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お前、それ戦場でも言えるの?

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「おっ! 戻ってきた」
「遅いぞー! せっかく、あなたの騎士さまが、ねだっていたのに」
「道化としては、最高に面白かったけど! クスクス……」

 友人の令嬢たちに迎えられた、エルザ・ド・ペルティエ。

 疲れた表情のまま、自分の席に座った。

「ハアッ……。参りましたわ……。今日に限って、お父様がいないんですもの」

「大変ね?」
「ペルティエ子爵がいたら、誤魔化しようがないって!」
「そうそう……。問題があっても、『娘の教育が足りず、申し訳ない』で済まなくなるし」
「どうするの? 対戦相手の平民は、素手なら強いようだけど……」

 最後の発言で、エルザは顔を向けた。

「一応、ぶつける騎士は用意していますわ……。そちらに勝てば、という話にする予定ですけど」

「確かに、平民をぶちのめしただけで『婚約してくれ』は、ないわね!」
「うん」
「戦うのは、ランストック伯爵家から廃嫡された男かぁ……」
「でも、ギュンター様はそいつに完敗したんでしょ?」

「素手で強いなら、剣も同じぐらいだと思うけど?」
「だよねえ……」

 対戦相手の強さが分からず、首をひねる令嬢たち。


 ◇


 俺は革鎧と左腰に吊るしたロングソードの重さに、溜息を吐いた。

 古ぼけた革鎧は穴が開いていて、ツギハギ。
 動きやすくて音が出にくい、ソフトレザーと呼ばれている部類だ。

 ロングソードは、鞘から抜いたところ、途中でつっかえた。
 無理に抜けば、ギィイイッと鈍い音。
 赤茶けた剣身は、どこから見ても年代物だ。

 小さな盾は、木を並べて外枠でまとめたウッドシールド。
 後ろでクロスさせたバンドで、左腕にくくりつけているものの、まともに防げるとは思えない造りだ。

 もっとマシな武器はあったが、案内役が選択肢を与えず。

 対戦相手のランストック伯爵家が、手を回したらしい。
 あるいは、ギュンター本人か?

 ニヤニヤした顔で見ている中年男――コロシアムの武器庫の管理者――によれば、独断でランストック伯爵家に忖度《そんたく》した可能性もあるな。

 ペルティエ子爵家が行うには……遠回しすぎる。
 その可能性も、ゼロではないが。

「では、ジン様? そろそろ、対戦場のほうへお願い――」
「ええ! あなたのおかげで、ギュンターに勝てますよ! 本当に、ありがとうございます!!」

 大声で叫べば、中年男の笑顔がなくなり、こいつ、気でも狂ったか? という表情になった。

 けれど、外を含めて、監視役や下働きの人間もいる。

 笑みを張り付けた奴は、言い直す。

「左様でございますか……。ランストック様がお待ちですから、こちらへ」

 先ほどよりも憐憫《れんびん》を含み、優しい口調。
 揃えた指先で、恭しく、進んでいく先を示した。

 周りに武装した警備兵がいるからか、俺に背を預けたまま、先導する。

 追い立てられるように、歩かされた。

 魔法を発動。

 ――革鎧の構造、素材を解析……終了

 ――対象の表面に対し、不可視のエネルギーシールドを形成

 ――ウッドシールドにも、外見を変えない補強を実施

 石で囲まれた通路を歩きながら、次々に、自身の革鎧とウッドシールドを強化した。

 問題は、ロングソードだ。
 最初から強化した場合、勢い余って、奴を殺してしまう恐れもある。

 ランストック伯爵家を敵に回せば、下働きのメイドを含めて一族郎党が死ぬまで、あるいは子々孫々まで、俺と関係者をつけ狙う。

 とりあえず、魔法で強化した防具で凌ぎつつ、ギュンターの様子を見るか……。

「これだから、貴族は面倒なんだよ」

 ボソッと呟けば、前を歩いている中年男を含め、一斉に見られた。

 黙っていたら、すぐに視線を戻し、俺を中心にしたまま、歩き始める。


『ワァアアアアッ!』

 出口が近づくにつれて、観客席の声も、大きくなった。

 人がすれ違えないほどの通路を歩いていた中年男が、少し広くなった場所で、脇に退《ど》いた。

「では、ジン様。ご健闘をお祈りします……」

 へいへい。
 心にない言葉をどうも!

 返事をせず、前に進み続ける。

 小ホールの左右には、警備兵や中年男がいて、後ろにも警備兵だ。
 どっちみち、選択肢はない。

 ガララララ ガシャン

 後ろで、派手な音がした。
 振り向けば、巨大な鉄格子が降りている。

 見世物にされる人間、あるいは猛獣が逃げ出さないよう、逃げ場をなくす仕組みのようだ。

 特に用はないので、日光が差し込んでいる出口へ歩み出て、青空の下へ。

「「「ワァアアアアッ!!」」」

『えー! 対戦相手が出てきたので、ギュンター様の決闘を始めます!!』

 上にいる司会が、一方的に宣言した。

 すかさず、左腰のロングソードを抜いたギュンターが、青白く光る剣先を天に向けた。

「これより、ご令嬢を襲った卑劣漢をゴブッ!」

 移動魔法で距離を詰めた俺は、その勢いのまま、ウッドシールドを固定している左腕を叩きつけた。

 シールドを前に出したまま、体当たりしただけ。
 それでも、ギュンターは不意をつかれたうえ、片腕を上へ伸ばし切ったままの姿勢。

 あっけなく宙を舞い、受け身もなく、地面に叩きつけられた。

「ふぐっ!?」

 背中をぶつけたものの、顎《あご》を引いていたから、後頭部を強打せず。
 運のいい奴だ。

 けれど、硬いだけの金属鎧はこういった衝撃を吸収せず、体のダメージを倍加させる。
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