9 / 16
第九話……「きっと良い思い出になるから」
しおりを挟む
「ここねちゃん、今から君の家に行っていいかな?」
私達が真の恋人同士になったのも束の間、天川くんが驚くべきことを言いだした。
「そ、それは……」
「今がベストタイミングだと思うんだけど」
確かにそうなんだけど、心の準備ができていないので躊躇してしまう。
「あの、とりあえず『ウォッチャー』に行かない? 落丁本を交換してもらいたくて」
「うん、もちろんいいよ。それにしても、本当にあるんだね、落丁」
「私も初めて見たんだよね」
「何ていう本?」
「天川くんはもしかしたら知ってるかもしれない本。『真の天才に会った話』。『モダンマスカレード』がモデルの」
「いや……聞いたことないなぁ。そんな本が出てるなら、れいさんも宣伝するはずだけど……。モデルの劇場に対して、無許可で出版ってわけでもないだろうし、何か特別な事情があるとか」
天川くんが探偵モードに入り、推理していると、すぐに『ウォッチャー』に着いた。
相変わらず、天川くんと歩くと時間間隔がおかしくなる。まぁ、そもそも駅から近いんだけど。
「すみませーん。昨日買った本が落丁していて……」
レジに座っていた女性店員に声をかけると、ひょこっと立ち上がり、本をまじまじと見つめた。かわいい。
「それは申し訳ありませんでした。在庫が一冊だけあるので、そちらをどうぞ」
「え、落丁してるのを確認しなくていいんですか?」
「はい。五十五ページと五十六ページの一枚分ですよね」
なぜそれを知っているのか。知っていてなお売りつけたのか。
別に怒ったりはしないけど、この人に対しては謎が多いから、少しでも何か知りたいと思い、私は質問することにした。そう思っていたら天川くんが聞いてくれた。
「どうしてそのことを知っているんですか? もしかして、そのページに何か意味があるとか。それなら、なぜわざわざヒントのようなことを言ったのか」
天川くんは、まだ探偵モードから抜けていないらしい。
「私からは答えられません。と言うより、間違いなく誰も答えないでしょうね。
試験の問題と解答とは違って、世の中には、答えがあっても、誰も答えないことがあり、そして、そもそも答えがないこともあります。
それはつまり、あなた達がどう考えるかに収束します。
『あなた達自身』が答えと言っても過言ではないのかもしれません。
まぁ、稀に本来の答えを無理矢理引きずり出す天才が存在しますが」
一本屋店員が言う台詞じゃないような独特な言い回しを聞いて、さらにこの人の謎が深まってしまった。
神様か何かかな?
「事実から推論で導き出すしかないということですか。それは良いとして、本屋としての対応はどうお考えですか? 落丁本を交換しに来た人の時間と手間については。これは、単なる質問です。クレームではありません」
「最近はカスタマーハラスメントもありますからね。しかし、私に対しては、その予防線は必要ありませんよ。そのことだけでも、あなたの聡明さは伝わります。
質問に対する答えですが、ここねさんがその本を買い、今この時ここに来なかったら、どうなっていたかを考えると、その時間と手間に対してはお釣りが十分にくるのではないですか?」
私の名前は普通に覚えられてるみたいだ。ポイントカードの裏に名前が書かれてるからなぁ……。いや、それよりもなんで私達の状況を知ってるんだろう。
「仮にそうだとしても、本屋の責任とは切り離すべきでは? あなたがその全てを引き起こした場合に限り、それが言えるわけで……。いや、まさか……」
天川くんが驚愕の表情をしてレジから後ずさった。何かとんでもない結論が導き出された感じだ。やっぱり、神様なのかな。
「あの鐘を鳴らしたのはあなたですか? 午後五時十七分。五時十五分でも五時十六分でもない。その二分間に『アレ』を起こし、ここねちゃんの精神をさらに追い詰めた。そして、時間切れの鐘……」
「懐かしいフレーズを思い出させますね。まぁ、それはともかく、私ではないとだけ言っておきます。それ以外は答えられません。しかし、あなた達にはその現象を表す、ピッタリな言葉があるのではないですか?」
「『運命』……いや、『奇跡』」
「ふふふ、そう言いたいところでしょうが、その答えは『ノー』です。その言葉とは……」
「その言葉とは……?」
「『結果オーライ』ですよ」
ズコーと反応したくなるようなオチに、それまでの緊張感は和らぎ、私達はしょうがないなぁという感じで、笑顔になっていた。
しかし、天川くんはまだ聞きたいことがあるらしく、すぐに真剣な表情を取り戻した。
「最後に一つだけいいですか? 僕達のこれからがどうなるか……。この数時間だけでもいいです。占ってもらえませんか?」
「残念ながら、私は予知能力者でも占い師でもカウンセラーでもありません。もちろん、あなた達が期待しているような万能な神でもありません。ただ言えることは、ここねさん、あなたの幸せを願っている存在がいる。そして、あなたの姉、『こころ』さんについても同様です。
あなた達二人がどこにいようと、どのような状況に陥ろうとも、必ず誰かが『観ている』ことを『心』に留めておいてください。そうすれば、何事も上手く行くのではないでしょうか。抽象的すぎますかね」
「あ、ありがとうございます!」
私は彼女に思わずお礼を言って、天川くんの手を握った。
「この謎はいつか解き明かしたいですね。『裏社会探偵X』に出演した子役の名にかけて!」
「ふふふ、それ、言いたかっただけですよね? でも、期待してますよ。『とら』さん」
「僕の子役時代の芸名を……ありがとうございました!」
そして、天川くんと二人で彼女にお辞儀をして、『ウォッチャー』を後にした。
「天川くん、あの人のこと好きになっちゃったでしょ?」
私は思ったことをそのまま言った。しかし、嫉妬心や嫌味では全くなかった。
「もちろん。それに、『山地とら』を知っていてくれたんだからね。でも、ここねちゃんも好きになったよね?」
私の心情を理解している天川くんだからこその回答と質問だ。
「うん。結構面白い人だよね。でも、名前も分からないからなぁ」
「候補はあるんだけど、確定じゃないから言うのはやめておくよ。その内、分かるような気もするし」
「どうかなぁ。ずっと秘密にしてそう」
「あれ? そう言えば、結局、本交換してもらってなくない?」
「うん。いいよ、これで。このままの方がきっと良い思い出になるから」
そんな会話をしながら、二人で手を繋いだまま、私の家に向かった。
雨はもう上がっていた。
私達が真の恋人同士になったのも束の間、天川くんが驚くべきことを言いだした。
「そ、それは……」
「今がベストタイミングだと思うんだけど」
確かにそうなんだけど、心の準備ができていないので躊躇してしまう。
「あの、とりあえず『ウォッチャー』に行かない? 落丁本を交換してもらいたくて」
「うん、もちろんいいよ。それにしても、本当にあるんだね、落丁」
「私も初めて見たんだよね」
「何ていう本?」
「天川くんはもしかしたら知ってるかもしれない本。『真の天才に会った話』。『モダンマスカレード』がモデルの」
「いや……聞いたことないなぁ。そんな本が出てるなら、れいさんも宣伝するはずだけど……。モデルの劇場に対して、無許可で出版ってわけでもないだろうし、何か特別な事情があるとか」
天川くんが探偵モードに入り、推理していると、すぐに『ウォッチャー』に着いた。
相変わらず、天川くんと歩くと時間間隔がおかしくなる。まぁ、そもそも駅から近いんだけど。
「すみませーん。昨日買った本が落丁していて……」
レジに座っていた女性店員に声をかけると、ひょこっと立ち上がり、本をまじまじと見つめた。かわいい。
「それは申し訳ありませんでした。在庫が一冊だけあるので、そちらをどうぞ」
「え、落丁してるのを確認しなくていいんですか?」
「はい。五十五ページと五十六ページの一枚分ですよね」
なぜそれを知っているのか。知っていてなお売りつけたのか。
別に怒ったりはしないけど、この人に対しては謎が多いから、少しでも何か知りたいと思い、私は質問することにした。そう思っていたら天川くんが聞いてくれた。
「どうしてそのことを知っているんですか? もしかして、そのページに何か意味があるとか。それなら、なぜわざわざヒントのようなことを言ったのか」
天川くんは、まだ探偵モードから抜けていないらしい。
「私からは答えられません。と言うより、間違いなく誰も答えないでしょうね。
試験の問題と解答とは違って、世の中には、答えがあっても、誰も答えないことがあり、そして、そもそも答えがないこともあります。
それはつまり、あなた達がどう考えるかに収束します。
『あなた達自身』が答えと言っても過言ではないのかもしれません。
まぁ、稀に本来の答えを無理矢理引きずり出す天才が存在しますが」
一本屋店員が言う台詞じゃないような独特な言い回しを聞いて、さらにこの人の謎が深まってしまった。
神様か何かかな?
「事実から推論で導き出すしかないということですか。それは良いとして、本屋としての対応はどうお考えですか? 落丁本を交換しに来た人の時間と手間については。これは、単なる質問です。クレームではありません」
「最近はカスタマーハラスメントもありますからね。しかし、私に対しては、その予防線は必要ありませんよ。そのことだけでも、あなたの聡明さは伝わります。
質問に対する答えですが、ここねさんがその本を買い、今この時ここに来なかったら、どうなっていたかを考えると、その時間と手間に対してはお釣りが十分にくるのではないですか?」
私の名前は普通に覚えられてるみたいだ。ポイントカードの裏に名前が書かれてるからなぁ……。いや、それよりもなんで私達の状況を知ってるんだろう。
「仮にそうだとしても、本屋の責任とは切り離すべきでは? あなたがその全てを引き起こした場合に限り、それが言えるわけで……。いや、まさか……」
天川くんが驚愕の表情をしてレジから後ずさった。何かとんでもない結論が導き出された感じだ。やっぱり、神様なのかな。
「あの鐘を鳴らしたのはあなたですか? 午後五時十七分。五時十五分でも五時十六分でもない。その二分間に『アレ』を起こし、ここねちゃんの精神をさらに追い詰めた。そして、時間切れの鐘……」
「懐かしいフレーズを思い出させますね。まぁ、それはともかく、私ではないとだけ言っておきます。それ以外は答えられません。しかし、あなた達にはその現象を表す、ピッタリな言葉があるのではないですか?」
「『運命』……いや、『奇跡』」
「ふふふ、そう言いたいところでしょうが、その答えは『ノー』です。その言葉とは……」
「その言葉とは……?」
「『結果オーライ』ですよ」
ズコーと反応したくなるようなオチに、それまでの緊張感は和らぎ、私達はしょうがないなぁという感じで、笑顔になっていた。
しかし、天川くんはまだ聞きたいことがあるらしく、すぐに真剣な表情を取り戻した。
「最後に一つだけいいですか? 僕達のこれからがどうなるか……。この数時間だけでもいいです。占ってもらえませんか?」
「残念ながら、私は予知能力者でも占い師でもカウンセラーでもありません。もちろん、あなた達が期待しているような万能な神でもありません。ただ言えることは、ここねさん、あなたの幸せを願っている存在がいる。そして、あなたの姉、『こころ』さんについても同様です。
あなた達二人がどこにいようと、どのような状況に陥ろうとも、必ず誰かが『観ている』ことを『心』に留めておいてください。そうすれば、何事も上手く行くのではないでしょうか。抽象的すぎますかね」
「あ、ありがとうございます!」
私は彼女に思わずお礼を言って、天川くんの手を握った。
「この謎はいつか解き明かしたいですね。『裏社会探偵X』に出演した子役の名にかけて!」
「ふふふ、それ、言いたかっただけですよね? でも、期待してますよ。『とら』さん」
「僕の子役時代の芸名を……ありがとうございました!」
そして、天川くんと二人で彼女にお辞儀をして、『ウォッチャー』を後にした。
「天川くん、あの人のこと好きになっちゃったでしょ?」
私は思ったことをそのまま言った。しかし、嫉妬心や嫌味では全くなかった。
「もちろん。それに、『山地とら』を知っていてくれたんだからね。でも、ここねちゃんも好きになったよね?」
私の心情を理解している天川くんだからこその回答と質問だ。
「うん。結構面白い人だよね。でも、名前も分からないからなぁ」
「候補はあるんだけど、確定じゃないから言うのはやめておくよ。その内、分かるような気もするし」
「どうかなぁ。ずっと秘密にしてそう」
「あれ? そう言えば、結局、本交換してもらってなくない?」
「うん。いいよ、これで。このままの方がきっと良い思い出になるから」
そんな会話をしながら、二人で手を繋いだまま、私の家に向かった。
雨はもう上がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる