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第1章
その空に憧れる-side蓮-1
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(やっぱり、忘れられていたか)
彼女に気づかれないよう、控えめに溜め息をつく。
中学のときに一緒に食べたチーズケーキのことも。甘いものはそれほど得意ではなく、ブラックのコーヒーがないと食べられないことも。
全て、彼女の記憶には残されていないようだ。
彼女にとって自分は、どうでもいい存在らしい。特別、記憶に残すほどではないエキストラと似た存在。
そのまま諦めることも考えたことはあるが、忘れられているなら、また自分の存在を植えつければいい。
今はまだ、そばにいられるだけで満足だから。
それでも不思議なのは……僕の絵を好きだと言ってくれること。それは今も、中学のときも変わらない。
あとは――、卒業間際だった僕からの告白を断ったにも関わらず、以前と同じように接してくれること。
彼女が伯王高校に入学してきて間もない、部活見学のとき。気まずさの欠片もなく純粋な目差しで話しかけてくれた。
まるで、あの告白が最初からなかったというように。
確かに一年間会っていなかったし、時間が経過したおかげで関係がリセットされた気分になっている可能性もある。
だけど……それにしては何かがおかしかった。
もしかしたら僕が告白した事実すら忘れ去っているのかもしれないと、知らず知らずのうちに唇の端を歪めていた。
「……柏木先輩?」
白坂さんが不安そうな表情でこちらを見上げていることに気づき、我に返る。
「ああ、ごめん。美術室で僕が村上さんとしていた話、白坂さんも聞いてた?」
「……はい。すみません。ちょっとだけ」
恥ずかしそうに白坂さんはうつむく。
あのとき、ちらちらと視線を感じていたので納得する。
自分の彼女の有無を、白坂さんが少しでも気にかけてくれているなら嬉しいけれど。
彼女に気づかれないよう、控えめに溜め息をつく。
中学のときに一緒に食べたチーズケーキのことも。甘いものはそれほど得意ではなく、ブラックのコーヒーがないと食べられないことも。
全て、彼女の記憶には残されていないようだ。
彼女にとって自分は、どうでもいい存在らしい。特別、記憶に残すほどではないエキストラと似た存在。
そのまま諦めることも考えたことはあるが、忘れられているなら、また自分の存在を植えつければいい。
今はまだ、そばにいられるだけで満足だから。
それでも不思議なのは……僕の絵を好きだと言ってくれること。それは今も、中学のときも変わらない。
あとは――、卒業間際だった僕からの告白を断ったにも関わらず、以前と同じように接してくれること。
彼女が伯王高校に入学してきて間もない、部活見学のとき。気まずさの欠片もなく純粋な目差しで話しかけてくれた。
まるで、あの告白が最初からなかったというように。
確かに一年間会っていなかったし、時間が経過したおかげで関係がリセットされた気分になっている可能性もある。
だけど……それにしては何かがおかしかった。
もしかしたら僕が告白した事実すら忘れ去っているのかもしれないと、知らず知らずのうちに唇の端を歪めていた。
「……柏木先輩?」
白坂さんが不安そうな表情でこちらを見上げていることに気づき、我に返る。
「ああ、ごめん。美術室で僕が村上さんとしていた話、白坂さんも聞いてた?」
「……はい。すみません。ちょっとだけ」
恥ずかしそうに白坂さんはうつむく。
あのとき、ちらちらと視線を感じていたので納得する。
自分の彼女の有無を、白坂さんが少しでも気にかけてくれているなら嬉しいけれど。
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