俺のオヤジはビジュアル系です。

ひよく

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将太

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俺が大怪我をさせた頼介は、無事に戻ってきた。
当分、1人では動けなさそうだったけれど。

だから、頼介が回復するまでの間だけは、傍に居ようと決めた。
「看病する」なんて、カッコイイ事を言ったけれど、本当は単に俺が一緒に居たいだけだった。
次第に回復していく頼介を見ているのは、当然、嬉しかったんだけれど、同時に寂しかった。
それは、俺が頼介と一緒に居られる時間が、残り少ない事を意味していたからだ。

仕事復帰の前日、俺は思いっきり盛大に祝ってやろうと思って、腕によりをかけて、ご馳走を作った。
頼介に喜んでほしくって。
実際、すごく喜んでくれて、俺は正直、涙が出そうになるのを堪えていた。

食べ終わって、2人で何となくTVを見ていた。
だけど、流石に夜が更けてきて、頼介が「そろそろ寝よ。」と言い出した。

いつものように「おやすみ、将太。」という頼介に、いつものように「おやすみ。」と返した。

だけど、頼介が扉を閉めた時、頼介に聞こえないように「さよなら」を言った。

そう。
もう俺はこの家には居られない。
頼介を親と呼ぶ資格なんてない。

頼介が手術を受けている時から、決めていた。
頼介が無事に帰ってきたら、俺はこの家を出ると。

俺は手早く最小限の身の周りの品をまとめ、リビングまでやってきた。
頼介に置手紙をする。
そして、頼介に持たせてもらっていたスマホと、この家の鍵を一緒に置いて、玄関を開けた。

もうこの家に戻る事はない。
そう覚悟を決めて。

マンションのエントランスを出ると、あの人…俺の実の父親がタバコを咥えながら立っていた。

「本当にいいのか?」
あの人は俺に訊いてきた。
「これで、いいんです。」
そう俺は答える。
「俺の稼ぎじゃ、大学なんて行かせてやれないぜ?」
「構いません。高校もやめて働きます。ただ、行き先が決まるまでの間だけ、置いてください。」
あの人は、俺を試すような鋭い視線を向けてきた。

ゾクッとした。
その視線は、歌っている時の頼介に、あまりにも似ていたからだ。

だけど、俺は視線を逸らさなかった。
しばらく見つめ合った後、あの人は根負けしたように視線を外した。

「わかった。付いて来い。俺のねぐらに案内してやる。」
そう言って、あの人は歩き出した。
俺はそれに黙って従った。
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