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第二部・異世界からの侵略編
第31話・天米首脳会談、そこに横槍を入れる奴
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ヴィーン、ヴィーン……。
アマノムラクモ第一格納庫から、ゆっくりとカリヴァーンがリフトアップされていく。
今日はこれから、アメリカはワシントン州、ホワイトハウスへと向かう。
ちなみに同行するのは四騎のマーギア・リッター。
ジークルーネとロスヴァイゼ、あとは護衛サーバントのシルベスターとアントニオ。
すでに四騎も第二カタパルトに接続してあり、俺の出発を待っている。
「さて……各システム、オールグリーン……魔力同調開始……」
──ブゥゥゥゥウン
コクピット内部の全天候スクリーンが一斉に点灯し、カリヴァーンの周辺状況を全て映し出す。
「感覚同調開始……」
──ピッ
次は俺の視覚とカリヴァーンの視覚の同調。
これでカリヴァーンの見る映像が俺の目から見た感覚と同調する。
この複合感覚は慣れるまで大変であり、慣れないと目から受ける外部的映像が自分の視覚とカリヴァーンの視覚の二つが煩雑に混ざり合う。
また、機体表面の装甲から感じる魔力波長による触覚も、度を超えると痛覚にまで引き上げられるので注意が必要。
『魔導シナプス安定を確認。カリヴァーンの完全稼働を確認。カタパルト前方の障害物はなし。全機、発艦スタンバイ完了です』
「了解。それじゃあヒルデガルド、オクタ・ワン、留守番を頼む」
『ピッ……了承』
『畏まりました。武運長久をお祈り申しています』
武運長久って、戦じゃないんだから……。
「ミサキ・テンドウ、マーギア・リッター『カリヴァーン』、出る!!」
──シュンッ
足元の魔導カタパルトが高速で動き出し、カリヴァーンが大空へ向けて射出された。
カタパルト表面には残存魔力がプラズマ状に放電しているんだけど、あれもオクタ・ワン曰く『視覚効果』だそうです。
どこの国が見ているかわからない、衛生軌道上からの監視もあり得るということで、視覚効果にも揺らぎを持たせているそうで。
どこまで本気なのか、いまいちよく理解できていないんだよなぁ。
『ピピッ、上下左右にマーギア・リッターが接近。相対速度を同調し、以後はオートパイロットモードでアメリカへと向かいます』
「宜しく……って、オートパイロットなんて付けたか?」
『いえ、カリヴァーンの制御頭脳の私が操縦するだけです』
「緩いなぁ。まあ、宜しく」
あとは首脳会談へ向けての資料の読み込み。
基本的な話し合いは後日あらためて行うとして、今回は大使館設立についての話し合いと、医療従事者の派遣が可能かどうか。
会談の日程は四日間で、先にこの二つについての議論を行い、のち時間が余ったら別の話題について話をしてみたいという打診があったよ。
いきなり本題をほったらかして、別の話を始めた挙句、『時間が残ったら本題について討議します』とか言い出さないだけマシだわ。
「……ふぅ。サラリーマンだった俺が、なんで国家を相手に話し合いに持ち込んでいるのやら……せめて、本社の凉井課長レベルの交渉術があったらなぁ」
まあ、今となってはないものねだりなので、やれることだけやるとしますか。
………
……
…
アメリカ合衆国・バージニア州・アメリカ国防総省
予定時刻よりも32分早く、アマノムラクモのマーギア・リッターの接近報告が届けられる。
観測地点はシアトル北西のネアーベイ沖合。
エバレット海軍基地から出発したニミッツ級航空母艦一番艦ニミッツより発艦した哨戒機『E2ホークアイ』がアマノムラクモ方面より飛来した五機のマーギア・リッターを確認。
すぐさま誘導機としてF/A-18Fスーパーホーネットが上がっていくと、真っ直ぐにマーギア・リッターへと接近。
そこから旋回して五機の前方へと着くと、そのまま高度を維持したままアメリカ本土へと上陸する。
その後方についていたマーギア・リッターにもすぐアメリカ国防総省から通信が届き、緊急時対応用認識コードが発行される。
「……予想到着時刻は5時間後。ミサキ・テンドウの疲れが取れ次第の会談となるから、最速でも8時間後と予想するか」
今が正午、早くとも夕方には到着し、休憩を挟んでの会談。
夜には晩餐会も予定しているため、今日の会談は簡単な顔合わせ程度で終わるだろうと、パワードの補佐官たちも推測している。
それならば、時間ギリギリまでやれることをやるしかない。
アメリカとしての妥協点、譲渡案、そしてアマノムラクモへ求めるもの。
それらについて書き出してあるものを再度精査し、状況に応じて判断しなくてはならない。
それが国の代表であり、アメリカを守らなくてはならない大統領の務めであるから。
………
……
…
──ピッピッ、ピッピッ
日が暮れ始める。
私たちはアメリカ海軍の戦闘機に誘導されて、アメリカ大陸上空を光速で飛行している。
最高速度ならマッハ2を越えるのは容易いマーギア・リッターでも、流石に誘導機を追い抜いて飛ぶようなことはできないため、速度はあちらに合わせて飛ぶ。
やがて日が暮れ始めると同時に、ワシントンD.C.の灯りが見え始めてきた。
「カリヴァーン、今の時間は?」
『ピピッ、午後4時39分。予定よりも21分ほど早かった模様です』
「まあ、普通に航空機で飛んできても5時間ってところだからなぁ。そう考えると妥当な時間か」
『ピピッ、誘導機が離れ、ヘリが飛んできます。以後、針の誘導に従うようにとのことです』
「了解」
カリヴァーンからの説明の直後、国防総省からも通信が届く。
その指示に従い、速度を落としてゆっくりとホワイトハウス上宮200メートルまで降下すると、全機同時に、ゆっくりと垂直降下を開始。
地上2メートルまで接近すると、そこで全機体をDアンカーで固定し、私はカリヴァーンの胸部コクピットハッチを開放した。
「アマノムラクモのミサキ・テンドウだ。出迎えご苦労である」
予定では、四騎からサーバント達が先に降り、俺を地上で迎える。
だが、あえて先にコクピットを開き、堂々と姿を晒した。
おそらくは敷地外やどこかのビルからカメラを回している輩がいるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
カリヴァーンの真正面では、パワード大統領が動じることなく、笑みを浮かべて立っているのである。
それならば、こちらも堂々と姿を見せてあげようじゃないか。
「ようこそ、機動国家アマノムラクモの代表ミサキ・テンドウ殿。我がアメリカは、あなた方の訪米を心より歓迎します」
「ありがとうございます」
そんな話をしているうちに、地面では白い装束に身を包んだジークルーネたちが膝を突いて待機している。
だから俺も、カリヴァーンの右手を遠隔操作して胸元まで持ってくると、そこに乗ってゆっくりとおろしてもらう。
「長旅お疲れでしょう。まずは休憩を挟んでは如何でしょうか?」
そう話しながら、パワード大統領は俺をホワイトハウスのエントランスへと案内してくれるが。
「まあ、あの機体はあまり疲れなくてね。このまま会談を始めたいところだが、そちらに不都合はありませんか?」
「良いソファーを使っていらっしゃるようで。では、こちらへどうぞ」
パワードの言葉で、執務官たちが先行して準備の整え終わった東側にあるイーストルームへと移動していく。
その後ろを俺とパワードが並んで歩き、後方および左右をロスヴァイゼたちがガードする。
やがて、綺麗な装飾の施された扉が開かれると、本日の戦場であるイーストルーム内部へと足を踏み入れた。
………
……
…
初日の会談、それはお互いに牽制しつつ何を求めているのか、何を差し出せるのかということを確認しあっている。
アメリカのの要望はまず大使館の設置。
それに伴い在天アメリカ大使を派遣し、その家族らの生活を保証してくれることが求められている。
その次が、放出可能な技術についての供与。
可能ならば研究員を派遣し、直接学ばせていただきたいということらしく、流石にそれはやりすぎではとミサキも苦言を挟むことになった。
それとは逆に、アマノムラクモが求めているのは医療従事者の派遣。
可能ならば医療用サーバントたちに実践を経験させたいということも伝えたのだが、流石に期限を設けずの派遣は難しいということになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ホワイトハウス、午後8時
イーストルームでは本日の会談を終え、握手を交わしているパワードとミサキの姿がある。
このあとはクロスホールを抜けてイーストルームの反対側のステートダイニングルームでの晩餐会も始まる。
記者会見その他はアメリカ主導で行われるが、ミサキらアマノムラクモはそれには参加せず、インタビューも受けない。
晩餐会が始まるまでは、ミサキたちはスタートダイニングの隣室で体を休めることになったのだが。
──ザワッ
ミサキの背筋に冷たいものが走る。
これは高感度センサーなどでは認識できない、人間ならではの直感。
「何か来る!!」
──シュタタッ
ミサキが立ち上がり叫んだのと、目の前の空間がガラスのように砕け散り、大量のナイフが飛んできたのはほぼ同時。
「奇襲かよ!」
「させません!!」
「おー」
ジークルーネが指先からミスリル鋼糸を放出し飛来するダガーを高速で切断。
そして飛んでくる破片などはロスヴァイゼの魔導フィールドにより受け止められ、ミサキには傷一つつけることがない。
──パンパンパンパン……
その砕けた空間の向こう、白く広がる世界では、見たことのない衣服を着た男性が手を叩いて喜んでいた。
「さすがは偽勇者。この程度の攻撃で殺せるとは思っていなかったけどさ。まあ、無傷っていうのは計算違いだよ」
歳にして30歳ほどの男性。
黒髪の長髪、オールバックに丸メガネ。
そしてややしゃがれた声で、話を続ける。
「……貴様、何者だ……と聞いて欲しいところなのだが。そんな余裕はないという感じだな?」
「生憎と、下手なフラグは構築したくなくてね。とっとと自己紹介してくれないかな? 悪役さん」
「ほう? この私が悪役か……まあいい、あらためて自己紹介させて貰おう」
ようやく室内の騒動に気がついたパワードのSPたちが到着すると、問答無用で銃を引き抜き男に向かって一斉に発泡する。
──ドウッドウッドウッ
だが、弾丸は男まで届かない。
通常空間と白い空間、その狭間で停止して地面へと落ちていく。
「無駄だよ。そこには重力のカーテンが発動しているからさ。では、パワード大統領も居るようだから、あらためて宣言させてもらうよ……」
そう告げると、男は堂々と胸を張り、その場の全員の魂まで響き渡るような声で、こう叫んだ。
「我は皇帝ファーミリアス・トア・カンナヅキ。我が世界ミョルドガルドは、異世界地球に対して宣戦布告を宣言する。一週間後、あらためて全世界に対して降伏か、もしくは死か、そのどちらか選択してもらう……それまでは、首を洗って待っていろよ……」
──グニャァ
白い空間が歪んでいく。
そして捻れた空間が一瞬で消滅すると、元のゲストルームに姿を変えていった。
「テンドウ殿、今のはなんだ、何事が起こったのだ?」
慌てて問いかけるパワード大統領だが、ミサキにも何が何だか全くわからない。
いきなり空間を捻じ曲げて出現してきた存在が、一方的に地球に対して宣戦布告を行ったのである。
「さぁ? 私にもさっぱりですが。ただ、この件は早急に対処した方が宜しいかと思います。敵が何者なのかは知りませんが、奴らは、地球に対して宣戦布告をしてきました……他の惑星なのか、それとも異世界なのか……」
「……詳しい話を聞きたい。最初から説明してもらえるか?」
「それは構いませんよ。アマノムラクモは奴らの宣戦布告を受けるつもりですので。そのことも踏まえて、この部屋で何が起きたのかいたから説明させてもらいます」
場所をゲストルームから隣のステートダイニングに戻すと、ミサキは細かい説明を開始した。
アマノムラクモ第一格納庫から、ゆっくりとカリヴァーンがリフトアップされていく。
今日はこれから、アメリカはワシントン州、ホワイトハウスへと向かう。
ちなみに同行するのは四騎のマーギア・リッター。
ジークルーネとロスヴァイゼ、あとは護衛サーバントのシルベスターとアントニオ。
すでに四騎も第二カタパルトに接続してあり、俺の出発を待っている。
「さて……各システム、オールグリーン……魔力同調開始……」
──ブゥゥゥゥウン
コクピット内部の全天候スクリーンが一斉に点灯し、カリヴァーンの周辺状況を全て映し出す。
「感覚同調開始……」
──ピッ
次は俺の視覚とカリヴァーンの視覚の同調。
これでカリヴァーンの見る映像が俺の目から見た感覚と同調する。
この複合感覚は慣れるまで大変であり、慣れないと目から受ける外部的映像が自分の視覚とカリヴァーンの視覚の二つが煩雑に混ざり合う。
また、機体表面の装甲から感じる魔力波長による触覚も、度を超えると痛覚にまで引き上げられるので注意が必要。
『魔導シナプス安定を確認。カリヴァーンの完全稼働を確認。カタパルト前方の障害物はなし。全機、発艦スタンバイ完了です』
「了解。それじゃあヒルデガルド、オクタ・ワン、留守番を頼む」
『ピッ……了承』
『畏まりました。武運長久をお祈り申しています』
武運長久って、戦じゃないんだから……。
「ミサキ・テンドウ、マーギア・リッター『カリヴァーン』、出る!!」
──シュンッ
足元の魔導カタパルトが高速で動き出し、カリヴァーンが大空へ向けて射出された。
カタパルト表面には残存魔力がプラズマ状に放電しているんだけど、あれもオクタ・ワン曰く『視覚効果』だそうです。
どこの国が見ているかわからない、衛生軌道上からの監視もあり得るということで、視覚効果にも揺らぎを持たせているそうで。
どこまで本気なのか、いまいちよく理解できていないんだよなぁ。
『ピピッ、上下左右にマーギア・リッターが接近。相対速度を同調し、以後はオートパイロットモードでアメリカへと向かいます』
「宜しく……って、オートパイロットなんて付けたか?」
『いえ、カリヴァーンの制御頭脳の私が操縦するだけです』
「緩いなぁ。まあ、宜しく」
あとは首脳会談へ向けての資料の読み込み。
基本的な話し合いは後日あらためて行うとして、今回は大使館設立についての話し合いと、医療従事者の派遣が可能かどうか。
会談の日程は四日間で、先にこの二つについての議論を行い、のち時間が余ったら別の話題について話をしてみたいという打診があったよ。
いきなり本題をほったらかして、別の話を始めた挙句、『時間が残ったら本題について討議します』とか言い出さないだけマシだわ。
「……ふぅ。サラリーマンだった俺が、なんで国家を相手に話し合いに持ち込んでいるのやら……せめて、本社の凉井課長レベルの交渉術があったらなぁ」
まあ、今となってはないものねだりなので、やれることだけやるとしますか。
………
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…
アメリカ合衆国・バージニア州・アメリカ国防総省
予定時刻よりも32分早く、アマノムラクモのマーギア・リッターの接近報告が届けられる。
観測地点はシアトル北西のネアーベイ沖合。
エバレット海軍基地から出発したニミッツ級航空母艦一番艦ニミッツより発艦した哨戒機『E2ホークアイ』がアマノムラクモ方面より飛来した五機のマーギア・リッターを確認。
すぐさま誘導機としてF/A-18Fスーパーホーネットが上がっていくと、真っ直ぐにマーギア・リッターへと接近。
そこから旋回して五機の前方へと着くと、そのまま高度を維持したままアメリカ本土へと上陸する。
その後方についていたマーギア・リッターにもすぐアメリカ国防総省から通信が届き、緊急時対応用認識コードが発行される。
「……予想到着時刻は5時間後。ミサキ・テンドウの疲れが取れ次第の会談となるから、最速でも8時間後と予想するか」
今が正午、早くとも夕方には到着し、休憩を挟んでの会談。
夜には晩餐会も予定しているため、今日の会談は簡単な顔合わせ程度で終わるだろうと、パワードの補佐官たちも推測している。
それならば、時間ギリギリまでやれることをやるしかない。
アメリカとしての妥協点、譲渡案、そしてアマノムラクモへ求めるもの。
それらについて書き出してあるものを再度精査し、状況に応じて判断しなくてはならない。
それが国の代表であり、アメリカを守らなくてはならない大統領の務めであるから。
………
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──ピッピッ、ピッピッ
日が暮れ始める。
私たちはアメリカ海軍の戦闘機に誘導されて、アメリカ大陸上空を光速で飛行している。
最高速度ならマッハ2を越えるのは容易いマーギア・リッターでも、流石に誘導機を追い抜いて飛ぶようなことはできないため、速度はあちらに合わせて飛ぶ。
やがて日が暮れ始めると同時に、ワシントンD.C.の灯りが見え始めてきた。
「カリヴァーン、今の時間は?」
『ピピッ、午後4時39分。予定よりも21分ほど早かった模様です』
「まあ、普通に航空機で飛んできても5時間ってところだからなぁ。そう考えると妥当な時間か」
『ピピッ、誘導機が離れ、ヘリが飛んできます。以後、針の誘導に従うようにとのことです』
「了解」
カリヴァーンからの説明の直後、国防総省からも通信が届く。
その指示に従い、速度を落としてゆっくりとホワイトハウス上宮200メートルまで降下すると、全機同時に、ゆっくりと垂直降下を開始。
地上2メートルまで接近すると、そこで全機体をDアンカーで固定し、私はカリヴァーンの胸部コクピットハッチを開放した。
「アマノムラクモのミサキ・テンドウだ。出迎えご苦労である」
予定では、四騎からサーバント達が先に降り、俺を地上で迎える。
だが、あえて先にコクピットを開き、堂々と姿を晒した。
おそらくは敷地外やどこかのビルからカメラを回している輩がいるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
カリヴァーンの真正面では、パワード大統領が動じることなく、笑みを浮かべて立っているのである。
それならば、こちらも堂々と姿を見せてあげようじゃないか。
「ようこそ、機動国家アマノムラクモの代表ミサキ・テンドウ殿。我がアメリカは、あなた方の訪米を心より歓迎します」
「ありがとうございます」
そんな話をしているうちに、地面では白い装束に身を包んだジークルーネたちが膝を突いて待機している。
だから俺も、カリヴァーンの右手を遠隔操作して胸元まで持ってくると、そこに乗ってゆっくりとおろしてもらう。
「長旅お疲れでしょう。まずは休憩を挟んでは如何でしょうか?」
そう話しながら、パワード大統領は俺をホワイトハウスのエントランスへと案内してくれるが。
「まあ、あの機体はあまり疲れなくてね。このまま会談を始めたいところだが、そちらに不都合はありませんか?」
「良いソファーを使っていらっしゃるようで。では、こちらへどうぞ」
パワードの言葉で、執務官たちが先行して準備の整え終わった東側にあるイーストルームへと移動していく。
その後ろを俺とパワードが並んで歩き、後方および左右をロスヴァイゼたちがガードする。
やがて、綺麗な装飾の施された扉が開かれると、本日の戦場であるイーストルーム内部へと足を踏み入れた。
………
……
…
初日の会談、それはお互いに牽制しつつ何を求めているのか、何を差し出せるのかということを確認しあっている。
アメリカのの要望はまず大使館の設置。
それに伴い在天アメリカ大使を派遣し、その家族らの生活を保証してくれることが求められている。
その次が、放出可能な技術についての供与。
可能ならば研究員を派遣し、直接学ばせていただきたいということらしく、流石にそれはやりすぎではとミサキも苦言を挟むことになった。
それとは逆に、アマノムラクモが求めているのは医療従事者の派遣。
可能ならば医療用サーバントたちに実践を経験させたいということも伝えたのだが、流石に期限を設けずの派遣は難しいということになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ホワイトハウス、午後8時
イーストルームでは本日の会談を終え、握手を交わしているパワードとミサキの姿がある。
このあとはクロスホールを抜けてイーストルームの反対側のステートダイニングルームでの晩餐会も始まる。
記者会見その他はアメリカ主導で行われるが、ミサキらアマノムラクモはそれには参加せず、インタビューも受けない。
晩餐会が始まるまでは、ミサキたちはスタートダイニングの隣室で体を休めることになったのだが。
──ザワッ
ミサキの背筋に冷たいものが走る。
これは高感度センサーなどでは認識できない、人間ならではの直感。
「何か来る!!」
──シュタタッ
ミサキが立ち上がり叫んだのと、目の前の空間がガラスのように砕け散り、大量のナイフが飛んできたのはほぼ同時。
「奇襲かよ!」
「させません!!」
「おー」
ジークルーネが指先からミスリル鋼糸を放出し飛来するダガーを高速で切断。
そして飛んでくる破片などはロスヴァイゼの魔導フィールドにより受け止められ、ミサキには傷一つつけることがない。
──パンパンパンパン……
その砕けた空間の向こう、白く広がる世界では、見たことのない衣服を着た男性が手を叩いて喜んでいた。
「さすがは偽勇者。この程度の攻撃で殺せるとは思っていなかったけどさ。まあ、無傷っていうのは計算違いだよ」
歳にして30歳ほどの男性。
黒髪の長髪、オールバックに丸メガネ。
そしてややしゃがれた声で、話を続ける。
「……貴様、何者だ……と聞いて欲しいところなのだが。そんな余裕はないという感じだな?」
「生憎と、下手なフラグは構築したくなくてね。とっとと自己紹介してくれないかな? 悪役さん」
「ほう? この私が悪役か……まあいい、あらためて自己紹介させて貰おう」
ようやく室内の騒動に気がついたパワードのSPたちが到着すると、問答無用で銃を引き抜き男に向かって一斉に発泡する。
──ドウッドウッドウッ
だが、弾丸は男まで届かない。
通常空間と白い空間、その狭間で停止して地面へと落ちていく。
「無駄だよ。そこには重力のカーテンが発動しているからさ。では、パワード大統領も居るようだから、あらためて宣言させてもらうよ……」
そう告げると、男は堂々と胸を張り、その場の全員の魂まで響き渡るような声で、こう叫んだ。
「我は皇帝ファーミリアス・トア・カンナヅキ。我が世界ミョルドガルドは、異世界地球に対して宣戦布告を宣言する。一週間後、あらためて全世界に対して降伏か、もしくは死か、そのどちらか選択してもらう……それまでは、首を洗って待っていろよ……」
──グニャァ
白い空間が歪んでいく。
そして捻れた空間が一瞬で消滅すると、元のゲストルームに姿を変えていった。
「テンドウ殿、今のはなんだ、何事が起こったのだ?」
慌てて問いかけるパワード大統領だが、ミサキにも何が何だか全くわからない。
いきなり空間を捻じ曲げて出現してきた存在が、一方的に地球に対して宣戦布告を行ったのである。
「さぁ? 私にもさっぱりですが。ただ、この件は早急に対処した方が宜しいかと思います。敵が何者なのかは知りませんが、奴らは、地球に対して宣戦布告をしてきました……他の惑星なのか、それとも異世界なのか……」
「……詳しい話を聞きたい。最初から説明してもらえるか?」
「それは構いませんよ。アマノムラクモは奴らの宣戦布告を受けるつもりですので。そのことも踏まえて、この部屋で何が起きたのかいたから説明させてもらいます」
場所をゲストルームから隣のステートダイニングに戻すと、ミサキは細かい説明を開始した。
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