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第1章
その空に憧れる-8
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(もう少し一緒にいたい……)
夕暮れに染まる先輩との帰り道。
欲深い思いが顔を出す。
偶然とはいえ、今この瞬間、先輩のことを独り占めしているだけでも充分幸せなはずなのに。
「今日は、ありがとうございました」
「僕も、一緒に行ってくれて嬉しかったよ。コーヒーも美味しかったし、また行こう」
身長差のある先輩を見上げると、柔らかく微笑まれて、照れくささに目をそらす。
『自分が誘ったから』と言って、結局先輩がケーキを奢ってくれて。何だか今日は先輩からいただいてばかりだ。
部活前にホワイトデーのお返しまでもらっているというのに。
「春休み、どこに行きたい?」
信号待ちのときにそう聞かれ、思い出す。
そういえば、先輩と絵の題材を探しに行く約束をしていたのだった。
「白坂さんと一緒なら……動物園とかどう?」
私と一緒なら、って。何だか勘違いをしてしまいそうな言い方だ。
「いいですね。動物のスケッチ、一度してみたかったんです」
「なんだったら千尋を誘ってもいいし、ね」
「……あ。はい、そうですね」
(やっぱり、二人きりではないんだ……)
ほんの少しがっかりしながら、私は無理に笑顔を作った。
でもある意味、誰か他に人がいた方が緊張しなくていいかと思い直す。
「柏木先輩って。彼女さんとまだ続いているのかと思ってました」
付き合っているのか本当に終わっているのか、その事実をはっきりさせたくて、さりげなく話題を変える。
今ならまだ、深い傷を負わなくて済む気がする。
憧れが恋に変わったあとだったら、心が壊れてきっと立ち直れない。
「……ずっと前に別れてるよ」
夕陽を映した瞳に何も感情を乗せず、静かに先輩は答えた。
夕暮れに染まる先輩との帰り道。
欲深い思いが顔を出す。
偶然とはいえ、今この瞬間、先輩のことを独り占めしているだけでも充分幸せなはずなのに。
「今日は、ありがとうございました」
「僕も、一緒に行ってくれて嬉しかったよ。コーヒーも美味しかったし、また行こう」
身長差のある先輩を見上げると、柔らかく微笑まれて、照れくささに目をそらす。
『自分が誘ったから』と言って、結局先輩がケーキを奢ってくれて。何だか今日は先輩からいただいてばかりだ。
部活前にホワイトデーのお返しまでもらっているというのに。
「春休み、どこに行きたい?」
信号待ちのときにそう聞かれ、思い出す。
そういえば、先輩と絵の題材を探しに行く約束をしていたのだった。
「白坂さんと一緒なら……動物園とかどう?」
私と一緒なら、って。何だか勘違いをしてしまいそうな言い方だ。
「いいですね。動物のスケッチ、一度してみたかったんです」
「なんだったら千尋を誘ってもいいし、ね」
「……あ。はい、そうですね」
(やっぱり、二人きりではないんだ……)
ほんの少しがっかりしながら、私は無理に笑顔を作った。
でもある意味、誰か他に人がいた方が緊張しなくていいかと思い直す。
「柏木先輩って。彼女さんとまだ続いているのかと思ってました」
付き合っているのか本当に終わっているのか、その事実をはっきりさせたくて、さりげなく話題を変える。
今ならまだ、深い傷を負わなくて済む気がする。
憧れが恋に変わったあとだったら、心が壊れてきっと立ち直れない。
「……ずっと前に別れてるよ」
夕陽を映した瞳に何も感情を乗せず、静かに先輩は答えた。
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