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合法ロリである小人族の憂鬱

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 声をかけたら、3人が一斉に、俺を見つめた。

「た、助けてください!」

 そのままのシチュだと分かり、身体強化の魔法をかけた後で地面を滑るように近づき、驚いている1人を掌底で吹き飛ばした。

 ナイフを突き出してきた腕を逸らしつつ、相手の右脇腹へ拳を叩き込む。

 最初の1人が起き上がろうとしたので、一瞬で近づき、つま先で下から蹴り上げる。
 顎《あご》を跳ね上げられ、奴は後ろに倒れた。

「があぁああっ!」

 2人目は絶叫しつつ、激痛で落としたナイフを拾う。

 空間ごと把握していた俺は、準備していた小球による指弾で額《ひたい》を撃ち抜いた。

「がっ……」

 白目をむいた奴は、同じく気絶して、倒れ込む。

「あ、あの……えっ!?」

 お礼を言おうとした少女の腕をつかみ、そのまま引っ張った。

「話は後だ! こいつらが目を覚まして、仲間を呼ぶ前に、移動するぞ!!」


 少女の腕をつかんだまま、大通りを走った。

 他のエリアへ移動できる交差点に辿り着き、2人で呼吸を整える。

「あ、ありがとうございました……。私、望乃《のの》と申します」

 長い黒髪に、紫の瞳。
 まだ子供のようだが、美しい容姿。

 ゆったりした、民族衣装のような服だ。

「俺はジンだ……。ついさっき、乗合馬車でブレニッケに到着したばかり」

 それを聞いた望乃は、眉をピクリと動かした。

「まだクランに入っていないので?」

「ああ! 冒険者ギルドに顔を出したが。ここの事情も分かっていないし……」


 ――1時間後

 望乃に連れられ、図書館のような場所にいた。
 本棚が目立ち、長テーブルと椅子も。

 同じような、長い黒髪と群青色の瞳をした美少女が、あっさりと言う。

「うちのクラン、『叡智《えいち》の泉』は、『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローに狙われていてな? あまりオススメできん。……こら、望乃! そんな、ふくれっ面をするな!」

 落ち着いた声で窘《たしな》められ、横を向いた望乃は息を吐く。

 不思議に思って、尋ねる。

「ところで……あんたらは、妙に大人びているけど。ヒューマンか?」

 俺と話している少女は、首を横に振った。

「いいや、違うぞ? 私たちは小人族で、立派な大人だ! 俗に、スピリット、エレメンタルと呼ばれているが……。けれど、スピリットは精霊。エレメンタルとは、そもそも『四大元素の精霊』を示している。話が逸れたな? この迷宮都市で平穏に生きたかったら、別のクランを探せ! 望乃を助けてくれたことには感謝する。お礼として、何が欲しい? そうそう、遅れたが、私は団長の杠葉《ゆずりは》だ」

「ここは、何を目的としている?」

 片目を閉じた杠葉は、俺の問いかけに、息を吐いた。

 それでも、答える。

「古代にあったと思われる、の再現……。この世界は腕力の強い脳筋がトップで、次に弓術などのサポート役だ。私たちのような、盾どころか、荷物持ちにすらなれん奴は、使い捨てのクズというわけだな? 実際、ダンジョンの中で嬲り殺しや暴行される被害が後を絶たん」

 自嘲ぎみに言い捨てた杠葉に、疑問をぶつける。

「ここは、それほど困窮しているように見えないが……」

 再び溜息を吐いた杠葉が、答える。

「ご明察の通りだ……。私たちは『黄金の騎士団』の庇護下にいる。お前が倒したのはチンピラで、背後関係に考えが及ばない馬鹿だった。遅かれ早かれ、姿を消すだろう」

「ん? どういう意味だ?」

 後ろにもたれかかり、座っている椅子を鳴らした杠葉は、諦観したように説明する。

「平たく言えば、『黄金の騎士団』の団長が『こいつらは俺の女だ』と触れ回っている……。むろん、ストレートではなく、『叡智の泉』が傘下にいるとだけ。自分で言うのも何だが、ここは見目麗しい女が3人だけで、それも非力な小人族だ。大手を頼るのは当たり前だし、誰も不思議に思わん。私たちが『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローの正妻や側室の候補であることもな?」

「その言い方だと、不満があるようだな?」

 俺の質問に、杠葉は上体を起こした。

「ああ……。先に言っておくが、私たち3人はロワイドに体を許しておらん! 社交辞令の握手だけで、それ以外は触られても……」

「話が見えないんだが?」

 杠葉は、遠い目になった。

「要するに、だ……。あの男は『私たちから望んで男女の関係になる』という展開に固執している。ブレニッケの最大手の一角だから、体面を気にしているんだよ……」

 俺は、冒険者ギルドでの一幕を思い出した。

「そういえば……。ロワイドという奴が出てきた時には、まさにアイドルだったな?」

「まあ、そういうわけだ! みんなに好かれ尊敬される英雄で、いずれ、この地で滅んだ自分の王国、ナインガルドを復活させるのが、奴の夢だ」

「王国?」

「うむ。これは私たちを狙っている事にも関係するが、奴も魔法に関係している一族らしい。古代のマジックアイテムだか、生まれ持った体質だかで、どの強者にも負けない力とスピードを併せ持っている。……大丈夫だ。知っている奴は知っている話。まあ、お前にベラベラと喋られたら困るが」

 話を整理すると、『黄金の騎士団』のロワイド・クローは、このロリ少女たちを囲っている。
 より正確には、囲ったうえで、相手が求めてくるのを待っているそうだ。

 どこまでも、傷のない英雄。
 そして、自分に続く英雄、言い換えれば、王族を復興するのが、奴の目標だ。

 杠葉が言うには、滅んだ国で資料も失われた今、自称を超えないがな?
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