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自由貿易国家編
運命の天秤は、悪い方角に傾いていく
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──ブワサッ、ブワサッ
大きな翼を広げ、セッセリがゆっくりと降下を始める。
霊峰へ至る空路をどうにか突破し、マクシミリアンたちから預かった手紙を届けるために、限界を超えた飛行を続けていたのである。
そして幸いなことに、途中の峰に巣食っているワイバーンやスモールロックといった魔物に襲われることなく、大空洞外の村を出た翌日夕方には、どうにか到着したのである。
「ほほう? セッセリ殿ではないか。ドラゴン討伐の依頼は成功したのか?」
村人たちに紛れ、玄白もセッセリを迎え入れる。
そして着地して地面に崩れそうな体をなんとか奮い立たせると、セッセリは預かっていた手紙を玄白に手渡した。
「マクシミリアンどのから預かった手紙です!」
「ふむ? 何かあったようじゃな?」
そう問いかける玄白に、セッセリも静かに頷く。
そこで状況を知るために、玄白はその場で手紙を開けて内容を確認する。
「……なるほど。西方からやって来た勇者たちに助力を仰いだのか。そして手助けしてくれる交換条件として、魔族の捜索の手伝いが欲しいということか」
──ヒュッ
すぐさま解体新書を開いて羊皮紙を取り出すと、玄白は丁寧に返事を書き始める。
ドラゴン討伐が終わり次第、速やかに魔族捜索の手伝いをすること、自分は治癒し出会って捜索のためのスキルは持ち合わせていないが、道中の怪我などの手当てなら可能であることなどを書き込み、丁寧に封をしてからセッセリに手渡した。
「それでは、ドラゴン討伐が終わったら、スギタ先生はすぐに旅に出てしまうのですね?」
「うむ。旅は道連れ世は情け……ではないが、こちらだけ手伝ってもらって、それでははいさようならというのは義に反する。まあ、もともと旅を住みかとしているようなものじゃし、パルフェ蘭へ帰るのが少し遅れるだけじゃよ」
「わかりました。では、早速、届けてきます。もう済氏、スギタ先生とは一緒にいたかったのですけれど、残念です……」
「まあ、待て待て」
解体新書から別の薬を取り出すと、それをセッセリに突き出す。
「滋養強壮栄養満点な回復薬じゃ。疲労が抜けるし体の活力も漲る。飲んでいけ」
「助かります」
その小さな便を受け取ってグイッと飲み干す。
それだけでセッセリの全身が輝き、活力がみなぎってくる。
「では、行ってきます!!」
「うむ。気をつけてな」
手を振りセッセリが飛び上がるのを見送ると、玄白は彼女の姿が小さくなるのをじっと待っていた。
そして、その姿が見えなくなると、それまでの優しい表情から一転して、険しい表情に変化する。
「長どの。カースドドラゴンのこと、間違いはないのじゃな?」
偵察に向かった天翔族の戦士たち。
どうにか無事に戻ってきたものの、その報告を聞いて状況が最悪な方向に進んだことが理解できた。
「うむ。カースドドラゴンは|番《つがい」で巣を作っている。しかも、卵が一つ、巣の中にあったらしい」
「ブラックドラゴンが呪いによってカースドドラゴンに変化する。それが番などを作るというのか?」
「おそらくは、元々、番だったのでしょう。それが呪いによってカースドドラゴン化したと言うことだと思われますが、それよりも問題は」
「卵が孵化すると、やつらは餌を求めてここまでやってくる可能性がある、と言うことか」
生まれたばかりのドラゴン種は食欲が旺盛。
とくに、幼少期に食べた餌の質により、その後の成長度合いに変化が現れるらしい。
そして天翔族はいわば、この霊峰の守護者。
潜在的な魔力強度、戦闘技術などは多種族に遅れをとることはない。
つまり、カースドドラゴンにとって最高の餌場が、目の前にあるようなものである。
「対策は?」
「卵と親、どちらも同時に処分しないと不可能。最低でも親さえなんとかできれば、卵はその後で破壊すればいい」
「難易度が倍になったようなものじゃからな。しかし、セッセリにそれを告げなくてもよかったのか?」
あの場でそれを説明し、援軍をさらに増やしてもらうと言う選択肢はあった。
だが、托卵中のドラゴンの討伐など、依頼難易度では最高峰に位置する。
王国などが国を挙げて行うクエストなどでしか見たことがなく、自由貿易国家では未だ見たことがない。
「告げたところで、状況は変わりません。むしろ、他の霊峰に住まう天翔族の元に逃げてくれるなら……」
「ふむ。勇気ある天翔族は、最後まで戦うのではなかったのか?」
「援軍が間に合わず、私たちが全滅したとしても。マクシミリアン殿やミハルどのが、セッセリを諌めるでしょう」
「そういうことか。まあ、わしもここまで付き合ったのじゃから、最後までは付き合うとするか」
そう呟きつつ、玄白は霊峰の更なる頂を見上げる。
ヴェルディーナ王国で出会った、藍色の鱗のつがいのドラゴン。
あの二頭も卵を抱いていた。
もしも、あの魔族の手によって二頭がカースドドラゴンになっていたとするのなら、その卵は間違いなくあの二頭のもの。
もしもそうなら、玄白にはあの二頭を倒すことなどできるのか……。
そもそも、それを阻止するために啖呵を切ってまて、領主に対して敵対したのである。
それが、まさか最悪の結末を迎えてしまうかもとなると、玄白は胸が避けそうなほど苦しさを感じていた。
しかも、このまま放置していたら、この集落が襲われるやもしれないという恐怖感はある。
このまま天翔族を放ってはおかないという気持ちが、胸の苦しさをうわ待っているのかもしれない。
大きな翼を広げ、セッセリがゆっくりと降下を始める。
霊峰へ至る空路をどうにか突破し、マクシミリアンたちから預かった手紙を届けるために、限界を超えた飛行を続けていたのである。
そして幸いなことに、途中の峰に巣食っているワイバーンやスモールロックといった魔物に襲われることなく、大空洞外の村を出た翌日夕方には、どうにか到着したのである。
「ほほう? セッセリ殿ではないか。ドラゴン討伐の依頼は成功したのか?」
村人たちに紛れ、玄白もセッセリを迎え入れる。
そして着地して地面に崩れそうな体をなんとか奮い立たせると、セッセリは預かっていた手紙を玄白に手渡した。
「マクシミリアンどのから預かった手紙です!」
「ふむ? 何かあったようじゃな?」
そう問いかける玄白に、セッセリも静かに頷く。
そこで状況を知るために、玄白はその場で手紙を開けて内容を確認する。
「……なるほど。西方からやって来た勇者たちに助力を仰いだのか。そして手助けしてくれる交換条件として、魔族の捜索の手伝いが欲しいということか」
──ヒュッ
すぐさま解体新書を開いて羊皮紙を取り出すと、玄白は丁寧に返事を書き始める。
ドラゴン討伐が終わり次第、速やかに魔族捜索の手伝いをすること、自分は治癒し出会って捜索のためのスキルは持ち合わせていないが、道中の怪我などの手当てなら可能であることなどを書き込み、丁寧に封をしてからセッセリに手渡した。
「それでは、ドラゴン討伐が終わったら、スギタ先生はすぐに旅に出てしまうのですね?」
「うむ。旅は道連れ世は情け……ではないが、こちらだけ手伝ってもらって、それでははいさようならというのは義に反する。まあ、もともと旅を住みかとしているようなものじゃし、パルフェ蘭へ帰るのが少し遅れるだけじゃよ」
「わかりました。では、早速、届けてきます。もう済氏、スギタ先生とは一緒にいたかったのですけれど、残念です……」
「まあ、待て待て」
解体新書から別の薬を取り出すと、それをセッセリに突き出す。
「滋養強壮栄養満点な回復薬じゃ。疲労が抜けるし体の活力も漲る。飲んでいけ」
「助かります」
その小さな便を受け取ってグイッと飲み干す。
それだけでセッセリの全身が輝き、活力がみなぎってくる。
「では、行ってきます!!」
「うむ。気をつけてな」
手を振りセッセリが飛び上がるのを見送ると、玄白は彼女の姿が小さくなるのをじっと待っていた。
そして、その姿が見えなくなると、それまでの優しい表情から一転して、険しい表情に変化する。
「長どの。カースドドラゴンのこと、間違いはないのじゃな?」
偵察に向かった天翔族の戦士たち。
どうにか無事に戻ってきたものの、その報告を聞いて状況が最悪な方向に進んだことが理解できた。
「うむ。カースドドラゴンは|番《つがい」で巣を作っている。しかも、卵が一つ、巣の中にあったらしい」
「ブラックドラゴンが呪いによってカースドドラゴンに変化する。それが番などを作るというのか?」
「おそらくは、元々、番だったのでしょう。それが呪いによってカースドドラゴン化したと言うことだと思われますが、それよりも問題は」
「卵が孵化すると、やつらは餌を求めてここまでやってくる可能性がある、と言うことか」
生まれたばかりのドラゴン種は食欲が旺盛。
とくに、幼少期に食べた餌の質により、その後の成長度合いに変化が現れるらしい。
そして天翔族はいわば、この霊峰の守護者。
潜在的な魔力強度、戦闘技術などは多種族に遅れをとることはない。
つまり、カースドドラゴンにとって最高の餌場が、目の前にあるようなものである。
「対策は?」
「卵と親、どちらも同時に処分しないと不可能。最低でも親さえなんとかできれば、卵はその後で破壊すればいい」
「難易度が倍になったようなものじゃからな。しかし、セッセリにそれを告げなくてもよかったのか?」
あの場でそれを説明し、援軍をさらに増やしてもらうと言う選択肢はあった。
だが、托卵中のドラゴンの討伐など、依頼難易度では最高峰に位置する。
王国などが国を挙げて行うクエストなどでしか見たことがなく、自由貿易国家では未だ見たことがない。
「告げたところで、状況は変わりません。むしろ、他の霊峰に住まう天翔族の元に逃げてくれるなら……」
「ふむ。勇気ある天翔族は、最後まで戦うのではなかったのか?」
「援軍が間に合わず、私たちが全滅したとしても。マクシミリアン殿やミハルどのが、セッセリを諌めるでしょう」
「そういうことか。まあ、わしもここまで付き合ったのじゃから、最後までは付き合うとするか」
そう呟きつつ、玄白は霊峰の更なる頂を見上げる。
ヴェルディーナ王国で出会った、藍色の鱗のつがいのドラゴン。
あの二頭も卵を抱いていた。
もしも、あの魔族の手によって二頭がカースドドラゴンになっていたとするのなら、その卵は間違いなくあの二頭のもの。
もしもそうなら、玄白にはあの二頭を倒すことなどできるのか……。
そもそも、それを阻止するために啖呵を切ってまて、領主に対して敵対したのである。
それが、まさか最悪の結末を迎えてしまうかもとなると、玄白は胸が避けそうなほど苦しさを感じていた。
しかも、このまま放置していたら、この集落が襲われるやもしれないという恐怖感はある。
このまま天翔族を放ってはおかないという気持ちが、胸の苦しさをうわ待っているのかもしれない。
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