隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚

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酒と肴と、領主と親父

34品目・困ったチンビラと、クランマスターの怒り(ホットワインと熱燗、肴はレーズンなどなど)

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 いつもよりもお客の流れがスムーズなのは、あちこちに増えている露店のおかげだろう。
 
 収穫祭が近いということもあって見たことがない露店が並んでいるのだが、そっちにお客が少し流れているようにも感じる。
 まあ、さっき顔を出していた王都のクラン所属のチンピラ風冒険者のことはとっとと忘れて、今は目の前の客を相手するに限る。

「んんん、ユウヤ店長、これってすっごい美味しいですねぇ。これに合う瓶ビールはないのかい?」
「こいつは横に添えてあるガーリックトーストで掬って食べるのもうまいんだぞ。それに、これにあうのはビールじゃない、ホットワインだな」
「それじゃあ、それを作ってくれないかい?」

 冒険者のアベルとミーシャはうちでクラムチャウダーを購入した後、俺の横に置いてある椅子に座ってのんびりと食事の真っ最中。
 さっきのチンピラが来た時に護衛を務めるのでということで、臨時で雇ったんだか。まあ、さっきからクラムチャウダーのお代わりとか、ガーリックトーストの追加とか、実にマイペースである。

「今はこっちの仕事優先だ。そんなに飲みたかったら、あとで用意してやるから」
「お、いいねぇ。それじゃあ、ホットワインに合うつまみも頼めるかい?」
「そ・こ・の二人、しゃべってないで働くにゃぁぁぁぁぁ」

 ほら、真面目に客の誘導を担当しているシヤットが切れた。
 
「分かっているって、それじゃあアベル、そろそろ仕事だよ」
「了解さん……っと」

 そう呟きつつ、立ち上がって西門へと続く街道を睨みつける。
 ちょうどそっちから、数名の冒険者がこっちに向かって歩いてくる姿が見えている。
 
「ああ、チンピラたちが仲間を連れて来たっていう感じだな」
「それに、昨日の姉さんまでご一緒とはねぇ」

 まあ、ろくな話になりそうもないことが想像がついた。
 あのチンピラ二人の命運や如何にって感じだろう。

「ちょいと聞きたいことがあるんだけれど、いいかい?」
「仕事をやりながらでよければ構わんよ。一体、なんのようだい?」

 こっちはいつも通り、接客をしつつ話を聞くだけ。

「うちの二人が注文をした商品が、いつまでたっても届かないのはどうしてだい? こっちは腹を空かせてずっと待っていたんだけれどねぇ」
「その二人にも説明したが、うちは出前はやっていない。買って帰るのは構わんが、届けることはできないって説明したんだけれどねぇ」
「そうしたら、その二人が金を投げ捨てて『宿まで持ってこい』って叫んだニャ」

 そうシャットも相槌を打つと、姐さんが二人組の方をチラッと見た。

「だ、そうだけれど? それは本当なのかい?」
「そ、それは本当だけれど……うちの注文は何よりも優先されるはずじゃないですか」
「王都の露店なんざ、順番を無視して届けてくれるんですぜ? それを、たかが弱小露店が俺たちに命令なんてしやがったものだから……」

 はぁ。
 チンピラが言い訳をかましているのが聞こえてくるが、その姐さんからはなんというか、憤怒のオーラとでもいうものを感じるんだが。
 これはあれだ、年末のお節料理の仕込みでホテルに泊まりこんだ時、ついうっかり酒を飲んて寝過ごして、起きる時間を大幅に間違えて遅刻したときの親方衆の怒りだ。
 あの時は、俺も若かったなぁ。
 正直、死ぬかと思ったわ。

「なあ、アルヴィン、ベネット……あたしゃねぇ、あんたの両親から、二人を一人前の冒険者にしてほしいって預かったんだよ? なのにどうだい? ろくすっぽ依頼は受けないわ、クランの名前を使って好き勝手なことばかりやらかしているわ……」
「「ヒッ!」」

 あ、怒り心頭どころか、堪忍袋の緒が切れたって感じだな。

「ねぇ、フランチェスカの姉さん、ここは露店の近くなので、二人の説教は離れたところでして貰えないかな? そうじゃないとユウヤ店長の料理を待っている人たちの迷惑になっちまうからさ」
「うら、誰かと思ったらミーシャじゃない。随分と久しぶりだねぇ……と、まあ、そういうのは、こっちの話しが終わってからだね。それじゃあ、一度宿に戻るとしようかねぇ……店主、すまなかったね」

 ミーシャが姐さんと話を付けてくれた。
 どうやら知り合いだったらしく、話はスムーズにまとまったようだけれど。

「ああ、それじゃあな……と、お待たせしました。クラムチャウダーを3っつですね。ガーリックトーストは隣で受け取ってください」
「はい、ガーリックトースト6枚ですね、お待たせしました。次のかた~」

 さて、これで憂いは消えたので、露店に集中するとしようかね。

………
……


――営業終了後
 いつものように荷物を纏める。
 炭火を使っていないので、片づけは実に簡単だ。
 そして俺とシャット、マリアンのほかにアベルとミーシャの分の賄い飯も用意すると、ようやく一息つくことが出来た。

「なあ、あの姐さんはミーシャの知り合いなのか?」

 さっきのあのやり取りといい、名前も知っているようだったから、ふとそう思っただけなんだが。
 そう問いかけると、ミーシャはガーリックトーストを口の中に放り込み、ムッシャムッシャと食べてから。

「ちょっと昔にね、短期間だけれど一緒にパーティーを組んでいたことがあったんですよ。面倒見はいいのですけれど、組織が大きくなり過ぎて隅々まで目が届いていないっていう感じよねぇ」
「それでも、王都ではかなり規模の大きいクランですし、実績もありますから人気は高いのだが」
「成程ねぇ……まあ、うちは料理の露店なので、よほどのことが無い限りは冒険者に依頼をするようなことはないとおもうけれど」

 ぶっちゃけると、俺のところ以外の食べ物を取り扱っている商会は、食材採取依頼などを冒険者ギルドに依頼しているところが多いらしい。
 ミーシャとアベルの二人も、この街のとある商会と契約している冒険者らしく、色々と仕事を回してもらっているとか。
 それでも『専属契約』ではないため、今日みたいに依頼のない日などは好き勝手なことができるとか。
 
「ふぅ……このクラムさんがすっごく美味しいにゃ。これって、このあたりでもとれるのかにゃ?」
「今日のは浅利っていう二枚貝を使ったんだよ。でも、美味いのはホンビノス貝っていう、もう少し大きめの貝でね。砂地の海岸とかで獲れるんだけれど。このあたりからは、まだ海は遠いのか?」
「このあたりはかなり内陸ですからね。ずっと南方にいかないと海には出ませんよ」
「そうか……まあ、それならそれということでいいか」

 とりあえず、今日のところはこれでおしまい。
 とはいえ、ミーシャにもお礼をしないとならないので、カセットコンロと小さめの雪平鍋、そしてホットワインの材料を取り出す。
 
 うちで作るホットワインは、一本2000円前後のワインを使用。
 そこに蜂蜜とシナモン、グローブを加え、さっと温めるだけ。
 といっても沸騰直前で火を止めて、アルコールが飛ばないようにしなくてはならない。
 仕上げはホットグラスにオレンジのスライスを入れて、そこに注ぐだけ。

「ほらよ、これがホットワインだ」
「かたじけないねぇ……と、んん、これって……」

 ホットワインを受け取って、クンクンと香りを楽しんだのち一口飲んでいる。
 そしてニカッと笑ったら、そのままのんびりと呑み始めた。
 熱いから一気に飲むなんて言うことはできないよなぁ。

「ユ、ユウヤぁ、あたいも呑みたいにゃ」
「わ、わ、わたしもお願いします。ユウヤ店長の仕入れたワインって、すっごく美味しいですよね」
「そっか、まあ、多めに作ったからな……ほれ」

 シャットとマリアンにもホットワインを手渡すと、楽しそうに飲み始めた。
 まあ、空酒というのも味気ないので、厨房倉庫ストレージから『レーズン』と『剥きクルミ』、『一口チョコレート』を取り出してさらに乗せておいておく。
 クルミは、和食のクルミ和えようにストックしてあったもの、レーズンはレーズンバター用。
 チョコレートは俺のおやつとして買っておいたものだ。

「んん、木の実だにゃ……って、これも美味しいにゃ」
「この干しブドウ、お酒か何かにつけてあったのですか?」
「ああ、ラム酒に付けた奴を取り出して干し直したものだな。ちょっと癖があるが、うまいだろ?」

 一口飲んでは、つまみを一つ口の中に放り込む。
 ミーシャといい、うちのお嬢さんといい、実に健啖家なことで。

「そういえば、アベルは何も呑まないのか?」
「ホットビール……なんてないよなぁ」
「ビールはないが、ホットでいい酒ならある、ちょっと待っていろ」

 別の雪平鍋を取り出してお湯を張る。
 そして沸騰し始めたあたりで、燗徳利二本に純米酒を注ぎ込み、のんびりと熱燗を作る。
 俺は、燗酒についてはそれほどこだわりはない。
 自称・日本酒通とかマナー講師とかいう輩の中には『純米酒以外は燗をするな』とか『せっかくの吟醸香が、燗で台無しになる』とかいう奴もいるが、俺としてはそんなことにはこだわらなくていいと思っている。
 燗することで香りが膨らむ吟醸酒もある、だから自分の好きな酒を燗すればいい。

「おっと、これ以上燗を付けると、熱燗じゃなく飛切燗になっちまうな……ほら、これに注いで飲んでくれ」

 雪平鍋を火から下ろして鍋敷きの上に置いておく。
 あとは厚手のぐい飲みをアベルに渡すと、俺がされを注いでやる。

「お、おお、これはなんだい?」
「俺の故郷の酒でね、日本酒っていうんだ。酒飲みにはホットワインよりもこっちの方がいいだろうと思ってね」
「そうか……それじゃあ失敬して……ングッ……ぷっはぁ、なんじゃこりゃ!! ひょっとしてカップ酒と同じ奴か?」
「まあ、な。カップ酒をお湯の中に入れて、こうして温めてもうまいが、あれは熱伝導率が高いから素手で触るとやけどしちまうからなぁ」

 って、もう俺の話は聞いちゃいないか。
 手酌でのんびりと酒を飲んでいる。
 まあ、こんな日があってもいいなぁと思っていたら、例のフランチェスカとかいう姉さんがこっちにゃって来た。

「店主、昨日と言い今日といい、本当にすまなかったね。あの二人には仕事以外で宿から出るなって命じておいたし、お目付け役もつけてきたからさ」

 そう告げながら頭を下げているので、こっちとしてはこれ以上は文句を言う気もしない。
 実質的な被害と言えば、暴言を吐かれた程度だし、あれぐらいなら初見で店に来たへべれけの酔っぱらいよりあしらいやすくて助かる。

「まあ、こういう仕事をしていると、酔っぱらいが絡んできたり難癖付けてくる連中もいるので。謝ってくれたから、この話はこれで終わりにしていい。ほら」

 ぐい飲みをもう一つ取り出してフランチェスカに手渡すと、雪平鍋に入れてあるもう一本の徳利を手に取り、彼女のぐい飲みに注いでやる。

「これはなんだい?」
「俺の故郷の酒だ。そいつをグイッとのんで、煩わしい話はおしまいだ」

 自分のぐい飲みにも燗酒を注ぐと、フランチェスカと乾杯して一気に飲み干す。

「んぐっ……ぷっは。こいつは驚いたねぇ。こんなにうまい酒を飲んだのは久しぶりだよ。それにエールでもない、ワインやピケットでもない、こういう酒もあるんだねぇ」
「ま、このあたりでは飲めないだろうけれど。こいつが飲みたくなったら、うちの露店に来ると言い。その時は代理人じゃなく、直接あんたが来てくれると助かる。もう代理人はこりごりなんでね」

 そう告げると、フランチェスカも笑って頷いてくれる。
 
「ユウヤぁ、ホットワインが切れたにゃ」
「はぁ、ちょいと待っていろ、今用意してやっから」
「私は、その燗酒とやらものんでみたいですわ」

 はいはい。
 結局は、また酒盛りが始まるのかよ。
 これからどんどん涼しくなるっていうのに、どうするかねぇ。
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