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異世界に来た料理人
12品目・旅は道連れ(旅の料理と洋風雑炊)
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馬車での旅を始めて、今日で三日目。
道中の楽しみといえば、移り変わる外の風景を堪能しつつ、同席している他のお客との団欒程度。
とはいえ、俺はこっちの世界の住人ではないため、適当に振られた話に相槌をうちつつ、新しい知識を蓄えることに専念するしかない。
「ウドウさんの住んで居た東方の島国……えぇっと、ワランハ諸島王国ですか? そこはたいそう珍しい金属が取れると伺っていますが」
『ピッ……東方諸国、倭藍波諸島王国では、希少な魔法金属である日緋色金が算出する鉱山があります』
ステータス画面を開けっ放しにしておくと、商人たちの言葉に反応して詳細説明が表示される。
これは非常にありがたくうまく話を合わせるのに役立ってくれている。
おかげて、俺の故郷が倭藍波諸島王国ということで定着することが出来た。
まあ、東の国という説明しかしていなかったのだが、こう都合よく話が進んでくれると非常に助かる。俺のような異世界からやって来た人間に対しての反応とか、対応については情報が全くないからな。
「ヒヒイロカネの事ですね。まあ、確かに存在はしていますけれど、あれば幕府の直轄鉱山で産出するので、私のようにいち料理人では手も足も出ませんよ」
『ピッ……異世界転移の際の限界突破技術の一端として、ユウヤ・ウドウの持つ包丁等は全て、ヒヒイロガネに生まれ変わっています』
――ブッ
なんだそりゃ……って、いつの間にそんなことになっていたんだ?
『ピッ……ヒヒイロカネの特徴として、使うものが刀身に魔力を注ぐことが出来ます。それ以外では、ただの包丁と見分けが尽きません』
ああ、なるほど納得。
それじゃあ、普段は普通の包丁として使えるから、まったく問題はないな……って、おおありだわ。
希少な魔法鉱石なんだろう、目利きのできる奴に狙われる可能性っていうのも……ああ、そもそも厨房から出したりしないから、問題は無いのか。
それはそれとして、普段使いできそうな包丁も数本、用意する必要はあると思うがなぁ。
「そうですかそうですか……まあ、こっちの大陸では伝説の金属として噂は流れていましたけれど、やはり本当に存在するのですか……と、ああ、こちら、よろしければどうぞ?」
一人の商人が、アイテム鞄から干果実を数個取り出し、俺に進めて来る。
これはあれだ、ドライフルーツっていう奴だな。
それじゃあと、ありがたくいただいて小腹を少し膨らませておく。
そんな感じて話を続けているうちに、気が付くと日が暮れ始めていた。
隊商交易馬車便は日が暮れると、あちこちの街道筋に作られている大きな広場で夜を過ごすのが慣例になっているらしい。
この隊商も例外ではなく、近くにあった広場へと馬車を進めたのち、馬車をぐるりと輪を描くように配置。その輪の中に馬を放ち馬の手入れを始めるもの、中心で大きめの焚火を用意するもの、夕食の準備を始めるものなど、あちこちでにわかに忙しくなっている。
俺たちのような人員輸送馬車の客の食事はというと、金を出して隊商に分けてもらうパターンと、自分たちで用意するパターンに分かれている。
夫婦の客たちは隊商から食事を購入しているし、商人たちはアイテム鞄から干し肉や乾燥野菜を取り出し、お湯で戻したものを調理している。
まあ、この二日ほど見ていたが、彼らは野菜と干し肉のスープに細かく挽いた穀物を加えたグリュエルと、ピケットという『ワインの搾りかすに水を加えて発酵させた低アルコ―ル』ワインで腹を満たしているらしい。
昼間は干果実を齧り、ピケットで空腹を満たす。
たまに贅沢をして隊商から硬黒パンを購入し、ベーコンを混ぜたラードを塗って楽しんでいたり。
実に、楽しそうな食事を取っている。
「ユウヤ、私たちもそろそろ夕食にしようよ」
「そうですわ。もう、お腹がすいて仕方がありませんの」
「ははっ、それじゃあ用意するか……」
商人たちに見つからないように、ちょっと離れた場所で食事の準備。
昨日と一昨日は、他の客に倣ってフランスパンとマーガリン、炒めたベーコンとレタスとトマトで、簡単なサンドイッチを作っていた。
まあ、他の客たちもたまにこっちをチラッチラッと見ていたので、俺がなにか旨そうなものを作っていると思っているのだろう。
だから、今日はちょっとだけ贅沢に。
五徳は使わず、あらかじめ広場に用意してあった石でかまどを作ると、そこに炭を加えて一気に過熱。水を張った大きな鍋を厨房倉庫から引っ張り出して火にかけると、そこにキューブ状のコンソメを適量加える。
次にキャベツとベーコンを粗みじんに刻んでフライパンでさっと炒めると、それをコンソメスープの中へと放り込む。
ぐつぐつと具材に火が通りスープが沸騰してきたら、洗った冷ご飯を加えて軽く混ぜる。
再度過熱してフツフツとしてきたら、そこに大量の『溶けるチーズ』を加え、蓋をして火から降ろして完成だ。
「はう、ユウヤ、そ、それは初めて見る賄いご飯だけれど、ぶっかけ飯じゃないのか?」
「シャットさん、あれとは違いますわよ。こっちは火にかけて煮込んでいるじゃないですか」
「そういうこと。俺の故郷では雑炊っていってね。今日は出汁を引く時間もないので、固形スープを使ってズルさせてもらった。ということで、洋風雑炊の完成だ」
簡易テーブルを引っ張り出して、そこに丼とレンゲを用意。
一応、ペットボトルの水とジョッキも並べておくとするか。
ああ、味の調整に定番の塩コショウも忘れずに。
「それじゃあ、喰うとするか」
――ガチャッ……ホワワワワァァァァァァン
蓋を開けると、食欲をくすぐるコンソメスープの香りに濃厚なチーズの風味が混ざり合い、実に美味そうな芳香が広がっていく。
「これで掬ってたべるのか?」
「ああ、食べたい量をお玉ですくって、あとはこいつで味を調えてくれ」
「それでは、まず私が……」
「ああっ、マリアンに先を越されたぁぁぁぁぁぁ」
我先にとマリアンがどんぶりに雑炊をよそって、かるく塩コショウを掛ける。
ゆっくりとレンゲで雑炊を持ち上げると、溶けたチーズが絡んだご飯が湯気を出していた。
それを一口食べた瞬間、マリアンが目をむき出しにして、俺に向かってコクコクと頭を上下している。うん、これは初めて食べる味で、とっても美味しいっていうやつだな。
それを見てシャットも慌ててよそい、素早く食べて……。
「アチチ、これはちょっと熱すぎるにゃ」
ああ、そういえばシャットは猫舌だったよな。
フーッフーッとどんぶりの雑炊を吹き冷ましつつ、適温になってから食べ始めた。
うん、こっちを向いてサムズアッブしているから、満足らしい。
まったく、俺の仕草を次々と覚えていきやがる。
そして俺もようやく食事を開始、しばし暖かい夕食に舌つづみを打つことにした。
「……ふう、もう食べられないにゃ」
「本当です。今日はこんな贅沢が出来るとは思っていませんでした……あ、えぇっと……ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
「ユウヤ、私もごちそうさま!!」
「はいはい、お粗末様でした」
マリアンが慌てて背筋を伸ばし、両手を合わせてごちそうさまと呟く。
その姿を見てシャットも慌てて同じ仕草をする。
すっかり、俺の仕草を真似するようになったなぁと苦笑していると。
「あ、あの……誠に申し訳ないのですが……」
「貴方の食べていた料理を、よろしければ少し分けて欲しいのですが。あ、ちゃんと代金はお支払いしますので」
馬車に相乗りしていた商人のうち、二人が俺たちに近寄って来てそう話しかけてきた。
いつもなら、あと二人の商人と一緒に食事を囲んでいるはずなのだが、どうして今日に限って?
まあ、鍋の中にはまだ雑炊は残っているし、時間が立つと米が汁を吸い過ぎてべちゃぺちゃになってしまう。そうなると美味くないんだよなぁ……。
「ま、代金を払っていただけるのでしたら、別に構いませんけれど」
「助かります。ちょっと今日の夕食は食べられたものではないので」
「ん? それってどういうことですか……ああ、まずは腹ごしらえですね、さあ、どうぞ」
二人の商人に雑炊の入った丼とスプーンを差し出す。
一人あたま50メレルを支払ってくれたので、俺としては全く問題はない。
「それで、夕食が食べられたものではないというのはどういうことで?」
「ああ、今日の料理当番はあちらのホイットさんなのですが……持ち込んだ食材がどうもねぇ」
「ちょっと干し肉とかが傷んでいたように感じたので、私たちは遠慮して来たのですよ。まあ、ホイットさんたちは自分たちの食べる分が増えて喜んでいましたけれど」
なるほどねぇ。
アイテム鞄に入れておけば、中に納めているものの時間は停止すると思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「食材はアイテム鞄に入れてあったのですよね?」
「ええ。ですから生肉や魚といったものも、ある程度は鮮度を保っていられるのですが……今日は外れを引いたのかもしれませんね」
「完全に鮮度を止められるアイテム鞄とは違って、私たちの所持しているものは腐敗する速度が遅いだけですからねぇ。あれは良い魔導具ですけれど、とても希少で私たちのような旅商人では手に入れることもできませんから」
「なるほど、そういうことでしたか」
つまり、俺の空間収納のように、時間経過を自在にセットできるものは希少であるという事か。うん、それじゃあ黙っていることにするか。
「それにしても、この料理は凄く美味しいですね。これも倭藍波諸島王国の食材を使用しているのですか?」
「まあ、そんなところです。私は旅の料理人でしてね。次の町でも露店を開こうと思っているのですよ」
「そうでしたか……では、何かご縁がありましたら、よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、シャットとマリアンが食器を洗って持って来てくれた。
水はマリアンの魔法で出したらしく、飲み水についてもそれほど困ることがなかったからな。
「これでおしまい……って、また洗い物が増えているにゃ」
「ああ、これは俺が後で片づけるから、今日はそろそろ休んでいいぞ」
「そうですか、では、お言葉に甘えさせていただきます」
二人とも馬車に戻って毛布を取って来ると、焚火の近くで丸くなった。
まあ、隊商の護衛もついていることだし、街道筋の休息場だから盗賊なんかもこないだろうさ。
道中の楽しみといえば、移り変わる外の風景を堪能しつつ、同席している他のお客との団欒程度。
とはいえ、俺はこっちの世界の住人ではないため、適当に振られた話に相槌をうちつつ、新しい知識を蓄えることに専念するしかない。
「ウドウさんの住んで居た東方の島国……えぇっと、ワランハ諸島王国ですか? そこはたいそう珍しい金属が取れると伺っていますが」
『ピッ……東方諸国、倭藍波諸島王国では、希少な魔法金属である日緋色金が算出する鉱山があります』
ステータス画面を開けっ放しにしておくと、商人たちの言葉に反応して詳細説明が表示される。
これは非常にありがたくうまく話を合わせるのに役立ってくれている。
おかげて、俺の故郷が倭藍波諸島王国ということで定着することが出来た。
まあ、東の国という説明しかしていなかったのだが、こう都合よく話が進んでくれると非常に助かる。俺のような異世界からやって来た人間に対しての反応とか、対応については情報が全くないからな。
「ヒヒイロカネの事ですね。まあ、確かに存在はしていますけれど、あれば幕府の直轄鉱山で産出するので、私のようにいち料理人では手も足も出ませんよ」
『ピッ……異世界転移の際の限界突破技術の一端として、ユウヤ・ウドウの持つ包丁等は全て、ヒヒイロガネに生まれ変わっています』
――ブッ
なんだそりゃ……って、いつの間にそんなことになっていたんだ?
『ピッ……ヒヒイロカネの特徴として、使うものが刀身に魔力を注ぐことが出来ます。それ以外では、ただの包丁と見分けが尽きません』
ああ、なるほど納得。
それじゃあ、普段は普通の包丁として使えるから、まったく問題はないな……って、おおありだわ。
希少な魔法鉱石なんだろう、目利きのできる奴に狙われる可能性っていうのも……ああ、そもそも厨房から出したりしないから、問題は無いのか。
それはそれとして、普段使いできそうな包丁も数本、用意する必要はあると思うがなぁ。
「そうですかそうですか……まあ、こっちの大陸では伝説の金属として噂は流れていましたけれど、やはり本当に存在するのですか……と、ああ、こちら、よろしければどうぞ?」
一人の商人が、アイテム鞄から干果実を数個取り出し、俺に進めて来る。
これはあれだ、ドライフルーツっていう奴だな。
それじゃあと、ありがたくいただいて小腹を少し膨らませておく。
そんな感じて話を続けているうちに、気が付くと日が暮れ始めていた。
隊商交易馬車便は日が暮れると、あちこちの街道筋に作られている大きな広場で夜を過ごすのが慣例になっているらしい。
この隊商も例外ではなく、近くにあった広場へと馬車を進めたのち、馬車をぐるりと輪を描くように配置。その輪の中に馬を放ち馬の手入れを始めるもの、中心で大きめの焚火を用意するもの、夕食の準備を始めるものなど、あちこちでにわかに忙しくなっている。
俺たちのような人員輸送馬車の客の食事はというと、金を出して隊商に分けてもらうパターンと、自分たちで用意するパターンに分かれている。
夫婦の客たちは隊商から食事を購入しているし、商人たちはアイテム鞄から干し肉や乾燥野菜を取り出し、お湯で戻したものを調理している。
まあ、この二日ほど見ていたが、彼らは野菜と干し肉のスープに細かく挽いた穀物を加えたグリュエルと、ピケットという『ワインの搾りかすに水を加えて発酵させた低アルコ―ル』ワインで腹を満たしているらしい。
昼間は干果実を齧り、ピケットで空腹を満たす。
たまに贅沢をして隊商から硬黒パンを購入し、ベーコンを混ぜたラードを塗って楽しんでいたり。
実に、楽しそうな食事を取っている。
「ユウヤ、私たちもそろそろ夕食にしようよ」
「そうですわ。もう、お腹がすいて仕方がありませんの」
「ははっ、それじゃあ用意するか……」
商人たちに見つからないように、ちょっと離れた場所で食事の準備。
昨日と一昨日は、他の客に倣ってフランスパンとマーガリン、炒めたベーコンとレタスとトマトで、簡単なサンドイッチを作っていた。
まあ、他の客たちもたまにこっちをチラッチラッと見ていたので、俺がなにか旨そうなものを作っていると思っているのだろう。
だから、今日はちょっとだけ贅沢に。
五徳は使わず、あらかじめ広場に用意してあった石でかまどを作ると、そこに炭を加えて一気に過熱。水を張った大きな鍋を厨房倉庫から引っ張り出して火にかけると、そこにキューブ状のコンソメを適量加える。
次にキャベツとベーコンを粗みじんに刻んでフライパンでさっと炒めると、それをコンソメスープの中へと放り込む。
ぐつぐつと具材に火が通りスープが沸騰してきたら、洗った冷ご飯を加えて軽く混ぜる。
再度過熱してフツフツとしてきたら、そこに大量の『溶けるチーズ』を加え、蓋をして火から降ろして完成だ。
「はう、ユウヤ、そ、それは初めて見る賄いご飯だけれど、ぶっかけ飯じゃないのか?」
「シャットさん、あれとは違いますわよ。こっちは火にかけて煮込んでいるじゃないですか」
「そういうこと。俺の故郷では雑炊っていってね。今日は出汁を引く時間もないので、固形スープを使ってズルさせてもらった。ということで、洋風雑炊の完成だ」
簡易テーブルを引っ張り出して、そこに丼とレンゲを用意。
一応、ペットボトルの水とジョッキも並べておくとするか。
ああ、味の調整に定番の塩コショウも忘れずに。
「それじゃあ、喰うとするか」
――ガチャッ……ホワワワワァァァァァァン
蓋を開けると、食欲をくすぐるコンソメスープの香りに濃厚なチーズの風味が混ざり合い、実に美味そうな芳香が広がっていく。
「これで掬ってたべるのか?」
「ああ、食べたい量をお玉ですくって、あとはこいつで味を調えてくれ」
「それでは、まず私が……」
「ああっ、マリアンに先を越されたぁぁぁぁぁぁ」
我先にとマリアンがどんぶりに雑炊をよそって、かるく塩コショウを掛ける。
ゆっくりとレンゲで雑炊を持ち上げると、溶けたチーズが絡んだご飯が湯気を出していた。
それを一口食べた瞬間、マリアンが目をむき出しにして、俺に向かってコクコクと頭を上下している。うん、これは初めて食べる味で、とっても美味しいっていうやつだな。
それを見てシャットも慌ててよそい、素早く食べて……。
「アチチ、これはちょっと熱すぎるにゃ」
ああ、そういえばシャットは猫舌だったよな。
フーッフーッとどんぶりの雑炊を吹き冷ましつつ、適温になってから食べ始めた。
うん、こっちを向いてサムズアッブしているから、満足らしい。
まったく、俺の仕草を次々と覚えていきやがる。
そして俺もようやく食事を開始、しばし暖かい夕食に舌つづみを打つことにした。
「……ふう、もう食べられないにゃ」
「本当です。今日はこんな贅沢が出来るとは思っていませんでした……あ、えぇっと……ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
「ユウヤ、私もごちそうさま!!」
「はいはい、お粗末様でした」
マリアンが慌てて背筋を伸ばし、両手を合わせてごちそうさまと呟く。
その姿を見てシャットも慌てて同じ仕草をする。
すっかり、俺の仕草を真似するようになったなぁと苦笑していると。
「あ、あの……誠に申し訳ないのですが……」
「貴方の食べていた料理を、よろしければ少し分けて欲しいのですが。あ、ちゃんと代金はお支払いしますので」
馬車に相乗りしていた商人のうち、二人が俺たちに近寄って来てそう話しかけてきた。
いつもなら、あと二人の商人と一緒に食事を囲んでいるはずなのだが、どうして今日に限って?
まあ、鍋の中にはまだ雑炊は残っているし、時間が立つと米が汁を吸い過ぎてべちゃぺちゃになってしまう。そうなると美味くないんだよなぁ……。
「ま、代金を払っていただけるのでしたら、別に構いませんけれど」
「助かります。ちょっと今日の夕食は食べられたものではないので」
「ん? それってどういうことですか……ああ、まずは腹ごしらえですね、さあ、どうぞ」
二人の商人に雑炊の入った丼とスプーンを差し出す。
一人あたま50メレルを支払ってくれたので、俺としては全く問題はない。
「それで、夕食が食べられたものではないというのはどういうことで?」
「ああ、今日の料理当番はあちらのホイットさんなのですが……持ち込んだ食材がどうもねぇ」
「ちょっと干し肉とかが傷んでいたように感じたので、私たちは遠慮して来たのですよ。まあ、ホイットさんたちは自分たちの食べる分が増えて喜んでいましたけれど」
なるほどねぇ。
アイテム鞄に入れておけば、中に納めているものの時間は停止すると思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「食材はアイテム鞄に入れてあったのですよね?」
「ええ。ですから生肉や魚といったものも、ある程度は鮮度を保っていられるのですが……今日は外れを引いたのかもしれませんね」
「完全に鮮度を止められるアイテム鞄とは違って、私たちの所持しているものは腐敗する速度が遅いだけですからねぇ。あれは良い魔導具ですけれど、とても希少で私たちのような旅商人では手に入れることもできませんから」
「なるほど、そういうことでしたか」
つまり、俺の空間収納のように、時間経過を自在にセットできるものは希少であるという事か。うん、それじゃあ黙っていることにするか。
「それにしても、この料理は凄く美味しいですね。これも倭藍波諸島王国の食材を使用しているのですか?」
「まあ、そんなところです。私は旅の料理人でしてね。次の町でも露店を開こうと思っているのですよ」
「そうでしたか……では、何かご縁がありましたら、よろしくお願いします」
そんな話をしているうちに、シャットとマリアンが食器を洗って持って来てくれた。
水はマリアンの魔法で出したらしく、飲み水についてもそれほど困ることがなかったからな。
「これでおしまい……って、また洗い物が増えているにゃ」
「ああ、これは俺が後で片づけるから、今日はそろそろ休んでいいぞ」
「そうですか、では、お言葉に甘えさせていただきます」
二人とも馬車に戻って毛布を取って来ると、焚火の近くで丸くなった。
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