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前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)
挿話舌先の争奪戦
屋敷内の廊下を歩く僕らがいた。
「リュカ様ー、う゛っ!!」
「なんだやかましい」
前を歩いていたリュカ様は突然の僕の手刀をも軽く避けられた。背中から狙ったのに、と僕は落ち込むふりをして再度挑戦する。こういうのは諦めない心が肝心だもんね!
「やあッ!」
「は?」
「隙あ……ありゃ?」
またしても。というか、今度はしっかり腕を捕まえられていた。顔をしかめたリュカ様からはビンビンと立ち上る覇気のような怒気のようなものが出ている。縮こまって僕は震えた。
「なってない従者だな。それより……一体どういうつもりだ?」
「えっとぉ、それはぁ、あのー、違くてですね」
「違くて、とは?」
かんっぜんに目が泳いでいる自信がある。現に、リュカ様の視線が左右にさまよっているのだ。
リュカ様の詰問を前に、一従者ごときがしらを切る。切り通せる、……わけもなく。
「ごごごっ、ごめんなさい!! 反撃してやりたくてつい魔が差しました」
形としては正直に自白した。だが、これもこれで微妙に真実ではないのだ。ふふ、僕ってば策士?
「ばかなのか。そうか」
「呆れられた、だと!?」
(ぐ、選択を誤ったかもしれない)
「阿呆に付き合ってられんだけだ」
「ひどいぃぃ」
ぐずぐず鼻をならす僕の鼻を、ティッシュで丁寧にかんでくださるリュカ様。こういう面倒見のいいところもすきだなーなんて改めて思っている、と。
「お前の株が下がるだけだとなぜ気づかないのか」
(ぎくり)
やはり叱責は免れられないらしい。
「いやそもそも下がる株もないか。悪かったな」
「っぁ――!?」
「ぶぷっ。絶望してるところ悪いが……、隙あり!!」
(え、今……僕攻撃を入れられた……?)
「ひやふ? あ、っあー! リュカ様卑怯です!!」
自分のしでかしたことそっちのけでリュカ様を批判する。しかしこれには涙ながらには語れない、引くに引けない理由があって――。
「うるさい。先に相手の隙を突いた方が晩飯のおかずを譲ってもらえるんだったか? いやあ、蒸鶏の秘伝タレ漬け、楽しみだな?」
(がががーん!? なぜそれを……ッ!)
「僕の好物を奪うおつもりですか!? 主人のくせに! 仮にもお坊ちゃまなのに!」
そうだそうだ、と脳内の僕が援護してくれる。僕は勢いのままリュカ様を批判した。やはり、自分のことはおいて。
「ははは、悪かったな!」
「……あとでエマ様にチクってやりますから。次期当主様はけちんぼの守銭奴だって!! っは!」
「おいばかやめろ。奇天烈なレッテル貼って笑われるのがオチだぞ。そもそも使用人同士の賭けに主人を巻き込んだお前が悪い。反省しろ」
「うぅ、……返す言葉もございません」
わりと真剣な空気でリュカ様は僕の暴挙を止めに入った。いくら好物でも主人に敵対的な態度をとるのはやりすぎたと反省する。
「そんなに食べたいならな、おかずは増やしてもらえるように頼んでおこう」
(ぱああああ!!)
「本当ですか!?」
やさしいなぁ、なんて思った僕はチョロかった。
現に彼は爽やかな笑みで腹黒いことをのたまったのだから。
「おう。ルナのやつが晩飯のおかずごときでズルをし、屋敷内で禁じられた賭けごとに参加し、あまつさえ俺を巻き添えにしたと……コック達に洗いざらい吐いたうえで、な」
「しっかり根に持ってるじゃないですかぁ。……ぐすん」
その料理人が首謀者なのにと僕はやるせない怒りに震えた。ただし、賭け事を一番厭っているのは何を隠そう厨房の主、料理長なのである。故に密告というわけだ。
「ってあれ? リュカ様は!?」
考え事をしていたら、あれっと思う間に、リュカ様が消えていた。って、あんなところに!?
「じゃあなー、せいぜいいい子で待ってろよー」
「ふにゃあああああ!? このいじわる! ほんとに告げ口するなんてー! うそつき!! 結局リュカ様だって参加してるくせに~~」
(あわわ、どうしよう。エマ様に『なんて意地汚い子』って屋敷から追い出されちゃったら――……)
「ひぃぃいいいいン! リュカ様待ってくださいよぉ」
主人であるリュカは、愚直に自分めがけて駆け寄ってくる自分の従者をみつめる。その目は細められていた。けれど叱責するような厳しさはなく、通りかかったメイドには柔和な雰囲気が伝わっているのであった。
(意地汚い、……とか今頃考えてんだろーな、あいつ)
愉快な心地で口元に手を置きながら自分の物を待つ。
「ふは、笑える。待っててやるからはやく来いよな、ルナリード」
「リュカ様ー、う゛っ!!」
「なんだやかましい」
前を歩いていたリュカ様は突然の僕の手刀をも軽く避けられた。背中から狙ったのに、と僕は落ち込むふりをして再度挑戦する。こういうのは諦めない心が肝心だもんね!
「やあッ!」
「は?」
「隙あ……ありゃ?」
またしても。というか、今度はしっかり腕を捕まえられていた。顔をしかめたリュカ様からはビンビンと立ち上る覇気のような怒気のようなものが出ている。縮こまって僕は震えた。
「なってない従者だな。それより……一体どういうつもりだ?」
「えっとぉ、それはぁ、あのー、違くてですね」
「違くて、とは?」
かんっぜんに目が泳いでいる自信がある。現に、リュカ様の視線が左右にさまよっているのだ。
リュカ様の詰問を前に、一従者ごときがしらを切る。切り通せる、……わけもなく。
「ごごごっ、ごめんなさい!! 反撃してやりたくてつい魔が差しました」
形としては正直に自白した。だが、これもこれで微妙に真実ではないのだ。ふふ、僕ってば策士?
「ばかなのか。そうか」
「呆れられた、だと!?」
(ぐ、選択を誤ったかもしれない)
「阿呆に付き合ってられんだけだ」
「ひどいぃぃ」
ぐずぐず鼻をならす僕の鼻を、ティッシュで丁寧にかんでくださるリュカ様。こういう面倒見のいいところもすきだなーなんて改めて思っている、と。
「お前の株が下がるだけだとなぜ気づかないのか」
(ぎくり)
やはり叱責は免れられないらしい。
「いやそもそも下がる株もないか。悪かったな」
「っぁ――!?」
「ぶぷっ。絶望してるところ悪いが……、隙あり!!」
(え、今……僕攻撃を入れられた……?)
「ひやふ? あ、っあー! リュカ様卑怯です!!」
自分のしでかしたことそっちのけでリュカ様を批判する。しかしこれには涙ながらには語れない、引くに引けない理由があって――。
「うるさい。先に相手の隙を突いた方が晩飯のおかずを譲ってもらえるんだったか? いやあ、蒸鶏の秘伝タレ漬け、楽しみだな?」
(がががーん!? なぜそれを……ッ!)
「僕の好物を奪うおつもりですか!? 主人のくせに! 仮にもお坊ちゃまなのに!」
そうだそうだ、と脳内の僕が援護してくれる。僕は勢いのままリュカ様を批判した。やはり、自分のことはおいて。
「ははは、悪かったな!」
「……あとでエマ様にチクってやりますから。次期当主様はけちんぼの守銭奴だって!! っは!」
「おいばかやめろ。奇天烈なレッテル貼って笑われるのがオチだぞ。そもそも使用人同士の賭けに主人を巻き込んだお前が悪い。反省しろ」
「うぅ、……返す言葉もございません」
わりと真剣な空気でリュカ様は僕の暴挙を止めに入った。いくら好物でも主人に敵対的な態度をとるのはやりすぎたと反省する。
「そんなに食べたいならな、おかずは増やしてもらえるように頼んでおこう」
(ぱああああ!!)
「本当ですか!?」
やさしいなぁ、なんて思った僕はチョロかった。
現に彼は爽やかな笑みで腹黒いことをのたまったのだから。
「おう。ルナのやつが晩飯のおかずごときでズルをし、屋敷内で禁じられた賭けごとに参加し、あまつさえ俺を巻き添えにしたと……コック達に洗いざらい吐いたうえで、な」
「しっかり根に持ってるじゃないですかぁ。……ぐすん」
その料理人が首謀者なのにと僕はやるせない怒りに震えた。ただし、賭け事を一番厭っているのは何を隠そう厨房の主、料理長なのである。故に密告というわけだ。
「ってあれ? リュカ様は!?」
考え事をしていたら、あれっと思う間に、リュカ様が消えていた。って、あんなところに!?
「じゃあなー、せいぜいいい子で待ってろよー」
「ふにゃあああああ!? このいじわる! ほんとに告げ口するなんてー! うそつき!! 結局リュカ様だって参加してるくせに~~」
(あわわ、どうしよう。エマ様に『なんて意地汚い子』って屋敷から追い出されちゃったら――……)
「ひぃぃいいいいン! リュカ様待ってくださいよぉ」
主人であるリュカは、愚直に自分めがけて駆け寄ってくる自分の従者をみつめる。その目は細められていた。けれど叱責するような厳しさはなく、通りかかったメイドには柔和な雰囲気が伝わっているのであった。
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