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第一部 第一章 強化魔術しか使えない

Episode003 不届き者をぶっ飛ばせ!

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まさか、あの世界一の冒険者として名を馳せているアリシアちゃんとパーティーを組むことになるとは…。
もしアリシアちゃんが次の都市に行くって言うんなら、俺もそれ相応の準備はしておかないとな。
そんなことを思いながら、俺はアリシアちゃんとギルドに来た。
ギルドは冒険者であるなら不可欠な施設で、場合によって様々な支援をしてくれる。
クエストを受けたり報酬を受け取ったりするならば冒険者登録の必要があるし。
あ、それと、魔物を倒すごとに手に入るポイントを使うことで、冒険者は自分のステータスの上昇や使う魔術・剣術の効率化や威力・効果増強をすることができる。
しかも、メチャクチャ貯めることで自由自在に魔術や剣術を作り出すことも可能なんだとか。
そのポイントで倒した魔物がどのくらいの強さなのか知ることができるみたいだけど、個体値によって個体差が出るらしいから種類ごとの強さの基準にはならないが。
冒険者カードとやらでその辺の作業ができるらしいが、異世界にあると伝わっているあのスマホとかいう謎の板に近い感じなんだろう。

「それでは、もう登録しちゃってください!場合によってはこの後すぐにクエストに行けますか?」
「杖を家に置いてきたから、それだけ取りに行かさせてくれ」

アリシアちゃんは丁寧語とでも言えばいいんだろう、その口調が素らしい。
見た目とベストマッチな感じがするから、むしろそれで良かったとは思っているが。
俺が冒険者登録を済ませると、受付嬢の人が冒険者カードを持ってきた。
見た感じは本当にただのカードなのだが、触れるとカードの表示が動く。
あのスマホとやらは厚さ1㎝くらいはあるらしいし、そもそも化学とかいう魔術の劣化版みたいなので作られてるみたいだから冒険者カードとはかなり違うみたいだ。
『ステータス』と書いてある部分に触れると、カードに俺のステータスが表示され。
それを見てみると、攻撃力や耐久力はそんなにないが、敏捷性や運勢や潜在魔力値がかなり高い。
『強化魔術は潜在魔力値に依存し、攻撃魔術は攻撃力に依存する』ってことで考えると、俺が攻撃魔術を行使できなかったのにも納得できる。

「このステータスなら、あなたといれば安心ですね」
「い、いや。俺は強化魔術しか使えないんだから、俺がいたって…」
「あなたが私を強化してくれれば、それだけで私は安心できますから」

ぬぬぬ…。
アリシアちゃんはアレだ、男をダメにしかねないタイプなのかもしれない。
それと、さっきからギルド中の男性冒険者の目が鋭いのが気になる。
皆して俺を睨んでいるか何かだろうが、これからずっとこうだと思うとそのうち俺はストレスで倒れるんじゃないかとすら思えてしまう。

「アリシアちゃん、俺ってさっきから睨まれてる?」
「えっと…、そうみたいですね。この視線、私たちを狙う魔物の視線に近いものがあります」

つまり、俺はこれから男性冒険者を魔物と見て接すればいいってことなのか?
アリシアちゃんにその場その場で何かその憎悪を止めるように言ってもらうとかすればいいとか思うけど、それはそれで違う気はする。

「ねえ、ちょっと困るしさ、何か言ってみてくれないか?」
「分かりました。私もこの視線はあまり好きじゃないので、できればどうにかしてみせます」

さて、アリシアちゃんは何と言ってこの場をどうにかするのか…。
案外ギャップ萌えみたいな感じで『お兄ちゃんたち、もうやめて!』とか言ってくれたらコチラとしてもありがたいのだが、俺の為にしてくれてるから変な期待はやめておこう。

「皆さん、ユーキくんは私が推薦してパーティーメンバーになったんです!もしユーキくんを追い出して私とパーティーを組みたいなら、私を倒してください!」

…どっかの動物やら魔物やらの求婚行動みたいなヤツか?
つまりは誰かがアリシアちゃんとの戦いに勝ったら、俺はアリシアちゃんとのパーティーを解体し、その誰かがアリシアちゃんとパーティーを組むと…。
初めて強化魔術を最大出力で使いたくなったよ。
思えば、俺が強化魔術しか使えないのに勧誘した理由は何だったんだろうか。
まあいい。ここで俺の存在意義とやらを思う存分に示してやろう。

「場所は、都市を出てすぐの野原です!30分後に開始しますから、そのつもりのある人は来てください!」

まさか、こうなるとは。

次回 Episode004 冒険者としての意地
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