型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
146 / 284
第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と

第224話・予想の範疇と予想外

しおりを挟む
 結婚式の引き出物についての審査。

 当商店のクレア・アイゼンボーグとマクガイア家の進めて来る執務官、二人のうちどちらが目利きであるか、それについての審査試験は全て完了。
 現在は別室にて私とシャトレーゼ伯爵、マクガイア子爵、そしてエリー・マクガイア嬢の4人が席についています。
 クレアさんと執務官の二人は席を外しており、その他見学をしていた貴族たちは言葉を発しないという条件で私たちの席より離れた場所で結果を心待ちに待っていますが。

「ふん、あんの上、くだらない商品ばかりを選んでいる……この賓客リストの中には、後ろで結果を見守っている貴族の方々もいるのですよ、にも関わらずこんなくだらない商品ばかりを選んでいる。それに引き換え、当家が進めた執務官の結果報告をご覧ください!!」

 身振り手振りを交えつつ、マクガイア子爵が執務官の提出した報告書を広げる。
 そこには大量の商品リストが書き込まれていますが、それらは全て斜線で消され、あたらしく書き直されたものばかり。
 それによく見ますと、かき消す前の商品についてはクレアさんが選んだものと似通っているものが記されているではないですか。

「ふぅむ。最初のほうでは、クレアと執務官の……ええっと、名前は聞いていなかったな。まあいいか、双方ともに同じような商品が書き込まれていたようですが、後半からのこの書き直しと並べられている商品……これは手抜きとしかいいようがありませんが?」

 シャトレーゼ伯爵がそう告げつつ、確認を終えたリストをテーブルの上に投げる。
 私もそれを手に取って確認しましたけれど、確かにこの書き換えはおかしいとしか思えません。
 いえ、こちらの用意した罠に嵌ったという感じにも見えますけれど、それにしても露骨すぎではありませんかねぇ。

「当初……そうですね、このボールパーク男爵家までの12の貴族家に対しての商品、これはその家にとって必要なものであると考えて間違いではありませんか?」

 そこに記されているものは日用品であったり、ご相当に使われてもおかしくないようなアクセサリーや彫像といったもの。
 恐らくはリストの中にコレクターとか収集癖を持つ方とかがいるのかもしれません。

「そうだな。例えばこのウェストファリア家は、3年前に初めての孫が生まれていてね。だが、どうにも肌が弱いのかすぐに衣類にかぶれてしまっているらしいが。この選ばれた商品は肌に優しい石鹸とかタオルといったものが選ばれている。双方ともに選んでいるが、どちらかというとクレアの選んだもののほうがウェストファリア男爵の趣味に合っているといえよう」

 おおっと、クレアさんに敵愾心が強いマクガイア子爵の言葉とは思えない誉め言葉ですが。
 そう思って彼の顔を見ていますと、ゴホンと咳ばらいをされてしまいましたよ。

「人をそのような目でみるのはどうかと思うがね……ここは審査の場だ、私も公平であろうとは考えている。だが、残念だが、クレアの選んだ商品は致命的な欠点がある」
「ほう、受け取った相手に喜ばれるもの、欲しているものを選ぶという点でもクレア嬢の選択したものは全く問題がないと思うのだが。それはどのような欠点かな?」

 カマンベール王国の事情などしらないシャトレーゼ伯爵も、その欠点というものには興味があるようです。
 するとマクガイア子爵は口角を釣り上げてニイッと笑った後。

「汎用性に欠ける。と申しましょう。例えばフェイールさん、ここに記されている商品については貴方から直接購入することは可能ですよね?」
「ええ、季節限定の商品もありますが……そうですね、ほぼ入手可能です」
「ということは、別にめでたい席で送られなくても構わないということにもつながります。恐らくは当家の執務官はそれを思い出したからこそ、このようなリストに書き換えたのでしょう」

 なるほど。
 そういう意味だったのですか。
 執務官が書き直したリスト、そこには全て『真珠』『黒真珠』『大粒の希少宝石』などをあしらったアクセサリーばかりが並んでいます。

「マクガイア子爵。このリストのどこに汎用性があるというのかね?」
「そこに記されているものは全て希少宝石をあしらった貴金属や装飾品。貴族の身だしなみに必要なものであり、緊急時には換金可能なものばかり。賓客が貴族であるという以上は、このあたりにまで気を使う必要があったということになります」
「なるほどねぇ……そういう意味では、執務官の選んだものも確かに意味があるが。そもそも、フェイール商店は、カマンベール王国で商売を行う予定はあるのかね?」

 シャトレーゼ伯爵の問いかけに、私も少し考えます。
 そもそも私が大陸西方に向かう理由なんてありませんし、商売として足を延ばしてもいいかなぁとは考えていましたけれど。
 先刻の、私に対しての貴族の暴言を考えまするに、迂闊にカマンベール王国へ向かうのはよろしくないと判断しました。

「いえ、今のところは考えていませんね。ハーバリオス北方にも足を延ばそうとも考えていますし、そもそも私に対してなにかよからぬことを考えている貴族様のいるような国になど、危なっかしくて行くことなんてできません」
「……ということらしいが? これでマクガイア子爵のいう『いつでも購入可能』という件は消滅したが」
「ま、まあ、そうかもしれませんが。ですがやはり貴族たるもの、多少は見栄を張ってでも着飾りたいのではないでしょうか。特にご婦人たち相手に、ここまで素晴らしい装飾品を見せつけられた以上は、それを手に取りたくなるのは道理ではありませんか?」

 まあ、そのご意見につきましては反対する余地などありません。
 こう見えても元・侯爵家令嬢でしたので。
 今は旅する商人ですけれどね。

「そうですね。それにつきましては、私としても反対意見はありませんわ」
「では、今回の目利きという件については、当家の勝利ということでよろしいのですね?」
「仕方ありませんね。では、このようにカマンベール王国貴族の好む商品を書き出されてしまった以上は、ここは素直にこちらに記されている商品をご用意するということで宜しいのでしょうか?」

 私の言葉に、マクガイア子爵も満面の笑みを浮かべている。
 
「うむ、そのリストの商品で構わない。それと我が家の娘と妻にも、黒真珠の装飾品を用意して欲しいのだが」
「畏まりました。では、まずはこちらの商品についての値段を計算します。こちらは全て前払いとなりますけれど、それは問題がありませんよね?」
「ああ、別に構わない」

――ニイッ
 計算通り。
 いえ、正確には計算の斜め上を行く返答です。
 ここにきてようやく、シャトレーゼ伯爵も私の計画を理解したようです。
 ということで、さっそくリストの横に必要な金額を書き記していくことにしましょう。
 ええ、宝石の希少価値と美しさに目を奪われて、正規の金額をはじき出せなかったそちらの執務官に問題がありますので。
 それと、この外野の貴族の皆さん、彼らがここにいるというのは私の案ではありませんでしたよ。
 おそらくはクレアさんが勝利しそうになった時にクレームを入れようとさせていたのでしょうけれど、今は彼らは私の味方です。

「では、こちらを三日以内にお願いします」

 改めて金額が記されたリストをマクガイア子爵にお渡しします。
 さて。
 どのような反応が見られるのでしょうか。

「よかろう。この程度のはした金……え、ちょっと待て、この金額は正確ものなのか?」
「ええ。それにつきましては、執務官の方も鑑定でご確認できていたかと思います。今回はお祝いということで、その金額よりかなり割安にてご提供させていただきます。総額で青銀貨1200枚、よろしくお願いします」

――ガタッ
 あ、シャトレーゼ伯爵が椅子から落ちた。
 まあ、そうでしょうねぇ。
 こんな金額になるなんて、私も予想をしていませんでしたので。
 
「ば、馬鹿な、こんな金額が払えるはずがないだろうが! どうしてこのような金額になっているのだ?」
「え、すべての装飾品に黒真珠もしくは虹真珠があしらわれていますので。この黒真珠の希少価値につきましては、ご聡明なマクガイア子爵ならご存じかと思われますが。かの南方諸島連合王国でもご禁制、取り扱うことが許されているのは王家のみ。希少な魔導具にとって必要な核でもあり、年間でも一つないし二つしかとれない希少な品。確かに、貴婦人の胸元や耳元を飾るのにはふさわしい一品かと思いますけれど」
「ち、ちょっと待て、今回のこのリストの商品、これは貴様からの祝いの品として献上することを許す、だからすみやかにリストの商品を寄越せ!!」
「それは異なことをおっしゃいますな、マクガイア子爵」

 あ、シャトレーゼ伯爵がお怒りですね。
 そりゃあそうでしようとも。
 金は払えない、だから寄越せってどこの我儘貴族ですか。

「あ、いや、シャトレーゼ伯爵、違います、今の言葉は違うのです。こんな貴族のルールを知らない小娘に、貴族としてのあらかたを学ばせるという意味で行っただけなのです。それはこの小娘も理解しているとおもいます、ええ」

 必死に言い訳をするマクガイア子爵。
 ですが、この場にいる他の貴族は、貴方に対して侮蔑とか嘲笑といった笑みにも見えるのですけれど。
しおりを挟む
感想 764

あなたにおすすめの小説

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。