型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第202話・絶好調!! いえ、私は何もしていませんけれど

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 ロシマカープ王都、闘技場。

 その中央では、大量のアンデットの軍勢と冒険者たちの戦いが激化している。
 状況は冒険者側不利、どれだけアンデットを破壊しても、上空で浮かぶ不死王シェーンの術式により再生を開始。
 その再生速度に追いつかれないように、冒険者を始め王国騎士団や大武道会に参加する選手たちも各々が武器を振るい、目の前の敵を屠ることに専念しているのだが。

──シュルルルル
 再生したアンデットは無慈悲にも、力尽きた冒険者たちを返り討ちにしていく。
 さらに殺された冒険者たちもアンデットの尖兵として再生され、状況はどんどん追い込まれ始めていた。

「ちっ。あそこにいられたんじゃあ、ぶっ殺したくても届かぬではないか」

 その上空に浮かぶシェーンを見て、クリムゾンは手にしたダマスカス製包丁を強く握りしめる。
 いくら伝説のエセリアルナイトといえど、上空を飛ぶ敵に対しては無力。
 飛び道具でもあったならまだ対抗策はあったのだろうが、不死王、すなわちアンデットであるシェーンには通常の武器など効果はない。
 最低でも聖別された銀の武器、もしくは炎を宿した魔導兵器でもない限りは、奴に傷一つつけることなどできない。

「師匠、この場は私にお任せを!!」

 ミヅキ・ピコット・ハーエヴェスタが手にしたスパイクハンマーをブンブンと振りまわすと、それを天空高く飛ばす。
 ターゲットは不死王シェーン、せめて地面に落としさえすればと言う願いでハンマーを投げ飛ばしたのだが、それはシェーンの手前に発生した虹色に光る盾によって弾き返されてしまう。

「はっはっはっ。児戯にも等しい攻撃程度では、この私に傷つけるどころか届きもしません。それで、次はどのような手を使うのですか?」

 ミヅキのハンマーは勢いよく弾かれ、そのまま地面に落下し突き刺さる。
 丈夫さだけが取り柄のスパイクハンマーをミヅキは拾い上げると、今度は他の冒険者と目配せをしてから。

「児戯かどうか、その目でしっかりと見ていなさい!!」

──ブゥン!
 再びハンマーを中空に浮かぶシェーン目掛けて飛ばす。
 だが、シェーンは右手をハンマーに向けて魔力の盾を生み出す。

「何度やっても同じこと」
「そうかな? 遠隔付与、聖属性!」

 ミヅキの後方から聞こえた声と同時に、スパイクハンマーが銀色に輝く。
 それはシェーンの作り出した魔法の盾を一撃で砕くと、そのまま右足に直撃。
 たった一撃で、シェーンの右足が粉砕された。

「な、なんだと? 聖属性の付与攻撃? まさか聖女がこの地に降臨したと言うのか?」

 驚くシェーンに向かって、ミヅキの後ろから姿を表した男が大見得を切る。

「元・勇者参上。そのまま飛んでいてくれると、こっちも楽なんだがなぁ。止まっている敵ほど攻撃しやすい相手はいないからな」
「……勇者の加護による聖属性付与。しかし、本物の聖女や勇者とは全く持って程遠い……それに、たった一撃で魔力を消耗し切っているとは、本当に勇者なのですか?」

 そう呟きつつ、破壊された右足を再生するシェーン。
 
「だからいっただろうが、元・勇者だってな。まさかアンデッドの主人は、元勇者相手にビビって降りて来れないなんて言わないよな?」
「……小賢しい。あなたはそこで死んでください」

 シェーンが元勇者に向かって右手を突き出すと、その手から大量の死霊が吹き出し元勇者に向かって襲い掛かる。
 だが、死霊と勇者の間にクリムゾンが飛び込んでいくと、襲い来る死霊たちを手にした包丁で切断し浄化する。

「ここはワシに任せろ。さて、シェーンよ。そろそろ決着をつける時が来たようじゃが」

 青く輝くダマスカス包丁。
 それを逆手に身構えて、クリムゾンが呟く。
 この局面に至るまで、どれほどの時間が経過したことか。
 浮遊術式と魔力の盾により、地上からの魔法攻撃や飛び道具すら弾くシェーンと、次々と発生するアンデットの軍勢を駆逐し続けた冒険者たち。
 それもようやく、ミヅキがずっと隠れてじっとしていた勇者を引っ張り出してくれたことで状況はほんの僅かに好転。

 さらにノワールとブランシュからの声がようやく届き、クリムゾンは勝利を確信した。
 
「決着ですって? まあ、あなたとは因縁浅からぬと言うところですが。以前のように私の能力を封じることができる聖女はいません。そして、その力を失った勇者もどきでは、もう聖なる力も払うことができないのに?」
「フォッフォッフォッ。切り札は取っておくものじゃぞ」

 そのクリムゾンの言葉と同時に。
 闘技場内のアンデットの軍勢の動きがいきなり鈍り始める。
 そして闘技場西門をじっと睨みつけたかと思うと、門の近くのアンデットから次々と浄化され始めた。

「な、なんだ? 何が起こったのですか? まさか今代の聖女が降臨したと? そんな馬鹿な? あの娘はヴェルディーナを包む死の砂漠に飲み込まれて死んだはずでは……」

 動揺するシェーンに、クリムゾンは一言。

「うちの聖女殿がやってきたようじゃよ……」
「な、何を馬鹿なことを……ををを?」

──ガグン
 突然、シェーンの体から力が抜け始める。
 それとほぼ同時に、闘技場の通路から一台の馬車が、煙を上げて突入してきた!!

………
……


 
 お線香を焚き続けながら、王都の中をくまなく爆走。
 次々とアンデットの軍勢は浄化されていきましたので、あとはゆっくりと大バザールに戻ろうと思ったのですが。

「クリスティナさま、クリムゾンとの念話が繋がりました。この一連の元凶は魔族の四天王、不死王シェーンの侵攻によるもの。現在クリムゾンは、闘技場にてシェーンを対峙したものの、手が出せない状況だそうです」

 つまり、助けに向かうのですね。
 いえ、いっそ闘技場全体も浄化してしまいましょう。

「ブランシュさん、お線香と蝋燭の追加です。ノワールさん、馬車を闘技場へか向かわせてください。そしていきなり入るのではなく、エセリアルモードで建物中をぐるぐると回りつつ、シェーンのいる方向へ走らせてください」
「ひょ、ひょええええええ」

 同行した騎士は、バケツを抱えて放心状態。
 あ、汚物は御手洗いへ投げてくださいね、中にぶちまけたら後で装備してもらいますので。
 そのままどんどん加速し、闘技場の内部に突入。
 ぐるぐると渦を巻いて……あ、勇者様たちが歌っていた異世界の戦歌にも、このような状況が歌われていましたよ。
 確か、自身の元は踏み潰して台風の目には体当たり、でしたよね。
 ぐるぐると渦を巻くように闘技場内部を爆走。
 レッツゴーレッツゴー、レッツアンドゴー!
 そして最後は西門の通路を駆け抜けて闘技場の中へ!!

「フェイール商店です、アンデットを浄化するお線香をお届けに参りましたぁぁぁ!!」

 馬車から身を乗り出して絶叫する私。
 そして大量のアンデットたちが私たちに向かって向き直ると、戦いの手を止めて何かを訴え始めています。
 そして。

──シュゥゥゥゥ
 次々とお線香と蝋燭の炎に導かれて浄化されていきました。

──ポトっ
 ん? 
 上空から誰かが落ちてきましたが、あれってまさか?

「それじゃあ、姐さん。線香は任せていいか? 不死王のシェーン相手なら、俺の力が必要だからな」

 ブランシュさんがそう呟いて馬車から飛び降りると、一瞬で純白のローブを身を包みました。

「あ……ブランシュさんの本気モード」

 はい、全身から清浄な光を放ちつつ、クリムゾンさんに近寄ると。
 彼の持っていた武器……あれ? 私があげたダマスカス包丁ですよね? それに光の加護を付与して。

「いけ、クリムゾン」
「どりやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 全力で投げましたよ、ダマスカス包丁を。

「そ、そんな鈍な武器程度っ」

 ヨロヨロと手を突き出し、魔力の盾を生み出す不死王。
 ですが、その盾を一撃で粉砕すると、ダマスカス包丁は不死王の頭に突き刺さり貫通。
 その先端に魔族の持つ高濃度魔石を突き刺して向こうの壁へと激突。
 魔石はグズグスに砕け散ります。

「馬鹿な……この力は、まさか精霊女王の加護……そんな馬鹿なぁぁぁぁ」

 絶叫しつつ塵のように散っていく不死王。
 それと同時に、アンデットの軍勢も粉々に砕けちり、その中から囚われていた魂が天へと昇っていきます。

「……おおっと、盗まれる前に包丁を取り返さぬと!」

 クリムゾンさんは笑いつつダマスカス包丁の方へ走っていきます。
 そして、ようやく勝利を実感したのでしょう。
 闘技場にいた大勢の人たちが1人、また1人と雄叫びをあげます。
 それはやがて闘技場全体を包み込むように響き渡り、私たちが勝利したことを闘技場の外へと伝えてくれました。
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