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第二部・異世界からの侵略編
第35話・侵撃する異世界と、迎撃するものたちと
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ホワイトハウスでの襲撃から、まもなく七日。
時間はアマノムラクモ時刻で、深夜の23時。
艦内および領海内は臨戦態勢に突入、どうにか間に合った新型バリアシステムを搭載した防御用マーギア・リッター、盾騎士の配備も完了。
いつでも掛かってこいと言わんばかりに、俺は艦橋のキャプテンシートで待機している。
『ピッ……洋上プラットフォームに接舷しているロシア艦隊は放っておいてよろしいので?』
「本当の怪我人と病気が4名だろ、流石に治療ポットに放り込むわけにもいかないし、プラットフォームの医療施設を貸し出したついでにうちの医療サーバントたちにも医療関係の実践を踏ませているところだから、まあ、良し。どうせ盾騎士の配備もしてあるんだろ?」
『ピッ……すでに完了です』
ここで問題なのは、奴らがいつ、どの時間に俺たちに向かって姿を表し、宣戦布告を始めるか。
通信回線もフルオープンでやってくるだろうし、どこの国で、何を宣言すれば一番効率が良く地球人に対して恐怖を植え付けられるか、その一点に絞ってくると思っている。
「ミサキさま、まもなく0時です」
「了解。変化はあったか?」
『ピッ……アラート!!重力波長の乱れを確認。絶対座標軸、緯度1.329経度172.979、キリバス共和国上空1200メートル。アマノムラクモとの直線距離6000km、敵艦隊の空間突破を確認。艦隊数25、サテライト隊からの詳細データを計測中!!』
「戦闘配置、これよりアマノムラクモは第一級戦闘配備を開始する!」
立ち上がって叫ぶと、艦橋全体に緊張感が走る。
これが地球の艦隊なら負けることはあり得ないって断言できるのだが、相手は謎の艦隊。
油断大敵火がぼうぼう。
『ピッ……衛星軌道上のサテライト隊から最新映像です』
──ヴン
艦橋巨大スクリーンに映し出されだのは、ある種異様な存在。
形状は地球でいうところの鯨のような形、角度によっては目のようなものも大きな口も映し出されている。
その背中には長門や大和のような艦橋が作られており、さらに鯨の上部と左右には、やはり巨大な砲門が設置されている。
簡単に説明すれば、船体を鯨にした日本の戦艦。
砲門も三連装やら二連装やらと、明らかに現代地球人の、それも日本人の知識が混ざり込んでいるのがよくわかるよ。
大きさは様々だが、一番小さい子鯨型のもので400メートル級。
そして中間にいるのが800メートル級、恐らくはこれが旗艦なのだろうと推測。
他にも空母のように上部がカタパルトというか滑走路のように平たいものもあるが、艦載機のようなものは積んでいない。
そして問題なのが、砲撃艦らしきもの。
最大全長は500メートル程だけど、巨大砲門がら全体の上下左右に一つずつ装備されている。
まあ、昔見た宇宙戦艦なんたらの敵艦がさ、デス◯ー砲っていうのを積んでいて、それがやった着いている。
明らかにやる気満々兵装だよなぁ。
「……通信回線をフルオープンに。そろそろ奴らが放送をしてくるからだろうさ」
「了解です。なお、現時点で各国からの亡命希望者、避難民受け入れの連絡などが増加。全て国連本部に回線を繋ぎ直しておきましたので」
「……エグいわ。まあ、そんなものに対応していたら何もできんからなぁ。それで、ここから先はどう出てくる?」
俺はキャプテンシートに座り足を組み替えてから、じっくひとモニターを眺めている。
「アマノムラクモ領海内の各国艦隊が移動開始、キリバス共和国へと転針し速力をあげ始めました」
「ロスヴァイゼは各国艦隊の動向をチェック。ヴァルドラウデは各国の通信を確認し、奴らからの宣戦布告があるかどうかチェックしてくれ」
「あいあい」
「了解です!」
「グリムゲルデは転送カタパルトスタンバイ、盾騎士の転送初出準備を」
「座標はどちらに?」
そんなの三箇所に決まっているだろうなぁ。
この世界からの異世界転生者が背後にいると考えたら、奴らが狙う場所は決まっている。
「一つ目はキリバス共和国上空200メートル、島全体を囲めるように配置。二つ目はニューヨーク州国連本部上空。そして最後の一つが、ホワイトハウス。奴は、この地球で最も打撃を与える場所を知っている……恐らくだが、たまたま俺がそこにいて、向こうとしても驚いていたんだろうなぁ」
その理由は一つ。
俺のステータス画面には『偽勇者』どころか勇者表記もない。
それなのに、奴は俺を見て偽勇者と話していた。
つまり、奴が転生者であれその身内であれ、勇者というものを知っているのだろう。
そして外にあるマーギア・リッター、あれと同じようなものを知っているから、俺を勇者呼ばわりした。
「ミサキさま、通信を確認しました!!」
「こっちのスピーカーで再生」
「はい!」
………
……
…
初代勇者マサハル・カンナヅキ。
彼は我が帝国の勇者召喚により呼び出された伝説の勇者。
巨大な機動戦艦なるものを駆り姿を表し、帝国皇帝ファーミリアスの命令により魔人王を討伐した。
そののち、皇帝の命令により世界各地の『帝国に仇成す存在』を次々と駆逐し、ついに世界を統一した。
やがて皇帝の娘であるミリオネラと恋仲となり結婚。
その直後に勇者は機動戦艦のマスターコードを皇帝に切り替え、残りの人生は辺境の地で静かに過ごしていたという。
そのマサハルとミリオネラとの間に生まれた子、つまり我が祖父は冒険者として世界中を旅していたのだが、ある日、帝国皇帝からの呼び出しを受けてしまったらしい。
その後の話は詳しくは知らないが、祖父もまた帝国で貴族と婚姻を結び、私の母が生まれたらしい。
その頃には世界の情勢は大きく歪み、皇帝はレジスタンスの手により死去。
だが、その魂はある秘術により保存され、新たな肉体に宿るべく儀式の準備が行われていた。
そして、レジスタンスの手に渡った機動戦艦が自壊、世界の半分が灰の中に崩れ去っていったとき、星神は神託を与えた。
『世界は滅ぶ。ザマァ見ろ』
と。
その直後、残された文献やデータベースから機動戦艦の廉価版を建造。
残された人々と共に新たな世界へと侵攻を開始すべく、秘術の発動を始めた。
我が肉体は、勇者の血を引く。
そしてその魂は皇帝。
無敵の肉体に最強の野心を宿して生まれたのが、俺、ファーミリアス・トワ・カンナヅキ。
決して語ることのない勇者の肉体『永遠』を持つ。
そして機動戦艦シリーズと呼んでいる生体機動艦隊により、俺は、この体の故郷を新たな故郷とするべく帰ってきた……。
だが、そこには予定外の存在がいたではないか。
勇者の能力である『絶対鑑定』を弾き、我が珠玉の機動戦艦シリーズに似たものを持つ存在。
かろうじてわかったのは、彼が勇者ではなく錬金術師でること。
つまり、所詮は勇者ではない存在。
あの人形兵器も錬金術の集大成であろうが、そんなものでは我が野心を止めることなどできはしまい。
さあ、世界よ、我が前にひれ伏すがいい。
………
……
…
世界時計0時。
そのタイミングで、ホワイトハウスの中庭に亀裂が入る。
──ガタガタガタッ
まるでそこにやってくるのを予想していたかのように、SEALDsが亀裂の入った地面を包囲するのだが。
──バリィィィィン
亀裂が砕けた先。
そこには、全高12メートルほどの機動兵器が姿を表した。
アマノムラクモのマーギア・リッターのような直線的な姿ではなく、どちらかというと生命体のような雰囲気が醸し出されている。
体表面はまるで甲虫の外骨格のように光を反射して藍色に輝き、その腕や足、胴体までもが同じような素材により構成されている。
左手には巨大なタワーシールド、右手にはハルバードを構え、今にも飛び込んできそうな体制をとったかと思えば、その体からいきなり声が響いていた。
『時間だよ。さあ、パワード大統領、世界を代表して応えてもらいたい。我が世界ミョルドガルドは、異世界地球に対して宣戦布告を行う。さあ、答えてもらおうか、我らに服従するか、それとも死を選ぶか』
楽しそうに問いかけるファーミリアス。
だが、パワード大統領はポケットからタバコを取り出して咥えると、ジッポーライターを取り出して火をつける。
──スゥゥゥゥッ
そして軽く吸い込んだのち、ゆっくりと煙を吐き出してから、タバコをもった右手を敵機動兵器に向けて一言。
「逆に問いたい。その異世界とやらは、我々地球に対して降伏しないかな? その技術を提供してくれるならば、命は助けてやるが……」
『それが、この世界のリーダーであるアメリカの答えか!! その言葉はつまり、我が帝国と地球が戦争に突入することになる……それがわかっていて、こたえたのか!!』
「一言だけ、最後に伝えておく。アメリカは世界のリーダーではない。国連こそが世界のリーダーであり、我ら常任理事国はリーダーの代弁者である。そしてアメリカ代表として言わせてもらうなら……」
タバコを床に落としたと同時に、パワードはポケットに手を突っ込んでニィッと笑って一言。
「くたばれ、異世界!」
──BROOOOOOOOOOOm
敵機動兵器を囲んでいたSEALDsが一斉に射撃を開始。
だが、その銃弾は機体の被能面に届くことなく、その手前で全て弾き飛ばされる。
『ふっ……ふふふっ…ふはははははぁぁぁぁ!! 愚かだ、実にあなたは愚かだ。あなたの一言で世界は滅ぶ、そうか、地球は滅びを求めたのか、まあいい、それならば、貴様ら地球人の屍の上に、我が帝国を築き上げてやる!! 戦争だ!!」
──グイッ
右手のハルバードを逆手に構えると、機動兵器は手にしたハルバードをパワード目掛けて投げ飛ばす。
それは高速で回転しつつ、一直線にパワードへと飛んでいくが。
──シュンッ
そのパワードの正面に、マーギア・リッターが転送されてくると、飛んできたハルバードを受け止めて投げ返した。
──ブゥン
今度は敵機動兵器がハルバードを受け取ると、それを地面に立てて。
『おやおや、偽勇者さまの到着かい。君たちは地球につくというのだな?』
「残念ですが、私たちにとっては地球がどうなろうとかまいません。ただ、ミサキさまはこう、仰っていました……」
ヒルデガルドのマーギア・リッターが、敵機動兵器に向かって右手を伸ばすと、ゆっくりと中指を立てる。
「異世界、クソ喰らえ!!」
『戦争だ!!』
盾を前に構えハルバードを横に構える敵機動兵器。
だが、その瞬間にその機体が頭から真っ二つに切断された。
「おーい、パワード。まだ生きているか?」
敵後方に転送されたカリヴァーン。
そのコクピットが開いてミサキが姿を表すとらパワードは新しいタバコを手に取り、火をつける。
「おかげさまでな。見栄は切った敵の機体は鹵獲した。あとはこれを解析して、対抗する手段を講じるだけだ。それで、アマノムラクモはどうするのだ?」
「さぁ、な。戦争は始まった、国連の決議の通りにな。ここから先は地球と異世界の喧嘩だ、俺は傍観させてもらうよ」
「その敵の機体をあっさりと破壊できる武力を持っているのに……か。相変わらず狡い元首だな」
笑いながら呟くパワード。
それにはミサキも否定しない。
「そんじゃ、俺たちは帰る。あとは好き勝手にやってくれればいいさ」
「キリバス共和国は無事なのか?」
真顔で問いかけるパワード。
それにもミサキは一言だけ。
「アマノムラクモのバリアを貫通できるのなら、もう滅んでいるかもな。あとでエネルギー代は請求するからな、国連に請求書を送りつけるのでよろしく」
それだけを告げて、ミサキとヒルデガルドのマーギア・リッターは上昇を開始。最高速でアマノムラクモへと飛んでいった。
時間はアマノムラクモ時刻で、深夜の23時。
艦内および領海内は臨戦態勢に突入、どうにか間に合った新型バリアシステムを搭載した防御用マーギア・リッター、盾騎士の配備も完了。
いつでも掛かってこいと言わんばかりに、俺は艦橋のキャプテンシートで待機している。
『ピッ……洋上プラットフォームに接舷しているロシア艦隊は放っておいてよろしいので?』
「本当の怪我人と病気が4名だろ、流石に治療ポットに放り込むわけにもいかないし、プラットフォームの医療施設を貸し出したついでにうちの医療サーバントたちにも医療関係の実践を踏ませているところだから、まあ、良し。どうせ盾騎士の配備もしてあるんだろ?」
『ピッ……すでに完了です』
ここで問題なのは、奴らがいつ、どの時間に俺たちに向かって姿を表し、宣戦布告を始めるか。
通信回線もフルオープンでやってくるだろうし、どこの国で、何を宣言すれば一番効率が良く地球人に対して恐怖を植え付けられるか、その一点に絞ってくると思っている。
「ミサキさま、まもなく0時です」
「了解。変化はあったか?」
『ピッ……アラート!!重力波長の乱れを確認。絶対座標軸、緯度1.329経度172.979、キリバス共和国上空1200メートル。アマノムラクモとの直線距離6000km、敵艦隊の空間突破を確認。艦隊数25、サテライト隊からの詳細データを計測中!!』
「戦闘配置、これよりアマノムラクモは第一級戦闘配備を開始する!」
立ち上がって叫ぶと、艦橋全体に緊張感が走る。
これが地球の艦隊なら負けることはあり得ないって断言できるのだが、相手は謎の艦隊。
油断大敵火がぼうぼう。
『ピッ……衛星軌道上のサテライト隊から最新映像です』
──ヴン
艦橋巨大スクリーンに映し出されだのは、ある種異様な存在。
形状は地球でいうところの鯨のような形、角度によっては目のようなものも大きな口も映し出されている。
その背中には長門や大和のような艦橋が作られており、さらに鯨の上部と左右には、やはり巨大な砲門が設置されている。
簡単に説明すれば、船体を鯨にした日本の戦艦。
砲門も三連装やら二連装やらと、明らかに現代地球人の、それも日本人の知識が混ざり込んでいるのがよくわかるよ。
大きさは様々だが、一番小さい子鯨型のもので400メートル級。
そして中間にいるのが800メートル級、恐らくはこれが旗艦なのだろうと推測。
他にも空母のように上部がカタパルトというか滑走路のように平たいものもあるが、艦載機のようなものは積んでいない。
そして問題なのが、砲撃艦らしきもの。
最大全長は500メートル程だけど、巨大砲門がら全体の上下左右に一つずつ装備されている。
まあ、昔見た宇宙戦艦なんたらの敵艦がさ、デス◯ー砲っていうのを積んでいて、それがやった着いている。
明らかにやる気満々兵装だよなぁ。
「……通信回線をフルオープンに。そろそろ奴らが放送をしてくるからだろうさ」
「了解です。なお、現時点で各国からの亡命希望者、避難民受け入れの連絡などが増加。全て国連本部に回線を繋ぎ直しておきましたので」
「……エグいわ。まあ、そんなものに対応していたら何もできんからなぁ。それで、ここから先はどう出てくる?」
俺はキャプテンシートに座り足を組み替えてから、じっくひとモニターを眺めている。
「アマノムラクモ領海内の各国艦隊が移動開始、キリバス共和国へと転針し速力をあげ始めました」
「ロスヴァイゼは各国艦隊の動向をチェック。ヴァルドラウデは各国の通信を確認し、奴らからの宣戦布告があるかどうかチェックしてくれ」
「あいあい」
「了解です!」
「グリムゲルデは転送カタパルトスタンバイ、盾騎士の転送初出準備を」
「座標はどちらに?」
そんなの三箇所に決まっているだろうなぁ。
この世界からの異世界転生者が背後にいると考えたら、奴らが狙う場所は決まっている。
「一つ目はキリバス共和国上空200メートル、島全体を囲めるように配置。二つ目はニューヨーク州国連本部上空。そして最後の一つが、ホワイトハウス。奴は、この地球で最も打撃を与える場所を知っている……恐らくだが、たまたま俺がそこにいて、向こうとしても驚いていたんだろうなぁ」
その理由は一つ。
俺のステータス画面には『偽勇者』どころか勇者表記もない。
それなのに、奴は俺を見て偽勇者と話していた。
つまり、奴が転生者であれその身内であれ、勇者というものを知っているのだろう。
そして外にあるマーギア・リッター、あれと同じようなものを知っているから、俺を勇者呼ばわりした。
「ミサキさま、通信を確認しました!!」
「こっちのスピーカーで再生」
「はい!」
………
……
…
初代勇者マサハル・カンナヅキ。
彼は我が帝国の勇者召喚により呼び出された伝説の勇者。
巨大な機動戦艦なるものを駆り姿を表し、帝国皇帝ファーミリアスの命令により魔人王を討伐した。
そののち、皇帝の命令により世界各地の『帝国に仇成す存在』を次々と駆逐し、ついに世界を統一した。
やがて皇帝の娘であるミリオネラと恋仲となり結婚。
その直後に勇者は機動戦艦のマスターコードを皇帝に切り替え、残りの人生は辺境の地で静かに過ごしていたという。
そのマサハルとミリオネラとの間に生まれた子、つまり我が祖父は冒険者として世界中を旅していたのだが、ある日、帝国皇帝からの呼び出しを受けてしまったらしい。
その後の話は詳しくは知らないが、祖父もまた帝国で貴族と婚姻を結び、私の母が生まれたらしい。
その頃には世界の情勢は大きく歪み、皇帝はレジスタンスの手により死去。
だが、その魂はある秘術により保存され、新たな肉体に宿るべく儀式の準備が行われていた。
そして、レジスタンスの手に渡った機動戦艦が自壊、世界の半分が灰の中に崩れ去っていったとき、星神は神託を与えた。
『世界は滅ぶ。ザマァ見ろ』
と。
その直後、残された文献やデータベースから機動戦艦の廉価版を建造。
残された人々と共に新たな世界へと侵攻を開始すべく、秘術の発動を始めた。
我が肉体は、勇者の血を引く。
そしてその魂は皇帝。
無敵の肉体に最強の野心を宿して生まれたのが、俺、ファーミリアス・トワ・カンナヅキ。
決して語ることのない勇者の肉体『永遠』を持つ。
そして機動戦艦シリーズと呼んでいる生体機動艦隊により、俺は、この体の故郷を新たな故郷とするべく帰ってきた……。
だが、そこには予定外の存在がいたではないか。
勇者の能力である『絶対鑑定』を弾き、我が珠玉の機動戦艦シリーズに似たものを持つ存在。
かろうじてわかったのは、彼が勇者ではなく錬金術師でること。
つまり、所詮は勇者ではない存在。
あの人形兵器も錬金術の集大成であろうが、そんなものでは我が野心を止めることなどできはしまい。
さあ、世界よ、我が前にひれ伏すがいい。
………
……
…
世界時計0時。
そのタイミングで、ホワイトハウスの中庭に亀裂が入る。
──ガタガタガタッ
まるでそこにやってくるのを予想していたかのように、SEALDsが亀裂の入った地面を包囲するのだが。
──バリィィィィン
亀裂が砕けた先。
そこには、全高12メートルほどの機動兵器が姿を表した。
アマノムラクモのマーギア・リッターのような直線的な姿ではなく、どちらかというと生命体のような雰囲気が醸し出されている。
体表面はまるで甲虫の外骨格のように光を反射して藍色に輝き、その腕や足、胴体までもが同じような素材により構成されている。
左手には巨大なタワーシールド、右手にはハルバードを構え、今にも飛び込んできそうな体制をとったかと思えば、その体からいきなり声が響いていた。
『時間だよ。さあ、パワード大統領、世界を代表して応えてもらいたい。我が世界ミョルドガルドは、異世界地球に対して宣戦布告を行う。さあ、答えてもらおうか、我らに服従するか、それとも死を選ぶか』
楽しそうに問いかけるファーミリアス。
だが、パワード大統領はポケットからタバコを取り出して咥えると、ジッポーライターを取り出して火をつける。
──スゥゥゥゥッ
そして軽く吸い込んだのち、ゆっくりと煙を吐き出してから、タバコをもった右手を敵機動兵器に向けて一言。
「逆に問いたい。その異世界とやらは、我々地球に対して降伏しないかな? その技術を提供してくれるならば、命は助けてやるが……」
『それが、この世界のリーダーであるアメリカの答えか!! その言葉はつまり、我が帝国と地球が戦争に突入することになる……それがわかっていて、こたえたのか!!』
「一言だけ、最後に伝えておく。アメリカは世界のリーダーではない。国連こそが世界のリーダーであり、我ら常任理事国はリーダーの代弁者である。そしてアメリカ代表として言わせてもらうなら……」
タバコを床に落としたと同時に、パワードはポケットに手を突っ込んでニィッと笑って一言。
「くたばれ、異世界!」
──BROOOOOOOOOOOm
敵機動兵器を囲んでいたSEALDsが一斉に射撃を開始。
だが、その銃弾は機体の被能面に届くことなく、その手前で全て弾き飛ばされる。
『ふっ……ふふふっ…ふはははははぁぁぁぁ!! 愚かだ、実にあなたは愚かだ。あなたの一言で世界は滅ぶ、そうか、地球は滅びを求めたのか、まあいい、それならば、貴様ら地球人の屍の上に、我が帝国を築き上げてやる!! 戦争だ!!」
──グイッ
右手のハルバードを逆手に構えると、機動兵器は手にしたハルバードをパワード目掛けて投げ飛ばす。
それは高速で回転しつつ、一直線にパワードへと飛んでいくが。
──シュンッ
そのパワードの正面に、マーギア・リッターが転送されてくると、飛んできたハルバードを受け止めて投げ返した。
──ブゥン
今度は敵機動兵器がハルバードを受け取ると、それを地面に立てて。
『おやおや、偽勇者さまの到着かい。君たちは地球につくというのだな?』
「残念ですが、私たちにとっては地球がどうなろうとかまいません。ただ、ミサキさまはこう、仰っていました……」
ヒルデガルドのマーギア・リッターが、敵機動兵器に向かって右手を伸ばすと、ゆっくりと中指を立てる。
「異世界、クソ喰らえ!!」
『戦争だ!!』
盾を前に構えハルバードを横に構える敵機動兵器。
だが、その瞬間にその機体が頭から真っ二つに切断された。
「おーい、パワード。まだ生きているか?」
敵後方に転送されたカリヴァーン。
そのコクピットが開いてミサキが姿を表すとらパワードは新しいタバコを手に取り、火をつける。
「おかげさまでな。見栄は切った敵の機体は鹵獲した。あとはこれを解析して、対抗する手段を講じるだけだ。それで、アマノムラクモはどうするのだ?」
「さぁ、な。戦争は始まった、国連の決議の通りにな。ここから先は地球と異世界の喧嘩だ、俺は傍観させてもらうよ」
「その敵の機体をあっさりと破壊できる武力を持っているのに……か。相変わらず狡い元首だな」
笑いながら呟くパワード。
それにはミサキも否定しない。
「そんじゃ、俺たちは帰る。あとは好き勝手にやってくれればいいさ」
「キリバス共和国は無事なのか?」
真顔で問いかけるパワード。
それにもミサキは一言だけ。
「アマノムラクモのバリアを貫通できるのなら、もう滅んでいるかもな。あとでエネルギー代は請求するからな、国連に請求書を送りつけるのでよろしく」
それだけを告げて、ミサキとヒルデガルドのマーギア・リッターは上昇を開始。最高速でアマノムラクモへと飛んでいった。
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