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第8章
永遠に消えない青-side蓮-1
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*
彼女を忘れるどころか、日に日に気持ちが強くなっていった。
友人の前では、会話を楽しんでいる振りをして。嘘の笑顔を作っている。
部活に出る意欲もなく、背中に重石を乗せた気分で廊下を歩いていたときだった。
「どうしよう、真鳥!」
結衣と仲のいい永野未琴が、慌てた様子で廊下を走り、真鳥へ何かを報告していた。
「結衣が、少しずつ思い出しかけているかもしれないの」
「……ああ、やっぱり? 俺もそんな気がしてた。この力は完璧じゃないってことだな」
真鳥は自分の手のひらを見つめながら返答している。
力とは、一体何のことだろう。
「真鳥。念のためにもう一度、あの子の記憶を消してきてよ」
――記憶を、消す?
非現実的な話だが、それが本当の話なら、結衣は真鳥に記憶を操作されていることになる。
何かが、繋がった気がした。
「今、沢本と校舎の外にいるはずだから」
「……わかったよ」
渋々といった様子で真鳥がうなずき、二人は昇降口の方へ消えていった。
思い返せば、不可思議な点はいくつもあった。
中学時代、誕生日に焼いてくれたチーズケーキ。
彼女は僕と一緒に食べたことすら忘れていた。
僕が本当は、甘い物がそれほど得意ではないことも。
卒業前の告白をなかったことにされていたことも。
あの空の絵の約束さえも……。
自分に興味がないから、好きではないから、単純に忘れているだけなのかと思っていた。
もしそれらが、真鳥朔哉の仕業なのだとしたら。
どうして彼は、そして永野未琴は、結衣の記憶を奪うようなことをしたのだろう。
結衣の様子について、永野未琴におかしな変化はないかと尋ねたとき、全く異常なしだと答えたはずだ。
『最近、白坂さんは……何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』
『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です』
あれは、嘘をついて隠していたということになる。
『先輩の絵が好きです』
結衣のあの言葉は、昔も今も言ってくれていたから。
絵を好きだという記憶だけは残っているらしく。
真鳥たちの真意がつかめない。
彼女を忘れるどころか、日に日に気持ちが強くなっていった。
友人の前では、会話を楽しんでいる振りをして。嘘の笑顔を作っている。
部活に出る意欲もなく、背中に重石を乗せた気分で廊下を歩いていたときだった。
「どうしよう、真鳥!」
結衣と仲のいい永野未琴が、慌てた様子で廊下を走り、真鳥へ何かを報告していた。
「結衣が、少しずつ思い出しかけているかもしれないの」
「……ああ、やっぱり? 俺もそんな気がしてた。この力は完璧じゃないってことだな」
真鳥は自分の手のひらを見つめながら返答している。
力とは、一体何のことだろう。
「真鳥。念のためにもう一度、あの子の記憶を消してきてよ」
――記憶を、消す?
非現実的な話だが、それが本当の話なら、結衣は真鳥に記憶を操作されていることになる。
何かが、繋がった気がした。
「今、沢本と校舎の外にいるはずだから」
「……わかったよ」
渋々といった様子で真鳥がうなずき、二人は昇降口の方へ消えていった。
思い返せば、不可思議な点はいくつもあった。
中学時代、誕生日に焼いてくれたチーズケーキ。
彼女は僕と一緒に食べたことすら忘れていた。
僕が本当は、甘い物がそれほど得意ではないことも。
卒業前の告白をなかったことにされていたことも。
あの空の絵の約束さえも……。
自分に興味がないから、好きではないから、単純に忘れているだけなのかと思っていた。
もしそれらが、真鳥朔哉の仕業なのだとしたら。
どうして彼は、そして永野未琴は、結衣の記憶を奪うようなことをしたのだろう。
結衣の様子について、永野未琴におかしな変化はないかと尋ねたとき、全く異常なしだと答えたはずだ。
『最近、白坂さんは……何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』
『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です』
あれは、嘘をついて隠していたということになる。
『先輩の絵が好きです』
結衣のあの言葉は、昔も今も言ってくれていたから。
絵を好きだという記憶だけは残っているらしく。
真鳥たちの真意がつかめない。
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