1 / 72
Prologue
忘れられない-1
しおりを挟む
紅い夕陽が美術室の窓から零れ、柏木先輩の髪をセピア色に淡く溶かしていた。
いつもは優しげな先輩の顔が、今は微かに強張っている。
思い詰めたように視線を床に向け、一呼吸したあと、私の目を見つめた。
「好きなんだ、白坂さんのこと」
「……え?」
思いがけない告白に私は目を見開く。
「白坂さんが美術部に入ってきたときから、好きだった」
先輩の真摯な想いに応えたいと思うのに、私の口から出てきたのは――
「ごめんなさい、私……」
残酷な断りの台詞だった。
「……そっか」
先輩は切なく微笑むと私の方に手を伸ばした。
「それなら最後に……触れてもいい? そうすれば白坂さんのこと、忘れられそうだから」
低く遠慮がちに囁かれ、私は視線を揺らす。
先輩は春から伯王高校へ行ってしまうから。私が同じ高校を目指さない限り、再会することはもうないだろう。
嫌だと断ればきっと、先輩は優しいからそれ以上は求めてこないはず。
けれど私にはそれを断る理由はなかった。
一度ためらったあと、冷たい指先が頬へ静かに触れ、先輩の整った顔がそっと近づいた。
私の額に、一瞬だけ掠めるように唇が触れる。
指先と同じで、冷えた――柔らかな唇。
私の瞳から涙が零れ落ちていく。
一体何の涙だろう。自分でもわからない。
「じゃあ、元気で。……幸せになってね」
背を向けて去って行く先輩は、一度も振り返ることはなかった。
その背が見えなくなるまで、ずっと私は先輩のことを見送っていた。
いつもは優しげな先輩の顔が、今は微かに強張っている。
思い詰めたように視線を床に向け、一呼吸したあと、私の目を見つめた。
「好きなんだ、白坂さんのこと」
「……え?」
思いがけない告白に私は目を見開く。
「白坂さんが美術部に入ってきたときから、好きだった」
先輩の真摯な想いに応えたいと思うのに、私の口から出てきたのは――
「ごめんなさい、私……」
残酷な断りの台詞だった。
「……そっか」
先輩は切なく微笑むと私の方に手を伸ばした。
「それなら最後に……触れてもいい? そうすれば白坂さんのこと、忘れられそうだから」
低く遠慮がちに囁かれ、私は視線を揺らす。
先輩は春から伯王高校へ行ってしまうから。私が同じ高校を目指さない限り、再会することはもうないだろう。
嫌だと断ればきっと、先輩は優しいからそれ以上は求めてこないはず。
けれど私にはそれを断る理由はなかった。
一度ためらったあと、冷たい指先が頬へ静かに触れ、先輩の整った顔がそっと近づいた。
私の額に、一瞬だけ掠めるように唇が触れる。
指先と同じで、冷えた――柔らかな唇。
私の瞳から涙が零れ落ちていく。
一体何の涙だろう。自分でもわからない。
「じゃあ、元気で。……幸せになってね」
背を向けて去って行く先輩は、一度も振り返ることはなかった。
その背が見えなくなるまで、ずっと私は先輩のことを見送っていた。
3
あなたにおすすめの小説
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる