなれない。はっきり言ってもらえたことで、それについて悩む必要はなくなったからだ。
「だが、今は違う」
それには、首を傾げたジリアンだった。ジリアンはそれでも構わないと納得しているからこそ、違うと言われたことが疑問だったのだ。
「今は、君を誰かの代わりだなんて思っていないということだ」
ジリアンは頬が上気するのがわかった。
(嬉しい)
侯爵は、ジリアンを自分の娘として認めてくれている。それがわかったから。
「だから、君には自分の意思で私の後を継いでもらいたい」
「はい。間違いなく、私の意思です」
「そうか」
侯爵が、少しだけ寂しそうに笑った。その意味がジリアンにはわからなかった。
「ほどほどにな」
「はい。がんばります」
ごまかすように頭を撫でられる。侯爵は、何を言いたかったのだろうか、それは分からない。
(だけど、私のやることは変わらない)
「私を後継者に指名してくれたお父様に報いたいです。……ずっとずっと、お父様の自慢の娘でいたい」
「……そうか」
「はい。だから、何も心配いりません」
「そうだな」
「はい」
* * *
(私は、クリフォード・マクリーンの娘。クリフォード・マクリーンに選ばれた、侯爵家の次期当主)
好奇の視線が集まる中を、ジリアンは堂々と歩いた。
(私は、いちばんになる。お父様のために)
クリフォード・マクリーン侯爵の自慢の娘であるために。
「では、まずは魔力保有量の測定を」
教員に促されて測定器に触れると、それはすぐに反応した。魔法玉が真っ白に光る。光は輝度をどんどん増していき……。
──パリンッ!
砕け散ってしまった。
ジリアンの魔力に、耐えられなかったのだ。
「属性傾向なしの10!」
教員の声に、講堂が静まり返った。この測定方法が広まって以降、魔法玉を砕いてしまった、つまり『10』という数字を出した魔法使いは、両手で数えられる程しかいない。
しかも、『属性傾向なし』だ。それはつまり、『あらゆる魔法を使うことができる』ということを意味する。
「実技を!」
(いちばんになるためには、誰にも真似できない魔法を──)
ジリアンは目を閉じて、両の手のひらを上に向けた。
すると、その手のひらにバラの花が咲いた。バラの花は次々とあふれるように咲いていき、風に吹かれるように舞い上がる。
次いで、窓にかかっていたカーテンの色が変わった。深みのあるワインレッドから、鮮やかなピンク色へ。さらに、その縁には繊細なレースの縁飾りが施されていった。テーブルにかかっていたランナーや燭台などの調度品も、ピンク色と金色を基調とした華やかものに姿を変えていく。
講堂中にあふれたバラの花はカーテンを彩り、テーブルに並んだ金の花瓶に生けられた。講堂の中央には噴水が出来上がり、サラサラと水が流れる。壁の色も変わった。木の目を生かした重厚な雰囲気の壁面が真っ白に染まり、白亜の宮殿のような装飾が施される。
講堂が、一瞬にして姿を変えてしまったのだ。白亜の宮殿で行われる、華やかな舞踏会の会場へと。
最後に、ジリアンの手にはバラの花束。
「どうぞ」
ジリアンが差し出すと、教員が恐る恐る受け取った。
その瞬間。
──ボォ!
すべてが燃え上がった。講堂から悲鳴が上がる。しかし、その炎はすぐに消えてなくなってしまった。残ったのは、元通りの講堂だけ。
「……あらゆる属性を、ここまで複雑に構築するとは。思い描いた結果を、逆算して現実にする魔法。これこそが、新しい魔法の真骨頂ということですね」
教員の言葉には、にこりと笑顔だけで返して。ジリアンは黙ったまま壇上から降りたのだった。
「……次!」
講堂が静寂に包まれるなか、序列決めが進んでいく。
「……後の生徒が気の毒ですね」
ノアが小さな声でボソリとこぼした。
「そう?」
「はい」
「いちばんに、なれるかしら?」
「申し分ありません」
周囲の生徒たちは、壇上の序列決めなどには目もくれず、ジリアンの様子をうかがっている。
第一席に間違いないので、どうやって取り入ろうかと考えているのだろう。
「しかし、やりすぎでは?」
「そうかしら」
「ええ。かなり、目立っています」
「そうね。でも、これくらいやらなくちゃ」
壇上では、序列決めが続いている。ジリアンと同じように新しい魔法を披露する生徒もいた。いくつかの属性を絡めた、複雑な魔法だ。旧来の四元素から構築する方法では、決して実現し得ない魔法。
けれど、ジリアン程の規模と複雑さを披露できた者はいなかった。
「序列を発表する。第十席、イライアス・ラトリッジ!」
呼ばれた生徒が、順に壇上に登っていく。
「……第八席、モニカ・オニール!」
意外だった。
モニカ嬢は、旧来の貴族らしい魔法を披露した。水を発生させ、その温度を下げて氷像を造ったのだ。水を形として収束させるだけでなく、温度を制御して氷に変えた。上級の水魔法だ。
どうやら、彼女にも魔法の才能があったらしい。
(序列が近いと、顔を合わせる機会も多いかもしれないわね)
感心しつつも、それだけが気がかりだった。
「……第一席、ジリアン・マクリーン!」
当然の結果といえばそうだ。
だが、ジリアンにとっては第一歩にすぎない。
(私は、国いちばんの魔法使いになる。そのために王立魔法学院に来たのだから!)
377
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる