3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第5章

君に触れたら-3

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「そ、そんなことないです、蓮先輩の方が……!」

 ムキになって言いかけて、慌てて口を閉じる。うっかり本音が漏れてしまった。


「……え」

 私の言葉に戸惑いながらも、先輩は軽く目を見開いてこちらを見る。
 蓮先輩の場合は格好いいというより、まず先に“綺麗”という形容詞が来るから。そもそも真鳥と同じくくりではない。一緒にされたら困る。


「お世辞だとしても、結衣からそんな風に言われるの、嬉しいかも」

 優しく目を細めた先輩は「ありがとう」と付け足した。


「結衣って。よく真鳥君のことを見ている気がしたから。気になる存在なのかなって思ってた」
「……私が、真鳥を?」


 聞き間違いかと思って首をかしげたとき。
強めの風が吹き、私の髪が舞い上がる。
 蓮先輩が一歩踏み出し、乱れた髪をそっと直してくれた。
 偶然、頬に指が触れてドキッとする。


「勝手なことだとは思うけど。いまだに僕は……、」

 偶然と呼ぶには長く、頬に置かれたままの温かな指。

 ドキドキしすぎて視線をさまよわせていたら、不意にグラウンドの端にいた真鳥と目が合った。

 その瞬間――

 静かな風のような、優しい何かが私の頭の中に流れ込んできた。


『……約束だよ』

『また、あの空を一緒に見ることができたら。
この絵を完成させよう――』


 それは――蓮先輩の声だった。
 なぜか懐かしさを感じる、落ち着いた声音。

 ……もしかして。
 先輩に触れられたとき、真鳥と目が合って。その拍子に、忘れていた過去の出来事を思い出した?

 その可能性は十分にある。
 過去の記憶を取り戻したときは、たいてい蓮先輩に触れられていて。
 私の過去に関係する人――真鳥や沢本君と目が合っていたから。


 『この絵』とは一体何だろう。

 今回は全体的なイメージが白っぽくなっていて、ほとんど先輩の声しか聞こえなかった。
 その絵が何か思い出せれば、全て思い出せそうな気さえする。

 もう一度試してみたかったのに、真鳥はすでに背を向けて、仲間とボールを追いかけ始めていた。


「結衣? どうかした?」
「……あ。何でも、ないです」
「そう?」


 先輩の指がすっと離れていく。
 そういえば、さっき何か言いかけていなかっただろうか。
 詳しく聞き返すことはできず、今の出来事に思いを巡らせているうちに、自分の家に着いてしまう。


「じゃあ、明日のことはまた、あとで連絡するから」

 私の家まで送ってくれた先輩は、去り際に笑顔を見せた。
 蓮先輩がそんなふうに笑ってくれるなら。
 今はまだ、楽しまなきゃ。
 先輩が私から離れていくまで。


「……はい。私も、楽しみにしてます」

 別れのときが来るのは怖い。
 本当は、嫌われる前に逃げたい。
 でも、自分から先に離れる勇気はないし。先輩のそばにいたいという気持ちの方が大きかった。
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