3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第1章

その空に憧れる-5

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 片想いの相手を、そんなにも大切に想い続けているなんて。
 顔も知らないその子のことが羨ましく思えた。
 勝ち目がなさすぎて、悲しくなる。

 ――それにしても、いつの間にあの彼女と別れていたんだろう。
 柏木先輩に憧れている私は、先輩に彼女がいると知って、それ以上好きにならないよう諦めたというのに。

 といっても、私には関係のない話。
 たとえ彼女がいなくても、先輩と対等に付き合えるような立場ではないのだから。


「で、先輩。その、今でも忘れられない人って。この学校にいるんですか?」

 どこまでも直球な村上さん。物怖じしないで、自分の聞きたいことを聞く。
 私にはない勇気が、少し羨ましい。


「……それは、言えない」
「えーっ、教えてくれないんですかー」

 さすがに何でも打ち明けてくれるわけではないようで。もうこの話はおしまいだと、苦笑いをした柏木先輩は村上さんへ席に戻るよう促した。

 そのとき――。
 ちょうどこちらを向いた先輩と視線が絡み……、なぜだか私は泣きたくなった。

 先輩の瞳の奥が、涙で濡れているみたいに思えたから。




 画材の片付けをしていたら、ふと気づけば皆、帰り支度を終えていて、すでに廊下へ出てしまっていた。
 残るのは私と柏木先輩だけ。
 わざと遅く片付けていたわけではないのに、二人きりのこの状況が気恥ずかしい。
 村上さんや千尋先輩も先に帰ったようだ。何となく柏木先輩と同時に部室を後にする。


「白坂さん。このあと、少し時間ある?」

 静かな廊下を歩いていたら、先輩がふと思いついた風に訊いてくる。


「はい。特に用事はないです」
「近くにカフェができたみたいなんだけど、良かったら一緒に行ってみない?」
「……え、行ってみたいです」

 思いがけないお誘いに、ためらいつつも返事をする。


「チーズケーキが一番人気があるみたいなんだ。白坂さん、好きだったよね?」
「はい、大好きです」

(チーズケーキが好物だなんて、先輩に教えたことあったかな)

 内心不思議に思いながら、とりあえず合わせておく。きっと千尋先輩辺りから聞いていたのだろう。


「先輩は甘い物、大丈夫なんですか?」
「……うん。わりと好きだよ、甘い物」

 少し間があってから、ゆっくりと言葉を選ぶように答えた。
 一瞬、目元の表情が翳った気がしたけど、「行こうか」と笑顔で促され、先輩の案内でカフェへの道を歩いた。
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