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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~
遊び三昧からの現実
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朝。
どうやって自宅まで戻って来たのか、私ははっきりと覚えていますよ。
ただ、さんざん飲み歩いて食べ歩いた挙句、カラオケボックスに移動して絶唱大会。
そのあとはスイーツ女子を実践すべく、札幌では定番の〆パフェができる店を探して東奔西走。
けっきょくは澪のいきつけのイタリアンバルに移動して、そこでパフェならぬスイーツを堪能してタクシーでレッツ帰宅。
「……いたたたたた。体の節々が痛すぎる……」
飲み過ぎ食べ過ぎにご用心。
ちなみに私は18歳、まだお酒は飲めませんので昨日はノンアルコールで盛り上がったのですからね。
決して飲酒して頭がガンガンしているのではありませんので。
ということで、とりあえず着替えて……。
「って、うわぁ、昨日の恰好そのまま、浴衣のままベッドに転がったのかぁ……」
とりあえずゆったりとした服に着替えてから、顔を洗いに洗面所へ。
「あら、ようやく起きてきたのね。お父さんも呆れていたわよ……」
「はぁ、なんと申してよいのやら……それでお父さんは?」
「もう昼よ? とっくに仕事にいっているわよ」
「ひ、ひ、昼?」
なんということでしょう。
せっかくの帰省だというのに、父親に挨拶もせずに遊びまわっている放蕩娘と思われてしまったかも。
「それで、お昼はなにか食べるの? それともまたお祭りにいくの?」
「今日は二人とも家族と出かけるようなことを話していたから、私も家でのんびりとしていようかなと」
「ふぅん。まあ、それなら別に構わないけれど。またいきなり呼び出されて友達とどこかにっていうことにはならないわよね? おとうさんだって今日は家族でお祭りに行けるって楽しみにしていたんだからね」
「あはは……はい、さーせん」
これは失態。
でも、まだ引っ越して半年もたっていないのに、そんなに寂しくなるものなのでしょうか。
親の心子知らずといいますけれど、やっぱり私が地方に出て寂しかったのかもしれません。
「それで、ちょっと遅い朝食を食べるの?」
「いえ、素直にお昼を頂きます。できれば軽いもので……」
「そういうと思ったわよ。それじゃうソーメンを茹でてあげるから待っていなさい」
「は~い。先にシャワー浴びてきます。着の身着のままだったから」
うん、熱い昼間っから冷たいシャワー。
これでようやく心も体もしゃっきりしました。
そしてお母さんと二人でお昼を食べてから、とりあえず一人でお祭りを見に行くことにしまして。
昨日とは違って、ジャケットにジーンズ、ラフな格好で散策に出かけます。
だって、昨日も中盤から後半にかけては、どこをどう回っていたのか覚えていませんので。
今日はアルコール抜きで楽しんでみることにします。
どうせ夜は家族でくるのですから、その下見をかねて……ね。
ということで、バスに乗ってさんろく祭りの会場へ。
「やっぱりというか、殆どのお店を覚えていませんよ。はぁぁぁ、昨日はどれだけ飲み歩いたのでしょうか」
お酒には強いかどうかは別として……うん、
「まさか、お酒に酔って何も覚えていませんだなんて言えませんよ……」
ええ、まったくその通りです。
生活の身だけが理由で、旭川に戻されたりしたら堪りません。
普段の私はまじめ一辺倒、飲み歩いたり遊び歩いたりなどせず、まじめに学業とアルバイトに精を出しているのですから。
昨日はまあ、久しぶりの親友との出会いではっちゃけすぎたのです。
そう、いつもまじめに頑張っているのですから。
「あれ? ウィルプラスの御子柴さんだよね?」
さて。
考え事をして歩いていたせいか、まさか今私が立っている場所が午後の歌謡ショーの会場前とは予想もしていませんでしたよ。
そしてその横のテント、つまり音響機器の収められているブースの前で腕を組んで一人突っ込みしているなんて思っていませんし、聞き覚えのある広崎さんの声なんて聞こえていません、はい、幻聴に決まっています。
「本当だ。まさか手伝いに来てくれたのか?」
はい、紛れもなく明桜レンタリースの広崎さんと工藤さんの声です。
これを無視して立ち去れるような心臓など持ち合わせていません。
ここはにっこりアルバイトモードです。
「はい、お疲れ様です。こんなところで会うなんてね奇遇ですね。今日はここでお仕事ですか?」
「ええ。毎年、このお祭りで音響や備品のレンタル、設営を請け負っていますから。それよりも御子柴さんはこんなところで何を?」
「実家がこっちなんですよ。それで、昨日と今日、明日はのんびりとお祭りを楽しもうと思っていたのですよ」
にっこりと笑顔でそう返しますと、広崎さんがポン、と手を叩いています。
「御子柴さん、今、空いている?」
「んんん……ん? なにかお手伝いですか? 会社を通してくれれば夕方までは空いていますけれど」
「ちょっと待って、今札幌事務所に連絡してみるわ」
あ、しまった。
まさかいきなり事務所に連絡だなんて予想していませんけれど。
広崎さんが電話をしているので、今のうちに工藤さんに何が起こったのか話を聞いてみます。
「あの、何かあったのですか?」
「資材トラブルでね、午後7時からのソーランナイト用の機材がトラブって、代用機材を手配しているんだけれど。今日はあちこちで仕事があってね、急ぎ札幌まで取りに行かないとならなくてね。その間、俺一人だと手が回らなくなってしまう恐れがあるのでサポートをお願いしたいんだけれど、大丈夫?」
「サポート……って、音響ですか?」
「そう、簡単なことだけだし、イベント中はそんなに大きく弄ることはなんだけれどさ。一応ついていないとまずいからさ……頼める?」
その工藤さんの言葉と同時に、広崎さんが期待に満ちた目でこちらを見ています。
これは、断れる雰囲気ではありませんね。
「了解しました。今が午後1時半ですから、4時半までの3時間でしたら御手伝いします。でも、ヘルメットも軍手もありませんよ」
「あ、設営じゃないからいらないよ。ということで広崎さん、御子柴さんはオッケーだから」
「はい、今、現地で確認しました。では後から商才と依頼書は送りますので……とそれじゃあ御子柴さん、さっそくお手伝いをお願いしますね。札幌事務所の高尾さんには連絡しておいたから」
――ピロピロリーン
広崎さんの言葉と同時に、LINEで連絡が届きます。
そしてメールでは仕事についてのメッセージが届きましたので、正式にアルバイトとして動くことになりましたよ。
「それじゃあまずは……これをもってステージへ。音だしと調整するからよろしく」
そう話しつつ、いきなりマイクを渡してくれる広崎さん。
「……へ? あ、あの、いきなりマイクでステージで?」
「音響の設定だから大丈夫。本番の時はちゃんと司会の人がくるから」
「え、いや、あの……はい」
これも仕事……はい、仕事……。
って、いきなりマイク片手にステージで話をするのですかぁぁぁぁぁ!!
いくらなんでも、いきなりすぎませんか!
どうやって自宅まで戻って来たのか、私ははっきりと覚えていますよ。
ただ、さんざん飲み歩いて食べ歩いた挙句、カラオケボックスに移動して絶唱大会。
そのあとはスイーツ女子を実践すべく、札幌では定番の〆パフェができる店を探して東奔西走。
けっきょくは澪のいきつけのイタリアンバルに移動して、そこでパフェならぬスイーツを堪能してタクシーでレッツ帰宅。
「……いたたたたた。体の節々が痛すぎる……」
飲み過ぎ食べ過ぎにご用心。
ちなみに私は18歳、まだお酒は飲めませんので昨日はノンアルコールで盛り上がったのですからね。
決して飲酒して頭がガンガンしているのではありませんので。
ということで、とりあえず着替えて……。
「って、うわぁ、昨日の恰好そのまま、浴衣のままベッドに転がったのかぁ……」
とりあえずゆったりとした服に着替えてから、顔を洗いに洗面所へ。
「あら、ようやく起きてきたのね。お父さんも呆れていたわよ……」
「はぁ、なんと申してよいのやら……それでお父さんは?」
「もう昼よ? とっくに仕事にいっているわよ」
「ひ、ひ、昼?」
なんということでしょう。
せっかくの帰省だというのに、父親に挨拶もせずに遊びまわっている放蕩娘と思われてしまったかも。
「それで、お昼はなにか食べるの? それともまたお祭りにいくの?」
「今日は二人とも家族と出かけるようなことを話していたから、私も家でのんびりとしていようかなと」
「ふぅん。まあ、それなら別に構わないけれど。またいきなり呼び出されて友達とどこかにっていうことにはならないわよね? おとうさんだって今日は家族でお祭りに行けるって楽しみにしていたんだからね」
「あはは……はい、さーせん」
これは失態。
でも、まだ引っ越して半年もたっていないのに、そんなに寂しくなるものなのでしょうか。
親の心子知らずといいますけれど、やっぱり私が地方に出て寂しかったのかもしれません。
「それで、ちょっと遅い朝食を食べるの?」
「いえ、素直にお昼を頂きます。できれば軽いもので……」
「そういうと思ったわよ。それじゃうソーメンを茹でてあげるから待っていなさい」
「は~い。先にシャワー浴びてきます。着の身着のままだったから」
うん、熱い昼間っから冷たいシャワー。
これでようやく心も体もしゃっきりしました。
そしてお母さんと二人でお昼を食べてから、とりあえず一人でお祭りを見に行くことにしまして。
昨日とは違って、ジャケットにジーンズ、ラフな格好で散策に出かけます。
だって、昨日も中盤から後半にかけては、どこをどう回っていたのか覚えていませんので。
今日はアルコール抜きで楽しんでみることにします。
どうせ夜は家族でくるのですから、その下見をかねて……ね。
ということで、バスに乗ってさんろく祭りの会場へ。
「やっぱりというか、殆どのお店を覚えていませんよ。はぁぁぁ、昨日はどれだけ飲み歩いたのでしょうか」
お酒には強いかどうかは別として……うん、
「まさか、お酒に酔って何も覚えていませんだなんて言えませんよ……」
ええ、まったくその通りです。
生活の身だけが理由で、旭川に戻されたりしたら堪りません。
普段の私はまじめ一辺倒、飲み歩いたり遊び歩いたりなどせず、まじめに学業とアルバイトに精を出しているのですから。
昨日はまあ、久しぶりの親友との出会いではっちゃけすぎたのです。
そう、いつもまじめに頑張っているのですから。
「あれ? ウィルプラスの御子柴さんだよね?」
さて。
考え事をして歩いていたせいか、まさか今私が立っている場所が午後の歌謡ショーの会場前とは予想もしていませんでしたよ。
そしてその横のテント、つまり音響機器の収められているブースの前で腕を組んで一人突っ込みしているなんて思っていませんし、聞き覚えのある広崎さんの声なんて聞こえていません、はい、幻聴に決まっています。
「本当だ。まさか手伝いに来てくれたのか?」
はい、紛れもなく明桜レンタリースの広崎さんと工藤さんの声です。
これを無視して立ち去れるような心臓など持ち合わせていません。
ここはにっこりアルバイトモードです。
「はい、お疲れ様です。こんなところで会うなんてね奇遇ですね。今日はここでお仕事ですか?」
「ええ。毎年、このお祭りで音響や備品のレンタル、設営を請け負っていますから。それよりも御子柴さんはこんなところで何を?」
「実家がこっちなんですよ。それで、昨日と今日、明日はのんびりとお祭りを楽しもうと思っていたのですよ」
にっこりと笑顔でそう返しますと、広崎さんがポン、と手を叩いています。
「御子柴さん、今、空いている?」
「んんん……ん? なにかお手伝いですか? 会社を通してくれれば夕方までは空いていますけれど」
「ちょっと待って、今札幌事務所に連絡してみるわ」
あ、しまった。
まさかいきなり事務所に連絡だなんて予想していませんけれど。
広崎さんが電話をしているので、今のうちに工藤さんに何が起こったのか話を聞いてみます。
「あの、何かあったのですか?」
「資材トラブルでね、午後7時からのソーランナイト用の機材がトラブって、代用機材を手配しているんだけれど。今日はあちこちで仕事があってね、急ぎ札幌まで取りに行かないとならなくてね。その間、俺一人だと手が回らなくなってしまう恐れがあるのでサポートをお願いしたいんだけれど、大丈夫?」
「サポート……って、音響ですか?」
「そう、簡単なことだけだし、イベント中はそんなに大きく弄ることはなんだけれどさ。一応ついていないとまずいからさ……頼める?」
その工藤さんの言葉と同時に、広崎さんが期待に満ちた目でこちらを見ています。
これは、断れる雰囲気ではありませんね。
「了解しました。今が午後1時半ですから、4時半までの3時間でしたら御手伝いします。でも、ヘルメットも軍手もありませんよ」
「あ、設営じゃないからいらないよ。ということで広崎さん、御子柴さんはオッケーだから」
「はい、今、現地で確認しました。では後から商才と依頼書は送りますので……とそれじゃあ御子柴さん、さっそくお手伝いをお願いしますね。札幌事務所の高尾さんには連絡しておいたから」
――ピロピロリーン
広崎さんの言葉と同時に、LINEで連絡が届きます。
そしてメールでは仕事についてのメッセージが届きましたので、正式にアルバイトとして動くことになりましたよ。
「それじゃあまずは……これをもってステージへ。音だしと調整するからよろしく」
そう話しつつ、いきなりマイクを渡してくれる広崎さん。
「……へ? あ、あの、いきなりマイクでステージで?」
「音響の設定だから大丈夫。本番の時はちゃんと司会の人がくるから」
「え、いや、あの……はい」
これも仕事……はい、仕事……。
って、いきなりマイク片手にステージで話をするのですかぁぁぁぁぁ!!
いくらなんでも、いきなりすぎませんか!
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