僕の最終兵器

うたたん

文字の大きさ
上 下
4 / 7

4.行軍

しおりを挟む
行軍が始まった。今日は敵であるビルスクル王国と我らライマン王国の国境を超え、テンデの街周辺まで進行するらしい。
テンデの街と言っても、現在は誰も住んでおらず破壊された元は街であった廃墟が寂しく残っているだけだそうだ。

「ゼロ、この振動、大丈夫? 」
「うん。全く問題ない」

僕とアーチャは最後方を車の荷台に乗って移動していた。僕が所属する軍隊はライザック准将率いるライマン王国で三番目の規模を誇る軍隊であった。規模は一万八千。その内戦車隊は八十台を誇り、その他に通信隊や偵察隊など大掛かりな軍隊である。
長きの戦闘で物資は殆ど底をつきかけていたが、皆自国を守る為に誇りを持ち、自国に残した家族を思い、なるべく早く戦争を終わらせようと思っていた。

「なあアーチャ。お前、ゼロの子守もいよいよ板について来たなあ」

車の荷台の上で、ニヤニヤ笑いながら僕を見ている筋肉隆々の屈強な身体つきのこの男、名をクリス・バンガードと言う。

「子守ってゼロに失礼でしょ」
「こいつに失礼とか関係無いだろう」
「ゼロだって感情を持っているのよ。言葉に気をつけて。貴方、最終的に彼に守ってもらうことになるのよ? 」

クリスはアーチャの言葉を聞いて、腹を抱えて笑いだした。

「ああ、すまんすまん。しかし、お前みたいなのにも感情が有るだなんて、凄い時代になったよな」

何だろうこの違和感。

「もう、クリス!いい加減ゼロをからかうのをやめなさい! 」
「あー分かった。すまんすまん」

クリスはそう言うと、振動激しい車の荷台の上で帽子を深く被り、眠ってしまった。

「ゼロ、クリスのこと悪く思わないでね。みんな日頃のストレスで少し苛々してるだけだから」
「いや、気にしていないよ」
「そう、良かった」

僕は手のひらを見る。足を見る。大丈夫、正常だ。何処もおかしい所なんてない。でも……何だろう、この違和感は。

「ゼロ、テンデの街が見えて来たわ」

アーチャの言葉で我に帰った僕は、指差す方をみた。とても大きな街が見えた。とは言え、建物は殆どこの戦争のせいで崩れ去っているようだ。所々に半壊したビルの様な高い建物が見える。

「今日はあそこで一晩滞在して、明日朝早くに敵の兵器工場を叩くの。もう二度と悲劇が起きないように」
「兵器工場って何処にあるの? 」
「ここから北に三時間ほど行ったところにあるわ」

北のほうを見てみるが、薄っすらと遠くに山の稜線が見えるだけであった。

「無理よ、ここからは見えないわ。兵器工場はあの山の向こうよ」

僕は振動激しい車の上で、北の山の稜線をただただ見つめていた。
しおりを挟む

処理中です...