俺のオヤジはビジュアル系です。

ひよく

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頼介

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どこからか、人の話す声が聞こえる。
それ程、大きな声というわけではなく、静かな声だったのだけれど。

「ん?目が覚めたみたいだぞ。」
その声が言葉として、はっきりと聞こえて、自分の意識が覚醒しようとしている事に気が付いた。

「兄ちゃん…。」
目が覚めたら、兄ちゃんがいた。
この間と同じ展開だ。
だけど、この間は兄ちゃんを将太と間違えたけれど、今回は間違えなかった。

それと、もう1人。
「GINJIも居てくれたんだ。」
俺の傍には、兄ちゃんとGINJIが付き添ってくれていた。

「気分はどうだ?」
GINJIが訊いてきた。
「ん…平気。」
痛くないわけじゃないけれど、この間みたいに全身に耐えがたい痛みがあるという程でもない。
これくらいなら、我慢できる。

「将太は?」
俺は2人に訊いた。
「家で待っている。」
GINJIの方が答えた。
「心配しているだろうから、すぐに連絡して。俺、大丈夫だから。」
とにかく、将太に無事を伝えないといけない。
アイツがどうにかなってしまいそうで、俺の方が心配だった。
「わかった。電話してこよう。」
GINJIはそう言って、席を外した。

俺は兄ちゃんと2人きりになった。
「兄ちゃん、来てくれてありがとう。」
俺は兄ちゃんに礼を言った。
「仕方ないだろう?何度も大怪我しやがって。心配させるな。」
そんな事を言いながら、兄ちゃんは俺の頭を軽く小突いた。
痛くない程度に。
兄ちゃんの口調は穏やかで、昔に戻れたみたいな気がして、嬉しかった。

今回は目が覚めても、医者が様子を見に来るような事もなく、基本的には放置みたい。
やっぱり、裏社会の病院だから、患者の扱いも一般の病院とは違うのかな?
でも、兄ちゃんが居てくれたから、その方が良かった。
前の時は、様子を見に来た医者と入れ替わりで、兄ちゃんは帰っちゃったから。

会話が弾むというわけではなかったけれど、一緒に居てくれるだけで、凄く幸せな気分になった。

でも、気がかりなのは将太だ。
心配しているだろうな…。

そう思っていると、将太に連絡しに行ったGINJIが戻ってきた。

「手術は、無事に終わったと伝えたよ。」
GINJIはそう言った。
「ありがとう。将太、他に何か言っていた?」
「俺に礼を言っていた。‘病院に連れて行ってくれて、ありがとうございます’ってな。お前が無事だと知って、安心したんだろう。思いの外、落ち着いていたぞ。」
それを聞いて、俺も安心した。

そんな話をしていると、ようやく医者が現れた。
若そうに見えるけれど、隙のなさそうな背の高い医者。
この医者が、俺の手術をしたのかな?

「麻酔は醒めたようですね。」
医者は刺すような目で、俺を見下ろしている。
「はい。」
その視線にちょっと気後れしながら、俺は答えた。

「じゃあ、お帰りください。抗生物質はお出ししておきます。」

その言葉に、俺は…というより、兄ちゃんとGINJIが度肝を抜かれた。

「ちょっと待ってください!今、手術が終わったばっかりなんですよ!?それをもう帰れって、言うんですか!?」
「麻酔も醒めたばかりで、本人も碌に動けません。この状態で、どうやって帰るんです!?」
兄ちゃんとGINJIは、医者に掴みかからんばかりの勢いだった。

「ここは療養所ではないんですよ。手術が終わったら、さっさと帰ってください。後のお世話はご自宅でどうぞ。」
医者は、表情も変えずにそう答えた。

更に医者に詰め寄ろうとする兄ちゃんとGINJIを、俺は制した。
「いいよ。兄ちゃん、GINJI。俺、早く将太の所に帰りたい。」
それは本心だった。
だから、即退院はむしろ好都合だ。

兄ちゃんとGINJIは、それでもまだ何か言いたそうだったが、医者はさっさと出て行ってしまった。

結局、俺はその日のうちに退院する事にした。
俺は兄ちゃんとGINJIに抱えられて、GINJIの車に乗せられた。

「身体はツラくないか?」
GINJIは心配そうに訊いてきた。
「うん…大丈夫。」
流石に、まるきり大丈夫とは言い難いけれど、心配かけたくなくて、そう答えた。
それより、GINJIが優しいのが嬉しかった。
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