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エルフさん、テレビに映る。
しおりを挟むとある自然公園の中で、私は地元の騎士……警察官と、話を続けていた。
気がつくと、大きな中継カメラを構えた報道官も集まっており、私と警察のやりとりを放送している。
しかし、|深淵の書庫(アーカイブ)で得た現代の基礎知識は便利である。
さっきまで分からなかった単語まで、スラスラと理解できるのだからね。
「何故、自分の国の名前を説明しない?」
「そんなの覚えてないからに決まっているでしょうが」
「パスポートはどうした? 所持していないなら密入国になるぞ」
「異世界からの来訪者が、何処からパスポートを貰って来いと?」
「身分を証明するものを見せてくれ」
「ほら、さっきも見せたでしょうが、|魂の護符(ソウルプレート)よ。これは教会が発行している正式な身分証明なんだからね」
もう一度|魂の護符(ソウルプレート)を生み出して投げつける。するとそれを受け取った警官が写メを撮って何処かに転送している。
「こんなものが身分証明だと? 教会と話していたけれど何処の宗教だ?」
「私の国は……確か魔導王国だったような気がするから、魔導神ガルダウルフが主神ですよ」
「それは何処の国だ? キリスト教の分派か何かかね?」
「こっちの世界の神様事情なんて知らないから。私の世界の神様だって、なんど説明すればいいのよ?」
私の話に対して、延々と同じことを質問し返す。
何処かに差異が無いかを確認しているのだろうけれど無駄。
私は、私の知っていることしか説明していないからね。
「今は何処に住んでいる?」
「だーかーら、さっき、ここに強制転移してきたばかりだって。さっきも説明したでしょうが」
「それも魔法だというのかね? この現代科学の世界で魔法などバカらしい」
「じゃあ、この私が箒に乗って飛んでいる原理を説明してご覧なさいよ」
「どうせ手品だろうが‼︎」
「ほら、自分のわからないものを手品だとか適当にごまかして理由をつけて。頭が硬いったらないわぁ」
「なんだと?」
「そんなことよりも、この町の一番偉い人と話をさせなさいよ‼︎」
また振り出しに戻る。
いい加減、空も暗くなってきたしお腹も減ってきた。
とは言え、こんな見も知らない世界の通貨など持っていない、なら、今の手持ちの食料で腹を満たすしかない。
──ブゥン
結界を発動して、私の邪魔をしないようにする。
そして|空間収納(チェスト)からオーク肉のロースを取り出し、魔法の焚き火を起こして焼く。
味付けは塩と胡椒、これがなかなか手に入らなくて高価であった記憶は残っている。
あとは付け合わせのポムトの実も一緒に焼き、パンに乗せて食べる。
確か、貰い物のワインも|空間収納(チェスト)に放り込んでいたのでそれも取り出すと、|冷却(クール)で冷やして飲む。
「プハーっ。外野が多いのは気になるけれどまあいいわ。しっかし、こっちの世界の人間って暇人が多いのねぇ……」
ふと気がつくと、私の周囲は警察の包囲の他に、少し離れた場所に立ち入り禁止のテープでぐるりと囲まれている。
その外側にいくつもの報道関係者が集まりカメラを回し、その隙間に野次馬のように人が集まっている。
「……申し訳ないけれど、私はここから動かないからね。包囲でもなんでも結構だけど、早いところ話がわかる人を呼んできた方が良いわよ」
「それは上が決める事だ、今の我々は、犯罪者が逃げないように包囲しているだけだからな」
全く頭が硬い。
まあ、それは良いわ、気にしなければ良いだけだから。
──ヒュゥゥゥゥ
食事も終わったので、今度は空間からテントを取り出す。高さ2m、直径2mほどの円錐形の魔法のテントで、中は100m3の魔法の空間になっている。
そこに私の研究棟である『賢者の塔』が建てられており、遠征時などはここで生活をしていた。
「それじゃあ、今日はこの辺で失礼します。あ、更に結界を引きますので、もう誰も近寄れませんからね」
──キィィィィィン
私の足元に魔法陣が広がる。
そして、今度は普通の結果ではなく、完全な高位防御結界を作り出す。
そして外にいる人たちに手を振って、私はテントの中に入っていった。
明日の朝には、何か状況が変わっていると良いんだけどなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
朝。
塔の中にある貯蔵庫から食料を取り出して朝食を作る。それを食べてから塔から出ると、テントの外まで出てみる。
すると、昨日とは違い、警察ではなく機動隊が周りをガッチリと固めていた。
「え~っと、確かこっちの世界の重騎士に当たるんだっけ? 機動隊ねぇ。|深淵の書庫(アーカイブ)、此処までの一連の流れを精査して」
『ピッ……精査完了、アルカ様の行った行為は、全て悪手です』
「まじか」
『はい。歴代勇者の使用していた単語『マジか』は、理解できます。マジです』
その後、私を中心に球形魔法陣が展開すると、そこにさまざまなパターンが映し出される。
こっちの世界の人間にとっての最適解は、私が警察のパトカーに乗って警察で取り調べを受ける事、私にとっての最適解は全て無視してこの場から立ち去り、国の中枢に向かい話をする事。
その丁度中間の策を取ったようだが、これが一番面倒臭いらしい。あったとこっちの言い分の中間を、バランス良く取らないとならないようで。
「なるほどなぁ。なら、次の手は?」
『ピッ……世論を味方につけるのが宜しいかと』
「世論ねぇ……」
チラリと機動隊の向こうを見ると、丁度朝のニュース番組の生中継とやらをやっている。
なら、ここに飛び込むしかない。
「よいしょ、こらしょ……と」
膝を曲げて屈伸すると、一気にカメラの前でマイク片手に話をしているキャスターの真横に飛んでいく。
──ヒュゥゥゥゥ……ドスッ
「現在も、異世界から来たと告げる女性はテントの前で機動隊に……え?」
「さて、テレビの向こうの皆さんおはようございますっと……これがテレビってやつでしょ、はじめまして、異世界から来たハイエルフの賢者・アルカ・トラスと申します」
突然のアルカの出現に、お茶の間はもちろんのこと、ネットで生配信を見ていた人々は絶句してしまう。
当然ながら、機動隊も素早くアルカたちを囲むように動き、テレビカメラも後ろに下がるように指示されているが、私はいち早く私とカメラマン、アナウンサーのある空間を結界で囲んだ。
「周囲を囲んだ機動隊はちょっと待った‼︎ 私はあんたちちに何かする気はないんだから。折角だから、このテレビってやつに出て、私の存在を世間に知ってもらうだけなんだよ? それを邪魔するってことは……ええっと、報道統制ってやつ?」
隣で青くなっているアナウンサーに問いかけると、カクカクと頷いている。正面カメラの横のディレクターは、突然のアルカの出現に気を良くしたのか、カメラを回したまま番組を続けるように指示、それを良しとしない機動隊が周りを囲む形となっていた。
「あ、あの、先程、異世界から来たと話していましたが、それは何処なのですか?」
「それがわからないんだよ。恐らく、第六世界の魔導王国らしい所までは思い出したんだけどね、こっちに強制転移させられたみたいでさ、記憶もあやふやなのよ」
「止めろ、カメラを止めろ、電源車を落とせ‼︎」
機動隊の偉い人が叫んでいるが、ディレクターは聞こえないフリでカメラに指示を飛ばしている。
よく見ると、その横でハンディカメラを用意し、そっちも回しているではないですか。
「あの、アルカさんは異世界の……エルフですか?」
「ハイエルフで賢者だね。ほら」
長横に長い耳をピクピクと動かしつつ、|空間収納(チェスト)から魔法の箒を取り出して横座りすると、そのまま宙に浮いた。
──フワッ
「まあ、警察の人は手品だって叫んでいたし、私の話を聞こうとしないで警察に連れて行こうとしたからさぁ。拒否してそこにテント立てて一晩過ごしていたっていうわけ」
「そ、そうですか。では、ここに来た目的は侵略とかではないと?」
「転移事故ですよ、事故……」
──ブツン
そこまで話していると、突然カメラの中継ランプが消えた。
機動隊が電源車の発電機を止めたらしい。
だが、その横にこっそりと置いてあるハンディカメラは中継ランプが付いているし、ADはカンペを用意して『続けて』という文字をこっちに見せていた。
なら、やるっきゃないよね?
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