24 / 28
第二十三話・解析された? ファーストスキル
しおりを挟む
「「バトル、スタート‼︎」」
魔導騎士部三年の越前 華と二年の秋野 詩、二人の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
巨大な円形闘技場。
全国高校生バトルコロシアム予選で使われるステージであり、全試合共通のノーハンデフィールド。
そこに巨大な鎌を構えた死神のような魔導騎士と、かたや聖職者のように白いローブに身を包んだ僧侶スタイルの魔導騎士が立ち並んでいる。
公式戦のスタートラインに両機が並ぶと、越前の機体である『ホーリープリースト』が、秋野の愛機『ヘルハウンド』に一礼する。
「二年‼︎ 挨拶は大事‼︎」
「は、はいっ、よろしくお願いします‼︎」
ホーリープリーストとヘルハウンドが挨拶を行うと、静かにバトルリングに緊張感が走る。
──3…2…1
「「ゴーっ‼︎」」
素早く前に出て、腰からメイスを引き抜くホーリープリースト。
かたやヘルハウンドは鎌を高速回転させて真っ直ぐに突っ込んでくると、ホーリープリースト目掛けて縦横無尽に切りつけていく。
──ガギガギガギ
だが、その一撃一撃をメイスで弾き飛ばしながら、ホーリープリーストがゆっくりと前に歩き出す。
「な、なぜ? 私の攻撃が届かないの?」
「リーチの差があるから、自分の射程で戦えると思いましたか?」
──ガゴッ‼︎
まだ距離はある、メイスの届く距離ではないと慢心したヘルハウンドが、突然、左に吹き飛んでいる。
「え? なに? なにがあったの?」
「初歩的な問題なのに……」
吹き飛んだヘルハウンドが立ち上がりホーリープリーストの方を見るが、そこには彼女の姿はない。
「え?」
「公式戦は完全同期なのよ? 魔導騎士の視界が自分の視界。その程度の空間認識能力では、秋穂波に勝てるはずがありませんわ‼︎」
ヘルハウンドの右後方から、メイスの一撃を叩き込む。
天高く掲げたメイスが静かに輝き、魔力により一回り巨大なメイスになった。
「せ、先輩‼︎」
すぐさま振り向いたヘルハウンドだが、その刹那、右半身がメイスの一撃で破壊される。
たった一撃。
それで、ヘルハウンドのダメージゲージは全て吹き飛んだ。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
バトルリングがヘルハウンドの負けを宣言し、試合が終わる。
今までのような、リングコクピットから見た、第三者視点ではなく、公式戦は魔導騎士のもカメラアイからの映像が、直接魔導騎士操縦者の目の前のリアルモニターに映し出される。
つまり、魔導騎士の視点が自分の視点になるため、俯瞰的視点での戦術は使えなくなる。
「越前先輩、その力があれば、校内予選は勝てるはずです。どうして代表選抜から抜けたのですか‼︎」
秋野が越前に向かって話しかけるが、越前は無言のまま、バトルリング内で溶けて金属の塊となったホーリープリーストを手に取り、自分の傍に置く。
「私の機体がないからと言えば、理解できるでしょう?」
「….今からバトルポイントを稼げば」
「もう時間が足りないのよ。武川くん、今のバトルで何かわかった?」
「あ、いえ……全く理解できません。ただ、越前先輩があの光るメイスを使ってから、機体の融解が始まっていたとしか……」
二年の武川新之助。
魔導騎士部専属のメカニックであり、先日は十六夜銀河の強さの秘密を知るために、生徒会下に忍び込んで盗聴カメラを仕込んでいた。
そして後輩のメカニックに解析を任せていたのだが、正しい答えには一度も辿り着いていない。
唯一、セッティングによる魔力調整ではないかと言うところまで辿り着き、それならばと越前が自分の愛機で実践データを取ろうとして……越前はホーリープリーストを失った。
メイスが光った時点で、武川は越前に稼働テストを止めるように宣言したが、校内予選が間も無くやってくるため時間を惜しんだ越前が強行。
そして試合中に機体が溶け始め、魔導核が破壊。
内部に蓄積されていた戦闘データの全てが失われたのである。
マテリアルBOXに戦闘データのバックアップはあるものの、機体特有のバトルデータは引き継ぐことはできない。
また、機体保有の勝利ポイントも引き継ぐことができないため、越前が新規にホーリープリーストを作り直したとしても、それは生まれたばかりの新しい機体となり、ステータス上はかなり弱くなってしまう。
ベテランやプロの魔導騎士操縦者は、この問題点については既に解決済みであるのだが、まだ高校生の越前にとっては未知の領域であった。
結果、高校生最後のバトルコロシアムは棄権することになり、後輩にその座を譲ったのである。
「オーバーヒート。そうとしか言えませんわね。まあ、これも良い経験ですし、武川くんの解析データのおかげで、我が魔導騎士部の選抜メンバーは全て、この技を使えるようになりましたので、結果オーライとしましょう」
「まだ、機体の融解についての対策ができていませんので、使えませんけどね」
「その辺り、秋穂波はどうやって対策しているのかしら?」
「戦闘データは回収できましたが、盗撮映像だけですから、戦闘時の情報は皆無です」
こうなると、どうしても答えが知りたい。
そう考えた越前は、ホーリープリーストだったアルミ軽合金の塊を鞄に収めると、第一体育館へと向かっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……なあ、銀河は背中にも目があるのか?」
「いえ、そんなのあるはずないじゃないですか」
第一体育館では、星野と銀河の模擬バトルが行われている。
公式戦準拠のセッティングであるため、視野も魔導騎士の範囲でしかないはずなのだが、何故か銀河は背後に回った星野の機体の動きにも対応している。
「それじゃあ、どうやって感じているんだ?」
「まあ、ファーストスキルの応用ですよ。それでも長距離射程兵器に対しては『直感』で対応するしかないんですけどね」
「直感って……至近距離ならば、後ろの敵の動きも見えているのか?」
「はい。そりゃあもう、はっきりと」
なんのことはない。
銀河のブレイザーには、背部カメラが設置されているだけ。
それを制御するための必要ポイントが膨大なので、普通はセッティングしないのが当たり前なだけだが、銀河はファーストスキルの応用で、魔力をセンサーやカメラにも振り分けている。
当然ながら戦闘力は低下するのだが、それを腕で補うだけである。
一つ一つ説明しながら、星野の練習を続ける。
これでどうにか形にはなったのだが、校内予選では銀河と秋穂波でポイントを稼ぐしかなく、星野にはひたすら守りに徹してもらう必要がある。
そしてバトルリングが試合終了を宣言すると、直ぐにブレイザーをパワーBOXに回収し、冷却を開始する。
「一試合ごとの冷却。公式戦で機体が保つのですか?」
「いや、こればっかりは分からないんですよ。プロはどうやって長時間戦闘しているか不可解ですし、伊勢プロや笹錦さんに聞いてもはぐらかされる始末で」
「でも、プロリーグとかを見ていると、明らかに長時間戦闘を行っていますよ?」
「そう、星野先輩の言う通りなのですよ。世界ツアーとか、どうしているのかなぁと思って」
実は、これには簡単な回答があるのだが、銀河たちには理解不能なのである。
高校生の資産力では抗えない、大人の事情。
プロリーグの選手は、同じ機体をいくつも保有している。
全ての機体に等しく経験を積ませ、バトルデータを解析、もっとも優れている戦闘データをバックアップして機体に載せている。
それでは対戦データによるボーナスポイントはないと思われるが、それを必要とせず、常に同じスペックの機体を使い続けるのがプロである。
一つの愛機に固執し、損傷のたびに一喜一憂するのはプロではない。
事実、伊勢プロの愛機も、プロリーグ用とプライベートで用がある。
本気の伊勢プロが用意したプライベート機なら、世界大会の上位にも食い込む可能性があるのだが、彼女はそれをよしとしない。
彼女がゴーレムファクトリーに入社して、信用して悠から受け取った最初の機体、それを失うことなどできないから。
一昔前、世界中のファンを熱くさせたF1。
そのドライバーたちは、自分専用の愛機など用意しない。
全てワークスが用意した、同じスペックの同じ機体である。
確かなのは、ワークスの技術と自分の腕。
そこに『使い込まれた機体の癖』は必要ない。
ドライバーはワークスを信頼し、ワークスはドライバーを信用している。
その魂は、時代を超えて、F1マシンから魔導騎士に受け継がれた。
それでも、魔導騎士にも魂が宿ると信じていたメカニックもいる。
日本が誇るプロチーム『ウルティメイト・ホンダ』などは、創始者の言葉を、魂を受け継いでいる。
彼らが今でも世界のトップたりえるのも、そう言うところなのかもしれない。
「まあ、このパーツがうまく稼働してくれたら、対応策はあるんだがな」
「さすがは、魔導騎士創始者の血筋ですね」
いつの間にか、銀河たちの後ろには越前が立っている。
セッティング画面などは開いていないので慌ててはいないが、秋穂波だけは怪訝そうな顔をしている。
「魔導騎士部の方が、どんな御用でしょうか?」
「十六夜くんの機体の秘密を教えてもらいに来ました」
「「「はぁ?」」」
驚く三人。
だが、越前はバッグから二つの金属の塊を取り出して、傍のテーブルに置く。
秋穂波と星野はわからなかったが、銀河はすぐにそれが何か理解した。
「……リミッターカット。いや、暴走に近いか。どうしてこんなことになったんだ?」
「まだ研究中です。こちらは先程、テストプレイの直後に、バトルリングの上で融解しました。こちらは、最初の実戦稼働テストで融解した、私の愛機です」
「秋穂波先輩、マテリアルBOXを借ります‼︎」
すぐに越前の愛機だった金属をマテリアルBOXに格納すると、高速で解析を始める。
《BOXの解析じゃ間に合わないか。解析》
マテリアルBOX越しに機体の解析を開始。
だが、すでに魔導核は損傷し、バトルデータなどは全て失われている。
「……マテリアルの記憶……魔導核の修復……いけるか?」
マテリアルBOXでは不可能。
それならば、銀河なりの答えを出す。
《親父の力、借りるぞ……物質修復》
何が起こっているのか、銀河以外には理解できない。
ただ、そこに素材が残っているのなら、破壊前と同じように完全に修復するのが、悠が銀河に受け継いだゴーレム魔法。
そして皆が沈黙して見守る中、マテリアルBOXがゆっくりと開く。
「え……そんな、嘘でしょう?」
口元を押さえて呟く越前。
その瞳には、薄らと涙が浮かんでいる。
「まあ、俺も初めてのリミッターカットのときは、同じことをやらかしたからなぁ。親父に泣きついてブレイザーを治してもらったときは、大泣きしたもんだよ……はい、流石に親父ほどのレベルはないから戦闘データの修復はできなかったけど」
それでも魔導核の修復は八割まで治っている。
あとはメーカー修理となるのだが、ここから先は越前の判断である。
「あ、ありがとうございます。この子は、私の祖父がプレゼントしてくれた機体ですから……もう会えないと思ったのに」
「それなら尚更、大切にしたほうがいいですよ。しっかし、リミッターカットまで解析したかぁ」
頭をポリポリと掻き上げながら、銀河が困った顔で呟く。
「は、はい、実は、その件で……」
「盗撮されていたのは知っていたけど、さすがは先輩たちだよなぁ」
「あんなにわかりやすい場所に盗撮カメラを仕掛けて、分からないはずがありませんわ」
「それでも、どうせやるのならお互いに同じ土俵にって、銀河くんが言うから、見逃したのですよ?」
あっけらかんと言い放つ銀河たち。
鬼の生徒会長が、自分のテリトリーである生徒会室に起きた異変に気づくはずがない。
カメラの死角から銀河がブレイザーを起動させて、しっかりとカメラを確認したので間違いはない。
「あ、そ、その件でしたら、誠に申し訳ありません‼︎」
咄嗟に頭を下げる越前だが、秋穂波は苦笑い。
「本来なら抗議したいところですけど、プロリーグや世界大会選抜でも、この手の情報戦はあるようですし。それに、越前さんも充分反省したようですから、不問に処しますわ」
越前が抱きしめている『ホーリープリースト』を指差しながら、秋穂波が呟く。
「はい、今度は正々堂々と」
「それが良いっすよ。あと、セッティングの甘さがあるかと思いますが、一つの試合でリミッターカット時間は1分以内、試合後はすぐにパワーBOXで冷却のちフルメンテナス。この処理が早ければ早いほど、機体の修復速度は上がりますので」
あっさりと秘密をバラす。
これには越前も呆然としてしまう。
「え、よろしいのですか? そんな秘密をバラして」
「秘密も何も、プロはみんな知っているからね。メーカーやワークスによる対応は秘密だけど、その手前まではな。と言うことで、来週末の金曜日放課後、校内予選をやるのでよろしく‼︎」
「望むところです」
ニカッと笑う銀河。
それに越前も笑いながら答えた。
魔導騎士部三年の越前 華と二年の秋野 詩、二人の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
巨大な円形闘技場。
全国高校生バトルコロシアム予選で使われるステージであり、全試合共通のノーハンデフィールド。
そこに巨大な鎌を構えた死神のような魔導騎士と、かたや聖職者のように白いローブに身を包んだ僧侶スタイルの魔導騎士が立ち並んでいる。
公式戦のスタートラインに両機が並ぶと、越前の機体である『ホーリープリースト』が、秋野の愛機『ヘルハウンド』に一礼する。
「二年‼︎ 挨拶は大事‼︎」
「は、はいっ、よろしくお願いします‼︎」
ホーリープリーストとヘルハウンドが挨拶を行うと、静かにバトルリングに緊張感が走る。
──3…2…1
「「ゴーっ‼︎」」
素早く前に出て、腰からメイスを引き抜くホーリープリースト。
かたやヘルハウンドは鎌を高速回転させて真っ直ぐに突っ込んでくると、ホーリープリースト目掛けて縦横無尽に切りつけていく。
──ガギガギガギ
だが、その一撃一撃をメイスで弾き飛ばしながら、ホーリープリーストがゆっくりと前に歩き出す。
「な、なぜ? 私の攻撃が届かないの?」
「リーチの差があるから、自分の射程で戦えると思いましたか?」
──ガゴッ‼︎
まだ距離はある、メイスの届く距離ではないと慢心したヘルハウンドが、突然、左に吹き飛んでいる。
「え? なに? なにがあったの?」
「初歩的な問題なのに……」
吹き飛んだヘルハウンドが立ち上がりホーリープリーストの方を見るが、そこには彼女の姿はない。
「え?」
「公式戦は完全同期なのよ? 魔導騎士の視界が自分の視界。その程度の空間認識能力では、秋穂波に勝てるはずがありませんわ‼︎」
ヘルハウンドの右後方から、メイスの一撃を叩き込む。
天高く掲げたメイスが静かに輝き、魔力により一回り巨大なメイスになった。
「せ、先輩‼︎」
すぐさま振り向いたヘルハウンドだが、その刹那、右半身がメイスの一撃で破壊される。
たった一撃。
それで、ヘルハウンドのダメージゲージは全て吹き飛んだ。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
バトルリングがヘルハウンドの負けを宣言し、試合が終わる。
今までのような、リングコクピットから見た、第三者視点ではなく、公式戦は魔導騎士のもカメラアイからの映像が、直接魔導騎士操縦者の目の前のリアルモニターに映し出される。
つまり、魔導騎士の視点が自分の視点になるため、俯瞰的視点での戦術は使えなくなる。
「越前先輩、その力があれば、校内予選は勝てるはずです。どうして代表選抜から抜けたのですか‼︎」
秋野が越前に向かって話しかけるが、越前は無言のまま、バトルリング内で溶けて金属の塊となったホーリープリーストを手に取り、自分の傍に置く。
「私の機体がないからと言えば、理解できるでしょう?」
「….今からバトルポイントを稼げば」
「もう時間が足りないのよ。武川くん、今のバトルで何かわかった?」
「あ、いえ……全く理解できません。ただ、越前先輩があの光るメイスを使ってから、機体の融解が始まっていたとしか……」
二年の武川新之助。
魔導騎士部専属のメカニックであり、先日は十六夜銀河の強さの秘密を知るために、生徒会下に忍び込んで盗聴カメラを仕込んでいた。
そして後輩のメカニックに解析を任せていたのだが、正しい答えには一度も辿り着いていない。
唯一、セッティングによる魔力調整ではないかと言うところまで辿り着き、それならばと越前が自分の愛機で実践データを取ろうとして……越前はホーリープリーストを失った。
メイスが光った時点で、武川は越前に稼働テストを止めるように宣言したが、校内予選が間も無くやってくるため時間を惜しんだ越前が強行。
そして試合中に機体が溶け始め、魔導核が破壊。
内部に蓄積されていた戦闘データの全てが失われたのである。
マテリアルBOXに戦闘データのバックアップはあるものの、機体特有のバトルデータは引き継ぐことはできない。
また、機体保有の勝利ポイントも引き継ぐことができないため、越前が新規にホーリープリーストを作り直したとしても、それは生まれたばかりの新しい機体となり、ステータス上はかなり弱くなってしまう。
ベテランやプロの魔導騎士操縦者は、この問題点については既に解決済みであるのだが、まだ高校生の越前にとっては未知の領域であった。
結果、高校生最後のバトルコロシアムは棄権することになり、後輩にその座を譲ったのである。
「オーバーヒート。そうとしか言えませんわね。まあ、これも良い経験ですし、武川くんの解析データのおかげで、我が魔導騎士部の選抜メンバーは全て、この技を使えるようになりましたので、結果オーライとしましょう」
「まだ、機体の融解についての対策ができていませんので、使えませんけどね」
「その辺り、秋穂波はどうやって対策しているのかしら?」
「戦闘データは回収できましたが、盗撮映像だけですから、戦闘時の情報は皆無です」
こうなると、どうしても答えが知りたい。
そう考えた越前は、ホーリープリーストだったアルミ軽合金の塊を鞄に収めると、第一体育館へと向かっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……なあ、銀河は背中にも目があるのか?」
「いえ、そんなのあるはずないじゃないですか」
第一体育館では、星野と銀河の模擬バトルが行われている。
公式戦準拠のセッティングであるため、視野も魔導騎士の範囲でしかないはずなのだが、何故か銀河は背後に回った星野の機体の動きにも対応している。
「それじゃあ、どうやって感じているんだ?」
「まあ、ファーストスキルの応用ですよ。それでも長距離射程兵器に対しては『直感』で対応するしかないんですけどね」
「直感って……至近距離ならば、後ろの敵の動きも見えているのか?」
「はい。そりゃあもう、はっきりと」
なんのことはない。
銀河のブレイザーには、背部カメラが設置されているだけ。
それを制御するための必要ポイントが膨大なので、普通はセッティングしないのが当たり前なだけだが、銀河はファーストスキルの応用で、魔力をセンサーやカメラにも振り分けている。
当然ながら戦闘力は低下するのだが、それを腕で補うだけである。
一つ一つ説明しながら、星野の練習を続ける。
これでどうにか形にはなったのだが、校内予選では銀河と秋穂波でポイントを稼ぐしかなく、星野にはひたすら守りに徹してもらう必要がある。
そしてバトルリングが試合終了を宣言すると、直ぐにブレイザーをパワーBOXに回収し、冷却を開始する。
「一試合ごとの冷却。公式戦で機体が保つのですか?」
「いや、こればっかりは分からないんですよ。プロはどうやって長時間戦闘しているか不可解ですし、伊勢プロや笹錦さんに聞いてもはぐらかされる始末で」
「でも、プロリーグとかを見ていると、明らかに長時間戦闘を行っていますよ?」
「そう、星野先輩の言う通りなのですよ。世界ツアーとか、どうしているのかなぁと思って」
実は、これには簡単な回答があるのだが、銀河たちには理解不能なのである。
高校生の資産力では抗えない、大人の事情。
プロリーグの選手は、同じ機体をいくつも保有している。
全ての機体に等しく経験を積ませ、バトルデータを解析、もっとも優れている戦闘データをバックアップして機体に載せている。
それでは対戦データによるボーナスポイントはないと思われるが、それを必要とせず、常に同じスペックの機体を使い続けるのがプロである。
一つの愛機に固執し、損傷のたびに一喜一憂するのはプロではない。
事実、伊勢プロの愛機も、プロリーグ用とプライベートで用がある。
本気の伊勢プロが用意したプライベート機なら、世界大会の上位にも食い込む可能性があるのだが、彼女はそれをよしとしない。
彼女がゴーレムファクトリーに入社して、信用して悠から受け取った最初の機体、それを失うことなどできないから。
一昔前、世界中のファンを熱くさせたF1。
そのドライバーたちは、自分専用の愛機など用意しない。
全てワークスが用意した、同じスペックの同じ機体である。
確かなのは、ワークスの技術と自分の腕。
そこに『使い込まれた機体の癖』は必要ない。
ドライバーはワークスを信頼し、ワークスはドライバーを信用している。
その魂は、時代を超えて、F1マシンから魔導騎士に受け継がれた。
それでも、魔導騎士にも魂が宿ると信じていたメカニックもいる。
日本が誇るプロチーム『ウルティメイト・ホンダ』などは、創始者の言葉を、魂を受け継いでいる。
彼らが今でも世界のトップたりえるのも、そう言うところなのかもしれない。
「まあ、このパーツがうまく稼働してくれたら、対応策はあるんだがな」
「さすがは、魔導騎士創始者の血筋ですね」
いつの間にか、銀河たちの後ろには越前が立っている。
セッティング画面などは開いていないので慌ててはいないが、秋穂波だけは怪訝そうな顔をしている。
「魔導騎士部の方が、どんな御用でしょうか?」
「十六夜くんの機体の秘密を教えてもらいに来ました」
「「「はぁ?」」」
驚く三人。
だが、越前はバッグから二つの金属の塊を取り出して、傍のテーブルに置く。
秋穂波と星野はわからなかったが、銀河はすぐにそれが何か理解した。
「……リミッターカット。いや、暴走に近いか。どうしてこんなことになったんだ?」
「まだ研究中です。こちらは先程、テストプレイの直後に、バトルリングの上で融解しました。こちらは、最初の実戦稼働テストで融解した、私の愛機です」
「秋穂波先輩、マテリアルBOXを借ります‼︎」
すぐに越前の愛機だった金属をマテリアルBOXに格納すると、高速で解析を始める。
《BOXの解析じゃ間に合わないか。解析》
マテリアルBOX越しに機体の解析を開始。
だが、すでに魔導核は損傷し、バトルデータなどは全て失われている。
「……マテリアルの記憶……魔導核の修復……いけるか?」
マテリアルBOXでは不可能。
それならば、銀河なりの答えを出す。
《親父の力、借りるぞ……物質修復》
何が起こっているのか、銀河以外には理解できない。
ただ、そこに素材が残っているのなら、破壊前と同じように完全に修復するのが、悠が銀河に受け継いだゴーレム魔法。
そして皆が沈黙して見守る中、マテリアルBOXがゆっくりと開く。
「え……そんな、嘘でしょう?」
口元を押さえて呟く越前。
その瞳には、薄らと涙が浮かんでいる。
「まあ、俺も初めてのリミッターカットのときは、同じことをやらかしたからなぁ。親父に泣きついてブレイザーを治してもらったときは、大泣きしたもんだよ……はい、流石に親父ほどのレベルはないから戦闘データの修復はできなかったけど」
それでも魔導核の修復は八割まで治っている。
あとはメーカー修理となるのだが、ここから先は越前の判断である。
「あ、ありがとうございます。この子は、私の祖父がプレゼントしてくれた機体ですから……もう会えないと思ったのに」
「それなら尚更、大切にしたほうがいいですよ。しっかし、リミッターカットまで解析したかぁ」
頭をポリポリと掻き上げながら、銀河が困った顔で呟く。
「は、はい、実は、その件で……」
「盗撮されていたのは知っていたけど、さすがは先輩たちだよなぁ」
「あんなにわかりやすい場所に盗撮カメラを仕掛けて、分からないはずがありませんわ」
「それでも、どうせやるのならお互いに同じ土俵にって、銀河くんが言うから、見逃したのですよ?」
あっけらかんと言い放つ銀河たち。
鬼の生徒会長が、自分のテリトリーである生徒会室に起きた異変に気づくはずがない。
カメラの死角から銀河がブレイザーを起動させて、しっかりとカメラを確認したので間違いはない。
「あ、そ、その件でしたら、誠に申し訳ありません‼︎」
咄嗟に頭を下げる越前だが、秋穂波は苦笑い。
「本来なら抗議したいところですけど、プロリーグや世界大会選抜でも、この手の情報戦はあるようですし。それに、越前さんも充分反省したようですから、不問に処しますわ」
越前が抱きしめている『ホーリープリースト』を指差しながら、秋穂波が呟く。
「はい、今度は正々堂々と」
「それが良いっすよ。あと、セッティングの甘さがあるかと思いますが、一つの試合でリミッターカット時間は1分以内、試合後はすぐにパワーBOXで冷却のちフルメンテナス。この処理が早ければ早いほど、機体の修復速度は上がりますので」
あっさりと秘密をバラす。
これには越前も呆然としてしまう。
「え、よろしいのですか? そんな秘密をバラして」
「秘密も何も、プロはみんな知っているからね。メーカーやワークスによる対応は秘密だけど、その手前まではな。と言うことで、来週末の金曜日放課後、校内予選をやるのでよろしく‼︎」
「望むところです」
ニカッと笑う銀河。
それに越前も笑いながら答えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる