イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

着ぐるみチャレンジ、プロって凄い。

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 んんん?

 私の予定では、本番対応はPAの操作だと思っていましたが。
 確か、私が備品を配っていた時、広崎さんにそれっぽいことを仄めかされたような気がしますが。

『まあ、調整するのはこっちの仕事だからね。興味があったらあとで教えてあげても……』
『え、本当ですか?』
『いや、無理かなぁ……まあ、様子見ということで。作業に戻ってくださいね』

 ええ、確かにそんな感じで広崎さんは話していましたよね。

「着ぐるみがあったからですかぁぁぁぁ!!」
「え!! なになに、何がどうしたの?」

 思わず叫びつつ膝から崩れ落ちます。
 いや、期待していた私が甘かったのですが、今はそんなことをいつまでも引きずっているわけにはいきません。

「いえ、ちょっと気合を入れてみただけです」
「そうなの? まるで本番対応でPAを操作できるのに着ぐるみに回されたから絶叫したかと思ったわよ」
「へ?」

 ニコニコと笑いつつ、トミーさんが着ぐるみのパーツを持っています。

 私が着るのは、森林保護のためのイベント用マスコット、蝦夷松の【えっぞ~くん】です。
 まず、面下という顔の部分がくり抜かれている全身スーツ頭だけのものを装着します。これは髪が着ぐるみの中でバラつかないためのもので、ここに汗止めのスポンジがつけられました。

「次は。これをアダの上から被って!」
「発泡スチロールの頭?」
「そういうこと。まあ、内骨格のようなものでね」

 頭から発泡スチロールの頭部パーツを被ると、今度はその上に空気を通さない特殊素材を上からすっぽりと被ります。
 これは手足も一体化しているため、それぞれに手足を先っぽまで通すと、手袋と靴を履いて。

「それじゃあ、簡単に説明するからね。右手袋の中にスイッチがあるから、それを使って空調のオンオフができるから。それと左手は着ぐるみの目と連動していて、瞬きしたりウィンクできるようになっているからね。あとはまあ、適当に弄ったり子供達の相手をして欲しいんだけど」

 そこまでの説明を聞いて、一旦着ぐるみを外してくれました。

「あの、まだ何か?」
「これって外を見る場所は口の中だけでね。あと外の音は拾えないから、このインカムをつけて欲しいのよ」
「ふむふむ」

 インカムを受け取ると、トミーさんが着ぐるみの胸元に隠されているマイクと接続してくれます。

『これで聞こえるでしょ?』
「はい、大丈夫です。これ、凄いですね?」
『まあ、この手の着ぐるみって制作費だけで100万前後はするらしいから。ほら、戦隊モノとかのヒーローショーの着ぐるみなんて、電装とかがしっかりしているものなんて一着で60万とかするらしいわよ?』
「ひょえぇぇ!」

 変なところから声が出ましたよ。
 なるほど、それは高額です。
 気をつけなくてはなりません。
 
「あとはまあ……動きは派手にしてね。着ぐるみって着て動くと、不思議と動作が小さくなる人が多いんだけど。逆にオーバーアクションしないと何をしているのかわからないこともあるからね。ほら?」

 そう説明してから、横でクマのぬいぐるみを着た中島さんを指さしています。

「中島さん、ちょっと動ける?」
『ん? こんな感じ?』

 そう声が聞こえてきたかと思うと、両手を大きく広げて威嚇してきます。
 いや、それ子供が泣くレベルじゃないですか?
 オーバーオールと帽子をかぶっていなかったら、猟友会が飛んできますよ?
 でも、確かに動きは大きいです。
 迫力を出すために動くのなら、ここまでオーバーにしないとならないのですか。

「それじゃあ、間も無く本番だから着込んでね。大体30分ぐらいは会場で動き回って。そのあとで水分補給とかで15分ほど休憩に入るから。それを3回か4回ほどローテーションしてもらうので」
「は、はい!!」

 急いで全てのパーツを着込んで、電動ファンのスイッチを入れて内部に空気を飛び込みます。
 すると着ぐるみ全体がフワッと丸くなり、軽くなりました。
 風が入ってきますので涼しさも感じられますけれど、まあ、外で直射日光を浴びるよりは良いかなぁと。

『ミコシーちゃん、行ける?』

 インカム越しにトミーさんの声が聞こえてきましたので、私は両手を広げて手を振る仕草。

『うん、動きも見えているから大丈夫だね。それじゃあいこうか!』
「はい!!」
『あ、声は出さないでね。もしも緊急事態とかになったら、私の手を思いっきり引っ張って。そうしたら、控え室まで戻って一緒に戻るから』

──ブンブン!!
 軽くジャンプして手を振ります。
 このスマホを横に倒したぐらいの大きさの隙間から外を見ないとならないのですよね。
 これはなかなか、ハードですよ。

………
……


 控え室から外に出ますと、ちょうど開会式が終わってお客さんたちが各テントに併設されている催し物に参加しています。
 看板を作ったりクイズに答えて景品をもらったり。
 山の幸を使った料理の試食会とかも行われているのですね。
 
「エッゾーだ!!」
「エッゾー、写真撮ろう!!」

 子供達が集まってきて、一緒に写真を撮ったり手を振ったりと大忙し。
 こ、これはかなりハードですよ。
 体力勝負というレベルではありません。
 いくらファンで風が送られているとはいえ、炎天下の下の着ぐるみは汗が吹き出し顔を伝ってシャツまで染み込んでいきます。

(こ、これは水分補給が必要だって言うのがよく分かりましたよ)

 ふと、中島さんの熊と綾辻さんの森の妖精を見ますと。
 恐ろしいレベルで着ぐるみをこなしています。
 飛んだり跳ねたり手を振ったり、子供達を追いかけまわしていますよ?
 え? どうしてあんなに動けるのですか?

「エッゾ~、こっちで写真撮って!!」

 はいはい、それじゃあ写真を撮りますか。
 そう思って子供に近寄ると、私にスマホを渡して来ましたが。

 私が撮る方かい!!

──ビシッ
 思わずツッコミを入れてしまいますが、これが子供には大受けしています。
 キ、キャラクターのイメージを損なわないようにしないと。
 ノリツッコミは禁止、ここは子供たちのマスコットとして頑張らなくては。

………
……


──バタン
 夕方六時。
 イベントも無事に完了、私は着ぐるみから出て30分の休憩タイム。
 その間にトミーさんが近所のコンビニから変えのシャツを買って来てくれましたので、大急ぎで公園のトイレで着替えました。
 作業着は長袖が原則なのですが、着ぐるみの中は半袖ご許されていまして。
 控え室で着替えようとした時、汗でシャツがべったりと張り付いていて、つまりブラジャーも何かもが透けて見えてしまっていました。

 なお、中島さんと綾辻さんの2人は、私が着替え終わるまで外で待っていてくれました。お優しいおじさんたちで助かりましたよ。
 そして備品のトラックへの積み込みも完了し、これで作業は終了。
 設営から撤去まで、ざっと途中の休憩も挟んで十時間労働。
 帰省分の交通費もこれでゲットです。

「それじゃあ、お疲れ様でした!!」
「「「ありがとうございました!!!

 はい、かいさーん。
 そう思って地下鉄へと向かおうとした時、広崎さんが声を掛けてくれました。

「今日は着ぐるみお疲れ様。いい感じに動けていたから、今度から着ぐるみの仕事があったら御子柴さんを指名するからね」

 うわ、指名が入りましたが。
 いえいえ、それよりもPAの話はどうなったのでしょうか?

「あと、小さな会場の仕事が来たら、今度こそPAも教えるので、それじゃあお疲れ様!」
「は……はい!ありがとうございました」

 思わず頭を下げます。
 よし、また夢に一歩だけ、ほんの少しだけ進めた感じです。
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