ソウルウォーク ★魔都

神嘗 歪

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一章:どうやら俺は「巻き込まれ体質」のようで…

「……ごめんね。」

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「岡田。こんなところに突っ立ってたら通行の妨げになるだろ。入るか、出るか、どっちかにしろ。」

…と聞こえ、刀夜振り向くと岩木先生が立っていた。

その岩木先生は刀夜の顔と周囲を一周見回す。先生の表情は変わらないが、何かを察したようだ。

岩木先生の口が開きかけたその時、先に刀夜が口を開く。

「いやーぁ、先生にプールの鍵を返しに来ただけなので、すぐに帰ります。」

刀夜はぎこちなくへラッと笑う。

先生は開きかけた口を一旦結ぶと、再度溜め息混じりに口を開いた。

「…………プール清掃は終わったのか?」

「はい、終わりました。」

「それじゃあ、明日から一週間の自宅謹慎だ。山田にも、家でしっかり反省しろと伝えておけ。」

「はい、分かりました。それでは失礼します。」

終始明るく受け答えしていた刀夜は、話が終わるなり一礼をして道場から出ていく。

岩木先生はそれを横目で追うが、それ以上のことは言うことはない。

けれど二人の話を聞いていた緑香は、大きな目の上の眉を吊り上げ、刀夜の後を追って走り出す。それに気づいた佐々木主将が「真竹、どこに行くッ!」と呼び止めようとするも、止まることはなかった…。



何故か早足になる刀夜。「早く道場から離れなくては」と心が急いている。

岩木先生は何も言わないでくれた。

(………たぶん先生は解っているんだ。俺が剣道部を…いや、『剣道』を止めた理由を。)

あの日……雪人が転校早々、剣道部に道場破りのような勢いで見学に来た……あの時。成りゆきで、雪人の相手をすることになった刀夜。先生もあの場にいた。

(……初めてユキの剣を受けたあの時に俺は…。)


       「刀夜先輩っ!」


後ろから名を呼ばれた刀夜は、ハッと我に返る。振り向くと息を切らした緑香が立っていた。

「…真竹。練習中に抜け出しちゃ駄目じゃないか。」

刀夜は部の先輩ではなくなったが、上級生として緑香をたしなめようとしたが…。


       「先輩ッ!!」


「えっ?!ひゃいっ??!」
        (………噛んじゃった。)

緑香の怖い顔と迫力にビビった刀夜。噛んでしまったことに赤面する。

だが緑香は、かまうことなく詰め寄ってきた。

「さっき先生が言った「一週間自宅謹慎」って何なんですかッ?」

「あー…と、それは…ぁ。」

「あの山田って人の厄介事に、また巻き込まれたんじゃないんですかッ?」

「ウッ。…いやーぁ。」
       (……………正解たけど。)

刀夜は緑香から視線を泳がせながら、言葉を濁す。すると緑香は、更に眉を吊り上げた。

「どうして先輩は、あんな人と一緒にいるんですかッ?!剣道部を辞めたのだって、あの人が原因なんでしょッ?」

また「……正解」と思う刀夜だが、口には出さない。

「真竹。一応あいつも上級生なんだから「あんな人」とか言っちゃあ駄目だよ。」

「あんな人ッ、「あんな人」呼ばわりで十分ですッ。だってあの人、剣は確かに強いけど………あんなの『剣道』じゃないッッ。」

「まあユキは、剣道をやったことがない初心者だからね。」

「そういう意味じゃなくって…ッ!!」

「ッ…!」

緑香は『あのときの雪人』を思い出したのか、右手で自分の左腕をギュッと掴んだ。

たぶんその抱いた感情は………恐怖。

緑香の確信をつく言葉に、刀夜は驚きで目を見開く。

岩木先生と同じで、初めて刀夜と雪人が対戦したとき、緑香も含め今日道場にいた部員のほとんどその場にいた。

けれど雪人の剣の『それ』を気づいたのは、刀夜と岩木先生と緑香だけだろう。

あの佐々木主将でさえ、剣道のけの字もやったことのない雪人の剣筋は、ただただデタラメで暴力的としか思っていないはずだ。

…たが違う。

あれは……。

「刀夜先輩ッ!剣道部に戻ってきてくださいッ!」

緑香が大きく黒い瞳を潤ませて刀夜を見上げた。

こんなに可愛い後輩のお願いならば極力聞いてあげたいが、こればかりは叶えてあげられそうにない。

「……ごめんね。」

刀夜は小さく謝ると、雪人が待つ校舎に向かって歩き出した。

緑香はこれ以上追うのを止めて、去っていく刀夜の背を見つめる。



(……本当にごめんね、真竹。ユキの剣を受けたあの時から、もう『剣道』じゃあ『満足できなくなってしまったんだ』。)







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