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十四卦・園遊会と暗殺未遂と
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慌ただしい時が流れていき。
園遊会が始まる。
「さて、白梅さん、そろそろ場所を移動しますよ……と」
──ゴギッガギッ、ゴキグガガッ
洪氏が白梅を迎えに来た時。
ちょうど相談所の中では、白梅が骨格を組み替えている真っ最中であった。
「あ、洪氏さま、今しばらくお待ちを……と、足はもう少し短くして……年齢的に十八歳ぐらいで、大人びた女性の雰囲気を……と、やっばり胸も必要だよなぁ、筋肉を寄せて隆起させて……と」
身長六尺ほどの麗人が、みるみるうちに五尺ほどに縮んでいく。
広い肩幅もなで肩となり、全体的に丸みを帯びた女性的外見を作り上げると、最後に髪を腰まで伸ばし、ゆっくりと束ねていく。
洪氏も、白梅の変態的変化術を見るのは二度目であるのだが、今、目の前に姿を現した白梅の姿は、皇貴妃に勝るとも劣らない美女に仕上がっている。
胸元にある二つの胸のふくらみといい、艶めかしい腰つきといい。
男好きするような肉体に仕上がっていた。
「はぁ……なあ白梅、いくらなんでも、こまで変化する必要はあったのか?」
「これは主上の勅命ですから。本日の毒見役も仰せつかっていますし、私の正体については、外延の誰にも悟られてはならぬと命じられています。それに、今日の私の名は白梅ではありません。紅梅花とでもおよびください」
どうしても梅の文字は入るのだなとツッコミを入れそうになるのを、洪氏はぐっと堪える。
そして奥の自室で、主上の執務先である蘭亭宮の侍女の制服に着替えて化粧を施し、白梅は変装を終わらせて出てくる。
「全く。馬子にも衣装というか、よくもまあ、ここまで別人に化けられるものだなぁ」
「あまりじろじろと見ないでくださいね。どうしても顔の骨格だけは変化させられませんので、筋肉をうまく分配して誤魔化しているのですから」
ぷぅっとふくれっ面をして文句を言う白梅。
だが、彼女のその変装など、誰が見抜けるものかと心の中でツッコミをいれつつ、洪氏は白梅を伴って相談所から外に出ると、そのまま後宮南門の回廊を抜け、外延へと向かっていった。
そして園遊会の茶席の用意してある天幕の近くまでたどり着くと、そこにある侍女たちの控えの間に白梅を案内した。
「……まあ、こうなるよなぁ」
侍女達の控える天幕。
その中は蘭亭宮の侍女や女官達が待機し、様々な楽器や衣装、そして茶器などの準備に余念がない。
「これは洪氏さま。今日はわざわざ御足労いただき、ありがとうございます」
その女官の一人が洪氏の元を訪れて挨拶を交わすと、チラリと白梅の方に視線を走らせる。
「今日は宜しくお願いします。それで、この子が本日の毒味役を務めさせていただきます。すでに主上にも御目通りしてありますので」
「はい。連絡は承っています。それでは、茶会まではここで控えるか、もしくは他の次女達のように外を散策してはいかがでしょうか? ここは間も無く楽士達が使いますので」
園遊会の席は、外苑南東に位置する庭園で行われる。
高官や招待された地方豪族などは、庭園を自由に散策し、いくつも作られた茶席にて喉を潤し語らい合う。
それぞれに楽士が控えており、会話の邪魔にならないように少し抑えた音色を奏でており、侍女たちは来客や高官たちに少しでもお目見えできるようにと、甲斐甲斐しく世話を行う。
「そうですね。それでは、お時間まで散策にでも……いえ、私は別席にて控えています。それでは、失礼します」
園遊会など初めての白梅であるが、あまり目立ったことはしないようにと洪氏に釘を刺されているため、時間まではこの天幕の隅で静かに過ごす。
本当ならば、散策がてら高官などを遠目に眺めて、瘴気呑兵衛有無を確認したかったのだが。
それさえも難しいとなると、あとは頼るのは星の流れのみ。
「まあ、嫌な予感しかしないんだけれどねぇ……さて、どんな星が流れてくることやら」
懐から木札を取り出し、卓がないので手の中で混ぜ合わせる。
そして束ねた一番上を巡った瞬間、白梅の顔色が曇る。
「鴆……はぁ、毒を盛られるのは確定かぁ」
鴆という鳥は、毒蛇を常食し体内に毒を蓄える奇鳥。
それが一枚目に現れるということは、すなわち宴席にて毒が盛られるか、毒を守るものが存在するということ。
この時点で白梅は易を止めたくなったものの、一度始めたものは最後までおこなわなくては、現れる結果は自分に降りかかる。
それ故に、二枚目を開いで頭を傾げてしまう。
「刃を構える要離《ようり》。たしか、古い時代の暗殺者だったよな? これで暗殺が行われることは確定、毒を用いるので宴席にて毒を盛られることも確定か……はぁ、最悪なものしか出てこないわ」
札を開くと鬱になる。
そんな気がしつつも、白梅は続けて三枚目を開く。
「馬に乗る敬瑭《けいとう》と、大地を指差す道士……あはん?」
敬瑭……馬敬瑭という人物は戦争に関する歴史書には必ずと言ってよいほど名を連ねる、北方蛮族、つまり北夷出身の皇帝。
華大国がまだ成立せず、大小様々な国が群雄割拠していた時代、敬瑭はある大国に支えていた高官であり、狡猾な手腕で自国の領土を他国や故郷の北方民族に切り売りしていた、いわば『反逆者』である。その後に開いた札に記されている道士は大地を指差し、なにかを啓示している。
「最後は……はい、決定、全て見えたわ。こりゃあ、かなりやばいぞ」
最後の一枚は、赤く染められた城塞。
これらから白梅が導き出した、これから起こる命運。
それを伝えるために、白梅は天幕を飛び出して洪氏を探し始めた。
………
……
…
やがて、宴席が始まる。
一際大きな宴席に劉皇帝が座し、その左右後方に皇貴妃らが座る四席が用意される。
その傍らにそれぞれの毒味役が座り、皇帝及び皇貴妃らに給われる食事の毒味を行うのだが、一部の交換や官吏、宦官らは毒味役の様子を見るのが楽しみな、つまり悪趣味なもの達も多い。
白梅……紅梅花も主上斜め後ろの席につき、毒味の準備を始める。
そしていよいよ茶宴が始まり、食事が一品ずつ運び込まれる。
最初は冷箪(前菜)から始まり、次は汤《スープ》、そして大菜、大件と続く。
ご飯や麺類などで腹を満たしたのち、最後に点心などの甘いもので締めくくる。
すでに菜单は白梅には知らされているため、それに組み込まれる可能性のある毒の種類を吟味……と行きたいところではありが、白梅は毒物に関しての基礎知識はほんの僅かしかもっておらず、、あとは食べてみてから判断しなくてはならない。
不思議なことに、白梅は食べてみれば、それが何であるのか、どのような効果なのかは理解することができるので、まずは恐れることなく食べなくてはならないのである。
「ふむふむ。銀盤に三種涼菜の盛り合わせと。でも、流石は毒見用、量が少しだけかぁ
。それでは失礼して」
銀箸で一つ一つを吟味し、持てる限りの知識を動員。
そして毒見を開始するのだが、そのあまりのおいしさに白梅も仕事を忘れそうになる。
(ふむふむ、これはまた絶妙な……と、うん、全て問題なし)
最後に口を漱ぎ布で口元を押さえ、にっこりとほほ笑んで何も問題が無いことを告げる。
それで主上をはじめ、皇貴妃らも安心して食事を始めることが出来る。
ただ、集まっていた高官や官吏の中からは、あの主上の毒見役はなにものだとか、後宮の新しい妃妾なのかと騒がしくなっている。
事実、皇貴妃らも紅梅花が変装した白梅と告げられるまでは、ついに青鸞宮の主人、つまり賢妃に輿入れする女性が決まったのかとも気が気でなかったのである。
もっとも、三人の前に顔を出して挨拶をした直後、どう変装すればその美貌をに入れられるのかとか、たわわに実った椰子の実のような胸をどうやって作り上げたのかと質問攻めが行われた。
「てば、楽しい宴となるよう、諸君らもゆっくりと飲み、語らってくれ」
劉皇帝の言葉で、あちこちの席が華やかになる。
女官たちが食事を運び込み、酌をおこない始めると、下座にいた楽師たちが雅な曲を奏で始める。
園遊会の席は無礼講という習わしではあるものの、皆、節度を持って楽しく食べ、飲み、語らっている。
そして皇貴妃らもようやく落ち着いて食事を取り始めると、時折、毒見を続けている白梅をチラリとみている。
他の毒見役も白梅が食べ始めてから毒見を行うようにしていたため、安全をかく乱してから再度、毒見をするようなかたちとなっていたのだが。
「次は……酸菜白肉火鍋か。少しずつ取り分けて、一つの大碗に納められているのか。まあ、この酸味は酸菜、海鮮までわざわざ取り寄せてきたとは、流石は皇帝……と、ん?」
慎重に食べ進めていると、ふと、奇妙な感覚に気が付く。
今まで感じたことのない違和感、そして白梅の知らない毒性。
それが含まれているのを、彼女は感覚的に感じた。
だから、ゆっくりと食べているそぶりを見せつつも、左手の指で机をコンコン、と小さく叩く。
その仕草は『毒が仕込まれています』ということを示しており、あらかじめ白梅の様子のみを注意して観察している宦官がそのことを別の方法で皇貴妃および劉皇帝に合図を送る。
(この程度は、仙気が体内に残っている主上や皇貴妃らは大丈夫たげれど……)
そのまま他の素材も食べていくが、どれもほんの少しずつ、違う毒が仕込まれている。
華大国は大陸中元から北方に位置するものの、最南端は海に面しているため、今回のような園遊会には海産物も多種多様に運び込まれる。
それらの中では、毒性について詳しく知らされていないものが多く、白梅の食べた料理にも少量の毒が含まれていた。
「まあ、何も知らず食べてみて……うん、即効性はないけど……ああ、そういうことか」
毒によっては、微量ずつ摂取することで体内に強力な毒に変化するものもある。
白梅はそれを肌で実感したと同時に、この毒の正体も理解することが出来た。
それゆえ、机をダン、と強く叩いたのち、口から食べたものを嘔吐してその場に倒れたフリをする。
「グッ……な、なんだと……っっ」
そして劉皇帝も胸元抑え苦しそうな形相を見せると、卓の前に倒れるように崩れ、打ち臥してしまう。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
近くの女官が悲鳴を上げ、東廠所属の護衛が劉皇帝の周りを固め、医官が駆け寄っていく。
「すぐに嘔吐剤を与えます、少々お待ちを」
そう告げて鞄から薬を包んだ紙を取り出し、医官が劉皇帝に近寄った瞬間。
――ドッゴォォォォォォォォォォォッ
突然、医官が後ろに吹き飛ぶ。
一瞬で劉皇帝と医官の間に縮地した紅梅花が、医官の胸元めがけて肘撃を叩き込んだのである。
「なっ、何をする、医官に対してなんということを」
「貴様は何ものだっ!!」
まさかの医官に対しての無礼、そう思い激昂する高官たち。
だが、紅梅花は医官が薬を手にした時、その掌に針が仕込んであったのを見逃していない。
つかつかと医官に近寄り、右手を踏み上げてから掌の針を指さすと。
「これは毒針です。南方の海に住んでいるという、蓝圈章鱼の毒が仕込まれています。微弱な毒で主上の具合を悪くさせてから、駆けつけた医官がこの針でとどめを刺す。まったく、手の込んだ暗殺ですこと」
淡々と説明する紅梅花に、高官たちはざわめく。
だが、この宴席にて暗殺者が来ること、白梅と主上が毒に侵されて倒れる演技を行い、その暗殺者を引きずり込むこと、それらの策についての説明を受けていた東廠の護衛たちは動揺することもなく、ゆっくりと体を起こして頭を左右に振っている劉皇帝に頭を垂れた。
「そのものを連れていけ。いいか、朕の暗殺を計画したものを吐かせろ!!」
「御意」
駆けつけた武官により、医官は外に連れ出される。
そしてまだ騒ぎが収まりきらないというのに、劉皇帝はスッと手を上げて楽士に曲を奏でるように催促すると、整えられた卓に運び込まれた酒をてに、のんびりと飲み始める。
「さて、つまらん輩によって騒ぎが起きたようだが、これもまた園遊会の一興。もう毒はないと思うので、安心して続けるがよい」
高らかに告げてから、劉皇帝はまた、何事もなかったかのように食事を続ける。
この豪胆さもまた、劉宇帝の持つ資質であると高官たちは改めて思い知らされることになった。
そして、劉皇帝の命を救った紅梅花という美女、彼女が何者なのかという話が宴席でも飛び交うようになったのだが、彼女は東廠所属であり、暗殺を未遂に防ぐための女官であることのみが告げられ、その正体については誰も知ることが出来なかったという。
園遊会が始まる。
「さて、白梅さん、そろそろ場所を移動しますよ……と」
──ゴギッガギッ、ゴキグガガッ
洪氏が白梅を迎えに来た時。
ちょうど相談所の中では、白梅が骨格を組み替えている真っ最中であった。
「あ、洪氏さま、今しばらくお待ちを……と、足はもう少し短くして……年齢的に十八歳ぐらいで、大人びた女性の雰囲気を……と、やっばり胸も必要だよなぁ、筋肉を寄せて隆起させて……と」
身長六尺ほどの麗人が、みるみるうちに五尺ほどに縮んでいく。
広い肩幅もなで肩となり、全体的に丸みを帯びた女性的外見を作り上げると、最後に髪を腰まで伸ばし、ゆっくりと束ねていく。
洪氏も、白梅の変態的変化術を見るのは二度目であるのだが、今、目の前に姿を現した白梅の姿は、皇貴妃に勝るとも劣らない美女に仕上がっている。
胸元にある二つの胸のふくらみといい、艶めかしい腰つきといい。
男好きするような肉体に仕上がっていた。
「はぁ……なあ白梅、いくらなんでも、こまで変化する必要はあったのか?」
「これは主上の勅命ですから。本日の毒見役も仰せつかっていますし、私の正体については、外延の誰にも悟られてはならぬと命じられています。それに、今日の私の名は白梅ではありません。紅梅花とでもおよびください」
どうしても梅の文字は入るのだなとツッコミを入れそうになるのを、洪氏はぐっと堪える。
そして奥の自室で、主上の執務先である蘭亭宮の侍女の制服に着替えて化粧を施し、白梅は変装を終わらせて出てくる。
「全く。馬子にも衣装というか、よくもまあ、ここまで別人に化けられるものだなぁ」
「あまりじろじろと見ないでくださいね。どうしても顔の骨格だけは変化させられませんので、筋肉をうまく分配して誤魔化しているのですから」
ぷぅっとふくれっ面をして文句を言う白梅。
だが、彼女のその変装など、誰が見抜けるものかと心の中でツッコミをいれつつ、洪氏は白梅を伴って相談所から外に出ると、そのまま後宮南門の回廊を抜け、外延へと向かっていった。
そして園遊会の茶席の用意してある天幕の近くまでたどり着くと、そこにある侍女たちの控えの間に白梅を案内した。
「……まあ、こうなるよなぁ」
侍女達の控える天幕。
その中は蘭亭宮の侍女や女官達が待機し、様々な楽器や衣装、そして茶器などの準備に余念がない。
「これは洪氏さま。今日はわざわざ御足労いただき、ありがとうございます」
その女官の一人が洪氏の元を訪れて挨拶を交わすと、チラリと白梅の方に視線を走らせる。
「今日は宜しくお願いします。それで、この子が本日の毒味役を務めさせていただきます。すでに主上にも御目通りしてありますので」
「はい。連絡は承っています。それでは、茶会まではここで控えるか、もしくは他の次女達のように外を散策してはいかがでしょうか? ここは間も無く楽士達が使いますので」
園遊会の席は、外苑南東に位置する庭園で行われる。
高官や招待された地方豪族などは、庭園を自由に散策し、いくつも作られた茶席にて喉を潤し語らい合う。
それぞれに楽士が控えており、会話の邪魔にならないように少し抑えた音色を奏でており、侍女たちは来客や高官たちに少しでもお目見えできるようにと、甲斐甲斐しく世話を行う。
「そうですね。それでは、お時間まで散策にでも……いえ、私は別席にて控えています。それでは、失礼します」
園遊会など初めての白梅であるが、あまり目立ったことはしないようにと洪氏に釘を刺されているため、時間まではこの天幕の隅で静かに過ごす。
本当ならば、散策がてら高官などを遠目に眺めて、瘴気呑兵衛有無を確認したかったのだが。
それさえも難しいとなると、あとは頼るのは星の流れのみ。
「まあ、嫌な予感しかしないんだけれどねぇ……さて、どんな星が流れてくることやら」
懐から木札を取り出し、卓がないので手の中で混ぜ合わせる。
そして束ねた一番上を巡った瞬間、白梅の顔色が曇る。
「鴆……はぁ、毒を盛られるのは確定かぁ」
鴆という鳥は、毒蛇を常食し体内に毒を蓄える奇鳥。
それが一枚目に現れるということは、すなわち宴席にて毒が盛られるか、毒を守るものが存在するということ。
この時点で白梅は易を止めたくなったものの、一度始めたものは最後までおこなわなくては、現れる結果は自分に降りかかる。
それ故に、二枚目を開いで頭を傾げてしまう。
「刃を構える要離《ようり》。たしか、古い時代の暗殺者だったよな? これで暗殺が行われることは確定、毒を用いるので宴席にて毒を盛られることも確定か……はぁ、最悪なものしか出てこないわ」
札を開くと鬱になる。
そんな気がしつつも、白梅は続けて三枚目を開く。
「馬に乗る敬瑭《けいとう》と、大地を指差す道士……あはん?」
敬瑭……馬敬瑭という人物は戦争に関する歴史書には必ずと言ってよいほど名を連ねる、北方蛮族、つまり北夷出身の皇帝。
華大国がまだ成立せず、大小様々な国が群雄割拠していた時代、敬瑭はある大国に支えていた高官であり、狡猾な手腕で自国の領土を他国や故郷の北方民族に切り売りしていた、いわば『反逆者』である。その後に開いた札に記されている道士は大地を指差し、なにかを啓示している。
「最後は……はい、決定、全て見えたわ。こりゃあ、かなりやばいぞ」
最後の一枚は、赤く染められた城塞。
これらから白梅が導き出した、これから起こる命運。
それを伝えるために、白梅は天幕を飛び出して洪氏を探し始めた。
………
……
…
やがて、宴席が始まる。
一際大きな宴席に劉皇帝が座し、その左右後方に皇貴妃らが座る四席が用意される。
その傍らにそれぞれの毒味役が座り、皇帝及び皇貴妃らに給われる食事の毒味を行うのだが、一部の交換や官吏、宦官らは毒味役の様子を見るのが楽しみな、つまり悪趣味なもの達も多い。
白梅……紅梅花も主上斜め後ろの席につき、毒味の準備を始める。
そしていよいよ茶宴が始まり、食事が一品ずつ運び込まれる。
最初は冷箪(前菜)から始まり、次は汤《スープ》、そして大菜、大件と続く。
ご飯や麺類などで腹を満たしたのち、最後に点心などの甘いもので締めくくる。
すでに菜单は白梅には知らされているため、それに組み込まれる可能性のある毒の種類を吟味……と行きたいところではありが、白梅は毒物に関しての基礎知識はほんの僅かしかもっておらず、、あとは食べてみてから判断しなくてはならない。
不思議なことに、白梅は食べてみれば、それが何であるのか、どのような効果なのかは理解することができるので、まずは恐れることなく食べなくてはならないのである。
「ふむふむ。銀盤に三種涼菜の盛り合わせと。でも、流石は毒見用、量が少しだけかぁ
。それでは失礼して」
銀箸で一つ一つを吟味し、持てる限りの知識を動員。
そして毒見を開始するのだが、そのあまりのおいしさに白梅も仕事を忘れそうになる。
(ふむふむ、これはまた絶妙な……と、うん、全て問題なし)
最後に口を漱ぎ布で口元を押さえ、にっこりとほほ笑んで何も問題が無いことを告げる。
それで主上をはじめ、皇貴妃らも安心して食事を始めることが出来る。
ただ、集まっていた高官や官吏の中からは、あの主上の毒見役はなにものだとか、後宮の新しい妃妾なのかと騒がしくなっている。
事実、皇貴妃らも紅梅花が変装した白梅と告げられるまでは、ついに青鸞宮の主人、つまり賢妃に輿入れする女性が決まったのかとも気が気でなかったのである。
もっとも、三人の前に顔を出して挨拶をした直後、どう変装すればその美貌をに入れられるのかとか、たわわに実った椰子の実のような胸をどうやって作り上げたのかと質問攻めが行われた。
「てば、楽しい宴となるよう、諸君らもゆっくりと飲み、語らってくれ」
劉皇帝の言葉で、あちこちの席が華やかになる。
女官たちが食事を運び込み、酌をおこない始めると、下座にいた楽師たちが雅な曲を奏で始める。
園遊会の席は無礼講という習わしではあるものの、皆、節度を持って楽しく食べ、飲み、語らっている。
そして皇貴妃らもようやく落ち着いて食事を取り始めると、時折、毒見を続けている白梅をチラリとみている。
他の毒見役も白梅が食べ始めてから毒見を行うようにしていたため、安全をかく乱してから再度、毒見をするようなかたちとなっていたのだが。
「次は……酸菜白肉火鍋か。少しずつ取り分けて、一つの大碗に納められているのか。まあ、この酸味は酸菜、海鮮までわざわざ取り寄せてきたとは、流石は皇帝……と、ん?」
慎重に食べ進めていると、ふと、奇妙な感覚に気が付く。
今まで感じたことのない違和感、そして白梅の知らない毒性。
それが含まれているのを、彼女は感覚的に感じた。
だから、ゆっくりと食べているそぶりを見せつつも、左手の指で机をコンコン、と小さく叩く。
その仕草は『毒が仕込まれています』ということを示しており、あらかじめ白梅の様子のみを注意して観察している宦官がそのことを別の方法で皇貴妃および劉皇帝に合図を送る。
(この程度は、仙気が体内に残っている主上や皇貴妃らは大丈夫たげれど……)
そのまま他の素材も食べていくが、どれもほんの少しずつ、違う毒が仕込まれている。
華大国は大陸中元から北方に位置するものの、最南端は海に面しているため、今回のような園遊会には海産物も多種多様に運び込まれる。
それらの中では、毒性について詳しく知らされていないものが多く、白梅の食べた料理にも少量の毒が含まれていた。
「まあ、何も知らず食べてみて……うん、即効性はないけど……ああ、そういうことか」
毒によっては、微量ずつ摂取することで体内に強力な毒に変化するものもある。
白梅はそれを肌で実感したと同時に、この毒の正体も理解することが出来た。
それゆえ、机をダン、と強く叩いたのち、口から食べたものを嘔吐してその場に倒れたフリをする。
「グッ……な、なんだと……っっ」
そして劉皇帝も胸元抑え苦しそうな形相を見せると、卓の前に倒れるように崩れ、打ち臥してしまう。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
近くの女官が悲鳴を上げ、東廠所属の護衛が劉皇帝の周りを固め、医官が駆け寄っていく。
「すぐに嘔吐剤を与えます、少々お待ちを」
そう告げて鞄から薬を包んだ紙を取り出し、医官が劉皇帝に近寄った瞬間。
――ドッゴォォォォォォォォォォォッ
突然、医官が後ろに吹き飛ぶ。
一瞬で劉皇帝と医官の間に縮地した紅梅花が、医官の胸元めがけて肘撃を叩き込んだのである。
「なっ、何をする、医官に対してなんということを」
「貴様は何ものだっ!!」
まさかの医官に対しての無礼、そう思い激昂する高官たち。
だが、紅梅花は医官が薬を手にした時、その掌に針が仕込んであったのを見逃していない。
つかつかと医官に近寄り、右手を踏み上げてから掌の針を指さすと。
「これは毒針です。南方の海に住んでいるという、蓝圈章鱼の毒が仕込まれています。微弱な毒で主上の具合を悪くさせてから、駆けつけた医官がこの針でとどめを刺す。まったく、手の込んだ暗殺ですこと」
淡々と説明する紅梅花に、高官たちはざわめく。
だが、この宴席にて暗殺者が来ること、白梅と主上が毒に侵されて倒れる演技を行い、その暗殺者を引きずり込むこと、それらの策についての説明を受けていた東廠の護衛たちは動揺することもなく、ゆっくりと体を起こして頭を左右に振っている劉皇帝に頭を垂れた。
「そのものを連れていけ。いいか、朕の暗殺を計画したものを吐かせろ!!」
「御意」
駆けつけた武官により、医官は外に連れ出される。
そしてまだ騒ぎが収まりきらないというのに、劉皇帝はスッと手を上げて楽士に曲を奏でるように催促すると、整えられた卓に運び込まれた酒をてに、のんびりと飲み始める。
「さて、つまらん輩によって騒ぎが起きたようだが、これもまた園遊会の一興。もう毒はないと思うので、安心して続けるがよい」
高らかに告げてから、劉皇帝はまた、何事もなかったかのように食事を続ける。
この豪胆さもまた、劉宇帝の持つ資質であると高官たちは改めて思い知らされることになった。
そして、劉皇帝の命を救った紅梅花という美女、彼女が何者なのかという話が宴席でも飛び交うようになったのだが、彼女は東廠所属であり、暗殺を未遂に防ぐための女官であることのみが告げられ、その正体については誰も知ることが出来なかったという。
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これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
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