機動戦艦から始まる、現代の錬金術師

呑兵衛和尚

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第一部・アマノムラクモ降臨

第30話・医療設備は拡充、パワードもミサキも緊張しまくり

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 アマノムラクモ、生活居住区画。
 そこを巡視している俺は、目の前に広がった光景に驚くしかなかった。

 生活居住区画の一角を可動式防護壁により封鎖し、その向こう側の10丁ほどの区画を改造した『ホスピタルエリア』。
 移動方法は定期シャトルバス及び路面電車による安全設計、車両関係は医療関係車両のみ。
 治療用ポットを設置した『高度医療システム棟』や、人間の医者が医療従事できるように改造された大型病院棟など、俺の予想の斜め上の設備が作り出されている。

 そして都市部全体を緑化し、天井からは人工太陽灯と、光ファイバーによふ自然光の採取、壁面には巨大スクリーンが設置されており、随時アマノムラクモの外の風景が映し出されている。

 生活区画環境管理魔導頭脳『アルファ・パネル』により管理された空調設備により、不定期な降雨と風の制御も完璧。
 
「……待ってくれ、ここまでやったのかよ。どう見ても、普通に東京郊外とかにありそうな場所だよな? 医療特化の学園都市とかそういうレベルだよな? マジかよ」

 これは良い意味で驚いているんだわ。
 これで生活必需品などを取り扱う商店街があったら、いつでも人が移民してきても問題ないレベルの完成度なんだが。

「はい。ミサキさまのリクエスト、それを反映した結果です。隣接する商業区画には世界各地のショッピングモールを設置する予定ですけど、商品の発送及び在庫という点においてまだ不安要素があります。なにぶんにも、各国本土からの輸入となりますので、税関その他のシステムをしっかりと取り決める必要もありますし、何よりもフランチャイズ契約が可能かどうかまではこれからの話になりますので」

 眼鏡をクイッとあげながら説明する、できる秘書風のヘルムヴィーケ。
 そのまま手元のパンフレットを確認くださいと言われたので、それを手にあちこち確認して回ったんだけど。
 ぶっちゃけるなら、箱は完成した大型都市。
 それが、アマノムラクモの中に広がっている。

「いやいや、まあ、この程度のことはやるだろうなと思ったけどさ、ここまでやるとは計算していないんだが。そもそも、資材その他はどうやって入手している?」
「アマノムラクモ直下の海底からの発掘です。まあ、どうしても必要なものについては空間転送で購入しています。それと現在、各国の企業及び鉄鋼業などの企業相手に取引を行うための準備も進められていますが、それは別紙の方を参照してください」
「細かいなぁ……」

 別紙を開いて確認したら、今のアマノムラクモの中の都市、これを戦艦直下に建設中の大型プラットフォームの上に移築するらしい。
 そののち、アマノムラクモの内部にある居住空間は俺が使えるだけの最低限の施設のみを残すらしく。
 緊急時に、アマノムラクモ内部に居住している民間人を先頭に巻き込まないための配慮だそうで、プラットフォームにも空間遮断バリアユニットは設置するので、アマノムラクモ国民の安全は確保されるらしい。

「……これを三年以内に行います。まあ、今現在のアマノムラクモ内部の都市を下ろすだけなので、まずはプラットフォームを完成させることからスタートですね。この旗艦を基準点として、直径20kmの円盤状の洋上プラットフォームの建設、及び資源採掘と海水からのレアメダルの抽出、これを最優先で進めています」
「それじゃあ、俺はこのパンフレットを手にアメリカに行けば良いのか? 今後の医療関係の協力者を求めるという理由で」

 その問いかけにコクコクと頭を縦に振るヘルムヴィーケ。
 なるほど、ここまでやるのが国の代表であり、国を起こす存在であると。
 それでいて、旗艦アマノムラクモは遊撃も可能な状態にする必要があるし、なによりも、俺以外の人間が艦内に大勢いるのは好ましくないっていうところなんだろうなぁ。

「……そうだろ? オクタ・ワン」

 敢えて、そう問いかけてみる。
 いや、最近は心の中まで見透かされているような気がするからさ。

『ピッ……リピートアフタミーを所望します』
「いや、俺の心の中の葛藤というか、そういうのを確認したかったんだよ」
『ピッ……確かに、このアマノムラクモはミサキさまのものであり、関係者以外の人間が土足で入って良いものではありません。その辺の配慮かと思われます』

 え? 
 心の中を見透かされていた?

「ちょっと待て、どうやってその返答に辿り着いた? 俺の心中まで見えていたのか?」
『ピッ……いえ、手にしたパンフレットのページと、先ほどまでの会話の録音データからの推測です。ちなみに予測していた返事は24パターン、その中で最適解に最も近いものを選択し、適合率65.23%の返答を送りましたが、正解でしたか?』
「うわ、まじかよ。まあ正解だし、その方針で間違っていないから、それで進めてくれ。あと、近日中にマーギア・リッター四騎と俺のカリヴァーンの出撃準備も頼む。長距離移動用ブースターが必要になるからさ」

 そろそろホワイトハウスからの返答も届くだろうさ。
 悪いけど、以前の国連からの視察団のような受け入れ態勢は整える気はない。
 こっちから提案してなんだけど、アメリカのやる気と本気度を見せてもらいたいからさ。


………
……


──アメリカ・ホワイトハウス
 パワード大統領は、執務室の椅子に深々と座ると、窓の外に広がる光景を静かに見ていた。
 アマノムラクモからの提案、それを受けるかどうかではなく。
 どのように話し合いを有利に持ち込み、あの艦内にアメリカ大使館を設営させることができるか。

「視察団からの報告書。それによると、あの場所、アマノムラクモ艦内での長期間滞在については難易度が高すぎる。娯楽もなく、ひたすら執務のみしかやる事がない閉鎖区画、そのやあな場所に喜んで行きそうな酔狂な議員を選別する必要もあるか……」

 会談場所はホワイトハウス内。
 東側にあるイーストルームで行うことが決定している。
 すでに国際的な会談などで用いられるようなセッティングも、会議が長引いた時のために軽い食事を取るための晩餐室の準備も、ほぼ完了しつつある。
 そして、目の前に広がる広大な敷地、ザ・エリプスと呼ばれている庭の部分では、大型航空機などを誘導するための照明施設が運び込まれている。

 ミサキ・テンドウは直接ここにやってくる。
 それを拒否することも必要であったが、だからと言って近くの航空施設に停泊させ、そこから車での移動となると警備関係をさらに厳重にする必要がある。
 そのための手続きや準備期間などを考慮した上で、パワード大統領が選んだ選択肢はミサキの提案したホワイトハウス上空への誘導、そこから直接降りてもらうという暴挙とでもいう手段である。

 これは、パワード大統領がミサキ・テンドウを信用したこと、アマノムラクモがアメリカと敵対意思がないことを信用しての決断である。

──プルルルルルルルル
 机の上の電話が鳴り響く。
 それを静かに受け取ると、パワードは電話の向こうの交換手から、アマノムラクモからの通信が届きましたというメッセージを受け取る。

「……繋いでくれ」
『了解です、ご武運を』

──カチッ
 そして通話相手が交換手からアマノムラクモのヴァルトラウデに切り替わる。

『こちらはアマノムラクモ、ヴァルトラウデと申します。パワード大統領にはご機嫌麗しく、本日はミサキさまの訪米についての日程についての確認をしたく、ご連絡を差し上げました』
「こちらとしては、あと三日で準備は完了する。設備その他については大体の設置及び確認は終えているが、周辺環境及び都市群からの狙撃対策、暗殺対策についての最終的な打ち合わせを行っている最中だと、お伝えください」

 一国の大統領相手に、アマノムラクモはオペレーターが対応している。
 これほどの侮辱はないとパワードは感じたのだが。

『ピッ……ミサキ・テンドウだ。部下の非礼をお詫びしたい』

 まさかのミサキ本人に切り替わるなど、パワードも予想はしていなかった。

「いえ、私個人は気にしていませんので。ですがアメリカ大統領としては、そのお詫びは謹んでお受けいたします。それで、日程調整については、先ほどのオペレーターにも伝えてありますが。あと三日で準備は完了しますが、どうなされますか?」

 敢えての言い方。
 パワードとしても、立場的なものと今後の外交についての優位性、アマノムラクモとの付き合いかたなどを考慮した結果、敢えてそのような問いかけを行ったのだが。

『では、三日後にこちらを立つ。アメリカの領海に到着した時点で、改めて国防省にでも連絡は入れさせてもらう。あとは、そちらの誘導に従うということで』
「ありがとうございます。では、お会いできる日を、楽しみに待っています」
『私も、安全な会談が行える日が来るのを心待ちにしていまふ』

 ミサキは最後の最後に噛んだ。
 でもパワードは聞かなかったふりをして、軽い挨拶ののちに通信を切る。

「ふぅ……こんなに汗をかいたのは、久しぶりだな」

 気がつくと、左手はギッチリと握りしめていた。
 その中が汗で濡れていたことが、どれだけの緊張を感じていたのかよくわかった。

「さて、お膳立ては全て終わり……あとは当日を迎えるまでは、何事もないことを祈るしかないか」

 軽く胸元で十字を切ると、パワードは会談が無事に終わるのを神に祈っていた。
 
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