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第二十一話・挑戦者、ゴリ‼︎

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 魔導騎士マーギア・ギア同好会の設立も完了し、夕方には笹錦さんも顧問として挨拶に来てくれた。
 もっとも、笹錦さんとの約束があり、基本的に俺たちの活動には口出ししない代わりに、助言も与えられない。
 同好会の運営は、俺たち会員のみで行うことという話になっている。
 この件は、うちの校長と魔導騎士マーギア・ギア部の顧問である曙顧問も交えての説明になったのだが、曙顧問が必死に食い下がって来たのは、驚きである。

「あの、十六夜の所持しているバトルリングを、我々正式な部が使いたい。彼らには、我々の使っていたバトルリングを貸与するので、かまいませんね?」

 なんだぁ、このゴリラ顧問は。
 
「あ~、銀河、それってあれか? 【バトリングシステム】の事なのか?」
「親父から預かってきた奴だよ。バトリングシステムっていうのが正式名称なのか」
「そういう事だ。それなら曙先生、無理ですね」
「何故ですか? 正式な部活だからこそ、新型機で調整を行う必要があるのですよ? 彼らは所詮は同好会ですから」
「まあ、無理な理由は幾つかありますが。バトリングシステムは、彼がテストドライバーとしてゴーレムファクトリーから貸与されているものです」
「ですから、そのテストドライバーを我が部で行うと言っているのですよ?」

 ひかねぇ。
 このゴリラ、本当に引かない。、

「それでしたら、ゴーレムファクトリーに問い合わせてはいかがでしょうか? あなたの理屈を通すとなると、全国各地の高校の正式部に貸与しなくてはなりませんよね?」
「そ、それは……」
「そうそう、この高校のバトルリングが故障中だと銀河から話を聞いています。明後日にはメンテナンス員を派遣しますので、ご不便でしょうが、それまではお待ちください」
「え、ええっと……」

 曙顧問の顔が真っ青になった。
 
「さ、先程バトルリングを確認しましたら、何処もおかしくなっていなくてですね」
「ほう。それでは、あなたは同好会の登録を断るために、嘘をついたとでもいうのですか?」
「い、いや、それは……」
「生徒たちを導く立場の貴方が、まさか、自分の名誉を守るために、邪魔になりそうな同好会を設立させないようにしたとか? もしもそうでしたら、これは重大な問題なのですよ?」

 ええっと、秋穂波先輩の話していた奴だよな?

「バトルコロシアム規約、第二十五条一項補足のニ、理由のいかんに関わらず、同好会およびそれに付随するものの設立を妨げた部員及び顧問、コーチは、その、ライセンスを一定期間停止する……だよね?」
「ほう、銀河がそのルールを知っているとはなぁ」
「ま、まあ、うちの会長に叩き込まれたから」
「そういう事です。今回の件、ゴーレムファクトリー及びツクダサーガ公式ジャッジとしては見過ごすことができませんので」
「ち、ちょっと待て、さっきから話を聞いていれば、俺は、もと日本代表の曙だぞ?」
「元……ですよね?」
「俺と勝負しろ、もしも俺が勝ったなら、この件は、俺の処分は白紙にしろ‼︎」

 あ……やっちゃった。
 曙顧問と笹錦さんが盛り上がっているので、俺は校長の横にスススッと移動する。
 そして校長の耳元で、コソッと。

「次の顧問、探した方が良いですよ?」
「そのようじゃなぁ……」

 うちの校長は、話が早くて助かりますわ。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 第二体育館。
 主に魔導騎士マーギア・ギア部が使用している体育館であり、四基のバトルリングが設置されている。
 まあ、それ以外にも卓球部とかバスケット部、バレー部もローテーションで体育館を使っているのだけど、半分は魔導騎士マーギア・ギア部が占有している。
 
「さて。ここのバトルリングは故障中と先ほど聞きましたが?」

 笹錦さんと一緒にやって来ると、魔導騎士マーギア・ギア部がバトルリングを稼働して練習しているじゃないか。
 これには同行している秋穂波先輩や星野先輩も、呆れ返っている。

「だから手違いだったと言っただろうが。いいから勝負だ‼︎ そこの新入部員、バトルリングを貸せ‼︎」

 怒鳴りながら、無理やりバトルリングを奪い取ると、曙はマテリアルBOXから魔導騎士マーギア・ギアを取り出した。

「勝負……笹錦さん、パワーBOXは持ってきているの?」
「当然。ゴーレムファクトリーの社員だからね?」

──ブゥン
 右手を正面に突き出すと、空間収納チェストからパワーBOXを召喚した。
 親父が作ったゴーレムファクトリー社員に送られた、リストバンド型魔導具。
 それが空間収納チェストリスト。
 床に発生した魔法陣からパワーBOXが出て来るのを見て、部員たちが騒然とする。

「まさか、パワーBOXかぁ? これは傑作だな」

 高らかに笑いながら、曙は愛機『フォレストキング』をマテリアルBOXから取り出してセット。
 かたや笹錦さんは、パワーBOXからオサフネを取り出すと、バトルリングに設置。
 すぐさまIDカードを登録した。

「あ、あれって見た事ないわよ?」
「だろうなぁ。俺のブレイザーと一緒の、ロストナンバー機だからなぁ」

魔導騎士マーギア・ギアセット。機体コードAT10ブレイドJP0003Mドール、ギアネーム・オサフネ】

 バトルリングのモニターには、オサフネのデータが並ぶ。

「な、なんだと? AT10?」
「おい、嘘だろ? 伝説の機体って奴じゃないのか?」

 部員たちが騒然とする。
 笹錦さんのドライバーIDはJP。
 ジャッジメント及びプロナンバー。

魔導騎士マーギア・ギアセット。機体コードMDP00876Aドール、ギアネーム・フォレストキング】

 かたや曙顧問のコード、最後のAはアニマルタイプ。
 外見がまさにゴリラなんだよなぁ。
 しっかりとプロナンバーのPも刻印されたいるんだけど、JPよりは見栄えが劣るのは、なんでだろ?
 
「所詮は型落ち。完膚なきまで破壊してやるわ‼︎」

 うわぁ、曙顧問が悪堕ちしているわ。
 むしろ、今までがずっと猫を被っていたようで、部員たちもドン引き状態である。


「まあ、お手柔らかに。貴方には……少し、痛い目に遭ってもらった方が、よいかもしれませんのう」
「うるさい、うるさいうるさい‼︎ 勝てば良いんだ」
「これが指導者とは、面倒な性格でござるなぁ」

 あ、やっべ。
 笹錦さん、ガチ口調になってる。

「「バトル、スタート‼︎」」

 曙と笹錦の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。


◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️

──ゴゥゥゥゥゥゥ
 巨大な円形闘技場。
 その中のあちこちに、大量の武器が落ちている。
 ダガーやショートソードはもとより、ロングソードやポールウェポン、シールド、モーニングスターなど、様々な武器が散りばめられている。

「ほう? バトルウェポン・デスマッチとは」
「ルールは知っているよな? 落ちている武器は自由に使って良い。あとは、相手がギブアップするまで戦い続ける、ダメージシステムはカットしてあるからな」
「そりゃあ、このルールはよく知っているでござるよ……拙者の友人が作り出したルールシステムじゃからなあ」

──ダッ‼︎
 オサフネが腰を低く落として走り出す。
 それにあわせるかのように、フォレストキングは足元のタワーシールドを掴むと、まるでブーメランを投げるかのようにオサフネに向かって投げ飛ばした。

──グウォォォォォン
 一つ、また一つ。
 足元のシールドだけじゃなく武器まで拾い上げては、投げる。
 フォレストキングの戦法は怪力特化による投擲攻撃であり、作戦もへったくれもない。

 パワーイズジャスティス。

「どうだどうだ、近づいてこれまい‼︎」

 投げるものがなくなったら、バックステップで後ろに飛び、また武器を拾って投げつける。
 かたやオサフネは絶妙なタイミングで交わし続けながら、ゆっくりと間合いを詰める。

「たしかに、この戦法は厄介でござるなぁ……」
「そうだろ、これが、俺が日本代表になった技だ」
「貴君が日本代表になった年は……ドライバーが今ひとつだったということか?」
「それはどういう意味だ‼︎」
「この程度の腕で日本代表とは、片腹痛いでござるよ」

 オサフネの動きが変化する。
 速度が上がり、腰を落として。

──ダッ‼︎
 一気に加速し、マウンテンキングの横に向かって駆け抜ける。

──キン
 一瞬、金属音が響く。
 その直後には、オサフネはマウンテンキングの斜め後ろに立ち、ゆっくりと納刀している。

「何処に向かって走っていく?」
「もう終わりでござるからなぁ」
「なんだと? ふざけやがって‼︎」
 
 マウンテンキングが振り向く。
 腰から下だけが振り返り、上半身は動かない。
 横をすり抜ける時の一閃で、マウンテンキングは腰から真っ二つに切断されている。

──ズルッ!
 そして上半身が腰の上から落下し、やがて下半身も倒れていく。

「な、なんだ、今、何をした‼︎」
「それがわからない時点で、負けですなぁ」
「そ、そうか、貴様はずるをしたんだな? チートだろ、そうだろ?」
「バトルリングは、すべての機体の監視も兼ねておる。公式システムが反則を取らないのは、どういう意味かわかるであろうが」
「システムの裏をかいただと?」
「違うわ‼︎ 拙者程度の動きや攻撃など、魔導騎士マーギア・ギアの設定や調整、創意工夫でなんとでもなるわ‼︎」

 バトルリングが試合終了を告げないので、まだバトルは続いている。
 フォレストキングの上半身は、まだかろうじて動いているのだが。

──ズボァァァァッ
 オサフネが、離れた場所から刀を振る。
 その一撃が届くはずがない距離にも関わらず、フォレストキングは袈裟斬りに真っ二つになる。

──あぁぁぉぁぁぁぁ
 曙が絶叫する。
 切断面には、魔導騎士マーギア・ギアの心臓とも言える魔導核が見えたのである。
 そこを破壊されると、蓄積されたデータも何もかも失う。

「ぎ、ギブアップだ、俺の負けだ‼︎」

 曙が負けを認めたのと同時に、ジャッジメントシステムが起動した。

◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️


──ウォォォォォォォォ
 喝采が響く。
 慌ててフォレストキングの残骸を回収すると、曙顧問はマテリアルBOXに全て収めて走って出て行く。
 そして笹錦さんもオサフネをパワーBOXに収めると、空間収納チェストに収納した。

「ゴーレムファクトリー公式審判として、曙顧問のコーチ資格を三年間停止します。己の私利私欲のために、システムルールを無視した行為は、ドライバーたちを導く立場であるコーチには相応しくありません」

 堂々と宣言する笹錦さん。
 いつのまにか校長も見ていたらしく、後ろで拍手している。

「そ、それじゃあ、俺たちは大会にでられないのですか?」
「公式戦登録期間内の、コーチ及び選手登録は認められています。その間にコーチを探すしかありませんが」
「あなたは、俺たちのコーチになってくれませんか?」

 部員の一人が笹錦さんに問いかけるけど、頭を振っていますよ。

「私はすでに、魔導騎士マーギア・ギア同好会の顧問を引き受けていますので」
「その通りですわ‼︎ 我が魔導騎士マーギア・ギア同好会は、北広島西高等学校魔導騎士マーギア・ギア部に対して、校内予選の開催を宣言しますわ‼︎」

 うわぁ、秋穂波先輩が叫んだ。
 これには部員たちも絶句し、力一杯驚いている。

『ピッ……校内予選システム起動宣言を受諾。一週間以内にチーム名簿を登録してください。魔導騎士マーギア・ギア部は、顧問の再登録を行わない限り不戦敗となります』

 バトルリングが、秋穂波先輩の叫びを受諾した‼︎
 これには笹錦さんも苦笑している。

「それでは、一週間後を楽しみにしていますわ」

 フヮサッと髪を靡かせながら、秋穂波先輩と星野先輩が体育館から出て行った。
 いや、その立ち位置は、悪役なんですけど……。
 俺、どうすれば良いの?
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