3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第2章

雨空に焦がれて-7

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「だいたい、蓮のどこがいいわけ? あいつは毎朝寝起き悪いし、のんびりし過ぎて毎回待ち合わせに遅れるわ、かなりの確率で人の話聞いてないわ、人間として面倒くさいヤツなのにな」

 欠点の羅列に戸惑うものの、先輩には良い所もたくさんある、と思い直す。


「そうだったとしても。誰だって欠点はあるものだし、完璧な人なんていないと思います」

 何より、先輩の長所は優しさで溢れているところ。思いやりがあって、誰に対しても自然と優しくできる。
 そんな先輩を私は尊敬している。たぶん、中学のときからずっと。

 少し離れた場所にいる先輩を確認してみたら、まだ村上さんと話を続けていて、こちらの声は聞こえていないようだった。


「でも……。どうして私が、前から先輩のこと好きだって思ったんですか? さっき、他の人にも言われました」

 沢本君だけでなく、千尋先輩にまで同じことを言われるのは明らかにおかしい。
 何か誤解される出来事でもあっただろうか。


「え? 違った?」

 千尋先輩は意外そうに眼鏡の奥の目を瞬かせる。


「てっきり、何年も前からあいつのこと好きなのかと思い込んでたわ。白坂、いつもあいつを目で追ってたから」
「……そ、それはきっと、先輩の絵に憧れてただけで。それほど特別な気持ちはなかったのかな、と思います」

 恥ずかしい……。
 よりによって千尋先輩にそんな風に見られていたなんて。


「そうか? それにしてはお前、ずっと悩んでたみたいだったけど」
「悩んでた?」
「一回、俺に泣きついてきたことあっただろ」
「へ……?」

 予想外の言葉にポカンと口を開ける。

 天敵とでも言うべき千尋先輩に、私が泣きついた?
 一体、何があってそんな状況に追い込まれたのだろう。不思議で仕方がない。


「えっと。いつのことでしたか?」
「お前、いくらなんでも忘れすぎ。俺がせっかく相談に乗ってやったのに」

 呆れた目つきの千尋先輩が、私の頭を乱暴に撫でてきて、元々癖のある髪がぐちゃぐちゃに乱される。


「――千尋」

 髪を直していたら突然低い声がかかり、びくりと動きを止めた。


 千尋先輩とは反対側――私の右隣に立っているのは、ついさっきまで村上さんと話していたはずの柏木先輩。
 薄く微笑みながらも、穏やかとは言いがたい瞳で私達へ視線を落としていた。

 今の会話を聞かれていなかったかと、額に汗が滲む。


「白坂さんのこと、いじめないでくれる?」
「……別に白坂は、お前のじゃないよな」

 私を間に挟みながら、二人は冷ややかにも見える笑顔を交わす。


「そうだね。僕のものではないけど、泣きそうな顔をしているみたいに見えたから、放っておけなくて」
「あ、あの。私なら大丈夫ですから」

 喧嘩になりそうなほどの空気に耐えきれず、おずおずと口を挟む。
 柏木先輩はゆったりと私の椅子の背もたれに片手をつき、身を屈め囁いた。


「千尋に泣きついたことがあるって本当?」
「あ……」

 やっぱり途中から聞かれていたみたいだ。


「千尋じゃなくて僕に相談して欲しかったところだけど……僕には言えないことだったのかな」

 どことなく陰を含んだ声が、すぐ近くから届く。微かに先輩の香りまで漂ってきて、心拍数が上がっていく。
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