解体新書から始まる、転生者・杉田玄白のスローライフ~わし、今度の人生は女の子なのじゃよ~

呑兵衛和尚

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自由貿易国家編

現れた勇者たちと、解放された回廊

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 玄白と別れ、マクシミリアンとミハル、セッセリの三人は大空洞外の村へ救援要請を行うために移動を開始。
 真っ直ぐに森を抜けて霊峰地下空洞へ向かう竪穴に到着すると、一心不乱に螺旋状の通路を降りていく。

 そして横穴に辿り着いたとき、三人は思わず絶句してしまう。

「……ここまで押し返していたのか……」
「凄い、こんなところまで」

 結界の外では、冒険者とアンデットの群れが戦闘を繰り広げている。
 その足元にはゴブリンなどの亜人種の死体が転がり、それに足を取られないように剣を振り、魔法を飛ばし、倒れた仲間たちを後方へと連れ戻している。
 壁のように横一列に並んだ盾戦士たちが守りを固め、その前方で大剣を振り回した重戦士たちが活路を見出す。
 飛び道具には魔法使いの迎撃魔法が飛び交い、飛んでくる矢を次々と撃ち落とした。

「うわぁ……何が起こったんだ?」

 三人は状況を確認すべく結界から外に飛び出すと、後ろで指揮をとっているギルドマスターの元に駆け寄る。

「ギルマス、これは一体、何が起きたのですか?」
「ん。誰かと思ったらマクシミリアンか。例の護衛任務は終わったのか?」
「いえ、問題が発生したので、一旦ギルドまで戻り依頼をしようかと思っていたのですが」
「それは無理だ、今はここを押さえているのが精一杯だからな。西方から魔族を折って来た勇者たちが、かろうじて抑えているのだが、恐らくはダンジョンコアのある階層まで押し込むことはできない。今は、この階層の解放が精一杯だ」

 そう説明するギルドマスターの視線の先には、四人の冒険者が立っている。
 見た限りでは聖者、大魔導士、賢者、そして駆られの従者という感じの四人が、最前線で上位アンデットのリッチやスペクターを抑え込んでいるのである。
 しかも、その彼らの足元には大量の小さなぬいぐるみの山。
 ゴブリンやコボルト、オークといった魔物のぬいぐるみが大量に転がっていた。

「うわ、なにあの人たち、なにをどうしたら、こんなところにぬいぐるみをばらまいているの?」
「違う、あれは古代の禁呪で、生命体をぬいぐるみに作り替える術式を使用したらしい……」

 そう説明を受けている最中にも、四人組は前に進む。
 少し進んでは従者が巨大な剣を手に敵を殲滅し、また進んでは殲滅を繰り返す。
 大魔導士が敵を次々とぬいぐるみに作り替え、大賢者が支援魔法を使い、聖者がターンアンデットで死霊の群れを浄化していく。
 ヴェルディーナ王国の勇者一行とはけた違いに強く、それでいて連携が取れている。
 ここまで息があったパーティーなど、そうそうお目にかかれるものではないと、マクシミリアンは逆に感心してしまっていた。
 
「あのメンバーに盾戦士がいたら、さらに戦局は大きく変わる……|陽動(プロボック)で敵を引きつけて仲間が倒す、しかもあの従者、かなりの使い手じゃないか?」
「ああ。しかも信じられないことに、大賢者は|防御強化(ハードニング)と|超体力(タフネス)しか使っていない。それだけで、彼らは自らの力を最大限に発揮している。もともとの潜在能力が高いから、最小限のサポートだけでうまく回っているようだ……それよりも、二人は援護に回れるか?」
「やります、前列に出ます」
「では、私は後衛に」

 背中の大剣を引き抜き、アンデッドめがけて走りだすマクシミリアン。そして力一杯大剣を振り上げると、そこに闘気を込めて一気に振り落とす!!

──ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
 振り落とした大剣から放たれた衝撃波がアンデットの群れを真っ二つに分断したのと、従者が真っ二つになった空間を奥に向かって走り出すのが同時!!

「ウォォォオオォォォォ!! これが終わったら、とっととハーバリオスに帰るぞぉぉぉぉ」

 叫びつつ前方に向かって高く飛ぶと、その向こうに立つローブ姿のアンデットの胸元目掛けて剣を深々と突き刺した!!

「馬鹿な、相手はリッチロードだぞ? あんな剣一つで倒せるはずが」
「ジャッジメント!」

──ブシュゥゥゥゥゥゥ
 マクシミリアンが叫ぶのと、就社のスキルが発動するのはほぼ同時。
 そしてリッチロードから黒力が噴き出して崩れ始めた。

『己れ己れ、口惜しや……』

 呪いの言葉を紡ぎつつ、リッチロードが消滅する。
 それまで体勢を整えつつ進軍してきたアンデットの軍勢が右往左往しつつ無差別な攻撃を始めたかと思うと、それまで後方で壁のように待機していた冒険者たちも、腰の剣を引き抜いて走り始めた……。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 マクシミリアンたちが合流してから六時間後。
 大空洞第一回廊は制圧、第二回廊へと続く巨大な扉が仮封印される。
 監視用に依頼を受けた冒険者たちが封印された扉の前で待機しているほかは、魔物の死体がダンジョン効果により消滅する前に素材の剥ぎ取りなどを開始。
 このダンジョンに魔物や冒険者の死体が吸収される原理については、未だに解析が進んでいない。
 そして残った冒険者たちは体を休めるために大空洞から外に出ると、そこに広がっている仮設テントへと向かい始める。

 その仮設テントの一つ、冒険者ギルドの出張所の中では、マクシミリアンたちとギルドマスターが話し合いを始めているところであった。

「……とりあえずは、これで商用回廊は確保できた。だが、大暴走の原因が収まるまでは、油断することができないな」
「それでも、封印が内部から解除されることはまずないはずですよね? それなら、今のうちにカースドドラゴンの討伐に協力してもらえますか?」
「カースドドラゴン?」

 一体何が起こったのかと問いかけるギルドマスターに、マクシミリアンたちが淡々と説明を始めるが。
 腕を組んだまま、ギルドマスターは唸り声を上げているだけ。

「しかしなぁ……今、ここにいる冒険者たちにドラゴン退治の依頼を出しても……奴らは動かないと思うぞ」
「何故ですか? 私たち冒険者にとっては、ドラゴンの素材が手に入る可能性があるのですよ? その希少価値はギルドマスターもご存知のはずですよね?」
「まあ、落ち着けミハル。確かにお前の言う通り、我々ギルドに取ってもドラゴンの素材は欲しいところだ。だが、今はタイミングが悪い。この大空洞から発生した大暴走を止めるために、結構な数の冒険者が命を失ったんだ」

 現状を説明するギルドマスター。
 大暴走の鎮圧のために結構な数の冒険者が命を失った。
 また、生き残った冒険者たちも装備が壊れたり魔法薬を買い直したりと、すぐには動くことができないらしい。
 それに、今回手に入れた素材の売り上げもそこそこ高く、今すぐにドラゴン大退治に行く必要があるかどうかと問われたら、少し考えてしまうらしい。

「……それでは、我々に死ねと言うのですか? 我ら天翔族の命運が尽きるやもしれないのですよ」
「だから待て。セッセリの気持ちもわかるから、ギルドからは依頼を出す。その上で、どれだけの人数が集まるのか、それはわからないのだが」
「では、先ほどの四人にも依頼を出してください!!」

 セッセリは、六時間前に見た四人の冒険者たちのことを告げる。
 彼らの持つ力なら、ひょっとしたらドラゴン相手に勝てるのかもしれないと。

「ああ、彼らなら宿に引き上げたが?」
「引き上げ……え?」
「待ってください、まだ内部の殲滅が終わったばかりですし、そもそも素材は回収していないのですか?」
「素材には興味がないらしい。どうやら、メメント大森林で戦った魔族を取り逃がしたらしく、それを追撃して東側まで足を運んで来たらしい……」
「……メメント大森林だと? それってハーバリオス王国領土じゃないか。しかも取り戻した魔族って……西側では何が起きているんですか!!」

 そう問い詰めるミハル。
 すると、ギルドマスターは観念して、話を始めた。

「……あの四人は、ハーバリオスが召喚した勇者だよ。メメント大森林の聖域を奪うための魔族の侵攻は止められたらしいが、その首領核の魔族を取り逃がしたらしい。それを追撃するために、ここまでやって来たそうでな……途中で情報を得るためにこの地までやって来たのだが、体を休めたらすぐに移動をするらしい」

 そんな馬鹿な。
 この当方でも魔族との小競り合いはあるものの、西方がそこまでひどい戦局になっているなど、予想もしていなかった。
 
「魔族を探しているのなら、私たちも協力します。だから、その前に、ドラゴン討伐の手伝いをお願いしたいのです。彼らに合わせてください」

 ミハルが懇願すると、ギルドマスターも頭をかきつつ指差す。

「この先の街道沿いにある宿場町。時間的には、そこの宿にいるはずだ」
「わかりました。早馬を飛ばして話をしてきます」

 そう告げてミハルがテントから飛び出す。
 
「セッセリさん、単独飛行で集落まで戻ることは可能ですか?」
「え、あ、私一人なら霊峰を外回りで飛べますから可能ですけれど。何があったのですか?」
「スギタ先生に、この手紙を届けてください」

 そう説明しつつ、マクシミリアンが手紙を書き出す。
 魔族追撃任務を受けた勇者たちた、その彼らへの協力が受けられるならカースドドラゴンの討伐も可能である。
 それを集落に伝えること、その交渉のために大空洞から少し離れることを玄白へ伝えるための手紙を用意すると、それをセッセリは受け取って霊峰山頂目掛けて飛び始めた。
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