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実習生として

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再びの就職の失敗で、今日子の受けたダメージは大きかった。
しかし、回復不能のものではなかった。

それでも、辞めてからは悩んだ。
「なんでもっと我慢できなかったのだろう?」
「なんでもっと努力できなかったのだろう?」
今思えば、我慢する必要もなければ、努力で解決できる事柄でもなかったのだが、この時はそんな問いが頭の中をグルグル回っていた。

しかし、再びゆったりとした時間を過ごすことで、今日子にまた就職活動をする意欲が湧いてきた。

HPで‘獣医師募集’を謳っている自宅近くの動物病院に電話してみた。
初めて電話に出たのは、AHTさんとのことだった。
院長は手が離せないので、後ほど折り返すと言われ、連絡先を訊かれた。

しばらくすると、折り返しの電話が入り、初めて院長と話をした。
院長は女性の声だった。
厳しそうな物言いに、少し気をくれしたが、
「とにかくいらっしゃい」
と言われ、その日のうちに面接することが決まった。

実際にあってみると、院長は温和そうな60代くらいの女性だった。
面接では、短期間に職場を転々としていたり、無職の期間があったりする訳を訊かれた。
今日子は、自分の発達障害のこと、うつ病を患っていたこと、包み隠さず話をした。
その結果、とりあえず3日間実習してみることになった。

その病院は、院長を筆頭に、獣医師、AHTさん、トリマーさん、事務員さんひっくるめて、20名ほどの大所帯だった。

実習では自分の技術のなさを痛感した。
既に大学卒後6年が経過していた。
早い獣医師なら、開業していてもおかしくはない。
しかし、今日子は今までの職場で、思うように技術を伸ばすことができず、未だ新卒並みの技術しかなかった。

3日間の実習を終え、院長に言われた。
「うちは人手不足だけど、あなたでは戦力にならない。でも、やる気があるなら、‘実習生’という形で通ってらっしゃい。お給料は出せないけど、交通費とお昼代は出しましょう。」

正直、迷った。
両親に経済的余裕がなく、養ってもらうのも限界にきていたからだ。
少しでも生活費を入れたかった。

だが、このままの技術で年齢だけ重ねれば、どこの病院でも雇ってもらえなくなる。
そこで技術を身につければ、正式に採用してくれるとも言われた。
結局、その病院で実習生としてお世話になる事に決めた。
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