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第8章
永遠に消えない青-2
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*
そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。
蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。
「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」
「えっ……? ま、待って、やめてよ」
痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。
何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?
校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
手首はまだ離してくれない。
「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」
意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。
「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」
手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。
「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」
彼の目元が愉しげに歪んでいく。
「沢本君が、噂をばらまいたの……?」
こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。
「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」
沢本君は勝ち誇ったように笑った。
「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」
蓮先輩に、嫌われる……。
それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
この世の終わりと言ってもいいくらいの――。
「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」
沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。
「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」
哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。
「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」
首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
いつ、力を込めて絞められるか。
その緊張感だけがあった。
以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
あれは確か、中学生のときに……。
「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」
彼の指が私の喉の上を滑る。
「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」
「無視……?」
「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」
そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。
蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。
「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」
「えっ……? ま、待って、やめてよ」
痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。
何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?
校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
手首はまだ離してくれない。
「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」
意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。
「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」
手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。
「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」
彼の目元が愉しげに歪んでいく。
「沢本君が、噂をばらまいたの……?」
こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。
「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」
沢本君は勝ち誇ったように笑った。
「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」
蓮先輩に、嫌われる……。
それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
この世の終わりと言ってもいいくらいの――。
「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」
沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。
「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」
哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。
「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」
首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
いつ、力を込めて絞められるか。
その緊張感だけがあった。
以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
あれは確か、中学生のときに……。
「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」
彼の指が私の喉の上を滑る。
「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」
「無視……?」
「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」
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