発達障害の女、獣医師として生きる。

ひよく

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ふれあい牧場

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その求人は、観光施設のふれあい牧場の飼育員だった。
仕事内容は、ウサギや牛、ヤギ、ヒツジ、ミニブタ、アルパカ等の世話。
そして、接客。

その観光施設は、園芸部門、遊具部門、バーベキュー部門、レストラン部門、土産物売り場部門等があり、ふれあい牧場部門で採用されても、他部門へ応援に行かされる日もあるとのことだった。
接客が苦手なのは百も承知、不安はあったが、迷いはなかった。

今日子はダメ元で応募し、そして採用された。

ふれあい牧場部門の部長は、穏やかな年下の女性だった。
動物が好きで、動物に接する人々の笑顔が好きな人だった。

動物の世話は所謂‘3k’だが、苦には感じなかった。
牛や羊やヤギのにおいも、学生時代を思い出させる懐かしいものだった。
年下の女性の指示で動くことにも、抵抗はなかった。
今日子はそういった意味での妙なプライドはなく、マイペースだった。

だが、体力の衰えは痛感した。
何と言っても、今日子は半年以上、寝たきり生活だったのである。
少しずつ外出するようになってきたとは言え、まだまだ体がついていかなかった。

だが、辛くはなかった。
体を動かして働けることが、嬉しかった。
また、動物に接していられるのも、楽しかった。

動物は何の言葉も発しない。
そのかわり「察しろ」とも言わない。
「場の空気を読め」とも言わない。
気に食わなければ、蹴とばすなり、咬みつくなり、わかりやすい形で‘反論’してくる。
それは今日子を安心させた。

ただ、この職場でも問題になったのは、同時作業だった。
例えば、小屋掃除している最中に、お客様から「すみませ~ん」と声をかけられた場合。
勿論、お客様のほうを優先せねばならないのだが、それが終わると、自分が何をやっていたか忘れてしまう。
そうでない場合は、お客様の言っていることが上の空になってしまう。
まず小屋掃除して、エサをあげて、乳絞りして…と、自分の中で仕事の順序立てを作っていると、その間に急な事態(大した事ではなくとも)に対応できない。
自分の中の順序が狂うのを、何より恐れた。
そこら辺を臨機応変に対応するために、年下の上司は根気良く指示を出してくれた。
気の弱い上司が、年上の今日子にきつい言葉で注意できなかったというのもあるとは思うのだが…。

こんな調子の今日子が、その観光施設でそれでもクビにならずに働けたのは、獣医師免許があったからだろう。
ちょうど口蹄疫が猛威を振るった時期もあり、今日子の知識は施設に還元できるものであった。

この施設での勤務はシフト制で、週に3日、1日に数時間ほど、今日子は働いていた。
フルタイムでの勤務は、まだ難しかった。
自活できるほどの収入には程遠かったが、それでも、自分で稼げるようになった事が嬉しかった。

体を動かして働くことで、今日子は健康的な心身を取り戻しつつあった。

と同時に、強く‘仕事’というものを意識するようになった。
世の中にはいろいろな仕事がある。
‘職業に貴賤なし’というが、まさにその通りだと思うようになっていた。
どんな仕事であっても、自分の体力や知識で世の中に貢献し、その対価として、生活の糧を得る。
その事がどれほど素晴らしい事であるか。
順風満帆な人生だったなら、そんな事は考えなかったかもしれない。
今日子はそう考えていた。
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