3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第1章

その空に憧れる-7

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 先輩は私の使ったフォークのことを特に気にしていない感じで、優雅にケーキを口に運んでいる。


(間接キスなんて、先輩にはどうでもいいことだよね)

 きっと、私のことはただの後輩の一人にしか感じていないはず。

 あのとき部室に残っていたのが他の誰か――たとえば村上さんだったら。きっと彼女のことを誘っていたのだと思う。想像すると、微かに胸が痛んだ。


「白坂さん……、やっぱり覚えてないかな」

 不意に先輩は、覗き込むように私の目を見つめてきた。
 深い茶褐色の瞳が、店内の照明を映しキラリと反射する。


「何を、ですか?」
「中学のとき、白坂さんがチーズケーキを焼いてくれて一緒に食べたんだ。……美味しかったな」
「え。私が?」

 チーズケーキを、先輩のために……焼いた?

 全然記憶になくて、焦って脳内の引き出しを全て開ける勢いで探し回った。
 先輩を傷つけたくないし、嫌われたくなかったから。
 ……でも、見つからない。思い出せない。


「確か僕の誕生日のときに。でも2年以上前のことだから、忘れてしまっても仕方ないよ」
「ごめんなさい……私」

 適当に話を合わせることもできたけど、先輩に嘘をつきたくなかった。


「こちらこそごめん。昔の話を持ち出したりして」
「いいえ。私最近……何だか忘れっぽいみたいで」

 言い訳を口にすることが虚しくて、ただうつむいてしまう。


「今日のことは、忘れないでもらえると嬉しいな」

 落ち込む私へ、先輩は全然気にしていない風に冗談ぽく笑ってくれた。

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