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十五卦・園遊会の裏事情と、洪氏の事情
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華やかな園遊会。
その裏では、劉皇帝の暗殺および北夷による奇襲作戦に対する対策が行われ、洪氏を始めとする東廠に所属する武官らが行動を開始。
蓬仙城の周辺に潜み、外苑に潜入した同志からの連絡を待っていた北夷の軍勢を悉く殲滅・捕縛すると、今回の暗殺を企てていた張本人も無事に拘束することができた。
皇帝暗殺を目論んでいたのは、北夷と内通していた東廠に所属する高泽。
道士である彼は、南方統括領の責任者である都護府長官を巻き込み、『暗殺者が用いる毒の研究と対策』という名目で彼に様々な毒魚などを提供。
それらを用いて『蟲毒』なる秘術を行い、正体不明の毒の生成を行っていたのである。
彼がこの暗殺計画を失敗した理由は二つ。
一つ目は、後宮にいる白梅について、その正体も何も知らなかったこと。
そしてもう一つは、帝都に潜入した北夷の奇襲部隊を東廠の武人たちによっていともたやすく制圧されたこと。
洪氏自らが鍛え上げた武人たち、それは伝説の四十八豪傑に等しい実力を持つ。
そしてこの一件により、北方の果てにある『極北征地』と呼ばれる蛮族の城塞より、新たに和睦の使者が訪れ、長年抵抗を続けていた北夷が華大国に下ることとなったという。
………
……
…
「へえ、そんなことがあったのですか。いやあ、私にはさっぱりわからない事ばかりですねぇ」
園遊会から一月後。
白梅はいつものように麗人の姿に変化し、これまたいつものように相談所にて侍女や妃妾らの悩みを聞いている。
ここ最近は、皇貴妃らからの相談事はかなり減り、代わりに中級妃や下級妃から、主上の気を引くためにはどうしたらよいか、とか、夜伽にて主上を虜とするための秘術を授けてくださいといった下世話な相談も増えている。
まあ、外見は眉目秀麗な男性、にっこりとほほ笑んで村にいた近所の大姐たちから聞いた話でごまかしているものの、所詮中身は15歳の少女。
男性と付き合ったこともなれば、好きになった異性というのも存在しない。
それでもどうにか対応が出来ているのは、耳年増の白梅ならではというところであろう。
「まあ、相談役にはあまり関係のない話でね。そしてここからが本題。近々、この後宮に新たに妃妾が参ることになった」
「参る……ということは、それなりの身分なのですね。それは、どういった方で?」
「そうさなぁ。あ、すまないけれど、甜茶のお代わりを頂けるかな」
「朕も甜茶を所望する」
洪氏の隣で、椅子に座ってのんびりとしている劉皇帝。
園遊会以降、白梅のもとを頻繁に訪れるようになった。
ここ最近は、三日に一度はやって来て、やれ甜茶だやれ菓子だとせっついては、洪氏や皇貴妃を交えて出張お茶会のようなものを楽しんでいる。
それに、白梅についても今までよりも親しく話しかけるようになり、彼女もそれなりに口調を解きほぐして話すように努めている。
もっとも、相談所の外や室内で控えている官吏たちは気が気でないのだが、劉皇帝はそのようなことは意に返さず、雨桐美人の琵琶に耳を傾けつつ、喉かな時間を過ごしている。
「はい、少々お待ちを……」
すぐさま甜茶のお代わりを入れると、直接彼女が毒見をしたのち、熱いうちに劉皇帝に提供される。
毒見を挟むことで出来立ての料理も覚めてしまうことがあるのだが、白梅を通すことでその手間を一つ飛ばし、アツアツのうちに供されるようになった。
「うむ。やはり白梅の入れる甜茶は格別だな」
「ねぇ、白梅さん。今度、私にも淹れ方を教えて頂けるかしら?」
楽しそうに甜茶を飲む主上を見て、紫瑞妃も嫉妬心ならぬ対抗心を燃やし、彼女に淹れ方を教えて欲しいとせがむ。もっとも。それを断れる白梅ではない故、後日、改めてということで話はそれで終わるのだが。
白梅の入れた甜茶は、須弥村特製の素材。当然ながら尚食局には素材など入荷されていないため、当面は白梅の手持ちを分けて貰い、それを一般の甜茶に混ぜて出すようにするしかない。
「それで、新しい妃妾がくるということは、私の仕事が一人分……いえ、侍女も含めてそれなりの人数が増えるということですよね。それならそれで、今までと大して変わりませんけれど」
「この度、北夷の王族より第二王女が輿入れすることになった。当然ながら、北夷の蛮族は我が華大国の文化や風習など知らぬだろう。ゆえに、それなりの侍女も伴っての宮入りとなる」
ふむふむと頷きつつ、白梅は真剣な顔つきで主上の話を聞いているのだが。
「北夷の姫さま……ということは、上級妃ということでしょうか」
「うむ。明後日より、青鸞《セイラン》宮は大改修を行う。たとえ敵国の姫といえど、後宮に入るのならば華大国の流儀を学んでもらうことになるが。まあ、当分の間、慣れるまでは様子を見ることになるだろう。ということだ、白梅、よろしく頼むぞ」
「御意」
速やかに頭を下げて礼を行う。
「我が君、あまり異国の姫ばかりを寵愛なされぬように。私をはじめ、碧華妃や翔賢妃がやきもちを焼いてしまいます」
「わかっておる。北夷としては、朕の暗殺未遂と帝都襲撃の責務を逃れるための和睦であること承知しているそれに、これから冬がくる。平原を失った北夷にとっては、食糧事情などで辛い思いをすることになる故、援助を求めるという意味合いからも、姫を一人輿入れさせたかったのだろう。まあ、名目はどうあれ、人質という意味合いもあるのでな」
万が一にも、和睦を一方的に破棄して侵攻を開始した場合、第二王女の命がどうなるかという脅しとしても有効。また、北夷もそれを踏まえたうえで、華大国に服従しますという意味として王女を献上したのであろう。
いずれにしても、一人の道士による暗殺未遂事件は、こうして幕を閉じたのである。
「それにしても、道士・高泽は何故、このような計画を練ったのでしょうか」
「それにつきましては、私からご説明申し上げます。ようやく高泽が、すべてを話しましたので」
洪氏が袖から一本の巻物を取り出すと、そこに記されている文言をゆっくりと読み上げる。
すべては、先帝の崩御から始まった。
帝位を継承するのは先帝の東宮である劉潚であり、これは決定事項。
だが、高泽は劉潚には帝位を受け継ぐ力が無いことを感じ、女東宮であった楊麗公主に帝位を継がせたいと思い、様々な策を練り始めた。
その一つが、今回の劉皇帝暗殺である。
実に長い計画でありながら、その間に高泽は北夷の間諜と連絡を密にとり、楊麗公主が女帝となった暁には北部平原を北夷に譲渡するという密約まで交わしていたのである。
この二十五年という歳月は、高泽が華大国をより強大な国家として作り替えるための準備期間にすぎず。彼にとっての皇帝は先帝であり、その忠義は先帝と彼の愛した華大国にしか注がれていない。
そして念願の暗殺計画が発令したのだが、たった一人の仙女によってすべては無に帰してしまったという。
ちなみに楊麗公主は、高泽による帝位簒奪からの女帝即位についてはなにも知らされておらず、封土された西方の地にて面白おかしく暮らしているという。
「……以上です。30日のち、高泽は凌遅(処刑)となります」
その洪氏の言葉に、劉皇帝は右手を上げてそれ以上の言葉を制する。
「全く、馬鹿なことを……しかし、よりにもよって、我が姉である楊麗を女帝に祀り上げようとは。もう少し奇知あらば、擁立するのは姉上ではなく我が弟であろうと思い付くはずだが」
白梅は劉皇帝の姉や弟については知らない。
田舎育ち故、皇帝の名前でさえ都に出てきてから知ったというぐらい世事に疎い。
そのため、このような質問が出てもおかしくはなかったのだが。
「失礼ながら。主上さまの姉上は今のお話で知ることが出来ましたが、皇弟さまもいらっしゃったのですね」
「ああ。白梅よ、右を向け」
「御意」
劉皇帝のいうがままに右を向くと、困った顔をしている洪氏が座っているのみ。
「我が弟の炎彬《ヤンピン》ならば、そこに座っているであろうが」
「失礼ながら、私の隣には洪氏殿しか座っておりませぬが」
「だから、洪炎彬が、朕の弟だと説明している。母は皇太后ではなく、洪氏に下賜された妃妾であったがな。先帝の後宮に住まう中級妃の修儀・蘭雪が炎彬の母に当たる。つまり、腹は違えど朕の弟に間違いはない」
その説明を聞いて、暫くの間、白梅は主上の言葉を必死に脳内反芻する。
そしてようやく全てを理解したのだが、最初に話した言葉はとんでもないものであった。
「え、洪氏さまは、まだ 玉茎が残っていたのですか。てっきり宦官かと思っていました」
「阿呆。東廠務めの官吏の半分は宦官ではない。武官としての立場もある故、宦官になどしたらその資質が失われて仕舞うだろうが。もっとも最も東廠務めの男性管理でも、宦官のみしか後宮に入ることは許されていない。その例外が、東廠長とその補佐、そして朕のみだな」
「ありがとうございます。では、今後は洪氏さまのことをどのようにおよびすればよろしいでしょうか」
うやうやしく問いかける白梅に、洪氏も思わず苦笑してしまう。
「ここでの話は、皇太后さまと主上さま、そして皇貴妃さましか知らないこと。ゆえに、今までどおりで構いませんよ」
「御意……ということですね」
「その通りだよ、私は東廠長であり白梅の雇い主、今後もそういうことで」
困り顔の洪氏がそう告げるので、白梅もそれの言葉に習うことにした。
初めて会った時、洪氏が腰ひもに下げていた佩玉は羊脂玉。白い翡翠の意味するものは、不吉や死、そして凶兆という忌み嫌われる色であると同時に、清廉や才徳といった意味合いも持つ。
皇帝の血筋でありながら表には出られない存在、それでいて皇帝を陰で支えるという立場。
洪氏が羊脂玉の佩玉を下げるという意味は、そういうことなのかも知れないと白梅は感じ取っていた。
なお、今の劉皇帝の話を聞きつつ静かに琵琶を奏でていた雨桐美人は、心臓が止まりそうなほどの動揺に際悩まされていたが。
「雨桐よ、分かっているな」
「御意にございます」
劉皇帝の一言で、雨桐美人も我に戻り、琵琶を奏で続けていた。
その裏では、劉皇帝の暗殺および北夷による奇襲作戦に対する対策が行われ、洪氏を始めとする東廠に所属する武官らが行動を開始。
蓬仙城の周辺に潜み、外苑に潜入した同志からの連絡を待っていた北夷の軍勢を悉く殲滅・捕縛すると、今回の暗殺を企てていた張本人も無事に拘束することができた。
皇帝暗殺を目論んでいたのは、北夷と内通していた東廠に所属する高泽。
道士である彼は、南方統括領の責任者である都護府長官を巻き込み、『暗殺者が用いる毒の研究と対策』という名目で彼に様々な毒魚などを提供。
それらを用いて『蟲毒』なる秘術を行い、正体不明の毒の生成を行っていたのである。
彼がこの暗殺計画を失敗した理由は二つ。
一つ目は、後宮にいる白梅について、その正体も何も知らなかったこと。
そしてもう一つは、帝都に潜入した北夷の奇襲部隊を東廠の武人たちによっていともたやすく制圧されたこと。
洪氏自らが鍛え上げた武人たち、それは伝説の四十八豪傑に等しい実力を持つ。
そしてこの一件により、北方の果てにある『極北征地』と呼ばれる蛮族の城塞より、新たに和睦の使者が訪れ、長年抵抗を続けていた北夷が華大国に下ることとなったという。
………
……
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「へえ、そんなことがあったのですか。いやあ、私にはさっぱりわからない事ばかりですねぇ」
園遊会から一月後。
白梅はいつものように麗人の姿に変化し、これまたいつものように相談所にて侍女や妃妾らの悩みを聞いている。
ここ最近は、皇貴妃らからの相談事はかなり減り、代わりに中級妃や下級妃から、主上の気を引くためにはどうしたらよいか、とか、夜伽にて主上を虜とするための秘術を授けてくださいといった下世話な相談も増えている。
まあ、外見は眉目秀麗な男性、にっこりとほほ笑んで村にいた近所の大姐たちから聞いた話でごまかしているものの、所詮中身は15歳の少女。
男性と付き合ったこともなれば、好きになった異性というのも存在しない。
それでもどうにか対応が出来ているのは、耳年増の白梅ならではというところであろう。
「まあ、相談役にはあまり関係のない話でね。そしてここからが本題。近々、この後宮に新たに妃妾が参ることになった」
「参る……ということは、それなりの身分なのですね。それは、どういった方で?」
「そうさなぁ。あ、すまないけれど、甜茶のお代わりを頂けるかな」
「朕も甜茶を所望する」
洪氏の隣で、椅子に座ってのんびりとしている劉皇帝。
園遊会以降、白梅のもとを頻繁に訪れるようになった。
ここ最近は、三日に一度はやって来て、やれ甜茶だやれ菓子だとせっついては、洪氏や皇貴妃を交えて出張お茶会のようなものを楽しんでいる。
それに、白梅についても今までよりも親しく話しかけるようになり、彼女もそれなりに口調を解きほぐして話すように努めている。
もっとも、相談所の外や室内で控えている官吏たちは気が気でないのだが、劉皇帝はそのようなことは意に返さず、雨桐美人の琵琶に耳を傾けつつ、喉かな時間を過ごしている。
「はい、少々お待ちを……」
すぐさま甜茶のお代わりを入れると、直接彼女が毒見をしたのち、熱いうちに劉皇帝に提供される。
毒見を挟むことで出来立ての料理も覚めてしまうことがあるのだが、白梅を通すことでその手間を一つ飛ばし、アツアツのうちに供されるようになった。
「うむ。やはり白梅の入れる甜茶は格別だな」
「ねぇ、白梅さん。今度、私にも淹れ方を教えて頂けるかしら?」
楽しそうに甜茶を飲む主上を見て、紫瑞妃も嫉妬心ならぬ対抗心を燃やし、彼女に淹れ方を教えて欲しいとせがむ。もっとも。それを断れる白梅ではない故、後日、改めてということで話はそれで終わるのだが。
白梅の入れた甜茶は、須弥村特製の素材。当然ながら尚食局には素材など入荷されていないため、当面は白梅の手持ちを分けて貰い、それを一般の甜茶に混ぜて出すようにするしかない。
「それで、新しい妃妾がくるということは、私の仕事が一人分……いえ、侍女も含めてそれなりの人数が増えるということですよね。それならそれで、今までと大して変わりませんけれど」
「この度、北夷の王族より第二王女が輿入れすることになった。当然ながら、北夷の蛮族は我が華大国の文化や風習など知らぬだろう。ゆえに、それなりの侍女も伴っての宮入りとなる」
ふむふむと頷きつつ、白梅は真剣な顔つきで主上の話を聞いているのだが。
「北夷の姫さま……ということは、上級妃ということでしょうか」
「うむ。明後日より、青鸞《セイラン》宮は大改修を行う。たとえ敵国の姫といえど、後宮に入るのならば華大国の流儀を学んでもらうことになるが。まあ、当分の間、慣れるまでは様子を見ることになるだろう。ということだ、白梅、よろしく頼むぞ」
「御意」
速やかに頭を下げて礼を行う。
「我が君、あまり異国の姫ばかりを寵愛なされぬように。私をはじめ、碧華妃や翔賢妃がやきもちを焼いてしまいます」
「わかっておる。北夷としては、朕の暗殺未遂と帝都襲撃の責務を逃れるための和睦であること承知しているそれに、これから冬がくる。平原を失った北夷にとっては、食糧事情などで辛い思いをすることになる故、援助を求めるという意味合いからも、姫を一人輿入れさせたかったのだろう。まあ、名目はどうあれ、人質という意味合いもあるのでな」
万が一にも、和睦を一方的に破棄して侵攻を開始した場合、第二王女の命がどうなるかという脅しとしても有効。また、北夷もそれを踏まえたうえで、華大国に服従しますという意味として王女を献上したのであろう。
いずれにしても、一人の道士による暗殺未遂事件は、こうして幕を閉じたのである。
「それにしても、道士・高泽は何故、このような計画を練ったのでしょうか」
「それにつきましては、私からご説明申し上げます。ようやく高泽が、すべてを話しましたので」
洪氏が袖から一本の巻物を取り出すと、そこに記されている文言をゆっくりと読み上げる。
すべては、先帝の崩御から始まった。
帝位を継承するのは先帝の東宮である劉潚であり、これは決定事項。
だが、高泽は劉潚には帝位を受け継ぐ力が無いことを感じ、女東宮であった楊麗公主に帝位を継がせたいと思い、様々な策を練り始めた。
その一つが、今回の劉皇帝暗殺である。
実に長い計画でありながら、その間に高泽は北夷の間諜と連絡を密にとり、楊麗公主が女帝となった暁には北部平原を北夷に譲渡するという密約まで交わしていたのである。
この二十五年という歳月は、高泽が華大国をより強大な国家として作り替えるための準備期間にすぎず。彼にとっての皇帝は先帝であり、その忠義は先帝と彼の愛した華大国にしか注がれていない。
そして念願の暗殺計画が発令したのだが、たった一人の仙女によってすべては無に帰してしまったという。
ちなみに楊麗公主は、高泽による帝位簒奪からの女帝即位についてはなにも知らされておらず、封土された西方の地にて面白おかしく暮らしているという。
「……以上です。30日のち、高泽は凌遅(処刑)となります」
その洪氏の言葉に、劉皇帝は右手を上げてそれ以上の言葉を制する。
「全く、馬鹿なことを……しかし、よりにもよって、我が姉である楊麗を女帝に祀り上げようとは。もう少し奇知あらば、擁立するのは姉上ではなく我が弟であろうと思い付くはずだが」
白梅は劉皇帝の姉や弟については知らない。
田舎育ち故、皇帝の名前でさえ都に出てきてから知ったというぐらい世事に疎い。
そのため、このような質問が出てもおかしくはなかったのだが。
「失礼ながら。主上さまの姉上は今のお話で知ることが出来ましたが、皇弟さまもいらっしゃったのですね」
「ああ。白梅よ、右を向け」
「御意」
劉皇帝のいうがままに右を向くと、困った顔をしている洪氏が座っているのみ。
「我が弟の炎彬《ヤンピン》ならば、そこに座っているであろうが」
「失礼ながら、私の隣には洪氏殿しか座っておりませぬが」
「だから、洪炎彬が、朕の弟だと説明している。母は皇太后ではなく、洪氏に下賜された妃妾であったがな。先帝の後宮に住まう中級妃の修儀・蘭雪が炎彬の母に当たる。つまり、腹は違えど朕の弟に間違いはない」
その説明を聞いて、暫くの間、白梅は主上の言葉を必死に脳内反芻する。
そしてようやく全てを理解したのだが、最初に話した言葉はとんでもないものであった。
「え、洪氏さまは、まだ 玉茎が残っていたのですか。てっきり宦官かと思っていました」
「阿呆。東廠務めの官吏の半分は宦官ではない。武官としての立場もある故、宦官になどしたらその資質が失われて仕舞うだろうが。もっとも最も東廠務めの男性管理でも、宦官のみしか後宮に入ることは許されていない。その例外が、東廠長とその補佐、そして朕のみだな」
「ありがとうございます。では、今後は洪氏さまのことをどのようにおよびすればよろしいでしょうか」
うやうやしく問いかける白梅に、洪氏も思わず苦笑してしまう。
「ここでの話は、皇太后さまと主上さま、そして皇貴妃さましか知らないこと。ゆえに、今までどおりで構いませんよ」
「御意……ということですね」
「その通りだよ、私は東廠長であり白梅の雇い主、今後もそういうことで」
困り顔の洪氏がそう告げるので、白梅もそれの言葉に習うことにした。
初めて会った時、洪氏が腰ひもに下げていた佩玉は羊脂玉。白い翡翠の意味するものは、不吉や死、そして凶兆という忌み嫌われる色であると同時に、清廉や才徳といった意味合いも持つ。
皇帝の血筋でありながら表には出られない存在、それでいて皇帝を陰で支えるという立場。
洪氏が羊脂玉の佩玉を下げるという意味は、そういうことなのかも知れないと白梅は感じ取っていた。
なお、今の劉皇帝の話を聞きつつ静かに琵琶を奏でていた雨桐美人は、心臓が止まりそうなほどの動揺に際悩まされていたが。
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