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自由貿易国家編
大空洞攻防戦・スギタ先生は?
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温泉地で体を癒し、消耗した魔力を取り戻すべく、玄白はのんびりとした時間を過ごしている。
この間にも、大空洞から運び出されてくる怪我人は多く、一時的に静かさを取りもどした教会も、再び野戦病院のような状況始まっている。
それでも、最初のようなひどい怪我人は運び込まれていないため、司祭や治癒師たちの力でどうにか死傷者を減らすように尽力しているところではある。
「つまり。今回の大暴走は予期せぬ事態であったという事なのか?」
温泉から上がり部屋で寛いでいる玄白が、情報収集から戻ったマクシミリアンとミハルの報告を聞いて、そう問い返している。
普通なら、大暴走の前には予兆が必ずある。
少しずつ増え始める魔物の群れ、野生の動物たちがいなくなる、植生に異常が出るなど。
さらに、ダンジョンで討伐された魔物から回収される『魔石』が肥大し、数も複数取れるようになると、大暴走まではあと僅か。
その予兆は普通、討伐任務や一攫千金を求めてダンジョンに向かう冒険者によって確認されるのであるが、今回はそういった兆候が全くなかったらしい。
「現時点で、この村の冒険者ギルドは大空洞への出入りを全て禁止、依頼については大空洞内部、出口に向かう第一回廊にやってくる魔物の討伐が最優先となりました」
「第一回廊は商人や村人も使う道なので、天翔族の集落にも行けなくなりましたけど、どうしますか?」
「これは、予想外な事態じゃなぁ」
胡座をかいて腕を組み、頭を傾げる玄白。
大空洞を通らなくては、霊峰に向かう事はできない。
ここから遠回りとなると道なき山を進まなくてはならず、途中には断崖絶壁もある。
地上から天敵が来るのを恐れた天翔族は、人が踏み込むことのできないような場所に集落を作っているらしい。
──ドダダダダダダダダダダッ
廊下を走ってくる音。
そして玄白たちが集まっている部屋の扉が開かれると、汗まみれになったセッセリが室内に飛び込んできた。
「スギタ先生!! 天翔族の集落がピンチです」
「なんじゃぁ、何があったんじゃ」
「ちょ、ちょっ待ってください!」
水筒を取り出して水を一気に飲み、深呼吸をしてどうにか落ち着こうとしているセッセリ。そして人心地ついてから、改めて玄白たちの顔をぐるりと見渡してから。
「大空洞で大暴走が発生しました!」
「うむ、今はその話をしていたところでな。大暴走が収まるまでは、集落までは移動することができないなぁという話で収まりそうじゃが」
「収まったら困るのですよ。大空洞の第一回廊から第二回廊に向かう途中の分かれ道、そこを通り抜けると私たちの集落に向かう竪穴まで辿り着くことができます。そこは螺旋状に道ができているので、人ぐらいならそこを上がれば集落になることができるのですが」
不審者や軍隊などが押し寄せてこれないぐらい、道幅は狭い。
しかも集落側の入り口では、常時見張りが待機しているらしく、怪しい気配や不穏当な空気などにはすぐに対応することができるのだが。
問題は、その場所。
入り口から冒険者たちが魔物の軍勢を押し戻そうとすると、奥から侵攻してくる魔物とぶつかり合う。
そうなると、どこか抜け道を探さなくてはならず、ちょうど竪穴のある場所に押し寄せてくる可能性があるらしい。
「カクカクシカジカ……ということで、大暴走が縦穴から上に向かう可能性もあります。当然、他の横道もいくつかありますけど、危険度で言うのでしたら、竪穴はかなり危険な場所になります」
「ふむ、つまり、時間が経過すると最悪、集落が襲われる可能性があるということか」
「はい。大空洞の最終防衛は、正面ゲートの封鎖と結界による完全遮断です。そうなると、ひと月は結界を解除することができないので、どのみち集落が危険になることには変わりありません」
つまり、現時点で場所まだ封鎖はされていないが、やがて封鎖される可能性がある。
その前になんとしても回廊を越えるか、大暴走を止めるかしなくては、玄白たちはこの場で足止め、集落が滅ぶ可能性も高い。
天翔族は空を飛べるので、最悪でも飛んで逃げる事は可能であるが、その前に流行病で全滅なんていうことも起こり得るわけで。
「……ふむ。マクシミリアンどの、大暴走が発生した場合、冒険者ギルドはどれぐらいの時間で正面ゲートを封鎖すると思う?」
「そうですね。ここの冒険者ギルドの規模にもよりますけれど、実力者が多ければ、そこそこには耐えられるはずですが。それでも、ずっと耐え切る事は不可能ですし、無限に湧き出る大暴走とは違って、こちらは有限ですから……持って1週間前後でしょう」
1週間前後。
それまでにどうにか対処しなくてはならない。
こうなると非戦闘員である玄白には荷が重い。
「何か手がないものか……」
そう思いつつ、玄白は解体新書を開いてみる。
そこに書いている薬品リストから、このような時に有効な薬品がないものかと、あちこちを調べてみる。
そしてふと、目に止まった薬品が一つ。
「ははぁ……これがあれば、どうにかできるかもしれないのう」
早速、必要な素材を調べる。
ある程度は在庫があるものの、やはり足りないものは存在するわけであり、それをどうにかしないことには、薬品は完成しない。
「はぁ。明日の朝、一番に錬金術ギルドに行ってくるとするか。しかし、この素材の一つ、『猫の足音』って、どうやって採取するんじゃ?」
「音鳴草の実がですね、音を集めることができるそうですけど、あれってダンジョンにしか生えないんですよ」
「それなら、そいつは俺とミハルが朝一番で取ってくる。その間にスギタ先生は、ギルドに行ってその他の素材を集めてきてくれますか?」
「うむ。善は急げじゃな」
流石に日も暮れて結構立つ。
こんな時間にダンジョンに行く事自体、自殺行為である。
「では、明日中に今回の大暴走の件は、解決……できるか挑戦じゃなぁ」
果たして。
明日はどうなるのか。
この間にも、大空洞から運び出されてくる怪我人は多く、一時的に静かさを取りもどした教会も、再び野戦病院のような状況始まっている。
それでも、最初のようなひどい怪我人は運び込まれていないため、司祭や治癒師たちの力でどうにか死傷者を減らすように尽力しているところではある。
「つまり。今回の大暴走は予期せぬ事態であったという事なのか?」
温泉から上がり部屋で寛いでいる玄白が、情報収集から戻ったマクシミリアンとミハルの報告を聞いて、そう問い返している。
普通なら、大暴走の前には予兆が必ずある。
少しずつ増え始める魔物の群れ、野生の動物たちがいなくなる、植生に異常が出るなど。
さらに、ダンジョンで討伐された魔物から回収される『魔石』が肥大し、数も複数取れるようになると、大暴走まではあと僅か。
その予兆は普通、討伐任務や一攫千金を求めてダンジョンに向かう冒険者によって確認されるのであるが、今回はそういった兆候が全くなかったらしい。
「現時点で、この村の冒険者ギルドは大空洞への出入りを全て禁止、依頼については大空洞内部、出口に向かう第一回廊にやってくる魔物の討伐が最優先となりました」
「第一回廊は商人や村人も使う道なので、天翔族の集落にも行けなくなりましたけど、どうしますか?」
「これは、予想外な事態じゃなぁ」
胡座をかいて腕を組み、頭を傾げる玄白。
大空洞を通らなくては、霊峰に向かう事はできない。
ここから遠回りとなると道なき山を進まなくてはならず、途中には断崖絶壁もある。
地上から天敵が来るのを恐れた天翔族は、人が踏み込むことのできないような場所に集落を作っているらしい。
──ドダダダダダダダダダダッ
廊下を走ってくる音。
そして玄白たちが集まっている部屋の扉が開かれると、汗まみれになったセッセリが室内に飛び込んできた。
「スギタ先生!! 天翔族の集落がピンチです」
「なんじゃぁ、何があったんじゃ」
「ちょ、ちょっ待ってください!」
水筒を取り出して水を一気に飲み、深呼吸をしてどうにか落ち着こうとしているセッセリ。そして人心地ついてから、改めて玄白たちの顔をぐるりと見渡してから。
「大空洞で大暴走が発生しました!」
「うむ、今はその話をしていたところでな。大暴走が収まるまでは、集落までは移動することができないなぁという話で収まりそうじゃが」
「収まったら困るのですよ。大空洞の第一回廊から第二回廊に向かう途中の分かれ道、そこを通り抜けると私たちの集落に向かう竪穴まで辿り着くことができます。そこは螺旋状に道ができているので、人ぐらいならそこを上がれば集落になることができるのですが」
不審者や軍隊などが押し寄せてこれないぐらい、道幅は狭い。
しかも集落側の入り口では、常時見張りが待機しているらしく、怪しい気配や不穏当な空気などにはすぐに対応することができるのだが。
問題は、その場所。
入り口から冒険者たちが魔物の軍勢を押し戻そうとすると、奥から侵攻してくる魔物とぶつかり合う。
そうなると、どこか抜け道を探さなくてはならず、ちょうど竪穴のある場所に押し寄せてくる可能性があるらしい。
「カクカクシカジカ……ということで、大暴走が縦穴から上に向かう可能性もあります。当然、他の横道もいくつかありますけど、危険度で言うのでしたら、竪穴はかなり危険な場所になります」
「ふむ、つまり、時間が経過すると最悪、集落が襲われる可能性があるということか」
「はい。大空洞の最終防衛は、正面ゲートの封鎖と結界による完全遮断です。そうなると、ひと月は結界を解除することができないので、どのみち集落が危険になることには変わりありません」
つまり、現時点で場所まだ封鎖はされていないが、やがて封鎖される可能性がある。
その前になんとしても回廊を越えるか、大暴走を止めるかしなくては、玄白たちはこの場で足止め、集落が滅ぶ可能性も高い。
天翔族は空を飛べるので、最悪でも飛んで逃げる事は可能であるが、その前に流行病で全滅なんていうことも起こり得るわけで。
「……ふむ。マクシミリアンどの、大暴走が発生した場合、冒険者ギルドはどれぐらいの時間で正面ゲートを封鎖すると思う?」
「そうですね。ここの冒険者ギルドの規模にもよりますけれど、実力者が多ければ、そこそこには耐えられるはずですが。それでも、ずっと耐え切る事は不可能ですし、無限に湧き出る大暴走とは違って、こちらは有限ですから……持って1週間前後でしょう」
1週間前後。
それまでにどうにか対処しなくてはならない。
こうなると非戦闘員である玄白には荷が重い。
「何か手がないものか……」
そう思いつつ、玄白は解体新書を開いてみる。
そこに書いている薬品リストから、このような時に有効な薬品がないものかと、あちこちを調べてみる。
そしてふと、目に止まった薬品が一つ。
「ははぁ……これがあれば、どうにかできるかもしれないのう」
早速、必要な素材を調べる。
ある程度は在庫があるものの、やはり足りないものは存在するわけであり、それをどうにかしないことには、薬品は完成しない。
「はぁ。明日の朝、一番に錬金術ギルドに行ってくるとするか。しかし、この素材の一つ、『猫の足音』って、どうやって採取するんじゃ?」
「音鳴草の実がですね、音を集めることができるそうですけど、あれってダンジョンにしか生えないんですよ」
「それなら、そいつは俺とミハルが朝一番で取ってくる。その間にスギタ先生は、ギルドに行ってその他の素材を集めてきてくれますか?」
「うむ。善は急げじゃな」
流石に日も暮れて結構立つ。
こんな時間にダンジョンに行く事自体、自殺行為である。
「では、明日中に今回の大暴走の件は、解決……できるか挑戦じゃなぁ」
果たして。
明日はどうなるのか。
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