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前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)
リュカ様の異変4
(この音は……)
リュカ様をあやすなかで僕は気づいた。星月夜のなか目覚めてしまった日にきいたかすかな音。隣の部屋から聞こえていた、妙な音の正体に。
きっと今のようにリュカ様があげかけた悲鳴、なのだ。
リュカ様の容体は次第に落ち着いた。背中の震えは止まり、息づかいも安定してきた。ただし本人が気づいているかは不明だが、僕の寝間着をしっかりとつかんでいる。肌が重なった場所は汗でしっとりしていた。
「リュカ様。一度パジャマを脱ぎましょう」
「……っぁ」
「リュカ様?」
「すまない」
おぼつかない足取りでリュカ様は立ち上がった。
びっしりとかいた寝汗をタオルで拭ってやると弱り切った口調で感謝を告げられた。
目が泳ぐように視線はいまいち定まっていない。
寝台の上でゆっくりと向き合った。
リュカ様は口を開閉しては思い切れずにいる様子だ。
「大丈夫ですよ」
そんな彼に助け船をだした。
彼の手のひらに手をのせてゆっくり指を絡める。
そのまま僕はリュカ様に笑いかけて。
「あ……悪い、ルナリード」
「何年あなたのそばにいると思ってるんですか、これはお返しですよ?」
デコピンするふりをしてリュカ様の額にふれない程度のキスを送る。ちゅっ、とリップをつけてやったのは朝方の意趣返しで、せめて雰囲気だけでも出したくて。
リュカ様はようやく疲れ切った笑みをみせた。
「ばーか。どさくさに紛れてお前こそなにやってんだよ」
いつもの軽口も戻ってきたようだ。
頭がはっきりしてきたのか、リュカ様は事の経緯を語られた。
体面を取り繕って周囲にも僕も含めた使用人にまで隠していた秘密を――。
「客船で起きた……事件、ですか?」
「ああ」
「でもそれってたしかけが人だけでしたよね。――まさか」
記事にもなったニュースを思い出すうちに恐ろしい可能性に行き当たった。
「刃傷沙汰に巻き込まれて負傷されたのってリュカ様だったんですか!?」
みるみるうちにリュカ様の顔色が悪くなる。彼は腕を抱えたままそうだと答えた。
大海原を航海する客船で起きた殺害未遂。そのゴシップはたしかに記事で読んだ。犯人は次期伯爵のご子息で、狙われたのは男爵家のご令嬢。
婚約を約束した仲であったのに女が浮気したからであると男は動機を話したらしいが、彼女には覚えがなかったという。
事件は思い込みのつよい男の勘違いだったらしい。
この事件の一番の被害者は、襲われる女性を助けようとして被害に遭った人だ。彼は勇敢にも刃物を振りかざす男に立ち向かったらしいが、彼こそ女性の婚約者かと、よけいな誤解をされ腕を刺されたうえに船外へ突き飛ばされたらしい。――夜の海に。
なんて、不運な。
(というかあれがリュカ様だって!?)
男は浮気者とともに心中するつもりだったらしいとか、今は服役中だとか、そんなことはもうどうでもいい!
危害を加えられたうえに助け出されるまでリュカ様は海の中に、いた?
「いまでも思い出すんだ。このままだれにもみつけてもらえずおわるんじゃないかって」
学園の夏休みを利用して訪れるはずだった避暑地。到着するまえには起きていたはずだ。では、その後帰省が伸びて学園への復帰が遅れたのは。
「トラウマになっていた。症状がひどくて病院で治療を受けた。怪我は治ったが不眠症のほうは効果がなく家で療養することになった」
しらなかったとはいえ、たしかぼく、『ナマケモノではだめですよ』とかニヤニヤしながらお説教した気が……、はう。
(不敬罪~~っていうか人の心があまりにもないー!!)
いまになって胸に突き刺さった。
「り、リュカさまー、ごめんなさい!!」
「たしかにな」
頭を低くして平謝りする。
「あう!」
「嘘だ。気にしてない」
笑うリュカ様の器の広さに感動した。
リュカ様をあやすなかで僕は気づいた。星月夜のなか目覚めてしまった日にきいたかすかな音。隣の部屋から聞こえていた、妙な音の正体に。
きっと今のようにリュカ様があげかけた悲鳴、なのだ。
リュカ様の容体は次第に落ち着いた。背中の震えは止まり、息づかいも安定してきた。ただし本人が気づいているかは不明だが、僕の寝間着をしっかりとつかんでいる。肌が重なった場所は汗でしっとりしていた。
「リュカ様。一度パジャマを脱ぎましょう」
「……っぁ」
「リュカ様?」
「すまない」
おぼつかない足取りでリュカ様は立ち上がった。
びっしりとかいた寝汗をタオルで拭ってやると弱り切った口調で感謝を告げられた。
目が泳ぐように視線はいまいち定まっていない。
寝台の上でゆっくりと向き合った。
リュカ様は口を開閉しては思い切れずにいる様子だ。
「大丈夫ですよ」
そんな彼に助け船をだした。
彼の手のひらに手をのせてゆっくり指を絡める。
そのまま僕はリュカ様に笑いかけて。
「あ……悪い、ルナリード」
「何年あなたのそばにいると思ってるんですか、これはお返しですよ?」
デコピンするふりをしてリュカ様の額にふれない程度のキスを送る。ちゅっ、とリップをつけてやったのは朝方の意趣返しで、せめて雰囲気だけでも出したくて。
リュカ様はようやく疲れ切った笑みをみせた。
「ばーか。どさくさに紛れてお前こそなにやってんだよ」
いつもの軽口も戻ってきたようだ。
頭がはっきりしてきたのか、リュカ様は事の経緯を語られた。
体面を取り繕って周囲にも僕も含めた使用人にまで隠していた秘密を――。
「客船で起きた……事件、ですか?」
「ああ」
「でもそれってたしかけが人だけでしたよね。――まさか」
記事にもなったニュースを思い出すうちに恐ろしい可能性に行き当たった。
「刃傷沙汰に巻き込まれて負傷されたのってリュカ様だったんですか!?」
みるみるうちにリュカ様の顔色が悪くなる。彼は腕を抱えたままそうだと答えた。
大海原を航海する客船で起きた殺害未遂。そのゴシップはたしかに記事で読んだ。犯人は次期伯爵のご子息で、狙われたのは男爵家のご令嬢。
婚約を約束した仲であったのに女が浮気したからであると男は動機を話したらしいが、彼女には覚えがなかったという。
事件は思い込みのつよい男の勘違いだったらしい。
この事件の一番の被害者は、襲われる女性を助けようとして被害に遭った人だ。彼は勇敢にも刃物を振りかざす男に立ち向かったらしいが、彼こそ女性の婚約者かと、よけいな誤解をされ腕を刺されたうえに船外へ突き飛ばされたらしい。――夜の海に。
なんて、不運な。
(というかあれがリュカ様だって!?)
男は浮気者とともに心中するつもりだったらしいとか、今は服役中だとか、そんなことはもうどうでもいい!
危害を加えられたうえに助け出されるまでリュカ様は海の中に、いた?
「いまでも思い出すんだ。このままだれにもみつけてもらえずおわるんじゃないかって」
学園の夏休みを利用して訪れるはずだった避暑地。到着するまえには起きていたはずだ。では、その後帰省が伸びて学園への復帰が遅れたのは。
「トラウマになっていた。症状がひどくて病院で治療を受けた。怪我は治ったが不眠症のほうは効果がなく家で療養することになった」
しらなかったとはいえ、たしかぼく、『ナマケモノではだめですよ』とかニヤニヤしながらお説教した気が……、はう。
(不敬罪~~っていうか人の心があまりにもないー!!)
いまになって胸に突き刺さった。
「り、リュカさまー、ごめんなさい!!」
「たしかにな」
頭を低くして平謝りする。
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「嘘だ。気にしてない」
笑うリュカ様の器の広さに感動した。
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