機動戦艦から始まる、現代の錬金術師

呑兵衛和尚

文字の大きさ
32 / 41
第二部・異世界からの侵略編

第32話・地球が地球が大ピンチ、それで?

しおりを挟む
 謎の存在ファーミリアス・トア・カンナヅキによる対地球宣戦布告。

 一週間後には地球の命運が決定するという事態に、アメリカ大統領のパワードはすぐさま国連本部にこの事実を説明、可能ならば早急に国連安保理事会の開催を求めることにした。
 
 それらの手続きを指示したのち、パワードとミサキの二人は再びイーストルームに移動し、ことの成り行きを説明するのだが。

「まあ、面倒だから映像化するか。ロスヴァイゼ、マーギア・リッター経由でオクタ・ワンに連絡。今の一連の情報を説明したのち、二人が知覚した映像と音声を地球規格のビデオなりDVDに焼いて、すぐに此処まで届けるように伝えてくれるか?」
「かしこまり!!」

 すぐさまロスヴァイゼが部屋から退室し、マーギア・リッターへ向かう。
 まあ、連絡についてはこの場で全て解決するし、DVDも弾道軌道を使って此処まで誰かが運んできたら、1時間足らずで持って来れるはず。

「……ミス・テンドウ。我がアメリカの誇るSPからの報告と、ミサキ殿からの説明については一切の齟齬がない。つまりこれは真実なのだろうが、一つだけ腑に落ちない部分がある」
「ほう、それは何でしょうか?」
「先程の襲撃者は、ミサキ殿を見て『偽勇者』と叫んだらしいが、それについての説明はありますか」
「答えはNOだ。むしろ、WHY? と聞き返したくなるレベルで、私にも見当が付かない。それについては、次に会ったときにでも聞いてみるとして、問題はこれからどうするか。地球の件はそちらで、国連ででも審議を行なってくれると助かります。どのみち、期限は残り少ないのですからね」

 つまり、地球は地球なりにやってくれ。
 私たちアマノムラクモは、こちらに喧嘩を打ってきた以上は買うことにするので、そちらに手を回す余力はない。

「……我々を守ってくれないのか?」
「悪いけど条約も何も締結していない。それに、相手の戦力もやり方も、それこそどうやって地球を攻撃してくるのかすら分かっていない。そんな状況で、相手を知る前に守ってくれるか? 冗談はやめて貰いたい」

 そう真剣な顔で説明する。
 これで相手の出方や戦略がわかっているならば、防衛に回せるかどうか考える時間ぐらいはあるのだが。
 残念なことに、今の時点での情報量では侵略者の戦力など予想もつかない。

「そうだな、確かにミサキ殿の言うとおりだ」
「そこのSPは、奴らが姿を現したところから見ていただろう? 恐らくだが位相空間を破壊して姿を現し、物理攻撃をシャットダウンする重力波の壁を構築し、そして一瞬で姿を消す能力。流石の私でも、同じことができるかと言われると無理だとしか言いようがない」
「そうなのか」

 パワードが近くのSPに問いかけると、すぐさま大統領の耳元で何かを説明している。

「なるほど。それならび、ますますアマノムラクモにも助力を仰ぎたいところだ。この件についての交渉は、現時点では不可能なことは分かった。だが、敵権力が分かり地球のテクノロジーで対処不可能と判断された場合。アマノムラクモはどう動く?」
「どう動くもなにも、売られた喧嘩なら買う。あの輩は話し合いが通用する相手では無いからな」

 手をひらひらを振りつつ返答すると、パワードは真剣な顔で一言。

「その際は、地球を巻き込まずに戦闘できるのですか? 例えば宇宙空間に移動するとか」
「それが望みならば、私たちはそうします。ですが、その直後に地球が襲われようとも、私たちに責任を押し付けないように。先ほどのやつの話通り、宣戦布告を受けたのは地球であり私では無い」

 つまり、戦争になったら地球を巻き込むな、か。
 一国の代表であり、地球のリーダーを自称するアメリカ大統領の言葉としては適切だろう。でも、それはアマノムラクモに責任を押し付ける可能性もあるって言うことだろうな。
 
「まあ、この話は此処までにしましょう。いくら議論を重ねても、全ては推測の域を脱することはできないし、何よりも奴らの正体がわからないことには、私たちでも何もできませんからね」
「そのようだな。まあ、本来ならばアマノムラクモとの話し合いはまだまだあったのだが、それは全てが終わり平和になってからでも遅くは無いだろう。今日は楽しかったよ」

 すっ、と右手を差し出してくるパワード大統領。
 それに返事を返すように、俺も握手を返した。

「では、私はこのあとは国防総省に指示を出さなくてはならないのでこれで失礼する。宿泊用の施設は用意してあるが、どうしますか?」
「マーギア・リッターの中で休ませてもらいますよ。会談は終わりですが、深夜の高速飛行は危険ですからね」

 それだけを告げて、俺たちはホワイトハウスの庭で待機しているマーギア・リッターに搭乗する。
 さて、今朝のオクタ・ワンからの話に出てきた『重力波動の乱れ』について、それはこの侵略者のものである可能性が高いだろう。
 問題は、その姿が全く見えないこと。

「オクタ・ワン、俺が襲われた時間帯の重力波動の乱れは感じられたか?」
『ピッ……確認できませんでした。その場にロスヴァイゼがいたにも関わらず、彼女の体内のセンサーによる観測は確認できていません』
「重力波動は別空間からの侵略によって揺らぐのだよな?」
『ピッ……その通りです。空間を超える物質により波動が乱れます。ただし、これについては例外というものがありまして。あまり考えたく無いのですが』

 魔導頭脳が考えたくない事象。
 うん、聞きたくないけど聞くしかない。

「その例外とは?」
『ピッ……魔法による転移及び空間越境。これらは波動すら『そうあるべし』と事象を書き換えてしまいます。これだから、魔法ってやつは。…』
「その魔法の集大成が、魔導頭脳であり機動戦艦アマノムラクモであることを忘れていないか? 自分を否定するような……ちょっと待て」

 嫌な予感がする。
 
『ピッ……ゴクッ』
「そう言う演出はいらないからな。それに、俺の思考は予想がついただろう。その推測についての答えを出してもらいたい。敵が【アマノムラクモ】のような神の作り出した機動戦艦を保有している可能性は、何パーセントある?」

 この問いかけに、すぐに答えが返って来ない。

 5分……
 10分……
 15分……

『ピッ……正体不明の敵性存在がアマノムラクモの同系艦である可能性は不明。このアマノムラクモが位相空間から出現した場合でも、重力波動は大きく発生します。アマノムラクモが位相空間から出現した場合の揺らぎと先日の波動の揺らぎを比較した場合、先刻の揺らぎの方が遥かに小さいことは判明』
『トラス・ワンより。アマノムラクモの後継艦は全部で六隻。そのどれもがアマノムラクモと同じ形であり同性能であります。なお、アマノムラクモはプロトタイプであり神々の悪戯も加味された存在』
『ピッ……』
「神ゆえに、ってか。言わせねーからな」

 あ、沈黙した。
 まあ、この件については地球政府の公式見解を確認してからでも構わないだろうさ。
 ただ、時間はあまりないし、残った時間で俺としてもいくつかの対処を考える必要があるからなぁ。

 なんでまた、俺が巻き込まれることになったのやら。
 そもそも偽勇者ってなんだよ、俺は異世界転生した世界を救った記憶なんて……ちょっと待て、つまりは、あのファーミリアス・トア・カンナヅキは勇者だって言うことか?

 それも、アマノムラクモのような機動戦艦を持っていると?
 そして地球に降伏か死か選択させてくる。
 歪んでないか、本物の勇者は。
 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...