イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

地元の戦い、夏祭りの攻防

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 旧友との再会ののち。
 どこかでお昼ご飯をということで、やっぱりここは行くしかありませんよね。
 旭川といえばのラーメン屋さん、JR旭川から歩いてすぐそこの『ラーメンの若葉』さん。
 昭和22年創業で、なんと無化調のスープ。
 昔から食べなれているせいか、暖簾をくぐった瞬間にホッと安心してしまいましたよ。

「おや……御子柴ちゃんは久しぶりだね。こっちに帰って来たのかい?」
「大学が夏季休講なので帰って来ただけですよ。あの、いつものお願いします」
「はいはい、いつものやつね。澪ちゃんと胡桃ちゃんは、昨日と同じ奴でいいのかい?」
「はい」
「今日はライス小もつける。ミコシーの奢りだから」

 はい?
 なんで私の奢りになっているのですか?

「本当? ミコシー、ごちです。私も小ライス」
「はぁ……あのねぇ、いくら私が一人暮らししているからってね、生活費はアルバイトで稼がないとならないんだからね」
「つまり、今は懐が温かいと。おばちゃん餃子も追加で」
「みーーーおーーーー!!」

 まったく、相変わらずの二人だよ。
 これは夜のお祭りでは二人におごってもらわないとならないよ。
 実家に持ってきたお土産代で、そこそこ懐が寂しくなってきているのに。
 まあ、そんなことを今更ぐちぐちと話しても仕方がないので。
 今は久しぶりのラーメンを堪能することにしましょう。
 私のいつものは、若葉特製しょうゆラーメン。
 これに卵と海苔、ネギをトッピングしてもらっています。
 まずはスープから。
 アツアツのスープをレンゲで軽く掬って覚ましてから、口の中に注ぎ込む。
 このスープの旨味が口の中にすーーっと広がっていき、唾が溢れそうになってしまいます。
 こうなるともう、麺を啜ってチャーシューを齧り、またスープを飲んでの繰り返し。
 隣の澪たちも言葉を発することなく、延々とラーメンを食べ続けています。

「……ふう。ごちそうさま出した。やっぱりここのラーメンが最高ですよ」
「本当にかい? 札幌でおいしい店とか見つけているんじゃないの?」

 笑いつつそう突っ込まれました。
 確かにトミ―さんたちとかに安くておいしい店をいくつも商会されていますけれど、やっばり若葉のラーメンが私の中ではトップです。

「う~ん。それでもここが一番かなぁ」
「あら、うれしいこと言ってくれるねぇ。それじゃあ、今度来たときはチャーシューをおまけしてあげる」
「ありがとうございます」

 この私と店長さんのやり取りを見て、澪が手を上げて。

「私は、常々ここのラーメンが最高だと信じていた。だから私にもチャーシュー」
「あれ? この前は別のラーメン屋さんにいなかったか?」
「ぐっ……」

 相変わらず調子のいい澪。
 そのままお会計を済ませてから、胡桃の運転で一旦実家話へ。
 このあとは夕方から、さんろく祭りの会場へ。
 今年は旭川ラーメンフェスティバルやキッチンカーフェス、そしておなじみ地元の有名店舗の出店と盛りだくさんです。
 ネットでは『さんろく祭り』のチラシもゲットできるので、車で移動中はみんなでどこから回るかとか、どこの店舗から攻めていくかと綿密な打ち合わせ。

「まあ、結局は会場についてから、おいしそうなところは全て回るんだろうけれどね」
「そうそう。いつものことじゃん……と、ついたよ」

 気が付くと我が家の前。
 それでは荷物を降ろして一時解散。
 夕方18時に会場入り口で待ち合わせということで、私はようやく実家に戻ってきました。

………
……


 まあ、久しぶりの実家といえど、甘やかされこともなくただお茶の間でのんびりと一休み。
 お土産も妹たちに開封され、さっそく食べ散らかされていましたよ。
 お父さんはまだ仕事中なので、会えるのは夜かもしくは明日。
 今日ぐらいちゃんと帰ってきなさいとおかあさんに釘をさされつつ、夕方には待ち合わせの場所へ移動です。

「お、来た来た。やっぱり浴衣はいいよね」
「お祭りと言えば浴衣が基本。今年は新しい浴衣をおろしてきた」
「いいなぁ。私は去年と同じやつなんだよなぁ……」

 胡桃も澪も新しい浴衣。
 赤やピンクを基調とした華やかな模様が好みの胡桃、それとは対照的に、薄墨や紫の浴衣を好む澪。
 私は去年と同じ青を基調とした花をあしらっている浴衣。
 うんうん、これぞ乙女の姿ですよ。
 いつもならこの時間は、設営か撤去を行っている最中ですよ。
 こうフードコートの横を進んでいって、巨大なオーロラビジョンの設置されている交差点へ。
 その根元では、スタッフさんが忙しそうに音響を弄っていますよ。
 
「……ミコシーは、まだMCのお姉さんを目指しているの?」
「そうだよ。いつかステージに上がって、子供たちと一緒にヒーローを応援するのが夢なんだからね」
「それならアナウンサーの学校に行った方が早かったような気がする。どうして札幌の大学に」

 澪は、なかなか痛いところをついてきますよ。
 そりゃあ、そういうのに憧れている以上、進路としても色々と選んでいましたよ。
 でも、両親が反対したのだから仕方ありませんよ。
 まずは大学を卒業しろと、今のご時勢、大学でもでていれば就職でも困ることはそうそうないからって。
 それで大学を卒業してまだ夢を追いかけたいのなら、その時はまた考えるって言われて私も了承したんだから。

「まあ、色々とあってね。大学だけでも出ておかないとって」
「ふぅん。そういうことか」
「それじゃあ、アルバイトでどこかのスタジオとか放送局に入るっていうのは?」

 また、痛いところを、その2。

「アルバイトはやっているよ。さっきも話していたでしょ?」
「どんなことをしているのか聞いていない」
「まさか、ススキノでいかがわしいことを!!」
「しませんから。私の今のアルバイトは、イベントの設営業務だからね?」
「「なに、それ?」」

 はい、二人同時にそういう反応になるのは判っていましたよ。
 
「ええっと、簡単に説明すると、この会場でもあちこちにテントがあるでしょう? ああいうのを設営したり、イベントが終わったら撤去する作業かな」
「へぇ……ということは、そこで作業している人たちのようなことをするんだ」

 胡桃が指さした先では、テントの中で音響を操作したりなにかの打ち合わせをしている人たちの姿が見えます。
 明日のカラオケ大会の司会の女性もいるようで、今は細かい打ち合わせの最中。
 うん、音響には明桜レンタリースの広崎さんと工藤さんの姿も見えて……あっれぇ?

「そ、そ、そういうことかな? あ、あっちの方からおいしそうな匂いがしているよ、行ってみようよ!!」
「ふむ、この香りはスペアリブの香草焼きとみた。つまり、駅前のイタリアンバルの定番メニュー」
「澪、あんた少し怖いけど」
「サークルの飲み会で使ったことがある。あそこは確かに絶品」
「よ、よ~し、それじゃあいってみようかぁ!!」

 二人の背中を押しつつ、テントの近くから退散します。
 アルバイト中ならともかく、二千のこんな格好なんて恥ずかしくて見せられませんよ。
 それに今日は工具もヘルメットもありませんし、浴衣なので作業もできませんからね。
 さあ、楽しくお祭りを堪能しましょう!!

 
  




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