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滅びゆく国、そして進むべき先は
しおりを挟むオリオーンの街から避難民たちを連れ、深淵を狩るものたちは北の森を走り抜ける。
その馬車の中では、スタークたちが悲壮な顔でメンバーを見ていた。
「さて、このまま一週間も走ればマフトミン公国まで辿り着くことができるが。どう思う?」
「あの国の貴族は閉鎖的な奴らが多い故に、避難身の受け入れは期待できないでしょうね。それに、あの国の貴族がランガクイーノ先生の治癒術を見たら、取り込もうとする輩も出るでしょうね」
「むしろ、遠回りになるが10日ほど北西に進めば、国境都市フルガクルスまで辿り着くから、そこで避難民を受け入れて貰い、俺たちはどうするかってところか」
「そうだな。わざわざ危険を犯してマフトミン公国まで向かうよりも、フルガクルスへ向かう方が受け入れてくれるか」
まずは避難民の安全を確保、そのあとで【深淵を狩るもの】がどういう行動に出るか。
「俺としては、ザビーネ伯爵たちの安否が心配だから、避難民を預けてからオリオーンへ戻ってみたい。幸いなことに、オリオーンには勇者たちも残っていたから、運が良ければ魔族を討伐しているかもしれないからな」
「勇者ねぇ……タクマとかいう勇者、噂では王都払いを受けて、名誉回復にドラゴン討伐に来たっていう話だからなぁ……まあ、名誉回復のために奮起してくれているのならいいのだが」
「勇者が召喚された時、聖剣を携えてくるっていう話だからなぁ。その聖剣を求めて、むやみやたらにあちこちの国で勇者召喚を行ったっていう噂もあるし……」
話を聞いていると、どの国も勇者という存在を聖剣目当てにしか考えていないように、玄白ほ感じていた。
それよりも、今はこの避難民たちをどこまで連れていくのか、その話を繰り返している。
速やかにヴェルディーナの他領へと向かうのが最善であり、そこからとって返してオリオーンの様子を確認するのが良手であると判断。
すると玄白が、実に他愛のない疑問を問いかけ始めた。
「のう、スタークさんや。勇者召喚とやらは、本来ならどのような理由で行われるのじゃ?」
「まあ、世界征服を企む魔王の野望を打ち砕き、世界を平和にするために異世界から召喚されるのが勇者なんですけど」
「最初の勇者召喚は、今から確か500年前ですわ。その時はバーバリオス王国の勇者が魔王を討伐し、世界が平和になったと歴史書には記されています」
「その勇者の血筋が今もなお残っているのが、バーバリオス王国。ちなみにヴェルディーナ王国は勇者は召喚できなかった。確か、勇者の代わりに聖女が召喚されたんだよな?」
つまり、各国において勇者召喚のようなものが行われ、それぞれの国が勇者、聖女、賢者、魔法使い、聖戦士という五人を召喚、彼らが集い勇者パーティが結成された。
そして世界が平和になってからは、それぞれが血を残し、勇者の血脈として各国に受け継がれている。
ヴェルディーナ王国以外は。
玄白が最初に訪れた土地、すなわちヴェルディーナ王国は聖女の召喚を行なった。
そして魔王討伐後は、教会の繁栄のため、国の民のために全力を尽くし、聖女は未婚のままこの世を去ったらしい。
勇者一行の血筋を持たないヴェルディーナ王国が、何故、どのようにして勇者召喚を成功させたのか、それは全て謎のまま。
「ふぅ。それなら、行き着く先は一箇所しかあるまいなぁ。ここは危険か? わしは魔族とやらを調べたいのじゃが」
玄白はため息を吐きつつ、目の前に広がっている地図を指差す。
「……はぁ?」
「い、いや、流石にそこは……」
玄白の指差した場所。
そこは、魔族が住む魔族領。
バルバロッサ王国である。
国土の殆どの国境が、山脈や大森林を挟んで勇者召喚を行った国に面している、まさに魔王の住む国である。
今でこそ他国との国交は細々ではあるが行われているものの、魔族の力は常人でさえも人間の十倍に近く、そんな危険な場所を選んで訪れる商人などほとんど居ない。
ましてや冒険者となると、実力的にAランク以上でなければ、まともに生きるのも厳しいと言われている。
それほどまでに、周辺の森林や山脈は危険が伴っている。
「……よし、オリオーンを確認してから、バルバロッサ王国に向かう……と言いたいところだが、流石に今回の件で魔族を信用するというのは無理だ。だから、隣国パルフェノンへ向かい、情報を集めた方がいい」
「スターク!本気か?」
「本気も何も。スギタ先生が行きたいと言っているんだ。それに、少しばかり興味がある。冒険者はほとんど近寄らない国だ、逆に考えるなら、俺たちの知らない魔物や素材があるかもしれない」
そうスタークが告げると、全員が半ば呆れ返るように、そして納得するように頷く。
「なんやら、巻き込んだようで申し訳ないが」
「いやいや、これも縁ですよ。まあ、その前に、いくつか国を越えないとなりませんけれど。今から向かうフルガクルスは、パルフェノンに向かう最短ルートとは、逆の方角ですからね」
そのまま玄白一行は、まずは国境沿いのフルガクルスヘと向かった。
そこで避難民たちを受け入れてもらうと、すぐさまオリオーンへと馬車を走らせる。
そして一週間も立たずにオリオーン郊外へと辿り着いのだが、そこで玄白と【深淵を狩るもの】は、信じられないものを見た。
………
……
…
目の前に広がるのは、巨大な黒い壁。
オリオーンを見下ろす丘の上から見えたのは、オリオーンを包むかのように、黒い壁が生み出されていた。
それも、左右に果てしなく伸びる壁は、まるでヴェルディーナ王国を囲むような城壁にさえ感じる。
見た感じでは出入り口のようなものもなく、このような巨大な構造物がいつ、どのようにして作られたのか疑問でしかない。
「なんだ。あれは……」
「正門らしきものもない……一体どうやって、ここに入るっていうんだ?」
「わからん、調べてみるしかないな」
急ぎ馬車を走らせて、周囲を警戒しつつ壁までたどり着く。
そこで玄白は解体新書を取り出して壁にそっと触れてみると、すぐに壁の解析を行なった。
「むぅ、巨大な呪詛構造物? この壁な呪いの術式により生み出されているようじゃなぁ」
「呪い? そんなものがこんな壁を作るのですか?」
「う~む。しかも破壊不可能と出たが……呪いならば、ひょっとしたらどうにかなるかもな」
解体新書からエリクシールを取り出し、それを指先にとって弾くように壁に飛ばす。
──ジュッ
だが、エリクシールは壁にぶつかる手前で弾け飛んだ。
「どりやぁぁぁぁ!!」
勢いよくエリクシールをぶっかけてみるが、やはり結果は同じ。
壁の手前でエリクシールと呪いの術式が反応し、全てが弾け蒸発した。
「……すまん、無理じゃったわ。いかな呪いにも打ち勝つエリクシールが負けたとなると、これはまさに破壊不可能。となるとスタークさんや、どうする? わしはこの壁沿いに移動して、内部へ通じる道を探したいのじゃが」
「同感です。それで、見つからなかった場合は、一旦、他国に救援を求めましょう。一介の冒険者や治癒師の手に負える案件ではなくなっているように感じましから。マチルダたちも、それで構わないか?」
玄白の意見にはスタークたちも賛同する。
そして壁沿いに馬車を走らせ、出入り口らしきものを探す。
道中、あちこちの領地を抜け、食料などを補充しつつ、実に300日という時間を掛けて調べてみたのだが、ついに入口らしきものは見つけることができず、入る手段もわからなかった。
途中途中の国境沿いの街では、領主に頼んで他国に救援要請を送ったものの、果たして助けが来るかもわからず。
これでは埒が明かないとなり、玄白と【深淵を狩るもの】の一行は、ヴェルディーナを離れ、直接他国へと救援を乞うことにした。
── Part1. complete
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