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第6章
白昼夢の罠-side蓮
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「白坂さんのことで話があるの」
三井に呼び出されたのは昼休みのことだった。
結衣の名前を出されたら簡単に断るわけにもいかず、仕方なく三井についていく。
ひとけの少ない廊下を歩き、ちょうど中庭が見下ろせる、眺めの良い位置に案内された。
三井と1m以上間隔を開けて窓際に立つ。付き合っているときとはまるで違う距離感。
「蓮は知ってる? 最近、白坂さんと仲良くしてる男の子がいること」
真鳥朔哉のことか。
「それが何?」
声が若干、冷たく廊下に響いた。
「もう、付き合っていたりしてね」
「……」
「実際に見てもらった方が早いかも」
窓枠に手を置いた三井の視線を辿り、中庭の一角を見下ろす。
そこには――結衣と真鳥と思われる男子生徒が至近距離で向かい合う姿があった。
それを見て、思わず息を呑む。
信じたくはない光景だった。
真鳥は結衣の額に唇を寄せていた。
彼女の肩に触れ、優しく抱きしめる。
(どう、して……)
さっきよりも近くで、三井が笑った気配がした。
「わー、中庭で昼間からキスするなんてすごいね。積極的。彼女の方も全然嫌がってなかったみたいだし」
ちらりとこちらの様子をうかがいながら、三井はほくそ笑んでいる。
この時間、結衣が中庭に来ることをなぜか知っていて、わざと目撃させられたのだと気づいた。
「ね、これでわかったでしょう? 彼女はすでに、あの男の子のものだって」
これ以上、彼女のことを想っていても無駄だと、三井は暗に告げてきた。
結衣は嫌がっているそぶりがなく。
彼の方は愛しげに結衣の髪を撫でていて――。
さすがにそれを見てしまったら、彼女のことを忘れるしかないのではと気持ちが沈む。
真鳥は結衣の肩を抱き寄せたまま、校舎に入っていった。
三井は機嫌よく教室へ戻り、自分はしばらくその場に残る。
廊下の向こうで――結衣の同級生、永野未琴が腕を組み、柱に寄りかかってこちらを見ていたが。それを気にしている余裕はなかった。
***
三井に呼び出されたのは昼休みのことだった。
結衣の名前を出されたら簡単に断るわけにもいかず、仕方なく三井についていく。
ひとけの少ない廊下を歩き、ちょうど中庭が見下ろせる、眺めの良い位置に案内された。
三井と1m以上間隔を開けて窓際に立つ。付き合っているときとはまるで違う距離感。
「蓮は知ってる? 最近、白坂さんと仲良くしてる男の子がいること」
真鳥朔哉のことか。
「それが何?」
声が若干、冷たく廊下に響いた。
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「……」
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それを見て、思わず息を呑む。
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真鳥は結衣の額に唇を寄せていた。
彼女の肩に触れ、優しく抱きしめる。
(どう、して……)
さっきよりも近くで、三井が笑った気配がした。
「わー、中庭で昼間からキスするなんてすごいね。積極的。彼女の方も全然嫌がってなかったみたいだし」
ちらりとこちらの様子をうかがいながら、三井はほくそ笑んでいる。
この時間、結衣が中庭に来ることをなぜか知っていて、わざと目撃させられたのだと気づいた。
「ね、これでわかったでしょう? 彼女はすでに、あの男の子のものだって」
これ以上、彼女のことを想っていても無駄だと、三井は暗に告げてきた。
結衣は嫌がっているそぶりがなく。
彼の方は愛しげに結衣の髪を撫でていて――。
さすがにそれを見てしまったら、彼女のことを忘れるしかないのではと気持ちが沈む。
真鳥は結衣の肩を抱き寄せたまま、校舎に入っていった。
三井は機嫌よく教室へ戻り、自分はしばらくその場に残る。
廊下の向こうで――結衣の同級生、永野未琴が腕を組み、柱に寄りかかってこちらを見ていたが。それを気にしている余裕はなかった。
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