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交易都市キャンベルの日常
57品目・精霊魚? いえ『神の魚』です(リボンナポリンサワーとホッケのチャンチャン焼き)
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昼のラッシュを終えて。
ここ最近になってようやく、この街で人気が出やすいメニューの統計が取れてきた。
このキャンベルは湖と山脈に囲まれている領地にあるため、水産資源も獣肉もそれなりに出回っている。
そして野菜、特に穀物が多く収穫できる土地という事で食べ物についてはこだわりというものはないらしい。ただ、香辛料については過去にこの土地で栽培しようとした事があったらしいが、ことごとく全滅。
やはり冬の季節になると急激に気温が下がるため、栽培には適さないらしい。
ということで、何でも美味しく食べる、特に香辛料が聞いている料理は大好きだが、それは値が張ってしまうため贅沢品。
海向こうの藩王国から輸入されている香辛料についても、この町までは殆ど届かないらしく、時折王都からやって来る商人が気まぐれで持ってくる程度らしい。
「成程ねぇ……だから、シャットは毎日カレーライスが食べたいって騒いでいるのか」
「その通りだにゃ、他の獣人連中には内緒にしておかないと、連中は毎日のようにやってきてカレーライスを寄越せって騒ぐにゃ」
「でも、獣人ってエルフみたいにも、自分たちの里に籠っている人たちの方が多いのですよ。まあ種族によってはレンジャーや運搬業などに従事して町まで出稼ぎに来る方もいらっしゃいますけれどね、シャットのように」
「あたいは、里以外の場所が見たいから飛び出してきた口にゃ」
「はいはい。ちなみに今日の賄いは、ハッシュドビーフだからな」
「「最高にゃ」」
つまり、シャットにとってはうちのメニューはなんでも美味しい、特にカレーライスが大好き……と。
そしてマリアンは煮物、特に中華系が好きで、麻婆豆腐なら三食食べても飽きることはないと。
「そういえば、エルフって食べ物で禁忌のようなものがあるのか?」
「魔物の肉、瘴気に当てられた植物は食べられないにゃ」
「不死性のものには触れてはいけないとも言いますよね」
「ふぅん……魔物の肉ってのは、体内に魔石っていうのがあるからなんだろ? どうしてそれが食べられないんだ?」
そう問いかけてみたところ。
マリアンが簡単に説明してくれた。
要は、自然界に存在する魔力・魔素(どっちも同一視されているが、詳細は不明)が体内に蓄積すると魔石という固形物に変化する。これが発する魔素が負の領域に変化したもので、『瘴気』とも呼ばれているらしい。
そして瘴気に当てられた生物は凶暴化し、生き物を襲って喰らう。
一説には、魔石が人間の体内に宿る魔力を欲しているため遅いかがるということらしい。
ゆえに、瘴気に侵された生物は禁忌であると。
また、瘴気だまりと呼ばれている『魔素が濃く集まっている場所』で育った植物も、地下茎や実・種に瘴気が宿るため、食べることはできない。
しかも、それがどんどん増えていくので、エルフにとっては死活問題であるらしい。
「それで、定期的に瘴気だまりを発見しては焼き払っているのです。農地などは、数年に一度、火を放って土壌から瘴気を焼き払う事もあるそうで」
「焼き畑農業みたいなものか」
「そうだにゃ、火属性の精霊に頼んで、森ごと焼き払う事もあるそうだにゃ」
「はぁ……なんだか、生きるのに大変な世界だよなぁ」
最も、瘴気に侵された獣肉や植物は、エルフだけでなく人間やドワーフ、他の亜人も食べることは忌避しているらしい。
「……まあ、うちは常に新鮮に素材を仕入れているので、問題はないか」
「その通りだにゃ、中央広場に面している酒場や料理屋は、常に新鮮に食材を手に入れるのに必死だにゃ。狩人組合も、常に手が足りないって騒いでいるにゃ」
「ふぅん。冒険者っていうのは、そういった食用の獣を狩ることは禁じられているのか?」
「ええ。冒険者は魔物の討伐を主としていますので。肉は食べられませんけれど、その他の部位素材は魔導具や薬の材料になりますから、仕事に溢れるということはありませんよ」
「まあ、魔獣の肉でも流通しているって前に話していたよな? それって素材として使えない部位だったりするのか」
そう尋ねてみたところ、魔獣の肉は鮮度が良いうちなら、聖職者の『浄化』という魔術により瘴気・魔素を完全に抜き去ることができるらしい。
ようは使いどころっていう感じだと思うが……こっちの世界の食材については、まだ手を出せそうもない。もっと詳しく調べて、色々と試してから出ないとお客には出せないよなぁ。
「……はい、御馳走さま。と、今日の夜の営業はこっちでやる。流石に初見の客に越境庵を見せるっていうのも、どうかと思ったからな」
「うにゅ、残念だにゃ」
「まあ、休みの日にでも開けてやるよ」
「休みの日は、ユウヤも休むにゃ!! 冥神日に働くと、魂を抜き取られるにゃ」
「ああ、そうだったな……」
さて、夜のメニューは何ににしようかねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
――カラーン……カラーン……
夕方6つの鐘が鳴り響く。
ユウヤの酒場の開店時間は特に定まっていないが、外看板を出している日にはこの鐘の音が響くころに客が訪れることが多い。
もっとも、今日は貸し切りなので、外看板も【予約客のみ】と記してある。
それに、何か用事があったら焼き台のところにある鎧戸は開けてあるので、そこから気軽に話してくれればいい。
そう考えつつ、のんびりと炭火を調節して待っていると。
――カランカン
「ユウヤぁ、二人をつれて来たにゃ」
「お久しぶりで―す、こんなところで営業していたなんて、知りませんでしたわ」
「今日は色々とお世話になります」
「という事で、アベルとミーシャさんを連れてきました」
「はい、まいどさん。二人とも元気そうだな」
と、軽い雑談を交えつつ、まず先に熱々のおしぼりとお冷を出す。
ここ最近は冷え込んできたので、外からくる客に熱々のおしぼりは人気である。
ちなみにだが、うちの窓やこの焼き場外の外が剥き出しになった部分、じつはマリアンが『冷気よけの護符』を作って張り付けてくれている。
おかげで窓を開けていても、外から冷たい風が吹き込んでくることは殆どない。
ただ、この護符がやや大き目で重いため、携帯には使えないというのが難点らしい。
閑話休題。
「最初は何を飲む?」
「えぇっと……あ、熱燗がありますか。では熱燗を……2合?」
「こっちが一合、これが二合徳利でして。どっちにしますか?」
棚から一合と二合の徳利を取り出して見せて説明する。
すると二人とも二合を指さした。
「それじゃあ、二合徳利っていうのを二つで」
「あいよ。マリアンとシャットはどうする?」
「私はホットワインでお願いします」
「んにゅ……苦くないお酒ってないかにゃ」
「苦くない……ああ、それじゃあシャットはサワーでもつくるか」
「さわ? ってなんだにゃ」
まあ、しばしお待ちあれ。
ということで、ミーシャとアベルには純米酒の燗酒を。
今日は国稀酒造と黒龍酒造の純米酒を二合ずつ、燗付けておく。
マリアンのホットワインはいつもの定番ワインからチョイス。
そしてシャットは……。
「ふむ。サワーで甘い系……となると、これかなぁ」
厨房倉庫から鏡月とリボンナポリンを取り出し、氷を入れたサワーグラスに注いで出来上がり。北海道民ならよく知っている『ナポリンサワー』ってことで。
うちでも定番なメニューとして人気があったので、これならシャットでも大丈夫だろう。
ちなみに、こっちの世界で店をやるときは、お通しは出さないことにした。
その代わりメニューの一番上に、『本日のお勧め小鉢』というものを書いて貰ってある。
そもそも居酒屋文化がない世界だろうから、お通しといって勝手に料理を出してもサービスと思われかねないのでね。
「お待たせしました。まずミーシャには国稀の純米酒を熱燗で。アベルには黒龍酒造の九頭龍っていう純米酒を同じく熱燗で。マリアンにはホットワイン、シナモンと蜂蜜多めレモンスライス添え。そしてシュッとには、リボンナポリン・サワーだ」
「あ……いい香りですねぇ。これは期待できそうですよ。ええっと、注文だけれどさ、これに合う料理でお任せしていいかい?」
「俺のもお任せで」
「あいよ……シャットとマリアンは?」
「焼き鳥をお任せで」
「同じくだにゃ」
はいはい、それじゃあとっとと始めますかねぇ。
とりあえずは、焼き鳥は定番のものを焼き台に並べておいて。
「ミーシャたちの分は……あれでいくか」
厨房倉庫からおろしてあるホッケを取り出す。
まず、キャベツと人参、タマネギを用意する。
きくゃぺつはざく切り、タマネギと人参は皮を剥いて薄くスライス。
これを広げたアルミホイルに敷きつけてから、その上に皮と中骨を抜いたホッケを半身乗せて。
「チャンチャン味噌は、まあいつものやつでいいか」
チャンチャン味噌の材料は味噌と酒、みりん、砂糖。
比率はまあ、味噌6:酒、味醂、砂糖は2ずつ。
これを雪平鍋に入れてよくかき混ぜ、砂糖が溶けて全体的に馴染んだら、お玉で掬ってホッケの上にさっと掛ける。
そしてアルミホイルを閉じて密封し、焼き台の炭がやや弱い所に載せておく。
直火ではなく、も網を使ってやや中火程度でじっくりと。
――グツグツグツグツ
やがて味噌が溶けだしそこに敷いてある気野菜と馴染み、グツグツと音を立て始める。
けれど、まだ取り出さない。
「さて、マリアンたちの分が先に出来たか……お待たせしました。今日は月見つくね、茄子焼き、ギンナン焼き、手羽先、シイタケ肉詰めの5種盛り合わせ。あとはほれ、鳥スープとライス、これは必要だろう?」
「ありがとうございます……」
「ああ、これは知らない串もあるにゃあ」
「つくねと茄子は分かるだろう? ギンナンは木の実のようなもの、手羽先は鶏の手羽部分、シイタケ肉詰めは、ハンバーグの種をシイタケに詰めたものだ」
一通り説明すると、二人とも両手を合わせて頂きますの言葉。
マイ箸を使って器用に食べているのを、ミーシャたちが不思議そうな顔で見ている。
「その棒切れって、ユウヤ店長がご飯を食べるときに使っている奴じゃないの? よく二人とも使えるようになったわねぇ」
「これで食べると美味しいにゃ」
「まだまだうまく使えませんけれどね」
「ふぅん」
二人の端捌きを見て触発されたのか、ミーシャも箸を手に取っている。
そしてホッケのチャンチャン焼きもいい感じに完成。
「はい、お任せという事で、今日のお勧めはホッケのチャンチャン焼きです」
アルミホイルごと皿に乗せて二人の前に出す。
すると、当然ながら不思議そうな顔をしているのですが。
まあ、そうなりますよねぇ。
ここ最近になってようやく、この街で人気が出やすいメニューの統計が取れてきた。
このキャンベルは湖と山脈に囲まれている領地にあるため、水産資源も獣肉もそれなりに出回っている。
そして野菜、特に穀物が多く収穫できる土地という事で食べ物についてはこだわりというものはないらしい。ただ、香辛料については過去にこの土地で栽培しようとした事があったらしいが、ことごとく全滅。
やはり冬の季節になると急激に気温が下がるため、栽培には適さないらしい。
ということで、何でも美味しく食べる、特に香辛料が聞いている料理は大好きだが、それは値が張ってしまうため贅沢品。
海向こうの藩王国から輸入されている香辛料についても、この町までは殆ど届かないらしく、時折王都からやって来る商人が気まぐれで持ってくる程度らしい。
「成程ねぇ……だから、シャットは毎日カレーライスが食べたいって騒いでいるのか」
「その通りだにゃ、他の獣人連中には内緒にしておかないと、連中は毎日のようにやってきてカレーライスを寄越せって騒ぐにゃ」
「でも、獣人ってエルフみたいにも、自分たちの里に籠っている人たちの方が多いのですよ。まあ種族によってはレンジャーや運搬業などに従事して町まで出稼ぎに来る方もいらっしゃいますけれどね、シャットのように」
「あたいは、里以外の場所が見たいから飛び出してきた口にゃ」
「はいはい。ちなみに今日の賄いは、ハッシュドビーフだからな」
「「最高にゃ」」
つまり、シャットにとってはうちのメニューはなんでも美味しい、特にカレーライスが大好き……と。
そしてマリアンは煮物、特に中華系が好きで、麻婆豆腐なら三食食べても飽きることはないと。
「そういえば、エルフって食べ物で禁忌のようなものがあるのか?」
「魔物の肉、瘴気に当てられた植物は食べられないにゃ」
「不死性のものには触れてはいけないとも言いますよね」
「ふぅん……魔物の肉ってのは、体内に魔石っていうのがあるからなんだろ? どうしてそれが食べられないんだ?」
そう問いかけてみたところ。
マリアンが簡単に説明してくれた。
要は、自然界に存在する魔力・魔素(どっちも同一視されているが、詳細は不明)が体内に蓄積すると魔石という固形物に変化する。これが発する魔素が負の領域に変化したもので、『瘴気』とも呼ばれているらしい。
そして瘴気に当てられた生物は凶暴化し、生き物を襲って喰らう。
一説には、魔石が人間の体内に宿る魔力を欲しているため遅いかがるということらしい。
ゆえに、瘴気に侵された生物は禁忌であると。
また、瘴気だまりと呼ばれている『魔素が濃く集まっている場所』で育った植物も、地下茎や実・種に瘴気が宿るため、食べることはできない。
しかも、それがどんどん増えていくので、エルフにとっては死活問題であるらしい。
「それで、定期的に瘴気だまりを発見しては焼き払っているのです。農地などは、数年に一度、火を放って土壌から瘴気を焼き払う事もあるそうで」
「焼き畑農業みたいなものか」
「そうだにゃ、火属性の精霊に頼んで、森ごと焼き払う事もあるそうだにゃ」
「はぁ……なんだか、生きるのに大変な世界だよなぁ」
最も、瘴気に侵された獣肉や植物は、エルフだけでなく人間やドワーフ、他の亜人も食べることは忌避しているらしい。
「……まあ、うちは常に新鮮に素材を仕入れているので、問題はないか」
「その通りだにゃ、中央広場に面している酒場や料理屋は、常に新鮮に食材を手に入れるのに必死だにゃ。狩人組合も、常に手が足りないって騒いでいるにゃ」
「ふぅん。冒険者っていうのは、そういった食用の獣を狩ることは禁じられているのか?」
「ええ。冒険者は魔物の討伐を主としていますので。肉は食べられませんけれど、その他の部位素材は魔導具や薬の材料になりますから、仕事に溢れるということはありませんよ」
「まあ、魔獣の肉でも流通しているって前に話していたよな? それって素材として使えない部位だったりするのか」
そう尋ねてみたところ、魔獣の肉は鮮度が良いうちなら、聖職者の『浄化』という魔術により瘴気・魔素を完全に抜き去ることができるらしい。
ようは使いどころっていう感じだと思うが……こっちの世界の食材については、まだ手を出せそうもない。もっと詳しく調べて、色々と試してから出ないとお客には出せないよなぁ。
「……はい、御馳走さま。と、今日の夜の営業はこっちでやる。流石に初見の客に越境庵を見せるっていうのも、どうかと思ったからな」
「うにゅ、残念だにゃ」
「まあ、休みの日にでも開けてやるよ」
「休みの日は、ユウヤも休むにゃ!! 冥神日に働くと、魂を抜き取られるにゃ」
「ああ、そうだったな……」
さて、夜のメニューは何ににしようかねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
――カラーン……カラーン……
夕方6つの鐘が鳴り響く。
ユウヤの酒場の開店時間は特に定まっていないが、外看板を出している日にはこの鐘の音が響くころに客が訪れることが多い。
もっとも、今日は貸し切りなので、外看板も【予約客のみ】と記してある。
それに、何か用事があったら焼き台のところにある鎧戸は開けてあるので、そこから気軽に話してくれればいい。
そう考えつつ、のんびりと炭火を調節して待っていると。
――カランカン
「ユウヤぁ、二人をつれて来たにゃ」
「お久しぶりで―す、こんなところで営業していたなんて、知りませんでしたわ」
「今日は色々とお世話になります」
「という事で、アベルとミーシャさんを連れてきました」
「はい、まいどさん。二人とも元気そうだな」
と、軽い雑談を交えつつ、まず先に熱々のおしぼりとお冷を出す。
ここ最近は冷え込んできたので、外からくる客に熱々のおしぼりは人気である。
ちなみにだが、うちの窓やこの焼き場外の外が剥き出しになった部分、じつはマリアンが『冷気よけの護符』を作って張り付けてくれている。
おかげで窓を開けていても、外から冷たい風が吹き込んでくることは殆どない。
ただ、この護符がやや大き目で重いため、携帯には使えないというのが難点らしい。
閑話休題。
「最初は何を飲む?」
「えぇっと……あ、熱燗がありますか。では熱燗を……2合?」
「こっちが一合、これが二合徳利でして。どっちにしますか?」
棚から一合と二合の徳利を取り出して見せて説明する。
すると二人とも二合を指さした。
「それじゃあ、二合徳利っていうのを二つで」
「あいよ。マリアンとシャットはどうする?」
「私はホットワインでお願いします」
「んにゅ……苦くないお酒ってないかにゃ」
「苦くない……ああ、それじゃあシャットはサワーでもつくるか」
「さわ? ってなんだにゃ」
まあ、しばしお待ちあれ。
ということで、ミーシャとアベルには純米酒の燗酒を。
今日は国稀酒造と黒龍酒造の純米酒を二合ずつ、燗付けておく。
マリアンのホットワインはいつもの定番ワインからチョイス。
そしてシャットは……。
「ふむ。サワーで甘い系……となると、これかなぁ」
厨房倉庫から鏡月とリボンナポリンを取り出し、氷を入れたサワーグラスに注いで出来上がり。北海道民ならよく知っている『ナポリンサワー』ってことで。
うちでも定番なメニューとして人気があったので、これならシャットでも大丈夫だろう。
ちなみに、こっちの世界で店をやるときは、お通しは出さないことにした。
その代わりメニューの一番上に、『本日のお勧め小鉢』というものを書いて貰ってある。
そもそも居酒屋文化がない世界だろうから、お通しといって勝手に料理を出してもサービスと思われかねないのでね。
「お待たせしました。まずミーシャには国稀の純米酒を熱燗で。アベルには黒龍酒造の九頭龍っていう純米酒を同じく熱燗で。マリアンにはホットワイン、シナモンと蜂蜜多めレモンスライス添え。そしてシュッとには、リボンナポリン・サワーだ」
「あ……いい香りですねぇ。これは期待できそうですよ。ええっと、注文だけれどさ、これに合う料理でお任せしていいかい?」
「俺のもお任せで」
「あいよ……シャットとマリアンは?」
「焼き鳥をお任せで」
「同じくだにゃ」
はいはい、それじゃあとっとと始めますかねぇ。
とりあえずは、焼き鳥は定番のものを焼き台に並べておいて。
「ミーシャたちの分は……あれでいくか」
厨房倉庫からおろしてあるホッケを取り出す。
まず、キャベツと人参、タマネギを用意する。
きくゃぺつはざく切り、タマネギと人参は皮を剥いて薄くスライス。
これを広げたアルミホイルに敷きつけてから、その上に皮と中骨を抜いたホッケを半身乗せて。
「チャンチャン味噌は、まあいつものやつでいいか」
チャンチャン味噌の材料は味噌と酒、みりん、砂糖。
比率はまあ、味噌6:酒、味醂、砂糖は2ずつ。
これを雪平鍋に入れてよくかき混ぜ、砂糖が溶けて全体的に馴染んだら、お玉で掬ってホッケの上にさっと掛ける。
そしてアルミホイルを閉じて密封し、焼き台の炭がやや弱い所に載せておく。
直火ではなく、も網を使ってやや中火程度でじっくりと。
――グツグツグツグツ
やがて味噌が溶けだしそこに敷いてある気野菜と馴染み、グツグツと音を立て始める。
けれど、まだ取り出さない。
「さて、マリアンたちの分が先に出来たか……お待たせしました。今日は月見つくね、茄子焼き、ギンナン焼き、手羽先、シイタケ肉詰めの5種盛り合わせ。あとはほれ、鳥スープとライス、これは必要だろう?」
「ありがとうございます……」
「ああ、これは知らない串もあるにゃあ」
「つくねと茄子は分かるだろう? ギンナンは木の実のようなもの、手羽先は鶏の手羽部分、シイタケ肉詰めは、ハンバーグの種をシイタケに詰めたものだ」
一通り説明すると、二人とも両手を合わせて頂きますの言葉。
マイ箸を使って器用に食べているのを、ミーシャたちが不思議そうな顔で見ている。
「その棒切れって、ユウヤ店長がご飯を食べるときに使っている奴じゃないの? よく二人とも使えるようになったわねぇ」
「これで食べると美味しいにゃ」
「まだまだうまく使えませんけれどね」
「ふぅん」
二人の端捌きを見て触発されたのか、ミーシャも箸を手に取っている。
そしてホッケのチャンチャン焼きもいい感じに完成。
「はい、お任せという事で、今日のお勧めはホッケのチャンチャン焼きです」
アルミホイルごと皿に乗せて二人の前に出す。
すると、当然ながら不思議そうな顔をしているのですが。
まあ、そうなりますよねぇ。
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