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フォーティファイド王国の日常
第143話・北方の外交使節団は、ローストビーフがお好き?(生肉料理のオンパレードと、北海道の切り札)
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さて。
一通りの試食も無事に終わった翌日。
朝一番で発注してあったものを一通り確認。
今日中に仕込まないとならないものや、急ぎ冷凍庫にしまっておく必要があるものなどを一通りチェックしたのち、いつものように仕込みを開始。
というのも、ここ最近はアイリッシュ殿下が【隠れ居酒屋・越境庵】に頻繁に出入りするようになっている。というのも、いくら外交使節でやってきているとはいえ、長期滞在ゆえにそろそろ故郷であるヴィシュケ・ビャハ王国の食事が恋しくなっているのである。
それについてはこの国の宮廷料理人たちも熟知はしているのだが、やはり故郷の味を再現することはできなかったらしい。
そこで俺にご指名がかかったっていうこと。
何のことはない、毎日のように行われる晩餐会にうんざりしたっていうことらしく、入れ代わり立ち代わり、この国の貴族たちがこぞってあいさつに訪れるとか。
そんな毎日を送っていただなんて知らなかった俺たちとしても、少しはアイリッシュ王女殿下が楽に食事ができるような場所を提供しなきゃいけないっていうこと。
このことを、昨日の試食会の後に言われた以上は、どうにかしてあげようと思うのが男っていうものだろう?
「しっかし……まさかこいつまで即日発送で届けてくれるとは思っていなかったなぁ」
発泡スチロール製のトロ箱で届くとは思っていなかったなぁ。
あ、トロ箱っていうのは主に魚介類を入れる箱のことさしてね、【トロール漁でとれた魚を入れるための木箱】を略してトロ箱って呼んでいたらしい。
それが縮まってトロ箱っていう名前で親しまれていて、現在は発泡スチロール製のものが多用されている。
それに厳重にしまわれて届いたこの食材こそ、俺の切り札っていうこと。
「さてと。それじゃあ明日の晩餐会の仕込みでも始めますかねぇ。今日は俺一人での作業だから、手順を考えてやらないとなぁ」
さすがに明日の仕込みまでシャットたち二人に手伝わせるわけにはいかないのでね。
今日は二人に、アイリッシュ王女殿下の相手を頼むことにしたんだよ。
昼ごろには一度顔を出してくれることになっているので、その時にはサンドイッチでも渡さないとねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・夜
そんなこんなで仕込みはすべて完了。
すべての食材の準備も何もかも完成している。
晩餐会用に、ほとんどの料理も作って盛り付けたのち空間収納にて時間停止処理を行っている。
「うにゅ……まさか、この国でまたこれを切るとは思っていなかったにゃ」
「シャット、これが越境庵の正装なのですから、もっと胸を張ってください。そんなことでは他国の親善大使や外交使節団に笑われてしまいますよS」
「それもそうだにゃ。それで、ユウヤは何をしているのかにゃ?」
ああ、俺がやっているのは本日のお品書きの作成だな。
テーブル席で半紙を広げ、小筆でお品書きを書いている真っ最中。
まあ、筆や硯なんて普段は使うことがないので、二人も初めて見るようだが。
「これはまた、なんていうか不思議な筆記用具ですね。これもユウヤ店長の世界の文化なのてすか?」
「ま、そういうこと。ちなみにだが、こっちの世界の共通語で書いてみたんだが、読めるか?」
「ん~、味があっていい文字だにゃ」
「堅苦しくない、良い書き方ですわ」
「ははは……そりゃあ、どうも」
俺としてはまじめに書いたつもりなんだが。
昔っから、字が汚いってよく言われているんだせよなぁ。
「最初の料理は……なんだにゃ? ろーすとびーふ?」
「ああ。確か以前、作ってやったことがあっただろ?」
「いえ、初めてですわね。そのあとが薩摩地鶏のたたき、青森産・馬刺しの盛り合わせ。この二つはこの前試食したものですからわかりますけれど。最後の料理はなんでしょうか?」
まあ、この書き方だと予想もつかないわな。
「ドンブリって書いてあるところを見ると、ご飯もの間違いはないにゃ。これってつまり、生魚を使った海鮮丼だにゃ?」
「ははは。生肉の料理に魚を出すわけにはいかんだろう。れっきとした肉料理だよ」
「でも、ここにトロって書いてあるにゃ。確かトロってマグロとかいう魚の脂っこい部分だにゃ」
「あ、私は理解できましたわ。肉のトロ、つまり脂身を使ったドンブリっていうことですわね?」
「う~む、ちょいと惜しいっていうところだな。それじゃあ、さっそく晩餐会の会場へと向かいますか」
ということで、以前、精霊の女神ターシュラー様の100年大祭を行った宴会場へと向かう。
すでに正面奥、貴賓席の近くに俺たちのために設えられたブースというか、簡易キッチンスペースが用意されていたので、そこで準備を開始する。
といっても、今回はすべて個別に皿に盛り付けて提供するだけ。
すべて完成させて空間収納から取り出しておしまいではあまりにも味気ないので、最後の仕上げだけは客の目の前で行う。
そんなこんなで準備をしていると、いつの間にか貴賓客や貴族たちが席に着いている。
そして最後に国王陛下が入室し挨拶を行っているのだが、こっちは忙しいのでそんなことに耳を傾けている場合じゃなくてね。
「マリアンは料理の提供と説明を頼む。シャットは」
「いつも通り、飲み物の提供だにゃ。それで、今日はどんな料理だにゃ」
「今日はこいつを頼む。すべてこっちの一合グラスでの提供でね」
用意したものは日本酒の純米酒。それも辛口を用意した。
それと球磨焼酎、そして赤ワインのミディアムボディ。
ちょいと銘柄については秘密、というのも一見さんお断りの銘柄なのでね。
「ワインも一合グラスかにゃ?」
「そうだなぁ……ワインは普通にワイングラスを用意するか。まあ、また持っていかれそうだけれど、それは仕方がないと諦めますかね」
越境庵でワインを提供する際に扱っているワイングラスなんだが、これだけ薄手で透明度の高いガラスの加工技術はまたまだらしくてね。
ユウヤの酒場で提供すると、何個か持っていかれたことがあるんだよ。
まあ、それも仕方がないかと諦めてはいるんだけれど、あまりにも度が過ぎるとお仕置きタイムが待っているからねぇ。
そんなこんなで準備も終わり、どうやら乾杯の音頭も行われたらしく客たちがめいめい、あちこちのブースで料理を受け取っている光景が見え始めた。
「それじゃあ、始めますか」
――ドンッ
まな板の上に用意したものは、巨大なローストビーフの塊。
温度管理を限界ぎりぎりまでおこなったもので、内部まで火は通っているのだが。
「ユウヤァ、これはしっかりと火が通っているにゃ」
「そりゃそうだ。こいつを、こうして……」
八寸の柳葉包丁で、表面を丁寧にこそいでいく。
これも料理として提供する予定で、皿に盛り付けたのち、別に用意してあるバター醤油たれを軽くかけて完成。
そして本題はこっち。
「中から生焼けの肉が出てきたにゃ?」
「いや、実は生に見えるけれど火は通っているんだ」
「でも、ピンク色ですよ?」
「そう。そこは最高の仕上がりになっているんだ。ロゼって言って、レアよりも生に近い仕上がりでね。肉汁を見ると血の濃い赤色じゃなく、透き通った赤だろう? こいつをさらに盛り付けて」
用意するのは三つに分かれた刺身用の小皿、ここにローストビーフ用のたれと塩、そしてわさび醤油の三つを入れて提供する。
そしてさらにある程度の盛り付けが終わった時、この国の国王陛下とアイリッシュ王女殿下が外交使節団らしい人たちを連れてやってきた。
「ユウヤ店長、こちらがウルス・バルト王国外交使節団代表のサムソン・グレイウーズ卿です」
アイリッシュ王女殿下が紹介してくれたのは、外交使節団の団長。
背丈は俺よりもはるかに高く、二メートルは優に超えているだろう。
白地のローブ状の衣服を着用しているのだが、どことなくモンゴルの民族衣装である【デール】を思わせるようなデザインには、なんだか安心感が出てくる。見慣れているわけじゃないが、ケーブルテレビでよく見ていたからさ。
「ユウヤ・ウドウです。本日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。それで、本日は生肉を扱った料理を食べさせてもらえると聞きましたが。ヴィシュケ・ビャハ王国では、ニラクを生食する文化があるというのですか?」
「いえ、今日お出しする料理は俺の故郷で食されているものです。一部、どうしても材料が入手できなかったので再現することができなかったものがありますので、今日はお出しできる可能性のあるものをご用意しました」
そう丁寧に説明したのだが。
――フン
ああ、軽く鼻で笑われてしまった。
満足できないものを用意したとしても、材料がなかったということでごまかせると思ったのだろう。
悪いが、生きのいい牛レバーが用意できたら、それこそ顎が外れるぐらいうまいものを用意できたんだよ。今は法律で規制されていて、生レバーを食べることは禁止されているんだ。
そんな細かい部分を異世界に来てまで守る必要間゛あるのかって言われそうだけれど、ここは料理人としてはどうしても譲れないのでね。
「では、さっそくその料理とやらを食べさせてもらいましょうかねぇ」
「もう、お仲間さんたちが食べているにゃ。こちらが球磨焼酎のロックだにゃ」
まあ、代表が俺と話をしている間にも、使節団の方々はテーブルの上に並べられていたら、ローストビーフの中心部分のみを切り出したものから目が離せなかったらしい。
その様子を見て、マリアンが皿を手に勧めていたのと、シャットがそれに合う球磨焼酎を勧めたものだから、我慢できなかった団員のみなさんは団長よりも一足お先に食べ始めていた。
そして現在。
「お、おい、いったいどうしたというのだ? その生肉料理はそんなにうまかったのか?」
「え、ええっとですね……生肉料理かと思ったのですが、生ではないのですよ。いえ、火が通っている生肉という感じでしょうか……このような料理が存在するだなんて、思ってもみませんでした……う~ん、これは最高の味付けですね」
「そして、この肉料理に合わせてあるこの透き通った飲み物がまた……体の芯まで広がって、そしてカーっと熱くさせてくれます。このような飲み物を飲んだのは、以前南方の旅商人がもってきたの以来です。ああ、もう一杯いただけますか?」
どうやら団員の皆さんのお口に合ったようでなにより。
そしてその様子を見て狼狽している団長も、恐る恐る料理を手に取り、そして口に運ぶ。
「ふ、ふん……火が通っているのなら生肉ではないな。そんなものをうまいと感じるなど。お前たち、望郷の念にでも取りつかれたのか? まったく……」
そう吐き捨てるように告げるのだが。
うん、沈黙したまま黙々と食べ始めたんだが。
それも、皿の料理を平らげると、また次の料理を手に取って。
その様子を見て、団員達も急ぎお代わりを食べ始めた。
最初の一品でこの様子だと、あとは安心して出しても大丈夫かな。
一通りの試食も無事に終わった翌日。
朝一番で発注してあったものを一通り確認。
今日中に仕込まないとならないものや、急ぎ冷凍庫にしまっておく必要があるものなどを一通りチェックしたのち、いつものように仕込みを開始。
というのも、ここ最近はアイリッシュ殿下が【隠れ居酒屋・越境庵】に頻繁に出入りするようになっている。というのも、いくら外交使節でやってきているとはいえ、長期滞在ゆえにそろそろ故郷であるヴィシュケ・ビャハ王国の食事が恋しくなっているのである。
それについてはこの国の宮廷料理人たちも熟知はしているのだが、やはり故郷の味を再現することはできなかったらしい。
そこで俺にご指名がかかったっていうこと。
何のことはない、毎日のように行われる晩餐会にうんざりしたっていうことらしく、入れ代わり立ち代わり、この国の貴族たちがこぞってあいさつに訪れるとか。
そんな毎日を送っていただなんて知らなかった俺たちとしても、少しはアイリッシュ王女殿下が楽に食事ができるような場所を提供しなきゃいけないっていうこと。
このことを、昨日の試食会の後に言われた以上は、どうにかしてあげようと思うのが男っていうものだろう?
「しっかし……まさかこいつまで即日発送で届けてくれるとは思っていなかったなぁ」
発泡スチロール製のトロ箱で届くとは思っていなかったなぁ。
あ、トロ箱っていうのは主に魚介類を入れる箱のことさしてね、【トロール漁でとれた魚を入れるための木箱】を略してトロ箱って呼んでいたらしい。
それが縮まってトロ箱っていう名前で親しまれていて、現在は発泡スチロール製のものが多用されている。
それに厳重にしまわれて届いたこの食材こそ、俺の切り札っていうこと。
「さてと。それじゃあ明日の晩餐会の仕込みでも始めますかねぇ。今日は俺一人での作業だから、手順を考えてやらないとなぁ」
さすがに明日の仕込みまでシャットたち二人に手伝わせるわけにはいかないのでね。
今日は二人に、アイリッシュ王女殿下の相手を頼むことにしたんだよ。
昼ごろには一度顔を出してくれることになっているので、その時にはサンドイッチでも渡さないとねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・夜
そんなこんなで仕込みはすべて完了。
すべての食材の準備も何もかも完成している。
晩餐会用に、ほとんどの料理も作って盛り付けたのち空間収納にて時間停止処理を行っている。
「うにゅ……まさか、この国でまたこれを切るとは思っていなかったにゃ」
「シャット、これが越境庵の正装なのですから、もっと胸を張ってください。そんなことでは他国の親善大使や外交使節団に笑われてしまいますよS」
「それもそうだにゃ。それで、ユウヤは何をしているのかにゃ?」
ああ、俺がやっているのは本日のお品書きの作成だな。
テーブル席で半紙を広げ、小筆でお品書きを書いている真っ最中。
まあ、筆や硯なんて普段は使うことがないので、二人も初めて見るようだが。
「これはまた、なんていうか不思議な筆記用具ですね。これもユウヤ店長の世界の文化なのてすか?」
「ま、そういうこと。ちなみにだが、こっちの世界の共通語で書いてみたんだが、読めるか?」
「ん~、味があっていい文字だにゃ」
「堅苦しくない、良い書き方ですわ」
「ははは……そりゃあ、どうも」
俺としてはまじめに書いたつもりなんだが。
昔っから、字が汚いってよく言われているんだせよなぁ。
「最初の料理は……なんだにゃ? ろーすとびーふ?」
「ああ。確か以前、作ってやったことがあっただろ?」
「いえ、初めてですわね。そのあとが薩摩地鶏のたたき、青森産・馬刺しの盛り合わせ。この二つはこの前試食したものですからわかりますけれど。最後の料理はなんでしょうか?」
まあ、この書き方だと予想もつかないわな。
「ドンブリって書いてあるところを見ると、ご飯もの間違いはないにゃ。これってつまり、生魚を使った海鮮丼だにゃ?」
「ははは。生肉の料理に魚を出すわけにはいかんだろう。れっきとした肉料理だよ」
「でも、ここにトロって書いてあるにゃ。確かトロってマグロとかいう魚の脂っこい部分だにゃ」
「あ、私は理解できましたわ。肉のトロ、つまり脂身を使ったドンブリっていうことですわね?」
「う~む、ちょいと惜しいっていうところだな。それじゃあ、さっそく晩餐会の会場へと向かいますか」
ということで、以前、精霊の女神ターシュラー様の100年大祭を行った宴会場へと向かう。
すでに正面奥、貴賓席の近くに俺たちのために設えられたブースというか、簡易キッチンスペースが用意されていたので、そこで準備を開始する。
といっても、今回はすべて個別に皿に盛り付けて提供するだけ。
すべて完成させて空間収納から取り出しておしまいではあまりにも味気ないので、最後の仕上げだけは客の目の前で行う。
そんなこんなで準備をしていると、いつの間にか貴賓客や貴族たちが席に着いている。
そして最後に国王陛下が入室し挨拶を行っているのだが、こっちは忙しいのでそんなことに耳を傾けている場合じゃなくてね。
「マリアンは料理の提供と説明を頼む。シャットは」
「いつも通り、飲み物の提供だにゃ。それで、今日はどんな料理だにゃ」
「今日はこいつを頼む。すべてこっちの一合グラスでの提供でね」
用意したものは日本酒の純米酒。それも辛口を用意した。
それと球磨焼酎、そして赤ワインのミディアムボディ。
ちょいと銘柄については秘密、というのも一見さんお断りの銘柄なのでね。
「ワインも一合グラスかにゃ?」
「そうだなぁ……ワインは普通にワイングラスを用意するか。まあ、また持っていかれそうだけれど、それは仕方がないと諦めますかね」
越境庵でワインを提供する際に扱っているワイングラスなんだが、これだけ薄手で透明度の高いガラスの加工技術はまたまだらしくてね。
ユウヤの酒場で提供すると、何個か持っていかれたことがあるんだよ。
まあ、それも仕方がないかと諦めてはいるんだけれど、あまりにも度が過ぎるとお仕置きタイムが待っているからねぇ。
そんなこんなで準備も終わり、どうやら乾杯の音頭も行われたらしく客たちがめいめい、あちこちのブースで料理を受け取っている光景が見え始めた。
「それじゃあ、始めますか」
――ドンッ
まな板の上に用意したものは、巨大なローストビーフの塊。
温度管理を限界ぎりぎりまでおこなったもので、内部まで火は通っているのだが。
「ユウヤァ、これはしっかりと火が通っているにゃ」
「そりゃそうだ。こいつを、こうして……」
八寸の柳葉包丁で、表面を丁寧にこそいでいく。
これも料理として提供する予定で、皿に盛り付けたのち、別に用意してあるバター醤油たれを軽くかけて完成。
そして本題はこっち。
「中から生焼けの肉が出てきたにゃ?」
「いや、実は生に見えるけれど火は通っているんだ」
「でも、ピンク色ですよ?」
「そう。そこは最高の仕上がりになっているんだ。ロゼって言って、レアよりも生に近い仕上がりでね。肉汁を見ると血の濃い赤色じゃなく、透き通った赤だろう? こいつをさらに盛り付けて」
用意するのは三つに分かれた刺身用の小皿、ここにローストビーフ用のたれと塩、そしてわさび醤油の三つを入れて提供する。
そしてさらにある程度の盛り付けが終わった時、この国の国王陛下とアイリッシュ王女殿下が外交使節団らしい人たちを連れてやってきた。
「ユウヤ店長、こちらがウルス・バルト王国外交使節団代表のサムソン・グレイウーズ卿です」
アイリッシュ王女殿下が紹介してくれたのは、外交使節団の団長。
背丈は俺よりもはるかに高く、二メートルは優に超えているだろう。
白地のローブ状の衣服を着用しているのだが、どことなくモンゴルの民族衣装である【デール】を思わせるようなデザインには、なんだか安心感が出てくる。見慣れているわけじゃないが、ケーブルテレビでよく見ていたからさ。
「ユウヤ・ウドウです。本日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。それで、本日は生肉を扱った料理を食べさせてもらえると聞きましたが。ヴィシュケ・ビャハ王国では、ニラクを生食する文化があるというのですか?」
「いえ、今日お出しする料理は俺の故郷で食されているものです。一部、どうしても材料が入手できなかったので再現することができなかったものがありますので、今日はお出しできる可能性のあるものをご用意しました」
そう丁寧に説明したのだが。
――フン
ああ、軽く鼻で笑われてしまった。
満足できないものを用意したとしても、材料がなかったということでごまかせると思ったのだろう。
悪いが、生きのいい牛レバーが用意できたら、それこそ顎が外れるぐらいうまいものを用意できたんだよ。今は法律で規制されていて、生レバーを食べることは禁止されているんだ。
そんな細かい部分を異世界に来てまで守る必要間゛あるのかって言われそうだけれど、ここは料理人としてはどうしても譲れないのでね。
「では、さっそくその料理とやらを食べさせてもらいましょうかねぇ」
「もう、お仲間さんたちが食べているにゃ。こちらが球磨焼酎のロックだにゃ」
まあ、代表が俺と話をしている間にも、使節団の方々はテーブルの上に並べられていたら、ローストビーフの中心部分のみを切り出したものから目が離せなかったらしい。
その様子を見て、マリアンが皿を手に勧めていたのと、シャットがそれに合う球磨焼酎を勧めたものだから、我慢できなかった団員のみなさんは団長よりも一足お先に食べ始めていた。
そして現在。
「お、おい、いったいどうしたというのだ? その生肉料理はそんなにうまかったのか?」
「え、ええっとですね……生肉料理かと思ったのですが、生ではないのですよ。いえ、火が通っている生肉という感じでしょうか……このような料理が存在するだなんて、思ってもみませんでした……う~ん、これは最高の味付けですね」
「そして、この肉料理に合わせてあるこの透き通った飲み物がまた……体の芯まで広がって、そしてカーっと熱くさせてくれます。このような飲み物を飲んだのは、以前南方の旅商人がもってきたの以来です。ああ、もう一杯いただけますか?」
どうやら団員の皆さんのお口に合ったようでなにより。
そしてその様子を見て狼狽している団長も、恐る恐る料理を手に取り、そして口に運ぶ。
「ふ、ふん……火が通っているのなら生肉ではないな。そんなものをうまいと感じるなど。お前たち、望郷の念にでも取りつかれたのか? まったく……」
そう吐き捨てるように告げるのだが。
うん、沈黙したまま黙々と食べ始めたんだが。
それも、皿の料理を平らげると、また次の料理を手に取って。
その様子を見て、団員達も急ぎお代わりを食べ始めた。
最初の一品でこの様子だと、あとは安心して出しても大丈夫かな。
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