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Prologue
忘れられない-6
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三井先輩は彼を促すように腕をからませ、寄り添った状態で私の様子を窺っている。どちらかといえば彼女は睨むような目つきだった。
二人は本当によりを戻したようで、柏木先輩も彼女の腕を振りほどくことはない。
「…………」
柏木先輩はなぜだか切なそうに目を伏せ、私達のそばを無言で通り過ぎて行く。
普通に考えたら、真鳥との関係を誤解されたのだと思う。
せめて未琴がいてくれたら、誤解されることはなかったのに。
「――あの人に、失恋したってこと?」
私の視線と表情で気づいたのか、真鳥が柏木先輩の背中を見据え、確認してくる。
目の表面に涙が溜まり始めていたので、慌てて真鳥に背を向けた。
「それなら、早く忘れたらいいんじゃない? どう考えても、白坂に勝ち目はないだろ」
失礼なことを言い放ち、強く腕を引いてきたので、真鳥に泣き顔を晒すことになってしまう。
「俺が忘れさせてやるよ」
泣き顔を間近でじっと見つめ、勘違いしそうな台詞を言ってくる。
「ちょっと寄り道してから、家まで送るから」
低くそう言ったあと、真鳥は私の手首を掴み歩き始めた。
*
真鳥に連れられてきたのは、学校から歩いてすぐの所にある、まだ雪の残る公園だった。
中央に滑り台やブランコがあり、その隣には東屋があった。
真鳥はそこに私を案内し、木のテーブルに鞄や荷物を置く。まだ雪が解けていないこともあり、私たち以外誰もいない。
「で、今から白坂の記憶の一部を消すけど、本当にあの先輩のことを忘れたい?」
「……え?」
記憶を、消す?
簡単にそんなことを言うけれど。普通に考えて、誰かの記憶を消すなんて有り得ない。
「何言ってるの?」
「信じられない、か。まあ普通はそうだよな」
東屋の下で私と真鳥は向かい合う。
「たとえば。忘れたい過去の記憶も消すことができるんだ。どう? 試してみたくない?」
そう言われ、彼の誘導するとおりに気持ちが傾いていく。
忘れたい過去は、私には数え切れないほどあった。
「未琴から、白坂のことを慰めほしいと言われてるのもあるし。できれば、試してみてほしい」
「でも、私の記憶を消してくれたとして、真鳥に何のメリットがあるの?」
「俺のこの力はまだ、試した回数が少なすぎる。白坂が実験台になってくれるなら、この先、何度でも忘れたい記憶を消してあげられるよ」
未琴が真鳥を私に紹介してきたのは、こういう意味?
未琴も彼の能力を知っているのか定かではないけれど。普通に男の子を紹介してくれるわけではなかったのかもしれないと気づいた。
「いいけど、どうやって記憶を消すの?」
「忘れたい記憶を思い浮かべて、俺が相手の額にキスをする。それだけ」
「……へっ? それだけ、って」
冗談ではないことは、恥ずかしげもなく告げた真鳥の真剣な表情でわかった。
「だ、誰か見てるかもしれないし、無理じゃない?」
「薄暗いし大丈夫だろ」
辺りを見回す私へ、真鳥が一歩近づく。
二人は本当によりを戻したようで、柏木先輩も彼女の腕を振りほどくことはない。
「…………」
柏木先輩はなぜだか切なそうに目を伏せ、私達のそばを無言で通り過ぎて行く。
普通に考えたら、真鳥との関係を誤解されたのだと思う。
せめて未琴がいてくれたら、誤解されることはなかったのに。
「――あの人に、失恋したってこと?」
私の視線と表情で気づいたのか、真鳥が柏木先輩の背中を見据え、確認してくる。
目の表面に涙が溜まり始めていたので、慌てて真鳥に背を向けた。
「それなら、早く忘れたらいいんじゃない? どう考えても、白坂に勝ち目はないだろ」
失礼なことを言い放ち、強く腕を引いてきたので、真鳥に泣き顔を晒すことになってしまう。
「俺が忘れさせてやるよ」
泣き顔を間近でじっと見つめ、勘違いしそうな台詞を言ってくる。
「ちょっと寄り道してから、家まで送るから」
低くそう言ったあと、真鳥は私の手首を掴み歩き始めた。
*
真鳥に連れられてきたのは、学校から歩いてすぐの所にある、まだ雪の残る公園だった。
中央に滑り台やブランコがあり、その隣には東屋があった。
真鳥はそこに私を案内し、木のテーブルに鞄や荷物を置く。まだ雪が解けていないこともあり、私たち以外誰もいない。
「で、今から白坂の記憶の一部を消すけど、本当にあの先輩のことを忘れたい?」
「……え?」
記憶を、消す?
簡単にそんなことを言うけれど。普通に考えて、誰かの記憶を消すなんて有り得ない。
「何言ってるの?」
「信じられない、か。まあ普通はそうだよな」
東屋の下で私と真鳥は向かい合う。
「たとえば。忘れたい過去の記憶も消すことができるんだ。どう? 試してみたくない?」
そう言われ、彼の誘導するとおりに気持ちが傾いていく。
忘れたい過去は、私には数え切れないほどあった。
「未琴から、白坂のことを慰めほしいと言われてるのもあるし。できれば、試してみてほしい」
「でも、私の記憶を消してくれたとして、真鳥に何のメリットがあるの?」
「俺のこの力はまだ、試した回数が少なすぎる。白坂が実験台になってくれるなら、この先、何度でも忘れたい記憶を消してあげられるよ」
未琴が真鳥を私に紹介してきたのは、こういう意味?
未琴も彼の能力を知っているのか定かではないけれど。普通に男の子を紹介してくれるわけではなかったのかもしれないと気づいた。
「いいけど、どうやって記憶を消すの?」
「忘れたい記憶を思い浮かべて、俺が相手の額にキスをする。それだけ」
「……へっ? それだけ、って」
冗談ではないことは、恥ずかしげもなく告げた真鳥の真剣な表情でわかった。
「だ、誰か見てるかもしれないし、無理じゃない?」
「薄暗いし大丈夫だろ」
辺りを見回す私へ、真鳥が一歩近づく。
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