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我に従え!
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「やめて! ママが死んだら、珠子は一人ぼっちだよ」
珠子が叫ぶ。それを栄が叱り付けた。
「強くありなさい、珠子! 今からお前は大槻十代目の当主。
私と冬樹の魂の産んだ子、たとえ死んでも私の魂は必ず貴方とともにいます」
そこにいたのは、ママではない大槻の巫女。
大槻家当主栄だった。
「始まりの巫女、お越しください。我の命と、貴女の入る依代として娘を捧げます」
剣が栄の喉に突き刺さる。
「いやー!」
珠子は栄に向かって駆け寄ろうとした。
突然空気が変わり、珠子を新しい祠まで弾き返した。
「体だけ大人でも、まだ子供。覚悟もできておらんでは、まだ我の依代にはなれんな」
珠子の前に女が一人、栄によく似た刺青の顔、麻布の服、貝の腕輪と翡翠の勾玉、手に欅の枝を持っている。“玉祝りの巫女”その人が立っていた。
「お前には力がある。お前の魂の父が、血を分けた母が、お前を守っている。
お前の後ろの木は、お前の父の冬樹が育てた。
しかし、この木は二人の贄に力を得て、強くなっている。
お前が押さえなければ、そのうち栄の木の様に悪鬼となろう。
実の母の命を無駄にするか? その名は飾りか、珠子よ」
静かな、威厳に満ちた巫女の声。栄によく似た姿――
これは、ママが言ってるんだ。“強くありなさい”と。
木が暴れ出した。断末魔のもがきを始める。
落日の茜色に染まる空に、黒い雲が湧き出す。
「では、終わりを呼ぶことにしよう」
玉祝りの巫女と、三人の珠子が栄の御神木に向かう。
四つの魂が同時に唱和し叫ぶ。
「「「「我に従え、滅びよ!」」」」
落雷とともに、栄の御神木は真二つに裂け砕け散った。
「もう日が沈む」
玉祝りの巫女が言う。
「守りの光が消える」
初代珠子の老婆が言う。
「我等も消えるとしましょう」
二代目珠子が言う。
――玉祝りの巫女が、一歩珠子に近づいた。
「女の贄をやめさせるため、我は木を植えた。
その木を見張るため大槻の女の血筋はあった。
それももう終わらせるべき時よ」
巫女が、初代珠子の母屋の老婆に重なり、輝きだす。
「「珠子、何を選ぶ? 人として生きる百年か。それとも木の傀儡としての百年か」」
先の二人に、さらに二代目の珠子が重なり、
ますます輝きを増していく。
「「「選んでみよ、珠子なら!」」」
そして、太陽の輝きは、珠子の腹の中へと吸い込まれていった。
不意に光が消えた。あとはただ闇。
珠子は新しい祠の前で、一人立っていた。
いや、一人ではない。珠子の体の中心で珠子を守るものがいた。
曽祖母の珠子が、切り株の老婆が、玉祝りの巫女が、そして栄の魂が!
もう一人じゃない――珠子は自分の体を掻き抱いた。
その時、珠子の後ろに着物姿の女が立った。
胸に丸槻葉巴の家紋、栄そっくりの姿。
栄は離れて死んでいる。
では、これは新しい御神木の作る影――
「負けるものか。影に喰われたりしない、木に支配などされない。
私は珠子だ!」
影がぱくりと口を開ける。
木霊が、支配の言霊となり、珠子に向けられた。
同時に珠子も影に向かって口を開け、二人の女は同時に叫んだ。
「「我に従え!」」
珠子が叫ぶ。それを栄が叱り付けた。
「強くありなさい、珠子! 今からお前は大槻十代目の当主。
私と冬樹の魂の産んだ子、たとえ死んでも私の魂は必ず貴方とともにいます」
そこにいたのは、ママではない大槻の巫女。
大槻家当主栄だった。
「始まりの巫女、お越しください。我の命と、貴女の入る依代として娘を捧げます」
剣が栄の喉に突き刺さる。
「いやー!」
珠子は栄に向かって駆け寄ろうとした。
突然空気が変わり、珠子を新しい祠まで弾き返した。
「体だけ大人でも、まだ子供。覚悟もできておらんでは、まだ我の依代にはなれんな」
珠子の前に女が一人、栄によく似た刺青の顔、麻布の服、貝の腕輪と翡翠の勾玉、手に欅の枝を持っている。“玉祝りの巫女”その人が立っていた。
「お前には力がある。お前の魂の父が、血を分けた母が、お前を守っている。
お前の後ろの木は、お前の父の冬樹が育てた。
しかし、この木は二人の贄に力を得て、強くなっている。
お前が押さえなければ、そのうち栄の木の様に悪鬼となろう。
実の母の命を無駄にするか? その名は飾りか、珠子よ」
静かな、威厳に満ちた巫女の声。栄によく似た姿――
これは、ママが言ってるんだ。“強くありなさい”と。
木が暴れ出した。断末魔のもがきを始める。
落日の茜色に染まる空に、黒い雲が湧き出す。
「では、終わりを呼ぶことにしよう」
玉祝りの巫女と、三人の珠子が栄の御神木に向かう。
四つの魂が同時に唱和し叫ぶ。
「「「「我に従え、滅びよ!」」」」
落雷とともに、栄の御神木は真二つに裂け砕け散った。
「もう日が沈む」
玉祝りの巫女が言う。
「守りの光が消える」
初代珠子の老婆が言う。
「我等も消えるとしましょう」
二代目珠子が言う。
――玉祝りの巫女が、一歩珠子に近づいた。
「女の贄をやめさせるため、我は木を植えた。
その木を見張るため大槻の女の血筋はあった。
それももう終わらせるべき時よ」
巫女が、初代珠子の母屋の老婆に重なり、輝きだす。
「「珠子、何を選ぶ? 人として生きる百年か。それとも木の傀儡としての百年か」」
先の二人に、さらに二代目の珠子が重なり、
ますます輝きを増していく。
「「「選んでみよ、珠子なら!」」」
そして、太陽の輝きは、珠子の腹の中へと吸い込まれていった。
不意に光が消えた。あとはただ闇。
珠子は新しい祠の前で、一人立っていた。
いや、一人ではない。珠子の体の中心で珠子を守るものがいた。
曽祖母の珠子が、切り株の老婆が、玉祝りの巫女が、そして栄の魂が!
もう一人じゃない――珠子は自分の体を掻き抱いた。
その時、珠子の後ろに着物姿の女が立った。
胸に丸槻葉巴の家紋、栄そっくりの姿。
栄は離れて死んでいる。
では、これは新しい御神木の作る影――
「負けるものか。影に喰われたりしない、木に支配などされない。
私は珠子だ!」
影がぱくりと口を開ける。
木霊が、支配の言霊となり、珠子に向けられた。
同時に珠子も影に向かって口を開け、二人の女は同時に叫んだ。
「「我に従え!」」
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