レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚

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第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編

ランダム転移と、新たなる戦場

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 ランダム転移が始まるまで、あと一日。
 正確には明日の正午、このキノクニ領から魔導レンタルショップ・オールレントが消滅する。
 まだ町の人たちはオールレントが消えてなくなることは知らない。
 いつものように店を訪れては、魔法薬を購入していくだけ。
 
 三日前からはレンタル業務も停止中であるため、いつからレンタルは再開されるのかという問い合わせが幾つもあった。
 だが、エリオンはその都度『まあ、しばらくはないから自力でがんばれ』という言葉で話を濁してしまう。
 別に移転するという話をしても構わないとは思っているのだが、以前、他の国で同じようなことがあったとき、店の商品を盗みに来た愚か者が後を絶えなかったのである。
 それゆえ、また面倒なことになるのが嫌なので、今回は当日の昼、転移直前までは黙っていようと思っていたのである。
 
「さて……と。レムリア、このバスケットを隣の酒場のおかみさんに渡してきてくれるか?」

 カウンターの上には、エリオンが調整した『魔導コンロ用の燃焼魔石』が入っているバスケットがある。
 以前、酒場のおかみさんに頼まれたことがあるものであり、これはさらに高性能。
 燃料用の魔石よりも100倍は耐久性能があり、なおかつ内部に『非稼働時は周囲の魔力を集める』という術式まで組み込んである。
 以前は出来なかった技術であり、赤のトワイライトから『元素変換』の能力を取り戻したために作ることが出来た。

「了解。あと、午後からは私も引っ越しの準備をする。私が外にいなくても大丈夫?」
「特に問題はないけれど、引っ越し準備といっても、建物ごと転移するから何もないだろうが。買い物でもいくのか?」
「そんなかんじ。それじゃあいってくる」

 そう告げて、レムリアはバスケット片手に隣の酒場へ。
 そしてエリオンも、次の転移先で必要となりそうなものをあらかじめチェック。
 レンタル商品の手入れを行ったりと、とにかく忙しそうであった。

………
……


 翌日早朝。
 レムリアは自宅の『解体場所』で腕を組んで考えている。
 ダンジョン攻略時に討伐したフロストドレイクを解体して素材にしようとしていたのだが、ここにきて大幅に予定が狂ってしまう。
 倉庫ほどの大きさの解体部屋、そこにおいてある全長15メートルのフロストドレイク。
 その腹部を割いて内臓を抜き出していた時、その胃袋から女性の死体が転がり出てきたのである。
 このフロストドレイクも討伐直後にアイテムボックスに収納していたため、死体の保存滋養体も極めて良好。衣類などは胃酸でボロボロであり皮膚もかなり溶解しかかってはいるものの、まだ蘇生に耐えうる状態であることは理解できる。

「参った……これは、あのへっぽこ冒険者の仲間の女魔導師だ。ま、まあ、とりあえず洗浄してから、エリオンにどうしようか話してみるか」

 すぐさま死体を洗浄し、食材を運ぶための袋に入れ替える。
 これは内部に収められていたものの時間を停止する効果があり、死体の保存用としてもレンタルされている商品である。
 それに彼女の死体を収め、まずはエリオンと相談するために店舗へと移動する。
 すでにエリオンも転移準備を終えて店内で錬金術でガラクタまがいのもりを組み立てていたので、レムリアのにらとっても都合がよかった。
 来客がいるところではこの袋を見せることはできないから。

「エリオン、ちょっと相談」
「ん? なんじゃらほい?」
「フロストドレイクを解体していたら、新鮮に死体ができた。どうしたらいい?」

――ドサッ
 アイテムボックスから食材保存袋を取り出してカウンターの前に横たえる。
 それをエリオンがゆっくりと開いて中を確認すると、確かに死後5時間以内であることは間違いがないと判断できた。

「ふぅん。この死体の再生深度は6か。神聖魔法で皮膚および内蔵の再生、あとは完全治癒パーフェクトヒールでいけるか。蘇生率78%ってところだが、どうすんの、これ?」
「それを相談したい」

――カランカラ~ン
 そんな話のさなか、店内にキノクニが入ってくる。
 
「よう。やっと王都から戻ってこれたぞ。今、王都ではお前に対する処分がどうとかで連日会議が行われているんだが……って、なんだこいつは?」

 カウンターの前にいるエリオンに話しかけていたキノクニだが、その目の前に転がっている死体をみていぶかしげに問いかける。

「私が倒したフロストドレイクのお腹の中に入っていた。まだ蘇生可能だけれど、蘇生魔法を使える司祭ってここにはいないよね?」
「いねぇなぁ。完全治癒による疑似蘇生ってところだろうけれど、そもそもこいつの仲間って今、どこにいるんだ?」
「さあ?」
「知らないのかよ……って、氾濫の前に討伐した奴の中にいたのか。時間停止可能なバックパックなんてものがあるから、こんな事態が発生するんだろうなぁ」

 さすがのキノクニも困り果てている。
 これかせ仲間や見知った者の死体なら、受け取ってあとで袋を返すっていうこともできるのだが。
 まったく知らない冒険者の死体など、預かったところで迷惑以外の何物でもない。
 冒険者は自分の行動については自己責任、パーティーを組んでいるのならそのメンバーに押し付けることぐらいは可能だが。

「どれ、冒険者タグは確認したのか?」
「まだ、迂闊に触る訳にはいかないから、そのまま」
「そっか。仕方ねぇ、ちょっとタグを持ってギルドにいってくるか。こいつの身元が分かるまで、ここで預かってくれるか?」

 そう問われて、エリオンは頬をぼりぼりと掻く。

「いや、昼には転移するんだが……こんなの持っていきたくないから、回収してくれるか?」
「昼つて、もうあと一時間じゃないか、ちっょと待っていろ!!」

 どだどだとキノクニが慌てて走り出す。
 そして10分もしないうちに、彼女のパーティーメンバーを連れて戻ってくると、彼らに死体を預けてとっとと店から追い出した。
 この間、エリオンとレムリアはただ茫然と見ているだけ、どうやら彼女の死体があったことを知った仲間たちが蘇生もここでやらせようとい言い始めたらしく、キノクニが問答無用で引っ張って来て、死体を押し付けてたたき出したたのである。

「うわ、なんてパワフルな領主だ」
「そもそも、あの女が勝手に暴走して死んだだけ、私は干渉していないから無罪、ギルドタグでも証明できる」
「まあ、そうだろうさ……と、それよりも転移って、もういっちまうのか?」
「そういうことだ。まあ、大して手伝うことなんてなかったけれど、それなりに楽しかったよ」

 ニイッと笑うエリオン。
 これにはキノクニも渋い顔をしつつも、右手を差し出す。
 それにエリオンも握手で返すと。

「支払い、忘れるなよ?」
「遅れたら請求に来るのか?」
「いや、契約の精霊が無慈悲に取り立てる。ということだ」

――チカッ……チカッ……
 店内のあちこちが点滅する。
 これは間もなくラタンダムテレポートするという合図。
 あと五分で転移が始まるため、キノクニも店内から外に出なくてはならない。

「さて、それじゃあ元気でな」
「エリオンも、レムリアの嬢ちゃんも元気でな」
「うん、キノクニは意外といい人だった。顔は怖いけれど」
「煩いわ……」

――シュンッ
 やがて建物全体が光に包まれると、魔導レンタルショップ・オールレントは消滅した。
 歪んでいた空間も修復され、酒場と雑貨屋の間には何もなくなっている。

「……本当に、ありがとうよ」

 そう告げてから、キノクニは冒険者ギルドへとむかう。 
 オールレントが移転したこと、もう魔法薬や魔導具の供給が亡くなったことをギルド長に説明してから、キノクニは何もなかったかのように執務に戻っていった。

………
……


 オールレトンがランダム転移を始めて一日後。
 その間、店舗は時空の彼方をさまよっている。
 どこに出るか、どのタイミングで時空のハザマから出られるかは全て『シュレティンガー』の思うまま。
 少なくとも、エリオンの呪詛を解き放つためのヒントが隠されている場所に出ることは確実であるため、今はのんびりとその時を待っていた。

――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
 やがて店舗の窓の外に霧が発生し、招き猫のシュレティンガーが転移が終わったことを告げるように顔を洗い始める。

「ふう、今回は予想よりも早かったか」
「どこに出たのか興味がある」
「そうだな、さて、どこなのやら」

 そう呟きつつ、エリオンは店の扉を開いて外にでる。
 目の前には深く生い茂った森林地帯、その向こうには空まで伸びる巨大な樹木。
 今立っている場所は草原地帯文明らしきものは何もない。
 そして森の中から耳が横に長いエルフたちの姿が見え始めた時、エリオンはその場で膝から崩れ落ちる。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。エルダーエルフの大森林じゃねえかよ。あれは世界樹だろ、こんなところでレンタルショップなんて開いても儲かるわけないじゃないかぁぁぁぁ」

 エルフの種族は大まかに三つに分類される。
 森の民と呼ばれ、亜人種とも呼ばれているエルフ
 そのエルフの上位種であり、精霊にまで進化したハイエルフ。
 そして、それらすべての祖であり世界樹の分身でもある精神精霊種のエルダーエルフ。
 このうちエルフ、ハイエルフはまだ物欲はある程度持っているため、無商売などの交渉事が可能であることに対して、エルダーエルフは物欲など存在しない。
 あるがままを受け入れる存在であるがため、商人たちにとっても絶好のカモとなつてしまう。
 ただし、ここに来ることが出来ればの話である。

「……うん、世界樹の結界の中だね。でも、ここに来たということは、ここにも何かあると思うから、がんばれ」
「はぁ……明日にでも世界樹に挨拶しにいくか。もう、ここになにがあるっていうんだよぉぉぉぉ」

 エリオンの絶叫。 
 だが、森の中からそちらを見ているエルダーエルフたちは、そのエリオンたちの行動に頭を傾げていた。 
 
 ここは、ファイズール大森林。
 大陸の魔力を支える世界樹のふもとにある、閉ざされた楽園。
 そして、エリオンたちがこの地に四呼ばれてきた理由がわかるのは、もう少し先。

――第一章・完
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